一話
強引です
うっそうと茂った森の中に人が近づかない湖がある。
いつもは太陽の光を反射して美しくかがやいているのだが、今日は曇り空のたも映るのは雲ばかりだ。
そこに突然映りこむ影。
その影の持ち主は饕餮。
森や湖の生き物は動物や妖怪問わずに饕餮の姿を見ただけでなりふり構わず逃げ出した。
そして当の饕餮は湖に映った自らの姿を見て
「はぁ……」
と随分と人臭いため息を漏らしていた。
それもそのはず。その正体、というか中身は先ほど饕餮と死闘を繰り広げた男だった。
あの後饕餮に喰われたが、飲み込んだ呪符の力によって再び闘いを行った。
ただし肉体的なものではなく精神とか意志とか魂とか言われるものでの闘いだ。
元々この術の用途が事故や呪いによって人外になってしまった人間のためのものである。
長命種や不老の生き物のような長い時を刻む存在というのは人間とは異なった精神力を持っていて、普通の人間ではその長さに耐えきれない。よってそのまま命を絶つかこの呪符によって精神力を底上げするかだ。そして男が飲み込んだ札は術者の精神力を極限まで高めるもの。
ただし精神と肉体は相互に影響しあうものなので、人間のまま飲んでしばらくすると人外になってしまう。使える術者が少ないのも相まって滅多に使われることはなく、いわゆる外法というものだ。
今回使ったのはその呪符に精神干渉を可能にする呪いを加えた物だ。
本当の意味での最終手段として持ち歩いてはいたのだが、出来れば使いたくなかったというのが当然本音。 精神同士の闘いは熾烈を極めたが、やはり舜帝にとの戦いにより弱っていたらしくやたら禍々しいものの多少脆くなっていた。 それでも死力を尽くし、一矢報いたいと念じつづけての辛勝ではあったが。
さて、めでたく(?)饕餮の体を乗っ取ることに成功した訳だが、問題は自分の姿だ。
我ながらおぞましい。そこら辺の幽鬼や妖怪よりもよっぽど恐ろしい。
さてどうしようかと考えること半刻、そういえばこの体で弱小妖怪に化けていたと思い出す。しかも妖気や威圧感まで。
とりあえず乗っ取った体にある記憶を探る。
そして調べあげた結果わかったのはこの体の能力だ。
“化ける程度の能力”
まぁ能力持ちは当然だろう。人にもごく稀にいるし悪名高い四凶の一角だ、寧ろなんだか拍子抜けするほどだ。
しかし、調べていく内にこの能力のいやらしさがわかってきた。
この能力では普通に化けることはもちろん可能だが、相手の恐怖の対象へと化ける事も出来るのだ。
要は相手が絶対に勝てないと思ったり、闘いたくないと思っている対象に会うことなく恐怖を読み取って化けることが出来るのである。
その気になれば妖力や霊力はもちろん、神力や能力、挙げ句の果てには口調や思考回路まで完璧に化けるのである。
しかも架空の存在でもそれは可能だし、実際にはいない化け物になってその力を行使することまで可能だ。
ちなみに俺は四凶を恐れていたのでそのままだったみたいだ。
こんな厄介なのと同格を他に三体退けた舜帝は凄い人だ…
しかしこれだけ完璧に化ける事が出来ても人のいる場所で暮らすのには一つだけ障害がある。
それは自分が不老だということだ。
自然に生活を送るためには、同世代で同じような顔と体格をした人物を探し出さなければいけないのだが、それは限りなく不可能に近いだろう。自分が徐々に
となるとやはり都へ戻る訳にはいかない。
とりあえずはこの姿のままというのも嫌なので、自分の元の姿に戻ることにする。
普段から自分の姿を見ている訳ではないので明確に想像できるか不安だったが、なんとかなったようだ。使いなれた二足歩行の体にほっとする。
ちなみに妖力はそのままにしておいた。
人の時の霊力は使いなれているが、妖力に関してはまだまだ未熟だ。
しかし妖力のほうが圧倒的に大きい。未だ全快ではないこの体で、だ。
当然戦闘になったら妖力で闘ったほうが楽な訳だから、今の内に慣れてしまおうという訳である。
とりあえずはこんなところだろう。
次にどこに向かうかだが…
そういえば饕餮が舜帝に最初に敗れたときに西方の守護を命じられていたな。
まぁ別にそこまで帝にたいして忠誠心があるわけではないが、行きたい場所がある訳でもないのでとりあえずの目的地にしてみようか。
今まで仕事にかかりきりで都の周辺と仕事場への道くらいしか知らなかったので、これを機に大陸を一回りしてみるのもいいかもしれない。
なにせ時間はいくらでもあるのだ、旅をしながらまた今後を考えればいい。
とりあえずの方針を固まった。都の友人にも別れを告げるために都へと向かうとしよう。
もはや会うこともないと思うので、家にある取っておきの札でも贈呈しておくとしようか。
一話投稿です。
精神関連は厨二臭がしますが流してやって下さい。