放課後、クラスの中心美少女の「契約彼氏」になった俺。期限付きのはずが、本気で好きになってしまった件
その日、俺の放課後は、本来ならコンビニのおにぎりとスマホゲームで終わるはずだった。
でも現実は、全然ちがう方向にぶっ飛んでいった。
「ねえ、ちょっといい?」
帰りのホームルームが終わったあと。
教室を出ようとした瞬間、クラスの中心にいる女子、月島さんに呼び止められた。
黒髪のロング、成績優秀、運動もできて、よく笑う。
いわゆる完璧美少女ってやつだ。
そんな彼女が、なぜか俺の前に立っている。
「えっと……俺?」
「他に誰がいるのよ、佐伯くん」
月島さんは、ちょっと困ったような、でも笑いをこらえてるみたいな顔でこっちを見ていた。
「放課後、時間ある?」
「あるけど……バイトもないし、予定もないし」
「うん、知ってる」
「知ってるの?」
「席近いし。放課後いつもゲームの話してるの、聞こえてくるから」
あっさり言われて、ちょっとだけ胸が痛んだ。
俺の放課後、丸見えじゃん。
「で、お願いがあるんだけど」
お願い。
クラスの中心の人間が、教室の背景に溶け込んでる俺に。
嫌な予感しかしない。
「な、なんだ?」
「今日からしばらくのあいだ、放課後に私と、デートしてほしいの」
「……は?」
脳みそのどこかが、完全にフリーズした。
「いや、それ、どんなドッキリ?」
「ドッキリじゃないよ。本気。本気だからこそ、佐伯くんに頼んでるの」
「本気で頼むなら、俺じゃないほうがよくない?」
「そこが大事なの」
月島さんは、教室の隅をちらっと見た。
廊下側のドアのそばで、サッカー部のイケメンエース、神谷が友達と話している。
イケメン、陽キャ、スポーツ万能。
俺とは生きてる世界がちがうやつだ。
「あいつ、放課後に告白してくる予定なの」
「え、予定って」
「さっき廊下で友達と話してたの聞いちゃって。『今日こそいく』って。あの感じ、絶対そう」
ああ、なるほど。
だいたい流れが読めた。
「で、彼氏がいるフリ、したいわけ?」
「そう」
月島さんは、はっきりとうなずいた。
「でも、なんで俺?」
「まず、神谷くんの友達ではないこと。で、噂になっても、変に燃えなさそうな人」
「言い方」
「褒めてるんだよ? あと……」
彼女は一瞬言葉を濁して、俺から視線を外した。
「あと?」
「佐伯くんなら、変なことしなさそうだから」
「変なことってなんだ」
「聞かせないでよ、そういうの」
逆に恥ずかしそうな顔をされて、俺のほうが赤くなる。
「とにかく。放課後、昇降口で待ってて。時間は……そうだな、チャイム鳴ってから10分後」
「いや、ちょっと待て。俺、まだ了承してないんだけど」
「断るの?」
月島さんが、じっとこっちを見つめてくる。
黒目が大きくて、まっすぐで、正面から見られると居心地が悪い。
「いいよ、もちろん。タダとは言わないから」
「タダ……?」
「佐伯くん、テスト前ひどい点数とってたでしょ。私、勉強教える。そのかわり、放課後デートに付き合って」
ぐさりと心に刺さる。
この間の数学、クラス最下位近くだったの、バレてるのか。
「……いつまで?」
「そうだなあ。とりあえず1週間」
「1週間、毎日デート?」
「うん。ダメ?」
ダメってほどじゃないけど。
俺は、こっそりため息をついた。
「……分かった。やるよ」
「ありがとう。じゃあ契約成立だね」
彼女はそう言って、右手の小指を立てた。
「ゆびきりしよ」
「高校生のすることか、それ」
「いいから、ほら」
俺もつられて小指を立てる。
触れたところが、思ったよりあたたかった。
こうして、俺の放課後デート生活は、強制的にはじまった。
◇ ◇ ◇
チャイムから10分後。
昇降口で待っていると、月島さんが走ってきた。
「ごめん、待った?」
「5分くらい」
「それ、待ったって言うんだよ。まあ、いいや」
彼女は上履きを脱いで、スニーカーに履き替えながら俺を見る。
「じゃ、行こっか、彼氏くん」
「その呼び方やめてくれ」
「なんで。彼氏役でしょ?」
「役だけどさ」
昇降口を出ると、もう夕方の空になっていた。
西日が校舎をオレンジに染めている。
「どこ行くんだ?」
「今日は駅前のショッピングモール」
「いきなりリアルデートっぽいな」
「リアルデートだから。神谷くんの目があるかもしれないし」
「そこまで徹底するんだな」
