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目覚めは突然の刺激とともに

作者: 三葉 秋
掲載日:2026/01/08

どんよりとした空を眺め、今にも雨が降り出しそうな雲行きに、近藤啓太は足取り重く家を出た。

時刻は7時40分。

6月も中旬となれば梅雨時期真っ只中。雨でないだけ今日はマシだと思いながら、重い瞼のせいで表情筋皆無の啓太は、駅までの道のりをとぼとぼと歩いていた。

啓太の通勤時間は約40分ほど。都心に向かって伸びる路線を経由して会社まで通っている。

この時間帯の電車は言わずもがな満員電車で、啓太はこの満員電車に乗ることが毎朝憂鬱で仕方がなかった。

「ふぁー……ねむ、、、…仕事だる」

愚痴をこぼしながら眠い目をこすり、ホームへ続く階段を上がっていく啓太からは、自然とあくびが出る。

朝が弱い啓太の日常はいつもこんな感じである。

特にこの季節は天気も相まって、一段と目も開かないし、気分も乗らない状態だ。



今日も今日とて、おしくら饅頭夜露死苦状態の満員電車がやってきた。

啓太が乗る頃にはすでに車両の7割ほどが埋まっていて、座ることは愚か、つり革を掴むことすらも危ういときがある。

なんかいつもより、少しばかし混んでいる気がするのは、気のせいだろうか。

啓太はそそくさと車内へ入り、通路の奥の方まで進み自分の陣地を確保する。それに加え、痴漢に間違われないための対応策。つり革を確保するのも忘れない。

つり革さえ掴んでいれば、軽く寝ることだって可能だ。

そんなこと、なんの自慢にもならないがな……。

最寄り駅を発車し、各駅に停車する度に乗客たちが次々と乗ってくる。

今日は珍しく朝っぱらからイベントでもあるのかと疑うくらい、混んでいる。

あれよあれよという間に、乗車時間の半分も過ぎた頃には啓太が始めに確保した陣地から流しに流され、先程までいた場所とは逆のフィールドへと押しやられていた。

そんな時、啓太は隣接する人たちの隙間からちらっと見えた人物に、はっと息を飲んだ。

ーーーなんて、綺麗な人だろう。

目に飛び込んできたサラリーマンと思しき美青年は、ダークスーツにきっちりネクタイを締めた出で立ちで座席に座り、本を読んでいた。本に向かう視線はキリッとしていて、この満員電車と言う雑多な空間の中なのに、どこか洗練されたような気さえする。

啓太は感覚的に、自分とは正反対の人だなと感じた。

啓太といえば、朝はいつでも眠気を抑えられず、まぶたは半目状態。どんなに車内が混んでいたとしても電車が発車すれば、数分後にはこっくりと舟を漕ぐなんてのが常である。おまけに、せっかく家で締めてきたネクタイは息苦しさに耐え切れず、今も緩める始末。もちろん、電車内で本など読んだこともなかった。

っていうか、この人初めて見るかも……。

ここ数年は大抵この辺りの車両に乗っている。さすがに全てでは無いが、特徴のある乗客の顔は覚えていたりする。日によってはこの電車の前後で乗ることもあるが、こんなに綺麗な人が乗ってたら忘れないはずだ。

「ふぁ…あぁ……」

そんな考え事をしていたら、またもや眠くなってきてしまった。

ゆっくりと体に伝わる電車の揺れや振動。心地いいなと瞼を閉じていると、遠くの方で何か聞こえてくる。

『まもなく~~』

はっと目を開けて周りを見渡すと、みんなが降りる準備を始めるところだった。

すでに電車は駅のホームに差し掛かっている。

電車が到着すると同時に、次々とドアの方へ向かっていく乗客たち。前後左右から我先にと押し相撲のように前に進もうとしている中で、啓太に災難が降りかかる。

「あっ!!!! 」

ーーーそう思った時、既に遅し。

降りる乗客と肩が当たった。啓太はその反動でバランスを崩してしまった。

瞬間的な出来事のはずなのに、自分の動きすらスローモーションのように感じられる。

後方へと倒れていく体はもう止めることなどできない。

こんな中でも割と頭は冷静で、啓太はここであることに気付く。

俺の倒れ込む先って……。

「あ……っ……」

このままだとあの端正なサラリーマン男の膝の上に、尻もちダイブになってしまう!

と思ったその瞬間。

俺の下半身ーーー後ろに位置する桃の方であるが、にビリッとした刺激が走った。

えっ!? ……えーー!!!

いま、………何が起きたんだ?

倒れ込んだと思っていたはずの啓太は、何事も無かったように平然と立っている。

恐る恐る後ろを振り返ると、端正な美青年がこちらを凝視し、眼鏡の縁をくいっとあげながら告げた。

「いい音しますね」

ニコッと笑う彼の笑みは、イケメンと称するに値する代物ではあるが、どこか寒々とした印象だ。

「あ…あの……、すみませんでした!」

頭を下げる啓太だが、美青年からはなんの反応もない。

たまたま彼の周りの人間はこの駅で降りており、誰もいなかったことが救いだったが、今起こったことを見られたかと思うと、恥ずかしくてたまらなくなる。

とりあえず、あと1駅だ。

今日初めて会った人だから、これからもう会うことなどきっと無いだろう。そう鷹をくくり、次の駅までの3分間、啓太は耐え抜いた。



やっと駅に着いた。

と思った矢先、目の前の美青年も立ち上がった。……同じ駅、かよ。

そうとなれば啓太の出す答えは一択しかないのだ。早足でドアへと向かうしかない。

啓太は後ろを振り返らずに、電車を降りた。

そのまま一心不乱に歩き続け、ホームの中程に差し掛かかった辺りで、肩を叩かれた。

トントン。

振り返ると、先程のサラリーマン美青年に笑顔でウインクをされた。

「はい」

そして、差し出されたものは名刺……ではなく、ショップカード!?だろうか。

啓太は何が何だか分からない状態であったが、差し出されたものを無下にもできず、「ありがとうございます」と答えて手渡されたカードを確認する。

カードにはアルファベットで、Masqueradeマスカレードと書かれていた。

「いつでも来ていいですよ。あなたなら大歓迎です。それでは……」

一礼して、美青年はその場を去っていった。

美青年が立ち去ってからしばらく、その場から動けないでいた啓太だが、出勤しなければということを思い出す。

足早に会社へと歩きながら、ポケットにしまっていた先程のショップカードを取り出し、おもむろに裏面を確認した。

それを確認するやいなや、啓太の顔はりんごのように真っ赤に染まっていった。


カードにはこう書かれていたのである。

ーーーあなたの願望何でも応えます!どんなプレイも満足すること間違いなし!/源氏名:かえで

そして、ご丁寧に手書きで追記が書き添えられている。

ーーーもう目覚めちゃったんじゃない!?いつでもまってるよ♡


重いため息とともに、先程叩かれたおしり部分にそっと触れてみた。

痛みはさほど残っていないものの、叩かれた感触だけはまだ残っている気がする。

なんだ……、これ………。

眠気よりも先に、何かに目覚めてしまった啓太なのであった。


どんな内容にしようか考えたのですが、結果調教モノになるという……w

続きは相当エロスな作品になりそうだなあっと思う次第です!


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