二十話
やっちまったの巻
…まぁ、今は何も言いませんとも。
超展開というか、はぁ? ってなるかもしれんので注意を…
晴れ渡る青空の下、最近人間に妖怪の山と言われている場所で2つの影が額を付き合わせて話し合っていた。
一人は鬼の母、鬼子母神の葵。もう一人は青の従者にして神である彩音。
この組み合わせで一体何をしているのかと言うと、ある日葵が彩音に話しがあると言って呼び出したのだ。
「葵さん、話とは一体?」
「そうだね、私は回りくどいのは嫌いだから単刀直入にいこうか。お前さん、青のことが好きなんだろ?」
「なっ、なななななな何を言ってるんですか!青様には藍様という立派なお方がいるのに…」
葵の言葉に慌てて顔を真っ赤にする彩音。
しかし、一瞬だけその羞恥の表情に影が射す。
「好きだっていうのは否定しないんだね。なんで今まで迫らなかったんだい?聞けば何百年も一緒に暮らしていたそうじゃないか。
妾にしてくれとでも迫ればよかったのに」
「はぁ、なぜ私が青様を好いているという前提で話が…」
「悪いね、私の勘は滅多に外れないんだ。女としての経験値の違いってやつかね」
葵の言葉に呆れとも諦めともとれるため息をついてうなだれる彩音。
そして再び顔を上げた彩音の顔には先ほどの翳りが表れており、それに葵は眉をひそめる。
「…確かにそう思った時もありました。
もともと私は青様に何度も命を救われ、そのご恩を返したいと人間をやめてまで付いてきました。そしてその時に抱いていたのは確かに憧憬の念だと、あの時の私は思っていたのです。
でも一緒に暮らし始めて数年で私は自分の気持ちに気づきました。これは恋だと。いえ、正確には憧憬と混ざりあったものなのかもしれませんが…
でも青様には藍様がいます。
あの幸せそうなお二人に割り込むなんてとても私には………
普通に恋する女性なら相手の隣に立つ姿の想像くらいするかもしれませんが、なんど思い描いても青様の隣は藍様しか浮かばないんですよ。
いつまでも想いを抱えていては仕事にも差し支えると思い、私は想いに蓋をして今までお二人に仕えてきたのです」
つらそうな顔で話す彩音を見て深いため息をつく葵。
「なるほどねぇ。お前さんにとって、自分の幸せよりも仕える主人の幸せの方が大事だったんだねぇ。しかも夫婦仲は数百年良好で割りいる余地を全く見いだせなかったと…
まぁ、そこにはお前さんなりの葛藤があったんだろうからとやかくは言わないよ。
でも女として生まれたんだから、女としての幸せを手に入れたって罰は当たらないさ。神様のあたしが言うんだから間違いないよ」
にっ、と笑う葵。
「……でも、藍様に何を言われるか…」
「あぁ、それなら既に許可は取ってあるんだよ」
「え、えぇっ!ど、どういうことですか!?」
「いやぁそれがねぇ、青との戦いの後、体力が回復したから散歩がてら家の中を見回っていたら例の奥方を見つけてね…」
~~~以下、回想~~~
「これはまだまだ本調子には程遠いねぇ…」
「む、お前は」
「あぁ、確か青のやつの奥方だったかね。あたしは鬼子母神の葵だ。よろしくね」
「私は九尾の藍だ。青からだいたいの話は聞いた。天魔とも仲良くしてもらえると助かる」
「あぁ、あの娘っ子は愉快だからねぇ。楽しくやっていけると思うよ」
「なんか不安なんだが…」
「気にしないでおくれ。ところで青から子宝のご利益を頼まれたんだが、子に恵まれないのかい?」
「あぁ、青とはかれこれ千年をとうに越える付き合いなのだがさっぱりなんだ。妖怪の異種間での子が出来にくいというのは聞いたことがあるが、いくらなんでも全く当たらないのは少々おかしい。何かしらの相性が悪かったのかもしれないかとおもってもいるのだが…」
「ふーん、なるほどねぇ………
じゃあこうしないかい、私はお前さんたち夫婦に子が授かるように全力で支援しよう。その代わりといっちゃなんだが青の妾になる許可が欲しいんだよ」
「そうか、なら構わないぞ」
「…言い出した本人が言うのもなんだけど、随分あっさりしてるんだね。いいのかい?」
「別にいいさ。私が青に望むのは私と共にいてくれること。それさえ叶えてくれるならいいんだ。例え妾を作っても、私と共にいてくれると誓ってくれるなら何も言わないさ」
「…最初は倦怠期かと思ったけど、こいつは良い夫婦だね」
「ふふっ、そうか?」
「そうさね。あたしの元夫なんざやるだけやって干からびちまいやがった。結局夫らしいことはほとんどしなかったねぇ…」
「そ、それは随分と激しいんだな…」
「そっちが良くても信頼関係がなけりゃねぇ。その点お前さんたちは良い夫婦なのさ」
~~~以上、回想終了~~~
「と、まぁこんな感じだったからね」
「ちょっと待って下さい!最後なんか妙なこと言ってませんでしたか!あれですか、あなたの夫は腹上死なのですか!?」
「なんだい、そんなことはどうだっていいだろう」
「よくありません!青様まで腹上死させたらどうするんですか!それに肝心の私に対する許可がありません!」
