二十四話
出産の巻
作者は出産についてあまり詳しくありませんので、“そんなことねぇだろうが!”と思っても心の内でもみ消して下さい。
全てはスペックの違いからくる神秘です……
新生八雲一家の誕生からおよそ八ヶ月、妊娠した三人の腹はどんどんと膨れていった。
青は絶対安静をきつく言い渡しており、家事は天狗たちを呼んで手伝ってもらい、鬼の面倒は青自ら見ることになっている。そして妊婦たちは基本的に家から出ないで過ごしている。
妊婦たちのほうも青の気持ちが分かるので、その過保護っぷりに何も言わなかったが、酒が妊婦にはよくないと聞いた青によって一切の飲酒が禁止されたのには葵が吠えた。
まず葵の言い分は、今まで妊娠中にも酒を飲んでいたがみんな健康に生まれてきた、というものだが万が一にも危険があるならと結局青に禁止されてしまった。
これには葵が喧嘩も出来ない酒も出来ないでひどく落ち込んだ。
葵にとっては幸運だったのが紫の言葉。妊婦に対する心的負担は流れる原因になるとのこと。これを聞いてとりあえず全面禁止は解除された。青の監視付きの晩酌しか許されなかったが、青のお酌で足りない酔いを補っていた。
彩音は基本的に家事が日常だったので、初めは手持ちぶさたになってそわそわとしていたが、直に慣れて他の二人と日向ぼっこなどするようになった。
藍は普段と変わらず部屋で式の研究である。最近夜は青が忙しくて一緒にいられないのをちょっと不満に思っているので、日中は頻繁に青に毛繕いをさせながらではあるが。
そんな日々をおくる内に遂に最初の子が誕生した。
産んだのは葵。右往左往する周りをよそになんと自分一人であっという間に出産をすませ、用意された湯を使って自ら赤子を清めるという離れ業を披露した。鬼の母と言うだけあって、一連の作業が終わるなり『ちょっと疲れたから寝るよ』と言って寝てしまったのにはその場にいた全員が呆気にとられた。
肝心の子は流石鬼の子と言うべきか、生まれてすぐに首が据わるという脅威の性能を見せた。さすがに腹の中で刺さるとまずいからか、いまだに角は生えていないが両親の異常っぷりは引き継いだようだ。性別は以前葵の言った男であり、生まれた時から元気一杯の子であった。
そしてその十日後には次の子が誕生。これは彩音であり、ひどい難産ではあったが無事出産。出産が終わると同時に疲れはてて眠ってしまった。
生まれてきた子の性別は女。赤子自体は元気でよかったのだが、色んな気配が混じって種族が謎だった。仕方がないので紫に境界を見てもらうと、1/4が妖怪で1/4が人間、そしてなんと半分が神だった。
一応青も彩音も神なので神性を持った子が生まれて来てもおかしくないのだが、二人とも元人間で尚且つ妖怪だったり不完全だったためか、人と妖怪と神が混ざりあった数奇な子が生まれてきてしまったのだ。紫がこの結果に目を輝かせて調べてみたがったが、他の全員が団結してこれを断固阻止した。
そしてさらに3日後、最後はとうとう藍の出産。これは短時間で済んだため藍に大した負担はかからなかった。
生まれてきた子の性別は女。耳は狐の耳なので妖獣種だが、生まれながらに人型をとっているのはおそらく両親の強さによるものだろう。
こうして無事八雲家の新しい家族が誕生した。
それからさらに十年の年月がたち………
「彩音お母様~、今日の夕食は何ですか~」
「んー、何にしましょうかね」
「碧は魚の煮付けが食べたいです!」
彩音の後ろに立って、はい!と手を上げて言うのは少し成長した碧。母親から受け継いだ耳と金髪、父から受け継いだ黒い瞳を持っている。
「え~、俺は肉が食いたいんだよなぁ」
その碧の意見に文句を言うのは弥彦。しかしその外見はとても十歳とは思えないほど成長していた。だいたい見た目は18位の整った顔立ちの黒髪の青年。しかし背丈は紫より頭一つ大きく頭には立派な角が一本。これが萃香の気に障ったようで、『同じ鬼で私より若いくせになんでそんな大きいんだー!勇儀も笑うなー!』と散々騒いだこともあったが。
