二十一話
青モゲロの巻
今回は作者が限界糖度に再び挑みました。
さて皆さんを頷かせる甘甘にはなっているでしょうか…
彩音と葵に食われてからしばらくたった。
最近は我が家の平穏だった風景は、どちらかと言えば賑やかな様を呈している。
昔は天狗たちがやってきて漬物をかじっている姿に和んだものだったが、たまに鬼がやってきて大部屋でどんちゃん騒ぎをするようになったのだ。
まぁ楽しいし構わないんだが、あいつらはたまにやり過ぎる。
特にあの時葵に付き添った二人はひどい。萃香は無限に酒が湧き出るとか言うふざけた瓢箪を持っているから、酒が無くなることもなく果てしなく飲み続けるし、酔った勇儀は有り余るその力で一度大部屋を更に広くしてくれた。具体的にいえば隣の部屋一個分の広さくらい。
勇儀にこんな感じで皮肉を言ったら『いやぁ~良かったね、広くなって。頼んでくれればいくらでも広げるよ』なんてのたまいやがった。思わず拳骨を落として正座させて説教してしまった。
で、この宴会騒ぎに顔をだすと必ずと言っていいほど葵に捕まる。
酒を飲んで上気した顔で『酒を飲むとあの夜のことが思い出されるねぇ』なんて言って、一々俺との夜の過ごし方を鬼の前で言うもんだからとんだ恥さらしだ。
降参するよりこちらの方が教育的にはましだという葵の教育方針が俺には掴めない………
まぁ毎回宴会でこんなことを繰り返していれば、当然俺と葵の関係も衆知のものとなり、鬼からは『お父さん』やら『親父』やら完全に父親扱いされている。その時はあっさり忘れ去られ、干からびたまま放置された昔の葵の元夫のあまりの扱いに涙した。
彩音とも上手くやっている。初めての夜の翌日などは顔を真っ赤にしてまともに目を合わせてくれないし、初めて朝飯の味付けに失敗して涙目だった。だが数日で元にもどって、今もよく働いてくれている。
正直彩音に迫られた時はひどく混乱した。千年近く娘のように可愛がってきたし、実際我が家の長女と言ったこともある。
ところが彩音の想いは俺の思惑とは全く違った。
これを聞いて俺はひどく後悔した。彩音にそんな想いを抱かせてしまったこともあるしそれに気づかなかったこともあった。
だが、この事を彩音に話したら怒られてしまった。
曰く、『私が自分から好きになったんですから、いかに青様と言えどどうにかできるものではありません。私の想いは私のものです』だそうだ。
あの彩音が俺に対して真剣に怒るというのにびっくりしてしまった。
それでも気づいてやれば違った対応も取れたかもしれない。でも、この考えもおそらく悩みぬいて想いを告げた彩音には失礼なことなのだろう。
そう考えて俺は彩音を抱いた。彩音も顔を赤くしながら懸命に応えてくれた。
彩音とこういう関係になったことを俺は後悔していないし、正妻は藍だが彩音や葵とも離れるつもりはない。
このことを藍に聞いたら満足そうに頷いてくれた。
あの日の翌朝の藍の何事もなかったような反応にはちょっとへこんだ。一瞬藍にとっての俺ってなんなのか考えてしまったが、藍の気持ちを聞いて恥じた。
彼女にとって大事なのは俺を独占することよりも、俺と一緒にいること。
正直敵わないと思う。二千年も一緒に居続けて、いきなり妾を一気に二人も作ったら普通怒るだろうと思ったし、怒られれば甘んじて受け入れる覚悟もあった。だが藍は純粋に俺といたいと思ってくれているらしい。
いつだか藍が言っていた気がするが、藍にとって夫婦というのは俺と藍の間を繋ぐ確固とした結び付きであり、俺が離れていかないための鎖であるのだ。そこに人間のような嫉妬や独占欲というものはないらしい。
それを聞いて俺はますます藍に惚れた。見方によっては男にとって都合のいい女ととられてしまうかもしれないが、俺はそんな不誠実なことはしない。妾を二人作った後で胸をはって宣言することは出来なかったが、以後はもう妾を増やさないと心に誓った。藍の純粋な想いに応えたいし、これ以上妾を増やせば二人の時間が減ってしまうからだ。
