十二話
諏訪大社編終了の巻
「藍!紫!どうしてここに?!それに藍のその様子はいったい…」
「すまない青、計画は失敗だ…」
「なに!?」
「説明したいとこだが、少し横にならせてくれると助かる…」
そう言って藍は顔をしかめる。目立った外傷はないがひどく消耗しているようだ。はやる気持ちを抑えて彼女を紫から受け取って横たえる。
「ありがとう。だいぶ楽になった」
「あの…お師匠様?この人たちってもしかして…?」
あぁそういえば気が動転していたせいで、説明するのをすっかり忘れていた。
紫は諏訪子たちに注意を払い続けているが、ある程度場の空気で察しているらしく、険悪な空気を振り撒くようなことはしていない。藍も同じだろう。
「あぁ、さっき話した計画を進めている仲間の妖怪っていうのはこの二人だ。こちらが藍、もう一人が八雲紫だ」
「はじめまして」
「そうでしたか。私はここの神社の巫女をやっています、東風谷彩音と申します」
「私はここの神様の洩矢諏訪子だよ。って言ってもさっき負けちゃったんだけどね」
「はじめまして、いきなり押し掛けちゃってごめんなさいね。青、この人私たちの計画については説明したんでしょ?」
「あぁ、根拠も含めて全部説明した。二人とも納得してくれたよ」
「そう、なら説明する手間は省けるわね。藍が弱っているから私が事情の説明をすればいいんでしょうけど、私も事の最後に駆けつけた形だから詳しくは知らないのよ。
藍、説明してもらっても大丈夫かしら?」
気遣わしげに藍を見る紫。
「大丈夫だ。そんなに長い話でもない。
あれは青が出掛けてから半年くらいたった頃だろうか、殷の紂王が屋敷にやってきたんだ?」
「なんだと!?」
なぜ王がわざわざ!?
「どうも私の評判を聞いたらしくてな。姿を見せなかったのが噂を助長して、私は絶世の美女となっていたらしい。紂王も興味を持っていたそうだ。
そこへ来てどこから仕入れた情報かはわからないが、お前が長い間留守にしていることを知った紂王は今が好機と屋敷まで来て、妃になれと要求してきたんだ」
いや、実際に藍は絶世の美女だと思うが。
しかし、色々と裏目に出たな。姿を見せていなかったり王の諜報能力を侮っていたのもだが、やはり一番不味かったのは出仕の命を今まで断っていたことか。
用があるなら俺だけ呼べばいいのに藍も呼ぼうとしていたから警戒して断ったんだが…
まさか直接来るとは。
紂王も即位前の評判は良かったんだがな。今では間男か。ちゃんと俺の妻であることは伝わっていただろうに…
「当然断ったんだが、仮にも王を門前払い出来なかったので一応式に指示を出してもてなしはした。紂王もその時はあまり強くは言わなかったんだが、その後何回も行列作ってやって来ては、一目会いたいなどと言い続けるんだ。私はうるさいだけですむんだが、その度に護衛が大勢動くから国の財政に影響してな。とうとう国内で反乱が起きた。
結局紂王は討たれて周という国が建ったが、問題は次だ。紂王に魅惑でもかけたのかと見当外れの疑惑で私の周りを嗅ぎ回っていた連中がいたんだが、とうとう私たちの正体に気がついてな。新王朝の威信づけとばかりに国の術者を総動員して攻めてきた。気づいた時には屋敷は包囲されていたから私は結界を張って籠城、一週間たってようやく飛ばしていた式が紫を見つけてくれたんだ」
「私もその時ははるか西にいたから、藍の式が来るまで気がつかなかったの。慌ててスキマで駆けつけたら藍は衰弱してるし、屋敷の周りは霊力の嵐だしで大変だったわ。しかも、よく見たら外の人間に天人が混じっていたのよ」
「天人!?」
「仙人みたいなものよ。そうじゃなきゃここまで藍を追い込めないわ。大方妖怪が地上で力を持つのを嫌がったんでしょうけど」
珍しく紫の顔にありありと怒りが浮かぶ。
「とにかくそんな感じだったから急いでスキマを貴方のところに繋いで避難して来たのよ」
そんなことが…
俺は藍の一大事だったっていうのに駆けつけもせず…
「青、そんな顔をするな。無事に会えたんだからいいじゃないか。それに、私も潜入しているお前には連絡をしないほうが良いと判断して連絡はしなかったんだ。気に病むことはない」
「そうか…そうだな。
ともかく今はこうやって藍にもう一度会えたのが嬉しいよ。無事でよかった…」
そう言って俺は藍を抱き締める。千年連れ添った相手がいなくなるなんて考えただけでもぞっとする。
藍も俺の気持ちが分かったのか優しく抱き返してくれた。
「あー、あのさ、私たちもいるんだけど」
「無駄よ、彼らと会ってから千年の付き合いだけど彼らに羞恥心はないらしいわ。話しかけても普通に受け答えするわよ、あの体勢のままで。全くいつも人前でいちゃいちゃしちゃって…羨ましいわね」
