十四話
新たな出会いの巻
山奥に住み始めて200年ほどたった。と言っても未だに当初と変わらぬ生活を繰り返しており、変わったことと言えば庭の野菜畑が広がったことか。もはや我が家の食卓にあがるほぼ全ての野菜が庭で取れたものになるほどだ。
相変わらず藍は綺麗だし彩音は素晴らしい働きっぷりだし尻尾はふさふさだし………
ただ、最近気になるのは山の頂きの方にでかい妖力を感じることだ。
我が家は森に囲まれた麓の方に位置しており、一応感じる妖力とはそれなりに離れている。
しかし、どのような形で災難が降りかかるか分からないので、今度偵察しに行こうか考えている。
「あら、難しい顔をしてどうしたの?」
部屋で一人物思いに耽っていると、いきなり背後に紫が現れた。最初は毎回突然現れるものだからびっくりしたものだが、慣れとは恐ろしいもので、今や例え入浴中に紫が現れても取り乱すことはないだろう。ちなみに本当に入浴中に現れたことはある。俺が動揺していないと見るや、悔しそうな顔をして居間に消えていったが。
「いやな、最近山の上の方から妖力を感じるから、偵察に行くべきか行かざるべきか悩んでいたんだよ」
「あぁ、そのことね。どうやら最近新しい妖怪が山に居着いたらしいわよ。確か天狗だったかしらね、鳥人みたいなものよ。ただし、馬鹿にならない妖力だけど」
「天狗か、いつふもとに降りてきて俺たちと遭遇するかも分からないな。
紫、明日の朝にその天狗とやらに会いに行こうと思うんだが一緒に来ないか?」
「ええ、いいわよ。私も気になってたし。ところで青は天狗に会ってどうするつもりなのかしら?」
「無闇矢鱈に襲いかかってくるようなやつなら退治する。話す余地があるならこちらに手出ししないように交渉する、もしくは友好関係が結べれば尚いい」
おそらくは後者になるだろうと思っている。強い力をもつ奴になるほど賢い場合が多いからだ。単純に長生きしているからと言う理由もあるだろうが、俺然り藍然り紫然りといった具合に。
そしてそういう力の強い妖怪と友好関係を結べると後々助かることが多い。
それに敵を作るよりも味方に取り込む方が利口だ。
「分かったわ、無用な手出しは控えないとね。
じゃあ今日はここに泊めさせて貰うわね」
「あぁ、構わないぞ」
そのまま部屋を出ていく紫。大方藍と彩音に挨拶をしに行ったのだろう。
そう思っているとしばらくして藍がやって来た。
「明日は山に行くらしいな」
「あぁ」
「強い妖怪もいるらしいな」
「あぁ」
「下手をすれば戦闘になるかもしれないそうだな」
「あぁ」
「そうか、なら私も連れていってもらうぞ」
「あぁ…って、待て!なぜそうなる?」
「いいじゃないか。自分の身くらい自分で守れる。私もいた方がいいかもしれないだろ?」
「そうかもしれないが………
分かった、頼むから怪我のないようにな」
どうも二百年前のあの出来事があってからは、藍に対して心配性になってしまった。自分でも自覚しているのだが、こればっかしはしょうがない。
「ふふっ、心配してくれているのか?」
「当たり前だ」
「そんなにむくれるな。私だってお前のことが心配なのだからな」
潤んだ瞳でこちらを見つめる藍。その愛らしさといったら筆舌に尽くしがたい。思わず抱き締めると藍も抱き返してきた。
そのまま二人で布団に潜り込み………
翌朝顔を真っ赤にした紫に『私がいる時くらい控えてくれないかしら』と文句を言われた。
ちなみに彩音の部屋には遮音結界が張ってあるが、紫は張り忘れたらしい。
半分は紫のせいなので苦情は却下された。
朝食を終えた俺たちは紫のスキマを使って頂上付近へ一気に移動した。
留守は彩音に任せてある。彩音も付いていきたいと渋ったが、留守の間に何か家で起きたら困るので残ってもらった。散々説得してようやく納得してくれたが、件の涙目+上目遣いを食らった時はやばかった。諏訪子が押し負けたのも頷ける、あれは危険だ。
隣でなにかを思い付いたような顔をした藍がいたが気にしていない。にやにやと何かを企んだ顔をした紫がいた気がするがそんなものは知らない。知らないったら知らないのだ。
スキマを通って外に出てみれば、辺りには強い妖気が漂っている。
警戒しながら三人で妖気の中心へと進んでいくと何やら雲行きが怪しくなってきた。強い風も吹き始める。
「お前たち何をしにこの山へやって来た。今すぐここから立ち去るがいい」
突然頭上から聞こえてきた声に上を向くと、そこには背中から白い翼を生やした十歳くらいの黒髪の少女が木の上に立っていた。
まず最初に殺すではなく立ち去れ、と言ってきたことから交渉の余地はあるだろう。
「最近この山に住み着いたという天狗とはお前のことか?」
「そうだ。この山には誰もいなかったからな。住みかにさせてもらった」
「そうだったのか。俺たちはもともとこの山の麓に住んでいたんだが、今日は新しくやって来た天狗とやらと話し合いがしたくてやって来たんだ」