ちなみに今の風景は、傍目には長身の大人がいたいけな幼女を苛めているようにしか見えない。
「肉なんて重たいものは食べれません!」
「魚なんか食っても腹の足しにならないだろ。肉だ肉」
「二人とも落ち着いて下さい…」
その二人の言い争いを仲裁しようとするのは優。母のような緑の美しい髪を持った少女は、見かけと実年齢は一致しているのだが、精神年齢が一致していない。従者でもある母親の雰囲気を娘も受け継いだのか、あまり強く出ることが出来ず、二人(主に弥彦)に振り回されることが多かったためだ。かなり大人びた娘になってしまった。
ちなみに実は両親大好きっ娘であるが、人前ではその姿は滅多に見せない。
「そうですよお二人ともぉ、喧嘩はよくないです」
そしてさらに続く声は藍の式である化け猫の橙。
碧たちが成長し始めたとき、特に碧のために遊び相手を作っておこうと藍が思ったために今現在橙は八雲家にいる。確かに弥彦は成長が著しすぎて遊び相手にはならなかったし、優はどこか遠慮したところがあるので適切な遊び相手ではなかった。
そこにきて橙。藍の命令で遊ぶときは目一杯遊ぶように言われているので、碧に遠慮することもなくすぐに仲良くなった。
式を作る段階で、遊び相手になるように子供を選んだためか妖力はまだまだ未熟だが、遊び相手としては申し分なかったようだ。藍は二人が遊ぶ様をいつも微笑みながら見守っている。
「はいはい、昨日は肉料理だったから今日は魚の煮付けにしますね」
「やったー!」
「しょうがねぇな…」
喜ぶ碧と残念そうに下がる弥彦。一応引き際は心得ているようだ。
「なんだ三人共ここにいたのか」
「あまり彩音を困らせるんじゃないぞ」
「あ、お父様に藍お母様!」
碧の声を聞いてやって来た青と藍、二人を見つけた碧は迷わず二人まとめて抱きつく。
「ふふっ、どうしたんだ碧?」
「今日は魚の煮付けが食べられます!」
「そうかそうか、良かったな。橙もおいで」
喜色満面の碧を見て顔を綻ばせた藍は、橙も呼んでまとめて撫で回す。
「で、弥彦は諦めさせられたわけだ」
「…それは言わないでくれよ、親父」
「ははっ、そう拗ねるな」
少し拗ねている弥彦をなだめる青。身長は弥彦の方がかなり高いので若干妙な光景ではあるが。
「悪いが、お前は葵と天魔を呼んできてくれないか?今は頂上の方にいるだろうから」
「あぁ、わかったよ。
ったく、おふくろも落ち着いて家に居ればいいのに…」
ぶつぶつ言いながら葵を呼びにいく弥彦を見て苦笑する青。
「彩音お母さん、お手伝いします」
優はそう言って彩音の手伝いをしにいく。家事全般を華麗にこなす彩音は優の憧れで、その彩音に近づこうと優は日々精進しているのだ。最近は藍よりも料理が上手くなったので、それに奮起した藍が料理研究をしていたりする。
「いただきます」
家族全員揃って夕飯を食べる。時には酒を持った鬼(主に萃香)が乱入して宴会になる時もあるが、概ねは和やかな雰囲気に終始する。
その後は最近青たちの寝室になった大部屋へ移動。
さすがに子供たちへの影響を考えて最近はあまり青たちはいたしていない。そして大部屋で家族一同、ここ数年は毎日スキマで寝に来る紫も含めて揃って寝るようになった。弥彦は最近恥ずかしがって一人で寝るようになったが、たまに葵が引きずってきて無理矢理一緒に寝かしている。
こうして八雲一家の1日は終わる。
第二十四話投稿でした。
脅威の鬼の母スペック。
踏んだ場数とスペックが違う。でも普通は痛みに慣れてる部位ではないから、いかに精神的に強靭でも無理なんだろうなぁ…
まぁ、赤子を取り上げられる連中が他にいなかったから自然と出来るようなったということで…
生まれてすぐに首が据わるのも鬼スペック。
公式チートは生まれた時からだった!……すんません。
私の中では精神年齢の高さは、 優>弥彦≧橙≧碧ですかね。碧は橙の狐ver.ってイメージで藍は二人まとめて可愛がってます。
しかしこれはあくまでも平時です。緊急時は変わってきます。
最後にさりげなく一緒に寝ている紫。
ゆかりんかわいいよゆかりん。
感想待ってまーす。