「当たり前でしょ。中途半端にしたら、逆に面倒になるもん」
そう言いながら、月島さんは俺の横を歩く。
歩幅を合わせるみたいに、少しだけ足をゆっくり動かしていた。
「そういえばさ」
「ん?」
「彼氏役なら、名前、呼び捨てで呼んでよ」
「……え?」
「いつまでも『月島さん』って変でしょ。下の名前でいいから」
下の名前。
たしか、出席番号のときに聞いたな。
「……紗良」
「はい?」
「つ、月島紗良。だろ?」
「名字いらないってば。『紗良』でいいの。私も『佐伯くん』やめるから」
彼女は小さく咳払いをして、俺の顔を見た。
「えっと……悠人」
不意打ちみたいに下の名前を呼ばれて、心臓が変な音を立てた。
「な、なに」
「うん、その顔。いい感じ」
「いい感じって、何がだよ」
「リアルさ。照れてる男子高校生って感じで」
「元から男子高校生だよ」
そんな会話をしながら、駅前のモールに着いた。
◇ ◇ ◇
「デートって、何すればいいんだ?」
モールに入ってすぐ、俺は素直な疑問を投げた。
「人に聞くなよ、そこ」
「経験ないから」
「……正直でよろしい」
紗良は笑ってから、指を折って数えはじめた。
「まずは服屋さん見て、それから雑貨屋さん見て、最後にカフェかな」
「王道コースだな」
「嫌?」
「いや、別に」
本当に嫌とか思ってない。
ただ、慣れてなさすぎて、落ち着かないだけだ。
服屋に入ると、紗良は当たり前みたいに俺のほうを振り向いた。
「悠人、普段どんな服着てるの?」
「無地のTシャツとジーンズ」
「知ってた」
「言わせた意味なかったな」
「でも、それはそれで嫌いじゃないよ。シンプルなの、似合ってる」
さらっと言われて、また心臓がうるさくなる。
この人、たぶん自覚なく爆弾投げてくるタイプだ。
「今度さ、一緒に服選んでもいい?」
「俺の?」
「うん。テスト勉強のときの時給代わり」
「時給って言い方やめて」
「じゃあ、ごほうび。どう?」
「……まあ、そのくらいなら」
「やった」
笑うと、ほんとに周りの空気が明るくなる。
通りすがりの男子が何人か振り返っていた。
その視線の中に、見覚えのある横顔が混ざる。
「……あ」
「どうしたの?」
「いや、今の……神谷じゃないか?」
少し離れた通路で、神谷が友達と話しながら歩いていた。
こっちには気づいていない。
「チャンスだね」
紗良の口元が、いたずらっぽくゆがむ。
「チャンス?」
「本物感、見せつけちゃお」
「いや、見せつけるって言い方」
「ほら、悠人。こっち向いて」
そう言って、紗良は俺の腕に、自分の腕をからめてきた。
柔らかい感触と、シャンプーの匂い。
頭が真っ白になる。
「ちょ、ちょっと待て」
「彼氏役でしょ。これくらい普通」
普通のハードルが高すぎる。
「顔、こっち。自然に笑って」
「笑えって言われて笑えるやついるか」
「いる。がんばって」
がんばるものなのか、笑顔って。
でも、必死に口角を上げる。
その瞬間、前から神谷たちが近づいてきた。
「……あれ、月島?」
気づかれた。
神谷が目を丸くして、俺たちを見ている。
視線は、しっかりと組まれた腕に向かっていた。
「やっほー、神谷くん」
紗良は、全然動じずに手を振る。
「なにしてんの?」
「みてのとおり、デートだけど」
「デート?」
「そう。紹介しとくね。私の彼氏の、佐伯悠人」
名前をフルネームで出すな。
でも、ここで否定したら全てが台無しだ。
「よ、よろしく」
ぎこちなく頭を下げると、神谷の友達がざわついた。
「佐伯って、あの……」
「テスト最下位の?」
聞こえてる。全部聞こえてるぞ。
神谷は一瞬だけ何か言いかけて、けれど口を閉じた。
「……そっか。そうなんだ」
その表情は、意外なくらいあっさりしていた。
悔しそうでも、怒ってるでもなくて、ただ少し驚いているような。
「また学校でな」
「うん。またね」
神谷たちが去っていく。
紗良は俺の腕をつかんだまま、小さく息を吐いた。
「ふう……ミッションコンプリート」
「……お前、なかなかの策士だな」
「人聞き悪い。ちゃんとこれからもデートは付き合ってよ?」
「え、今日だけじゃないのかよ」
「最初に言ったでしょ。1週間って」
たしかに言われた。
「でも、もう目的達成したんだろ?」
「それはそれ。これはこれ」
「いや、意味わかんない」
紗良は少しだけ目をそらして、ぽつりと言った。
