3.魔女の確定申告
3月、それは魔女にとって戦争の季節だ。
魔女たちの敵は巨大で、しかもわずかなミスも許されない。
その敵とは……そう、所得税及び消費税の確定申告である。
「えっ?魔女って確定申告が必要なの?ちゃんと税金払ってるの?」
そう思ったあなたは魔女に関する認識をアップデートする必要がある。
今や魔女は国家公認資格。
当然国民として納税の義務がある。
魔女業で得た報酬には、所得税、消費税、それから事業税が課税される、あっ、住民税も払わないといけない。
ちなみに「昔は良かった」が口癖のベテラン魔女ドアラさんの話によれば、昔は、報酬をこっそり現金で受け取ったり、隠し口座に振り込ませたりしてたから、税金なんて払わんくてよかったらしい。
いや、それただの脱税だから!!
今は犯罪収益移転防止法に基づく本人確認が徹底されているから現金で報酬を受け取ったり、隠し口座を作ったりなんてできない。
マイナンバー制度もある。
しかも、わたしは法人ともお取引があるからインボイス登録もしている。
だからちゃんと確定申告してきちんと税を納めておかないと、すぐに税務調査が入って、追徴税や重加算税が課されてしまう。しかもそれを無視すると刑事罰を受けることもあるとか…。
2年くらい前だろうか、「忙しいし、事務作業が苦手」というだけの理由でずっと確定申告をしていなかったアナーキーな魔女が起訴され、有罪判決を受けたというニュースを聞いた時は、わたしも震えた。
あれは未来のわたしかもしれない。
だから、わたしは面倒でも真面目に確定申告をするのだ。
必ずしなければならないのだ!!…と、毎年、気合を入れてから重い腰を上げることにしている。
◇
面倒くさい確定申告書類の作成。わたしは、有料の経理ソフトを使っている。
実は税理士さんにお願いすれば楽ができるらしいと聞いて、魔女仲間から魔女専門の税理士さんを紹介してもらったことがある。
話を聞くと、どうやら請求書とか領収書とかを送れば、勝手に確定申告をやっておいてくれるらしい。
それは楽だ!ぜひお願いしたい!と思ったけど、問題が二つあった。
一つは報酬。30万円くらいかかるらしい。ちょっと高いな…。
あと、その税理士さんが、いかにも先生といった感じの威厳のある人だったのだ。こんな人に怒られるのは怖い…。
しかもどうしようか悩んで自分で占ったら、わたしがその先生に怒られてる未来が見えてしまった。
なんで怒られてたのかわからないけど、心当たりはある。きっとわたしがだらしなさ過ぎるからだ。
だから、税理士さんに頼む踏ん切りがつかず、今年も自分で確定申告をすることにした。
それでも最近の経理ソフトは優秀だ。
指示に従って入力していくだけで自動的に確定申告書ができあがる。
しかもわからないことがあったら、AIに相談できる機能も付いている。なんと心強い。
じゃあ、さっそく今年も始めようか。
まずい!序盤でつまずいた。
パソコン画面に『エラー933 現金額が足りないため確定申告を進められません』というメッセージが出てる。
なに~!現金が足りないだと~!いつの間に蓄えが底を尽いたのだ??
こういう時はAIに相談だ!
AIによると、どうやらこれは貸借対照表上計上していた現金が、現金での支払額を下回ってしまったからだとか。どういうこっちゃ?
よくわからんけど、わたしの個人としてのお財布から、事業としてのお財布に現金を貸し付けてあげれば解決するらしい…。
……しかし、わたし、自分にお金貸して大丈夫かな?ちゃんと返ってくるかな?
知っている中で、一番お金を貸しちゃいけない人のような気がする…。
まあいいや。進めよう。
次は売上を入力しないといけない。
ここはそんなに難しくない。
わたしの売上のほとんどは法人向け。
受験生向け合格占いを委託してくれてる受験予備校とか、占い記事とかを書いてる出版社とか、下請けで試薬を作らせてもらってる製薬会社とか…こういうとこは、ちゃんと請求書通り払ってくれる。
わずかな個人向けは、現金で受け取って領収書を出してる。
だからこれらの証憑どおり入力していけばいい。
問題は収入から控除する経費だ。
税金は収入から経費を控除した所得を基準に課税される。経費をどの程度計上するかで、税額が大きく変わってくる。
とりあえず、経費になるかならないかに構わず領収書はたくさん集めている。だけど、このうちどれだけ経費に入れて大丈夫なんだろう?
AIに聞いたら、事業収入のために必要となった費用は全部経費として計上していいって言ってたけど、本当だろうか?
まず、交通費。これは問題ないだろう。移動しないと仕事にならないし。
それから材料費・消耗品費。タロットカードとか魔女薬の材料とか。このあたりも買わなきゃ仕事にならないから問題ない。全額計上だ。
それに本や雑誌。魔女としての新しいインプットに必要だから文書費に計上できるはずだ。ついでに魔女もののラノベ購入費も入れておこう。ここから学べることも多いし。
家賃・光熱費・ネット代。わたしは自宅で仕事してる。つまり自宅兼事務所だ。
この場合はどうしたら…?
AIに聞いたら事務所の家賃、光熱費、ネット代も経費にできるって言ってる。
よし、全額計上してやろう!だって毎日家で働いてるし。
問題は食費と交際費だ…。
飲み会費用とかデリバリー費用も、領収書があれば交際費とか会議費にできるって聞いたことある。AIも仕事に必要ならいいって言ってる。
正直、飲み会は魔女協会の付き合いで仕方なく行ってるし、デリバリーも本当は頼みたくないのに、仕事が忙しいから仕方なく夜食とかに……うん、ちゃんと食べないと仕事できないし、事業に必要だ!経費でいいだろう!
経費はこれで終わり!所得も確定した。あとは、社会保険料控除とか医療費控除とかを入力して、予定納税額を入力して…。
よしっ!これで電子申告のボタンを押して…っと。なんとか今年も確定申告書を終えられたぜ~!
なんだ、別に税理士いなくても全然大丈夫じゃん!
グハハハハッ!!
……ここまでは去年の確定申告の時の話だ。
この後、がっつり税務調査が入って、経費の多くが否認されて大幅に修正申告することになった。追徴税も払った。
税務署の人に、「こんな杜撰に経費入れてる人初めて見ました。驚きました。さすが魔女ですね」なんて、嫌味を言われてしまった。
AIのうそつき~。
しかも、「魔女薬の材料として買った毒ヘビとか、ヤモリとか、マンドラゴラも、自分で召し上がった分は経費になりませんよ!!ちゃんと分けてくださいね!」とまで言われてしまった。
おいっ、それはさすがに言い過ぎじゃないか!いくらわたしでもそんなもの食べるわけないし……。
これに懲りて今年からは税理士さんにお願いすることにした。
そしたら、税理士さんにも、去年までの杜撰な確定申告についてがっつり怒られた。
はからずも、わたしの去年の占いが当たってしまった…。これが見えてたのか…。




