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東方饕餮記  作者: 待ち人
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十五話

友達百人出来るかなの巻

天魔が我が家の家族になってから三百年がたった。

俺たちの生活は相変わらずで、天魔がそこに加わっただけの平穏なものだ。

天魔は毎朝夕にやって来ては食事をし、そのままあてがわれた部屋で寝ている。最初は遠慮がちだったが今ではすっかり馴染んでおり、3日に一回くらいは朝起きたらそのまま家でぼーっとしている。最近は俺の趣味を見ていくこともある。

三百年の時を経て少しずつ天魔も成長し、今では見た目が彩音と同じくらいの年で、肩まで伸ばした黒髪が凛々しい少女になった。妖力の方も順調に成長し、神になる前の彩音にだったら勝てるくらいにはなった。

天魔の能力は『嵐を操る程度の能力』らしく、規模が大きいために練習は山で行っているがだいぶ制御できるようになったらしい。


ちなみにちょっと前に俺の趣味は変わっている。今でも野菜畑はあるが、さすがに何百年も野菜を育てるだけでは飽きがきたので、諏訪子との会話している途中で思い付いた製鉄に挑戦しているのだ。

最近大陸の西から製鉄技術が流出したらしく、至るところで鉄の武器が使われている。さすがにまだこちらまでは伝播していないが、技術自体は紫が教えてくれた。これで鉄輪も珍しくなくなったな、と諏訪子に言うと純度が違うとない胸を張られた。どうも諏訪子は能力で鉄を生み出したらしいが、人間の製法では不純物が多すぎるらしい。

それを聞いた俺はちょうど暇を持て余しがちだったのもあって技術改良に乗り出した。最近ようやく鉄を溶かす温度と冷やす水が違えば鉄の腰が違うと気づいたので、藍に協力してもらって最高温度の狐火を使わせてもらったり、紫に色んな土地の水を土産代わりに持ってきて貰っている。出来上がった鉄は諏訪子のもののように鉄の輪にし、諏訪大社まで持っていっては出来具合を見て貰っている。

大体一年に一回くらいの頻度なんだが、製鉄を始めて五十年、年々純度は上がってきていると諏訪子にもお墨付きを貰っているほどだ。


今日はその鉄の品評会。出来上がった鉄の輪を持って家をあとにする。

家から諏訪大社までは起伏が激しい道のりなので、人の足では半日以上かかるような場所にあるが、飛べる者ならば一時間くらいだ。


「やあやあ来たね、まぁゆっくりしていきなよ」


鳥居の前にやって来るとさっそく諏訪子が声をかけてきた。だがここでは彼女の言葉にうなずくたけだ。諏訪子は普通の人には見えないから、下手に挨拶を返しでもしたら参拝客に変な目で見られてしまう。

諏訪子もそれを承知しているのでそれ以上は言わず本殿へと向かう。本殿に入るとそこにはだらしなく横になっている神奈子がいた。


「お、青じゃないか。今回も鉄を持ってきたのかい?」


「あぁ、今回のは自信作だぞ」


「そうかい、じゃあ早速拝見させて貰おうかな」


神奈子に促されて俺は懐から鉄の輪を取り出す。

諏訪子がそれを手にとって自分の鉄の輪とぶつけてみたりしながら確かめている。


「へぇー、また一段と腕をあげたね」


「ほぉ、そんなにかい?」


「ただ単に純度が上がっただけじゃなくて、鉄の鍛え方が良いみたいだね。見てみなよ」


そう言って諏訪子は鉄の輪を持つと手に力を入れて僅かにそれを曲げる。


「お、おい、いいのかい?人の物を勝手に曲げて」


「なんだ、落ち着きなって神奈子。ほら見てよ」


「ん?あ、あれ?」


神奈子が訝しげに諏訪子の手に目をやると、そこには元の形に戻った輪があった。

これが俺の考えた鉄の腰だ。叩いても固いだけじゃなく折れない。柔よく剛を制すというように柔軟さがなければ折れてしまうが、この鉄ならば強い衝撃を受けても多少の歪みが出来るだけで、あとは自然に戻る。

ここ五十年の研究の結晶だ。


「鍛え方次第で鉄っていうのはいくらでも強くなるんだよ。ま、人間はまだまだだけどね」


「ほぉーこれは面白いもんが見れたねぇ。しかしまぁ、時間を持て余した奴が本気になると人間の技術は置いてきぼりになっちまうね。私はこういう技術革新は好きだからいいんだけどさ」


