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1.魔女を目指している君たちへ

わたしが国家公認魔女になってから今年でちょうど5年目。

ちなみに人間を始めてからは28年目。

どっちもなんとか辞めずに続けて来れたのは感無量だ。


国家公認魔女になろうと決めたのは、わたしがまだ愛知県の端の方にある公立高校に通い始めて3年目の春。そのころの、わたしはコミュ障をこじらせていた。


小さいころから友達を作るのが苦手。高校でもいじめられてはなかったけど、やっぱり友達はいなくて、教室で誰ともしゃべらないなんていつものこと。たまにしゃべると疲れ果ててしまう。


体育祭も、文化祭も、修学旅行の時でさえも、ずっと一人でオカルト本を読んでいた思い出しかない。


別に一人が嫌いなわけじゃない。だから友達いなくても全然平気だった。


だけどある日、先生から面談で「社会に出てからも学校と同じだぞ。先生や友達とうまくやれない奴は社会に出てもやっていけないからな」と言われて衝撃を受けた。


てっきり高校を卒業するまで耐え抜けば、そこからはクラスも部活もないから、ほとんど他人と関わらなくてもいいと勘違いしていた。


でも、言われてみれば確かにそうだ!


会社に勤めても、バイトでも、人と関わらないと仕事ができない。最低8時間は周囲の人とコミュニケーションを取らないといけない。


しかも今は周りに同年代の人しかいないけど、働き始めたら老若男女・有象無象の怪異ともうまくやっていかないといけない。


毎日愛想笑いしながら話を合わせたり、行きたくもない飲み会にお金を払って行ったりとか……。

そんなこと、このわたしにできるのかな…?


まずい!コミュ障でもできる仕事はないの?人と関わらない自由な仕事ってないの?

焦って必死で探して見つけたのが、当時、国家資格となり、正式に職業として認められた『国家公認魔女』だった。


魔女になれば会社勤めしなくてもいい。

一人で自由に生きて他人と関わらなくてもいい!

これこそわたしの天職だ!絶対に国家公認魔女になってやる!!!


拳を握りしめてそう決意したわたしは若かった…。


その後、猛勉強の甲斐あって大学在学中に国家公認魔女試験に合格した。

卒業と同時に国家公認魔女事務所を開業した。

「なんとか就職活動しないで済んだぜ!!ウシシッ」と有頂天になっていたのもこの頃だ。


だけど、大きな誤算があった。肝心の魔女の仕事が全然自由じゃなかったのだ!!


魔女と言われて想像する仕事のナンバーワンは、何と言っても呪術だろう。古来より魔女といえば、他人を呪う存在と広く認知されているはずだ。


呪術として使える魔術がないわけじゃない。

昔、国家資格になる前の魔女は、政治家から依頼を受けて政敵を呪ったりしたこともあったと聞いたことがある。

だけど、今の世の中でそれをやると傷害罪(刑法204条)、場合によっては殺人罪(刑法(199条)になってしまう。即座に刑務所行きだ。


同じく伝統的な魔女のお仕事、秘薬の製造は…というと、これは薬機法の規制を受ける。薬を製造販売するためには許可を得なければいけないのだ。製薬会社でもない個人がそんな許可を得ることは無理ゲー過ぎる。


親からは「箒で飛んで宅配便をすればいいじゃない」とアニメみたいなことを言われた。たしかに魔女の嗜みとして箒で飛ぶことはできる。


だけど、空飛ぶ箒は航空法に基づく航空機扱いらしい。だから箒で飛ぶためには航空機の操縦免許が必要だ。操縦免許を取れるくらいなら普通に飛行機のパイロットになってるって!!


しかも、魔女は今や国家資格。だから少しでも法令違反をすると資格は取消しになってしまう。国家資格になってから、これまで陰でこっそりやっていたグレーな仕事ができなくなった、昔はよかったと、ぼやく先輩方も少なくない。


こうなってくると国家公認魔女としてできる仕事は限られてくる。


国家公認魔女協会のアンケートによると、公認魔女の資格を持っている人の7割以上は普通に会社に勤めたり、公務員をしているらしい。

だけどわたしにその選択肢はない。だってそういうのが嫌だから魔女になったんだし。


残りの3割以下の魔女たちは自営業者。収入の道は様々だけど、ほとんどは占いを収入の柱にしている。


かくいうわたしも、受験の合格占いや恋愛占いから、雑誌に載せる占い記事の執筆まで幅広く手掛けて何とか糊口をしのいでいる。


もちろん、魔女にも稼いでいるやり手はいる。


有名どころでは魔女系インフルエンサーのパピコだろう。

現代風にアレンジしたセクシーな魔女の服装でYoutubeやインスタで露出し、ファンの占いをしては「あなたは地獄に堕ちる」など歯に衣を着せず、ズバズバ言って人気を博している。


ちょっと真似してみようと思ったこともある。だけど、あんまり占いが外れると資格が取り消しになってしまう。噂によると、パピコは「本当に地獄に堕ちたかどうかわかんないじゃん。だったら外れないって」と嘯いて平気な顔をしているらしいけど、わたしなんかはそんなことを言う胆力はない。