こうして藍と彩音と葵という三人の女性と関係を持つものの、俺は全員と上手くやっている。
これもそんな日々の内の1日。
~~~以下、三人称~~~
「んっ…おはよう青。」
「…ん…おはよう藍」
恒例となっている藍の口づけで青は目を覚ます。そして
「ん…おはよう、彩音」
「…んっ…ふぁ、おはようございます、青様、藍様」
青が藍の反対側に眠る彩音に口づけをして起こす。
基本的に青は藍と彩音に挟まれて寝る。葵も時々一緒に四人で布団にくるまることもあるが、子の鬼たちの世話もあるからと毎日一緒に寝ることはない。その代わりと言ってはなんではあるが、たまにやってきて寝る時は青の上に覆い被さって抱き締めるようにして寝る特権を得ている。
一度豊かな胸で青が寝ながら窒息死しかけたこともあったが。
「では、私は朝食の支度をしてきますね」
そう言って部屋を出ていく彩音見送り、青は藍の尻尾をすく作業に移る。数え切れないほどの数をこなしてきたこの作業も、青にとっては楽しみの一つだ。最近は髪の毛もすくようになった。
「気持ちいいか?」
「…ん…あぁ、極楽だ」
なにやら年寄りくさい(実際そうだが絶対言わない)ことを言う藍に青は苦笑しつつも、ふさふさとした尻尾と艶やかな髪の感触を楽しむ。
「はい、終わり」
「ありがとう」
青の終わりの合図で後ろに振り向いた藍はもう一度青に口づけをする。
青もそれを受け入れて、その後腕を組みながら居間へ向かう。
待っているのは、ここで暮らし始めた時と同じように準備された朝食と彩音。
違うのはそこに天魔と葵がいること。葵には青が無理を言って来てもらうことにした。葵も『そろそろあの子らにも独り立ちしてもらわなければねぇ』と言って承諾した。
そのとき、夜の世話はまだいるのか?と青は内心思ったが、実際は世話と言っても酒盛りの挙げ句に妖怪の山で暴れだしたりしないように見ておく必要があり、たまに酒盛りがない時に葵は青のところへやってくるのだ。
朝食を食べ終えて各々は思い思いの行動をする。彩音は洗濯で藍はその手伝い、天魔は葵に負けた日からより激しくなった修行へ、その葵は青の後ろへ続き、青はここ最近の趣味をしに部屋を出る。
青の最近の趣味はまた変わった。製鉄の方も相変わらず続けてはいるし、一年に一回諏訪子のところにも顔をだしては鉄の出来具合を確かめている。
しかし、鉄自体の方はかなり洗練されてだんだんと改良の余地がなくなってきたので、今は如何に製鉄の段階以外で鉄を鍛えるかになっている。ところがこれは既存の鉄を弄くるだけなので、あまり時間がかからず暇潰しにならない。
そこで目をつけたのが製紙だ。最近大陸で生まれたものなのだが実用化には程遠い。作業の工程が半端じゃないのだ。
そこで青はこれの改良に乗り出した。紙は木の繊維から出来る物だが簡単に大量になんとか作れないかと頭を捻っている。
持ち運びにも便利だし、苦労して手に入れた一枚が、式の役に立つと藍にも喜ばれたので青も張り切っている。
「しかしまぁ、人間もよくこんなこと思い付くねぇ」
青が庭に出て樹皮をいかにして繊維の状態にしようと思い、熱湯で煮詰めていると葵が声をかけてきた。
「まぁそれが人間の武器だからな」
「あぁ、紫の言っていたことかい」
そう、葵は紫の考えた妖怪の末路について話しは聞いている。
「まぁ、あたしたち鬼としては人間みたいな弱い種族に負けるなんて名折れもいいとこだからねぇ。あまり信じられないんだけど、あたしと違って頭がいいあんたたちが出した答えだから、真っ向から否定も出来ないねぇ」
