我輩は愚者である
我輩は愚者である。名前は……どうでもいいか。名前なんてただの記号に過ぎないし、たとえどんな名前であろうも愚者が愚者であることに変わりはない。
愚者は険しき山を登る。現実に道を踏み締めて。
始まりの世界には全てがある。それでも愚者はそこを離れて山へと登る。なぜならば、そこに未知なる山があるから。
馬鹿みたい?
されど足るを知らないからの愚者である。
愚者とはそんな馬鹿のことである。
そんな愚者には当然ながら審判が待つ。
だけど愚者にはそれが解らない。
だって愚者だから。
やがて太陽は沈み月が昇る。空を満天の星が浮かぶ。導きは失われ謎に惑わされ、それでも希望だけは数多。太陽は無くとも進むことのできないわけじゃない。暗いだけだ。
やがて塔が見えてくる。誰の築いたか知れない高き塔。そこに棲む者は何者なのだろう。悪魔であろうか。
くわばらくわばら。君子危うきに近寄らずだ。それが節制というものだろう。
……などと言いつつも中を覘く。
好奇心は猫をも殺すと解っていてもそれをせずにはいられない。
だって愚者だし。
どうやら死神がいるらしい。
進む先には吊るされた男の哀れな骸が。
やはり節制は正義だったか。
今さら運命が恨めしい。
それを恨むよりも己をこそ憾むべしと他人は言うかも知れないけど。
物陰に潜みつつ先へ進む。
恐るべき者は恐ろしいのだ。身を隠し進むのは当然だろう。愚者といえどもそれくらいは判る。死だけは絶対に避けるもの。そんな直観は賢愚を越える真理なのだから。
まあ、それも結局は運命次第。それの後押しがなければ死を乗り越えることはできないのだが。
力さえあればこんな卑屈なことをすることもないのに……。
もしくは全てを一気に突っ切る戦車の如きものがあればきっとこんなことに煩わされることもなかったろうに。
まあ、それも運命の女神を恋人とすれば全ては解決なんだろうけどね。彼女の加護こそが究極のチート。そんなメタなことを思うのはやはり私が愚者だからだろうか。
何やら厳かな場所に辿り着く。
ここには何者がいたのだろう。
教皇サマか皇帝サマか?
女帝や女教皇とか?
最近は女性の権威も高まっているせいかこんなことを考えてしまう。
とはいえ女性の方が物事に寛容だし、案外その方が巧くいくのかも知れない。但し感情的にならなければ。女性は男性以上に理知的で感情的という、振れ幅の大きな存在だしなぁ……。
……おいおい、マジか?
まさかこんなものまであろうとは。
今度の場所はなんとも怪しい。
ずらりと並んだ本の棚。そして謎の器具の並ぶ棚。
多分何かの研究室。だけど置いてある物が怪しい。何なんだここは?
灯りを点し書籍を片っ端から読み漁る。謎が謎のままでは気持ち悪い。
留まり続けるリスクは解っているものの、それでも知識欲には勝てない。愚者とは知識を求めるもの。無いものを見れば欲しくなる。たとえそれが知識であったとしても。それが人の性というものではないだろうか。
窓の外から日が射し込む。
どうやら夜が明けていたらしい。
結果判ったことは、どうやらここはかつて存在した王国の王族が隠棲するために建てた塔らしい。だからこそあのような国や宗教を思わせる部屋の数々が存在したというわけだ。あの気味の悪い吊るされた男のいた部屋も牢獄か処刑室だったのだろう。
ん? この部屋?
この部屋はなんというか、隠棲した王族サマの研究室だ。
実はこの隠者サマ、魔術師に憧れていたらしい。この部屋にある数々の書物と怪しい品々も要するにそのためのものだったようで。
生活に心配がない者が暇を持て余せば、お馬鹿な趣味に没頭したくなるということか? これだからお偉いサマというやつは……。
などと言いつつ、私も彼の影響を受けたようである。
というわけで、それを試すべく塔の外へ出て絶壁へ。
「⊙+∞∩α≒Ω ↓↘→↗⇧!」
いざ、大空へ!
その後の彼がどうなったかは想像にお委せします。(笑)