「そうでもないさ。技術を改良していく妖怪なんてそれこそ少数だろうし、人間は数が多いからすぐに進歩するだろうな」


もともと鉄自体も人間が自力で見つけ出したものだ。何かを見つけて生み出すのは人間の方が上手だろう。


「ねえねえ、青。良かったらこの鉄の輪を私に譲ってくれないかな?」


「構わないがどうしてだ?」


「いやぁ、私も鉄を鍛える方を怠っていたからね。せっかくいい鉄があるんだから不純物を取り除いて神力籠めて私の武器にしようかなって」


「それは光栄だな。そうやって使ってもらえるなら喜んで譲ろう」


作った鉄も家の倉庫に並ぶよりそっちの方が何倍もいいだろう。なにせ神具になるのだから、作り手としても嬉しい限りだ。

何かを作ってそれを使ってもらえるのは予想以上に嬉しかった。今度は何か生活用品でも作ってみようかな…


「ありがとう、青!よしっ今日中に武具作りを完成させちゃおうっと。青は適当にくつろいでてね」


そう言うと諏訪子は部屋を出ていってしまった。

新しい遊び道具をもらった子供のような表情でいたものだから、あまりにも見た目と合っていて神奈子と一緒に苦笑してしまった。


「すまないね、最近退屈だったから新しくやることが出来て張り切ってるんだろうさ」


「いや、構わない。諏訪子に楽しみを提供出来たなら何よりだ」


「そう言ってくれると助かるよ。最近家の方はどうだい?」


「いつも通りさ。藍は式の研究、紫は放浪の旅、天魔は修行で俺は製鉄って具合だな」


「そうかそうか、何事もなくて何よりだね。そういえば天魔は天狗だったよね」


「あぁそうだが」


「最近翼を生やした人型の妖怪たちが現れたらしくてね。ちょっとここからは遠いが、歩いて1日といったところの山に住み着いてしまっているらしいんだ。それでこの前参拝客からなんとかして欲しいと願われちまってね。なんとかする必要があるんだが、天魔の同類かもしれないからどうしようかと思ってね」


ふむ、天魔と同じ天狗か。

そうだな、せっかく一人一種族ではないのだから同類と仲良くさせてあげたほうがいいかもしれないな。俺たち以外には大した交流がないのも考えものだ。天魔の実力ならそんじょそこらの妖怪にはどうしようもないだろう。


「そうだな。その天狗たちがどうしてそこに住み着いてしまっているかは分からないが、場合によってはこっちの山に移住してもらうのもいいかもしれない。山から天狗はいなくなるし、家の天魔にとっても同類との触れ合いはいいことだろう」


「うん、それなら上手くいけばみんな得するね」


「じゃあ、早速俺はその天狗たちに会ってこようかな。夕方までには帰るよ」


「あいよ、気をつけてね」


本殿を出ると遠距離呼び出し用の札を使って紫を呼ぶ。これは殷での失敗を踏まえて作ったもので、使えば相手の札から妖気がもれるといった言葉のやりとりなどは出来ない簡単なものだが、札に種類を作ることで呼び出しの緊急性を分けているので割りと使い勝手がいい。今回は一番緊急性の低いものを使ったので、しばらく現れない可能性もあったが、呼んですぐにやって来てくれた。どうやら暇だったようだ。


「どうしたの、青?」


なにやら眠そうな顔をしていたので寝ていたのだろうか。簡単に事情を話して手伝いを頼むと快諾してくれた。


紫のスキマで話にあった村まで移動して山に向かう。

するとわらわらと天狗が現れて俺たちを威嚇してきた。どうもこちらの話を聞く様子がなかったので、ため息をついて俺と紫で一回全員気絶させてやった。紫は至るところにスキマを開いて弾幕を張り、俺は龍に変化してその図体を活かして一気に天狗たちを吹き飛ばした。

どいつもこいつもまだ若いらしく、天魔の足下にも及ばない実力だった。

気絶した天狗が起きたのを見て全員正座させて話を聞かなかったことに説教をしてから事情を聞くと、どうも安住の地を求めて移り住んできたらしい。

そこで俺たちと協力関係にある強い天狗がいる山があると教えてやると、是非頭として仰ぎたいと言ってきた。そこなら平穏に暮らせると思ったそうだ。

なんだか天魔にとっては触れ合いではなく、いきなり頭扱いという試練になってしまいそうな気がするが仕方がないだろう。簡単に山と俺たちの家について注意をしてから、紫にスキマを開いてもらって次々と天狗たちを送り出した。

天狗たちに事情を説明するように言ってあるから問題は起きないだろう。





「お帰りー、ほら出来たよ!」


後始末をしてから日も暮れかかるころに諏訪大社に戻ると、神具を完成させた諏訪子がそれを手に持ち両手を上げて迎えてくれた。

またしてもその子供っぽい仕草に紫と顔を見合わせて苦笑してしまう。


「良かったな、大切にしてくれよ」


「もちろん、大切にさせてもらうよ」


嬉しそうな顔をした諏訪子に満足し、いつの間にかやってきた神奈子にも挨拶をして諏訪大社をあとにした。




家へ帰ると夕飯の時間に天魔がぞろぞろと他の天狗を引き連れてやってきた。なんやかんやで天魔も彼らの上にたつことに納得したらしいが、彼らの前では口調が出会った頃のようになっていた。まぁ、家族で過ごすときには元に戻るから良かったが。流石に天狗たち全員に夕飯を出してやることは出来ないので、彼らにはちょうど沢山あった彩音特製の胡瓜の漬物を一本ずつ進呈した。

みんな喜んでくれたようで、この時から我が家では十日に一回くらい天狗がやってきて胡瓜の漬物をぽりぽりとかじる光景が見られるようになった。



あぁ、平和だなぁ。



第十五話投稿でした。


残念ながら友達ではなくて部下が増えてしまった天魔さん。おそらく彼女は苦労人w


青の趣味ですがこの時期なら鉄を作っても大丈夫なはず。ちなみに製鉄の辺りはwiki調べたり昔読んだ歴史小説を漁ったりしました。


え?日本刀?いらんいらんw


製鉄に関してはあまり深く考えんで下さい。



あと、なぜか天狗が漬物で餌付けされてる…

なぜ漬物?…私もよくわからなry

ただ単に酒がなかっただけなのかもしれない…




ちょいと今日は疲れてるんで後書きは控えめに…

え?変わらない?気のせい気のせいw


感想待ってまーす。

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