「そ、そうなのか。ちなみに最後何か言った?」
「…何でもないわ。それより貴方たちは私たちの計画を聞いたんでしょ。今更だけどいいの?このままいけば妖怪が消滅するかもしれないのに」
「うーん、私はあんまり気にしてないよ。むしろ青には彩音を助けてもらった恩があるしね」
「私もお師匠さまには何度も命を助けられた恩がありますから。お師匠さまが消えてしまうなんて私には受け入れられません」
「(神様はともかく、この巫女は青に惚れてないでしょうね?そういえば藍って嫉妬するのかしら?)…そう、ならいいのよ」
「ところで二人共これからどうするんだい?前いた場所には戻れないんだろ?」
「…そうだな、どうするか」
「(本当に抱き合ったままだよ…)じゃあここに住むかい?説明すれば神奈子も納得してくれるさ」
「いや、もし妖怪が神社に居着いているのがばれたら不味いだろ。俺はともかく、藍は完全に妖気を隠せないからな」
「あ、そっか。うーん、どうしたもんかねぇ」
「まぁ以前のように根なし草でも構わないんだがな…藍を休ませる場所も欲しいし」
「…一週間ぶっ続けで妖力を使ったからな。回復には少し時間がかかりそうだ」
「なら私がなんとかしましょう」
「出来るのか?」
「適当な大きさの家をかっさらって、どこかに改めて建てればいいだけよ」
「相変わらずとんでもない能力だな。しかもかっさらうって…」
「さすがに人が住んでるのは控えるわ。新築完成間際のやつを選んでくるだけよ」
「空き家でない辺りがひどいねー」
「ま、とにかく私に任せておきなさい。これはお詫びも兼ねてるのよ。あなたたちを巻き込んだのは私なんだから…」
「同意の上だ。それ以上考えるのは俺たちに失礼だぞ?」
「…ありがと。とにかく、これであなたたちは恐らく人間側の記録に残ってしまったわ。青はいいけど藍は正体が九尾だとばれているから、当初の計画のようにはいかないわね。地位を得て信頼を得てたとしても過去の誤解と言うのは根強いもの、迫害されかねないわ。
他に引き継ぐ適任者も見つからないし、これからは私が主体になってもう二つの計画の方を進めるからあなたたちはゆっくりと休んでちょうだい」
そう言うと紫はスキマを開いて姿を消してしまった。なにやら俺たちに対して責任感を感じていたようだが全く不要だ。俺たちは俺たちの判断で計画に参加したんだから。
それにしても家の方は任せてしまってよかったのだろうか………
「じゃあ二人は紫が帰ってくるまでうちで休んでいきなよ。短い間くらいだったらばれることもないでしょ」
「そうか、なら悪いが世話になる」
「ありがとう、諏訪子」
「いいってことさ。ところで二人に聞きたいんだが…」
「「ん、なんだ?」」
「いつまで抱き合ってんのさ…」
そんなの満足するまでに決まっているじゃないか、何を言ってるんだ諏訪子は。
そう言うと諏訪子は呆れた顔で、彩音は真っ赤な顔でため息をついていた。
………何か間違っていたか?
第十二話投稿でした。
今回はちょいと甘いです。青と藍がバカップルになってる。
だが!この程度に耐えられないようではあなたは次話を読むことはできない!
…ちょっと興奮してしまいました。
いつまでも甘甘が続くわけではないですが、今までとこれからの区切りとして次話はかなり甘いのを書いてます。恐らくあれが私の限界値。みなさんインシュリンの準備を。私は必要でしたから…
これからは私のやりたかったほのぼのした感じにしばらくシフトします。
テーマは『家族』ですかね。……なんか恥ずかしい。
イベントはありますが基本ほのぼのしていくんでよろしくお願いします。
で、今さら今話についてですが、今回は色々とイベント消化。
実はこれをやりたくて青には諏訪大社に来てもらいました。
とりあえずは妲己イベントと紫の天人との因縁ですね。
因縁については私はよく知らないので勝手に作っちゃいました。なんか原作で説明があったような気がするけど分からない…
かなーり先のフラグ、でも立てっぱなしかも…
そして妲己についてはちょいと史実とは違います。青がいるんで紂王とそういう仲にはなりませんが、紂王は大名行列の如く何回も行幸をするから散財する駄目王の烙印をもらって反乱される。そして周が建国、藍は誤解という形で正体がばれて攻撃されます。勝てば官軍なんで史書には藍が紂王を誘惑したことになって書いてあります。ちなみに青たちがいたのは蘇州で、名前を毎回変えてちょうど妲己と名乗っていたという後付け設定。
ちなみに太公望が仙人だったりはしません。山崎先生に影響されてる気はしますが…
後書きに長々と失礼しました。これからもよろしくお願いします。
感想待ってまーす。