だから、占いでも「どこかの大学に合格している様子が見える」とか、「その片思いの人かはわからないけど素敵な彼氏と歩いている未来が見える」とか、見えたことを正直に伝えるようにしたら、口コミで「玉虫色でよくわからないことを言われた」「あれくらいなら俺でも言える」と書き込まれてしまう始末。とかく現代で魔女は生きにくい…。



「あの、突然すみません。私、ユキさんの高校の同級生の田辺里美さんの姉の友達の後輩で、城山亜里沙と言います」


土曜日の朝、ベッドでまどろむ至福の時間は突然の電話での遠慮のない声に邪魔された。

普段ならムカつく話。だけど、わたしは跳ね起きて、「ううん。大丈夫よ」と寝起きの声を感じさせないよう取り繕う。


これはおそらく仕事の依頼だ。そういえば、高校の同級生から「ユキに仕事頼みたい人がいたから連絡先を教えといたよ」ってメッセが入っていたことを思い出す。


勝手に連絡先を漏らされるのって普通なら嫌なんだろうけど、わたしにとってはちょっと嬉しい。新しい仕事をゲットするチャンスだからだ。


高校の時は、あんなに人づきあいを避けていたくせに、手のひらを返すように過去のツテでの仕事の紹介に期待するのは、魔女だけじゃなく自営業者あるあるだと思う。


だが、電話の先の亜里沙ちゃんの言葉は期待外れだった。

いきなり「実は呪って欲しい人がいるんです」なんて言いやがったのだ。


彼女の話では、近所のママ友の夫と不倫していたことが、そのママ友にバレたらしい。相手の男は逃げてしまい、そのママ友は逆上して亜里沙ちゃんに慰謝料請求してきたのだとか。


「弁護士に相談しても、どうにもできないっていうし、もう魔女であるユキさんに頼むしかなくて…」


いや、弁護士にもどうにもできないことを、魔女がどうにかできるなんてことあり得ないよ。それができたら弁護士並みに儲かってるっつーの…。


土曜日の午前の貴重な時間が溶けていくのを横目に必死でなだめたけど、「何とかしてください。藁にもすがる思いなんです」なんて言ってあきらめてくれない。でも、それってわたしが藁ってこと?さすがに失礼過ぎない?


結局、断り切れずに、わたしがそのサレ妻さんと話してみることになった。わたしには、こういう面倒な依頼をうまく断れるだけのコミュ力がないから仕方ない。



翌日の日曜日、さっそくそのサレ妻さんの家を訪問することになった。


アポイントの電話で向こうから断ってくれれば、亜里沙ちゃんには「会ってくれないからどうにもできないよ。ごめんね」とか言ってごまかせたのに…。おとなしそうな声のサレ妻さんからは「ご足労をかけますがよろしくお願いします」と二つ返事で了解されてしまった。

しかも家は八王子だって?貴重な週末が潰れてしまう…。



ただ、サレ妻さんがおとなしそうだったのは電話だけだった。玄関から一歩足を踏み入れるなり、いきなり「泥棒猫!」と激しく罵られた。

いや、泥棒猫はわたしじゃなくて亜里沙ちゃんなんだけど…と言いかけるのをぐっとこらえる。


なおも逆上するサレ妻さんが「魔女なんて言って、私達を呪うつもりなんでしょ!やってみなさいよ!すぐに警察に訴えてやるから!!」なんて煽ってくるので、それをなだめながら、「呪うなんてしませんから。なんとか穏便に解決できませんか」なんて言って必死で頭を下げるしかできない。魔女じゃなくて謝罪代行業みたい。


それでもサレ妻さんの怒りは収まらない。ついには「私も魔女を雇ってあの女を呪ってやる!!」とまで言い出した。


仕方ない。切り札を出すか…。わたしは鞄から占いに使うタロットカードを取り出し、裏返しにしてテーブルに並べた。


「何を始めるつもりなのよ…」と戸惑うサレ妻さんに、「まあまあ、占いでもどうでしょう?一枚選んでください」と伝えると、素直に一枚指さしてくれた。その一枚を裏返すと…。


「あ~魔女のカードですね。人を呪わば穴二つと言いますから」


「どういうこと?」


「人を呪うと、自分も呪われるってことです。このまま恨みを持ち続けると、地獄に堕ちる…かもしれませんよ…」


ここで日和って、パピコみたいに「地獄に堕ちる」と断言できなかったのは情けないけど、サレ妻さんには刺さったようだ。

たちまち表情が凍り付き、黙り込んでしまった…。



何日かした後に、亜里沙ちゃんから電話があった。サレ妻さんから慰謝料請求は取り下げると連絡があったそうだ。


「本当にありがとうございます。一生恩に着ます」と感謝され、電話を切られ、しばらくしてから頭を抱えた。


今回も報酬を請求できなかった…。


わたしは地元の知り合いが怖い。

向こうから言ってくれなきゃ「報酬払って」なんて言い出せない…。

まさかコミュ障がこんなことまで影響するなんて…。


長々と書いてきたけど、わたしが魔女志望者のみんなに伝えたいことは一つだ。


魔女をやるにも最低限のコミュ力は必要。まして、人と関わらなくていいからなんて安易に考えて魔女になるのは考え直したほうがいいってこと!!!


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