「……ゆっくり、慣れたいんだもん。悠人と一緒にいるの」
「え?」
「ほら、カフェ行こ。甘いの飲みたい」
誤魔化された感じはしたけれど、それ以上は聞けなかった。
◇ ◇ ◇
それからの1週間。
放課後になるたび、俺たちはどこかへ出かけた。
駅前のゲームセンター。
本屋。
公園。
行き先は日替わりで、同じ場所はあえて選ばなかった。
「今日はどこ行く?」
「悠人の行きたいとこでいいよ」
「じゃあ、図書館」
「即答だね」
「テスト前だし」
「真面目じゃん。見直した」
そんなやり取りをくり返すうちに、紗良と話すのが、だんだん自然になっていった。
どうでもいいテレビ番組の話。
好きなコンビニスイーツの話。
小学生のとき、運動会で転んだ話。
気づけば、くだらないことで笑い合えるようになっていた。
勉強も、本当に見てくれた。
「ここは公式覚えるより、パターンで覚えたほうが楽だよ」
「パターン?」
「うん。この形見たら『あ、さっきと同じやつ』って思うの」
「雑な説明だな」
「でも、分かりやすいでしょ?」
「……たしかに」
そのおかげで、苦手だった数学が、少しだけ分かるようになった。
問題が解けるたび、紗良は自分のことみたいに喜んでくれた。
「やったじゃん、悠人!」
「そんな騒ぐことか」
「あるよ。こういう小さい成功を、ちゃんと喜べる人のほうが伸びるの」
「どこ情報だよ」
「私情報」
自信満々に言われて、なんとなく信じたくなる。
◇ ◇ ◇
そして、約束の1週間目の金曜日。
期末テストまで、あと少し。
放課後の教室で、俺はいつものようにカバンを持って立ち上がった。
「悠人」
名前を呼ばれて振り向くと、紗良がいつもより真面目な顔で立っていた。
「今日は、ちょっと遠回りしない?」
「遠回り?」
「うん。少し歩くけど、いいとこあるから」
彼女に連れられて歩いた先は、駅とは反対側の、小高い丘の上の公園だった。
ベンチがいくつかと、小さな遊具。
そして、街が一望できる見晴らし台。
「知らなかった。こんなとこ」
「小さい頃、よく来てたんだ」
沈みかけの夕日が、街をオレンジ色に染めていく。
風が少し冷たくて、でも気持ちよかった。
「さてと」
紗良は、見晴らし台の柵にもたれながら、俺を見た。
「そろそろ、契約の話をしないとね」
「契約?」
「ほら、最初にゆびきりしたじゃん。『1週間デートに付き合う』って」
「ああ……あれか」
正直、忘れかけていた。
「一応、今日で、その1週間が終わり」
「うん」
「じゃあ、ここで契約終了ってことで」
そう言われて、胸の奥が、少しだけ冷たくなった。
「……そうだな。最初の目的も果たしたしな」
「そうそう。神谷くんも、そのあと何も言ってこなかったし」
「よかったな」
「うん。悠人のおかげ」
素直に礼を言われても、なんだか落ち着かない。
これで終わり。
それが普通だ。
元々、俺と紗良の距離なんて、そのくらいのはずだった。
なのに。
なのに、口が勝手に動いた。
「……じゃあさ」
「ん?」
「契約じゃないやつも、あってもいいんじゃないか」
自分でも、何を言ってるのか分からない。
「契約じゃないやつ?」
「その……放課後、また一緒にどっか行ったりとかさ。テスト勉強とか。別に、契約じゃなくても」
言いながら、顔が熱くなる。
「えっと……つまり?」
「だから……えーと……」
言葉が喉につかえて出てこない。
見かねたように、紗良が小さく笑った。
「悠人、そういうとこ、ほんと不器用」
「放っとけ」
「でも、分かったよ」
紗良は、夕日を背にしながら、まっすぐこっちを向いた。
「じゃあ、私からはっきり言うね」
心臓が、うるさいくらい鳴りはじめる。
「最初から『彼氏役』に悠人を選んだ理由」
「それは、その、条件が合ってたからじゃ……」
「半分はね」
紗良は、少し照れたように笑った。
「もう半分は、最初から悠人のこと、ちょっと気になってたからだよ」
「……は?」
「静かで、でもちゃんと周り見てて、友達といるときは普通に笑ってて。テスト前にノート貸してあげてた後ろの席の子のこと、気づいてた?」
「え、あれ、お前だったの?」
「そう。名前呼ばないでノート渡してたら、バレないかなって思ってた」
「意味わからん配慮するなよ」
「うるさい」
紗良は、少しだけ視線を落として、続けた。
