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東方饕餮記  作者: 待ち人
20/51

十九話

夫婦喧嘩(?)の巻





PV10万、ユニーク一万達成しました。

ありがとうございます!

これからもよろしくお願いいたします。

あの戦いから一夜明けた今日、空には雲一つない快晴、いつも通りの清々しい朝からの1日が始まる………はずだった。


「………」


なにやら空気が重い。

いつものように俺、藍、彩音、天魔の四人で食事をしているのだが会話がない。


「あ、あのぉ…」


「………」


「うぅ……」


訂正、会話が成立しない。


原因は天魔と藍。

萃香たちに葵や天魔を任せっぱなしというのも不安だったので、昨夜は俺は大部屋で寝泊まりしたのだが、朝起きて見れば天魔は何やら考えこんでいるし藍は終始無表情だ。


彩音もこの雰囲気が耐えられなかったらしくなんとか会話の糸口を見つけ出そうとしているが、天魔は話を聞いていないようだし、藍は聞いているようだが返事をしない。

これには彩音も涙目だ。


こういう場合は話を聞いていても返事をしない藍よりそもそも話を聞いていない風の天魔の方が会話しやすいだろうな。


「なぁ、天魔」


「………」


ぬ、娘に無視されると地味に落ち込むな。少しむっとしたので天魔の肩を揺さぶって呼び掛ける。


「おい、天魔!」


「はっ、父上!?ど、どうしましたか?」


「一体どうしたんだ?」


「いえ、その…昨日のことで…」


「昨日?それはお前が負けたことか?」


「もちろんそれもありますが、それ以前に山への侵入をあっさり許してしまったことが…

本来は山に押し入ろうとする妖怪は巡回している天狗が排除するんですが、今回は数瞬でやられてしまったらしく…」


ああ、要は自分たちの住みかを守りきれるか不安になったということか。


「いいじゃないか、これからは鬼もいるんだし、いざとなれば今回のように俺たちが出張るし」


「いえ、父上たちに迷惑はかけたくないですし、鬼たちはいつまでもここにいる保証はありませんから…」


迷惑…ねぇ。いくらでもかけてもらって構わないんだが、天魔も妖怪基準にしてもいい年だ。種族の長としての自覚も芽生えているんだから、あまり過保護になるのも考えものか。

まぁ助言の一つくらいはいいかもな。


「各自鍛練はしているんですが…」


「ふむ、ならもっと組織だって動いてみたらどうだ?」


「?」


妖怪というのは強ければ強いほど単独行動する奴が多くなる。簡単な話で単独行動をしても死なないからだ。逆に弱ければ弱いほど集団になる。


これは妖怪に対する弱者でもある人間が一番慣れている。人間は何千年かけて集団に秩序を持たせて組織というものを作っている。これはかなり優秀なものだ。

特にこれを天狗たちに適応するなら、情報の伝達速度の上昇というのが一番大きいだろう。


今現在も天狗は見回りや天魔からの伝令役程度はいるようだが、もっと役職を細かく分けていけば更なる効率化が望めるはずだ。

例えば今回のように見回りしている最中に鬼のような強い妖怪に出会うようならば、一人は天魔に知らせにいき増援を頼むべきなのだ。そうした役割を決めていなかったから全員特攻して玉砕、結果的に山の奥深くに入られるまで対処出来なかった。


いや、そもそも見回りだけではなく、各地点に天狗を常駐させておけば問題への対処も素早く行えたはずだ。


まぁこういうのは指揮系統がはっきりしないと混乱を招く場合があるが、これは天狗の中で決めるべきだろう。




そんな話を天魔にしてやると再び考えこんでいる。

ただ先ほどより微妙に表情が明るくなったので何かの手がかりにはなったのだろう。


まぁ会話はないが、天魔に関しては重い空気が払拭出来たのでよしとしてだ………


「なぁ、藍…」


「………」


藍が何やら怖いのだ。

これに関しては対処できる気がしない。


「「「ごちそうさまでした」」」


「………」


食事が終わっても無言ですっと部屋に下がってしまった。

これはまずい………

一家崩壊の危機かもしれん。


「藍のほうは俺が見てくるから、二人は片付けを頼む」


心配そうな彩音たちに片付けを頼んで俺は藍を探しに向かう。

基本的に藍は俺の部屋で寝泊まりをしているが、式の研究やらのために藍も個室を持っている。

今回は俺の部屋にはいなかったので自分の部屋にいるのだろう。


「藍、いるか?入るぞ?」


返事がない。

こんなことは今までなかったのでどうしても不安になってしまう。

仕方がないのでそっと部屋に入ると、藍は机に向かって黙々と何かの式を作っていた。


「藍…」


「………すまない」


どういうことだ?