「先客がいたのか、麓だったので気づかなかった…とにかく失礼しました。話し合いなら受けます」
そう言うと天狗の少女は木の上から飛び降りて目の前に着地した。
「天狗の天魔と言います。所以あってこの地に移り住んできました」
「饕餮の青だ。こちらは九尾の藍にスキマ妖怪の紫。ところで口調が変わったがどうしたんだ?」
「あぁそれはですね、各地を放浪していた時に今の口調ですと見た目も相まってなめられることが多く、しょっちゅう他の妖怪に喧嘩を売られていたので戦いの際にはああなるんですよ。
ところで今さっき饕餮に九尾と言いましたか?スキマ妖怪は聞いたことがないですが、饕餮に九尾と言ったら大陸の大妖だった気がするのですが…」
「あぁ、君の思っている通りの饕餮と九尾だ。もっとも俺は微妙に違うけど。訳あってこっちに移り住んでね、もう200年くらいたつかな。ちなみに紫も半端じゃないほど強いぞ」
「はぁ、とんでもない集団ですね。不用意に攻撃をしなくて本当によかったです」
「そうね、攻撃してきたらボコボコにしてやるつもりだったし」
紫の言葉に顔引きつらせる天魔。
「…あ、あははは。ところで話し合いとは?」
「あぁ、簡単な話さ。ふもとにある俺たちの家とその周囲に被害を出さないこと、あとは出来れば友好関係を結べたらと思ってね。そうすればこちらからも手出しはしない」
「えぇ、分かりました。私も大妖怪の住み処に攻撃するなんて命を捨てるようなことをするつもりはさらさらないですし」
「ちなみに今は神様が留守番してるわ」
「…なんですかその最強種の巣窟は。私みたいな若輩者が近づける場所ではないですよ」
驚きを通り越して呆れの表情を作る天魔。
…まぁ、俺もとんでもない人外魔境に住んでいる自覚はある。
「そういえば天魔はいったいいくつなんだ?」
「まだ五十歳です」
「五十!?五十でその妖力とは末恐ろしいな」
「えぇ、種としてかなり優秀なようね」
しかし五十とはまだまだ若いな…見た目も十歳くらいだしこれは…
「なぁ、藍」
「言わなくても分かるぞ、私も賛成だ」
「?なんの話ですか?」
「よし、天魔よ!今日から君は我が家の次女だ!」
「えっ!?えええっ!?」
「はぁ、なにを通じあっているのかと思ったら…」
驚き慌てふためく天魔に呆れ顔の紫。
そんな驚くことないだろう。
「何を言っているのだ紫、こんないたいけな少女を山に一人で放り出すわけにはいかないだろう。私たちが責任を持って育てるさ」
「えっ、いや、私の意見は…」
「ほぅ、俺たちの娘になるのが嫌か。何か気にくわないところでもあったか?」
「い、いえっ、そんなことは決して!」
「なら決まりだな。なに、四六時中家にいなくてもいい。ただ飯の時間にだけはしっかりと来ればいいんだ。家族で食事をするのが一番大事だからな」
そう、家族の団欒である食事だけは譲ることが出来ない!家族揃って食べることにこそ意味があるのだ!
まぁ、他にも理由はある。
まだまだ天魔は若い。大妖怪級に襲われたらひとたまりもないだろう。
せっかく強力になるであろう妖怪と誼を通じることが出来たのに、むざむざ死なせてしまうのは好ましくない。こうして身内にした方が色々と援護しやすいし、後の関係もより強固になる。見た感じ理性的だから、身内にしても大丈夫だろう。
まぁ心情的な部分が大きいのは否定しないがな。
「諦めなさい。もうこれはどうにもならないわ」
「は、はぁ、分かりました。不束者ですがこれからよろしくお願いします」
「あぁ、歓迎するぞ」
こうして予期せぬ形で、俺たちにまた新たな家族が誕生した。
家に帰って新しい家族だと彩音に報告すると、天魔を抱っこしてなでなでしていた。
恥ずかしさから天魔も顔を真っ赤にしていたが、嫌がって暴れることもなく受け入れていた。問題なく馴染めたようで一安心だ。
さて今日の夕飯はなんだろうか、楽しみだ。
第十四話投稿でした。
なんかところどころ甘いがスルーで。
今回はテンプレ二次キャラとして有名な天魔さんの登場でした。
ってことで分かる人は分かったと思いますが、今青たちが住んでるのは妖怪の山です。
天魔さんって二次だとじいさんだったり姉御だったりよ○じょだったりしますが、うちは最初はよ○じょですが成長します。
残念だったな、ロ○コンどもめ!
…すんません。
そして娘にするという暴挙。ちゃんと理由はあるんですがね。ちなみに藍と青の間に子供が出来なかったというのも大きな理由の一つです。
彼らに実の子供は出来るのだろうか…
藍かわいいよ藍。
なんだか若干イメージの崩れてきた二人。
普段はクールな二人ですが、家族が絡むとちょっと駄目な感じになります。
駄目なときでも表情はクールですけど…
明日明後日で受験終わればスーパー創作タイムだぜ!
宿泊先からの投稿でした。
感想待ってまーす。