「神谷くんに告白されるの、正直こわかったの。嫌いじゃないけど、好きってわけでもなくて。それなのに『いいよ』って言っちゃいそうで」
「断れないタイプだもんな、お前」
「そうなの。だから、その前に、ちゃんと自分の気持ちを決めたかった」
その言葉に、息を飲む。
「1週間、一緒にいてみて、それでも悠人のこと何とも思わなかったら、『彼氏役ありがと』って言って終わりにするつもりだった」
「……シビアだな」
「でもね」
紗良は、夕日の中で、ふっと表情をやわらげる。
「ダメだった。全然『何とも思わない』なんて無理だった」
その目は、冗談じゃない光を宿していた。
「一緒にバカな話して、ご飯食べて、勉強して。テストの点、1問合ってるだけで本気で喜んで。そういう悠人のこと、ちゃんと好きになっちゃった」
ああ、もう無理だ。
これ以上、平静を装うのは無理だ。
「……からかってる?」
「からかってないし。私、そんな趣味ない」
「でも、お前、クラスの中心だし……神谷とかじゃなくて、なんで俺」
「それ、さっきから何回目?」
紗良は小さくため息をついて、一歩近づいた。
距離が、近い。
「それでも不安なら、今から、ちゃんと本気で告白するから」
「え」
「ちゃんと好きって言う。その代わり、逃げないで聞いて」
夕焼けの光が、彼女の横顔を赤く染めている。
風の音と、遠くの車の音。
そして、自分の心臓の音。
「悠人」
「……なに」
「好き。彼氏役じゃなくて、本物の彼氏になってほしい」
すごくシンプルで、ストレートな言葉だった。
それが、冗談も演技も混ざってないことは、表情を見れば分かる。
俺なんかが、こんな言葉をもらっていいのか。
そんな迷いもあったけど。
1週間の記憶が、一気によみがえる。
一緒に笑ったこと。
一緒に歩いたこと。
一緒に勉強したこと。
その全部が、俺にとって、もうけっこう大事になってしまっている。
「……ずるいよな」
「え?」
「そうやって先に全部言われたら、断れないだろ」
「それは……ごめん?」
「謝るな」
俺は一度深呼吸して、彼女の目を見た。
「あのさ」
「うん」
「俺も、お前のこと、好きになってたと思う」
「『思う』ってなに」
「自信ないんだよ、こういうの」
「自信持ってよ」
「じゃあ……好きだ。紗良のこと」
言った瞬間、顔から火が出そうになった。
でも、紗良はぱっと花が咲いたみたいに笑って、
「うん。合格」
なんて、わけのわからないことを言った。
「合格ってなんだよ」
「告白テスト。ちゃんと合格点だったよ」
「そんなもん受けた覚えない」
「もう受かっちゃったから。はい、これで契約終了。ここから本編スタート」
「本編?」
「そう。本物の放課後デート、最初の日」
そう言って、紗良はそっと俺の手を取った。
さっきまでとは違う、指と指を絡める握り方。
「これからも付き合ってください、悠人」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
自分でも驚くくらい、自然にその言葉が出てきた。
丘の上から見える街は、さっきと何も変わっていないのに。
俺たちの放課後だけは、たぶんもう、昨日までとは全然ちがう。
そう思うと、なんだかちょっと、テストよりも、先の毎日が楽しみになっていた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
契約から始まるなんちゃって彼氏が、本物になるまでの放課後をイメージして書きました。
少しでも
・ニヤッとした
・キュンとした
・続きの放課後も覗いてみたい
と思っていただけたなら、ぜひ
•評価
•ブックマーク
•感想
のどれかひとつだけでも、ぽちっとしてもらえるとすごくうれしいです。
なろうの評価やブックマークは、作者にとって
「ここまで読んだよ」
「この作品、ちゃんと届いてるよ」
という合図みたいなものなので、励みになりますし、続きや別視点を書いてみようかな、というやる気にも直結します。
感想欄で
このシーンが好き
このキャラのこういうところがよかった
など、一言でも教えてもらえたら、ガッツポーズしながら読みます。
もし需要があれば
・2人のその後のテスト本番編
・正式カップルになってからの放課後デート編
なんかも書いてみたいと思っています。
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