呼び掛けたはいいがどう切り出したものか悩んでいると、ぼそっと藍が謝ってきた。


「なにがだ?」


「…今朝からの私の態度だ。少し大人げなかった…」


珍しく自己嫌悪に陥っているように見える。


「いや、それは別に気にしていないんだが理由は一体…」


「…昨日お前が私たちを置いて向かったのがな…

お前は私たちの安全を考えたのかもしれないが、昨日も言ったように私たちもお前が心配だった。


結果的にはお前の判断は正しかったのだろう。あの場に私と彩音がいてもおそらく葵には勝てなかっただろうしな…」


そこまで言って、ふっと自嘲気に笑う。


「結局私はお前が心配だと騒ぐだけの無力な女だったわけだ。人間ならそれで良かったかもしれないが…

私だって最高位の尾獣、なまじ力があるから割りきれなくてな…

1日経って振り反ってみれば青の荷物にしかなっていないんじゃないかという考えが頭から離れなくて…それでも置いていかれたことには納得出来ないんだ、お笑い草だろ?」


そんなことを…

つまり自分の力が足りなくて荷物になると考えているにも関わらず、置いていかれたことが納得できなかったので自己嫌悪。

一晩そんな状態で過ごしたせいで苛立ちが募り、今朝の態度に結びついたのだろう。


それが今や耳は力なく折れ、尻尾も全て垂れた状態でうなだれている。


まったく………


「藍、そんなこと気にすることはない。

言付けもしないで飛び出していった俺も悪かったし、藍の作ってくれた呪符に助けられることも多い。

それに俺は藍がいればこそ力が出せるんだ。藍が役に立たないなんてことは絶対にない…」


そう言って藍をそっと抱き締めてやる。


「………本当か?私はお前の側にいていいんだな?」


しばらくしてうなだれている顔を上げて涙目で見上げてくる藍。

俺は抱き締めた腕を藍の背に回したまま藍の頭を撫でる。


「当たり前だ。いなければ困る」


「…そうか」


藍はそう言って俺の胸に顔を押し当てて黙った。

先ほどまでなら沈黙は耐えられないものだったが、今はいつものような静かで心地のいいものに戻っている。


俺は藍の背に回した腕に力をこめて強く抱き締めた。







しばらくして藍は押し当てていた顔を外すと再びこちらを見上げてきた。


「ありがとう」


「どういたしまして」


なんともない会話だがこうした会話にこそ幸せを感じる。さっきのような雰囲気のあとだと尚更だ。


「さて、藍はこの後どうする?」


「そうだな…私は研究中の呪符の作成を進めようかな」


「ほぉ、それはどんな効果なんだ?」


「召喚に使う術式で長距離移動が可能に出来ないかと思ってな。……そうだ」


「ん?どうした?」


「ちょっと待っててくれないか?」


そう言うと何やら探し始める藍。


「…あった、あった」


そして藍が取り出してきたのは以前俺が藍に贈った腕輪の内の一つ。


鉄で作った初めてのものが彩音に贈った調理器具だったので藍が拗ね、それを慰めるために両手分を贈ったものだ。

腕輪と言っても質素なもので、腕輪に妖力加工と簡素な装飾を自分で彫ったものだったのだが藍はひどく喜び、機嫌のいい日などは1日中、それこそ風呂や寝るときにもつけていた。


そんなことを思い出しながら腕輪を見てみるといつの間にか装飾が増えている気がする。


「これには召喚の術式が組み込んである。お前が籠めた妖力を利用して発動するから回数制限はあるが、自前の妖力でも発動可能だ。

この腕輪を持っていれば対になる腕輪の持ち主を呼び出せる。逆もまた然りだ。昨日のようなことがまたあったらいやだからな、必ずつけてくれよ」


そう言って俺の右手に腕輪を通す藍。


「…なるほど、どこに逃げようと無駄ということか」


「別に外してもいいんだぞ?」


「ばか言え。どんなときだってつけておくさ」


「ふふっ、そうか。なら………」


そう言うと藍は腕にはまったそれに手をかざして妖力を流し込んできた。

そしてなにやら満足したふうに腕輪を掴み外すような動作をするが…


「外れない?」


藍がいくら引っ張っても腕輪は手首の辺りから動かない。


「よし…これは私の妖力が鍵になっている。

私の妖力を流し込まない限り外せないからな。

さ、次は私の番だ」


そう言って新たに左手の腕輪を持ってきて自分の腕にはめて差し出す藍。


「なんとも凄いものを作っていたんだな」


「あの計画の失敗の時から考えてはいたんだが、私だけでは手に負えなかったから紫にも手伝ってもらってやっと二つだけ完成したんだ。

作るのに膨大な時間がかかるし、燃費は悪いし、相手の了承の意思がなければつけられないやらで改良の余地はまだまだあるが、一応自信作だぞ」


そう言って胸を張り得意気な顔をする藍。

普段あまり見ない姿に微笑ましい気持ちになりながらも、腕輪に力を流し込む。


「…よし、それくらいでいいぞ。

……うん、上手くいったみたいだ」


腕輪を動かしてまたしても満足気な顔をする藍。


「これでどこにいても私とお前は繋がっているということだ。

逃がさないから覚悟しておいたほうがいいぞ?」


「そっちこそ」


いまさら藍から離れる気も離す気も微塵もないからな。


「どうかな?

不安に怯える私が一人寂しく寝るはめになったのは誰のせいだったかな?」


「うっ、それは…」


「ふふっ、過ぎたことだ。もういいさ」


「…はぁ」



お互いの腕輪に目をやってから、再び目を合わして微笑んだ。










いつまでも部屋から出てこない俺たちに彩音が痺れをきらして突入して来るのはこのすぐ後だった。


第十九話投稿でした。



実は夫婦喧嘩というよりも藍が一人で負のスパイラルに陥ってしまったという話。

ま、結局イチャイチャするんですけどね!今回は書いててイライラした(笑)


腕輪によって完全に藍のものになった青。

知ってるか?九尾からは逃g(ry


藍は良識はあるので無茶な呼び出しは多分しませんがね。




あと今回は原作のような天狗社会になるきっかけもありました。

やっぱり鬼がきっかけであんな組織だつようになったんじゃないかなと。



感想待ってまーす。


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