「“肝心の”ねぇ、だんだんと本心が出てきたね」
「っ~~~、そうですっ、私だって青様とそういう関係になって藍様のように愛して欲しいんですっ!これで満足ですか!?」
顔を真っ赤にして怒鳴るように喚く彩音。
そんな彩音を見て葵は嬉しげに笑う。
「あはははっ、そっちの方がいいに決まってるさね。お前さんは今まで溜め込んできた分尚更にね」
「っ~~~」
「安心しな、あの後藍に確認してみたら許可をくれたよ。どうも藍もお前さんの気持ちに薄々感づいていたらしく、日頃お前さんはよく働いていてくれるからそのお礼も兼ねてだってさ」
「………葵さん」
「ん?なんだい?」
「その、ありがとうございます…」
「…どういたしましてと言っておこうかね」
彩音の呟くようなお礼の言葉に返答する葵。
それは今まで踏み出すことも出来ず、ずっとしまい続けてきた想いを再びさらし、その想いを叶える機会を与えてくれた葵に対するものだった。
もし葵の後押しがなければ、これから先もずっと青の従者として生き続けただろう。数刻前の彩音ならそれでも構わないと言っただろう。だが、青に対する想いを吐露して自分の気持ちを再確認した彩音にとってはそれは苦痛でしかなく、今や気持ちに蓋をした自分に苦々しささえ感じるほどだ。
そんな彩音の感謝の言葉に対して葵の返答もシンプルだった。
もともと葵の目的と偶然被り、同じ女としての幸せを自ら封じ込めている彩音に対して葵が不憫に思って後押ししてやっただけ。葵にとってそれは別段感謝されるようなことである認識ではなかったのだが、感謝の言葉にのせられた彩音の想いを感じて色々言うのをやめた。
「さあ、じゃあこれから青をあたしたちに夢中にさせるために、彩音には妙技を教えてやろう!」
「みょ、妙技ですか?」
「そうさ、ちょっと耳を貸してみな」
そう言って彩音の耳に口を寄せて小声で妙技とやらの内容を語っていくと、それに比例して彩音の顔が真っ赤に染まっていく。
「そ、そんなこと出来るわけ!」
「おや、そうかい。なら仕方ないねぇ、青の相手はあたし一人でやるから、お前さんの拙い技でせいぜいあたしと張り合えるよう頑張るんだねぇ」
「は、張り合う?」
「そうさぁ、妾にだって序列はあるんだよ?なら主人の寵愛を受けようと技に磨きをかけなきゃねぇ。まあ正妻は藍で決まりだけど、あたしが二番目にならせてもらうよ」
「なっ、過ごした時間は私の方が上ですっ!」
葵の言葉に弾けるように反論する彩音。吹っ切れたのか声が大きくなっている。
「そんなものあてにならないね。男ってのは正直なのさ、いい女がいればそっちに靡くもんだよ」
それに対して余裕の表情で迎え撃つ葵。この辺の差が経験値の違いなのだろう。
「だいたい、そもそもなんであなたは青様と関係を持ちたがるんですか!?」
「そんなの強い男の種をもらうために決まってんじゃないか」
「な!?不純です!」
「なにが不純さね。限りなく純粋じゃないか。強い男の子を宿す、これこそ本能だよ。………まぁ青はいい男だからそれだけじゃないけどねぇ」
この後日が暮れるまで二人の口論ともとれる話し合いは続いた。
その日の夜、何故か例の大部屋に来て欲しいと彩音からお願いされた青がそこに向かえば、明らかに緊張した面持ちで裸になって布団の上に正座する彩音を発見。
慌てて踵を返せば背後にはいつの間にか葵が立っている。こちらは着物をはだけて半脱ぎといった様相で、容姿と相まって妖艶な雰囲気を出している。
そしてそのまま葵に拘束されて布団へと連行。
藍に申し訳がたたないとか青は言っていたが、許可が取ってあると言われ、更に顔を真っ赤にした彩音と妖艶に微笑む葵の猛攻にとうとう折れた。
その晩はいつもと違った二種類の嬌声が家に響き渡った。
ちなみにこの時どこかの神社で神二人が盛大に酒を傾けていたのは別の話。
翌朝、何事もなかったかのように対応する藍に若干青がへこむが、藍の気持ちを聞いて持ち直し、藍の隣にいることをあらためて誓ったのだった。
第二十話投稿でした。
ふふふ…やっちまったよ!!作者も青もな!
前々から予告してたけどやっちまった感が拭えないね!
本当はもっと彩音の心理描写がしたいんですが、更に不自然になってしまって微妙に削ったりしました。
戦闘描写よりも心理描写の方が苦手かな…
あれ?これって書き手として致命的じゃね?
なぜ彩音は数百年も耐えられた!?
と言われてしまうとなんとも…
不老になって変化より安定を望んだのかもしれませんが、ここで何を言っても所詮は後付け設定(ぇ
彩音さん、ごめんなさいm(_ _)m
そして葵はアンケートの時から決めておりました。
なにせ千年以上出来ていない二人にはなにか必要だったのです。何が何に必要かって?
…まぁ、皆さんが考えている通りです。
実は本編のように葵のご利益に頼る他に永琳の薬に頼る案も考えましたが、過程が書けなくてボツ。
永琳ファンの皆さん、すいません。
いや、私も熟じy
…お姉さん系の永琳は好きなんですが、力量が足りなかった…
感想待ってまーす。