葵は鬼だ。自分の種族としての強さに対しては強い誇りを持っている。そんな葵にとって、慣れ親しんだ青たちの言葉でも人間が鬼に勝るというのは信じられなかった。それでも一応青たちの言うことだからと、頭の片隅には置いてある。
「まぁそれが普通の反応だろうな。この話を聞いて俺と藍が紫に協力を申し出たときの紫の顔といったら、見たこともない微笑みかたをしていたぞ」
そう言って昔話で盛り上がる二人。葵は青と関係を持っている者の中で一番共に過ごした年月が少ないので、よく青に昔話をしてくれるようにせがんだりする。
そのまま作業を切り上げて二人で談笑しているといつの間にか日が傾き始めていた。
「もう、こんな時間かい。惚れた男と過ごす時間は早いもんだねぇ。じゃ、ちょっとあの子らの様子を見てくるよ。夕飯までには戻るからね」
「あぁ、行ってらっしゃい」
「行ってくるよ。あ、そうそう、今日は酒宴の予定はないからね…」
最後に小声で青に告げると流し目で立ち去る葵。その後ろ姿を見送ってから青は部屋へと向かう。
「藍、どんな感じだ?」
「青か、この紙とやらは素晴らしいな。いささかまだ実用的ではないが」
そう言って藍は墨で呪を書いた紙を青に見せる。
「そうか、気に入ってもらえて嬉しいよ。実用化にはもう少しかかりそうかな」
そう言って青は藍の後ろに座り、そのまま後ろから抱きつく。
「藍はあったかいなぁ」
「ふふっ、青もな」
尻尾の感触と藍の体温を感じて思わずといったように青がこぼす。藍も後ろに青のぬくもりを感じて思わず顔が綻ぶ。
「しばらくこのままでいいか?」
「あぁ…いや、ちょっと待ってくれ」
青の言葉に待ったをかける藍。どうしたのかと青が思えば抱きしめた腕の中でくるりと青のほうに向き直る藍。
「私にも抱きしめさせてくれ…」
そう言って藍も青の背中へと手を回し、しっかりと抱き締める。明かりとりから入ってくる日の光とお互いの体温の温もりで二人はゆっくりとまどろみ始め、しばらくすると部屋には二人の寝息だけが聞こえるようになった。
青と藍が目を覚まして見れば日がちょうど暮れようとしていた。お互いに目を覚まして口づけをかわして居間に向かう。
そこには朝と同じ顔ぶれに夕飯。
「うん、今日も上手いぞ」
「ありがとうございます、えへへ」
青が彩音の料理をほめて頭を撫でる。これは彩音が言い出したことで、1日の終わりに青が彩音にあげるご褒美のようなものだ。もっとも夜にもっと大きなご褒美があったりする日もあるのだが。
今日は葵が自由なので、食事を終えたら二人は寝室に向かう。部屋に入るなり葵は青に抱きついて濃厚な口づけをする。
「…んっ…ちゅっ…」
部屋に響く口づけの水音。ちなみにこれが彩音なら真っ赤になって抱きついてくるし、藍なら何も言わずに布団に入り何をするでもなくしばらく抱きしめ合う。
共通しているのはこの後行われる行為だけだ。
すっかり燃え上がった二人は裸のまま抱きしめ合って眠りにつく。そして二人が眠りにつくと、いつの間にか藍と彩音がやってきて同じ布団に潜りこむ。
こうしてこの家の1日は終わる。
一緒に寝る四人の表情は安らかなものだった。
第二十一話投稿でした。
ん~、なぜか葵で締めになってしまったなぁ。彩音は出番少ないし。
まぁ藍とイチャイチャしていたからいいか(ぇ
いつぞやのリベンジのように甘くしたのですが、甘かったでしょうか?
作者の今の限界です。
製紙法についてですが、蔡倫が製紙法を改良するのは漢の時代ですが、それ以前にも紙はあります。パピルスなんかも紙だとすればかなり昔ですが。
で、式との相性から藍に喜んで貰えそうなんで着手してもらいました。
ここまで書いててふと思いましたが未だに紀元前。
しかも原作キャラがなかなか見当たらない…本当にこれ東方か?
もう少し紫とか萃香の出番を増やしてみようかな。
感想待ってまーす。