第八日 刺殺
ーーーあらすじーーー
昨日、父が連行されたことを伝えられたオスカー。今日は人民保安省から..
ーーー人物紹介ーーー
・オスカー・ガルフィリノ(27)
20代で第77人民正常化部隊の隊長となった。軍に入ったのは、家庭の貧困化によるものであった。
「第77人民正常化部隊の諸君よ。今日は非番ではあるが、郵便調査局の人員が不足している。そのため、全員今日は郵便調査局に行き十数人程度、人員の補充を命令する。」
...官僚主義的な国家はこのような無茶を押し付けるようなことが多い。理不尽としか言えない..まだ朝だからよかったが、昼にこれを送られたら今頃倒れていたところだろうな。隊員全員の電報のことを伝えたのち、トラックに乗って郵便調査局へと向かった。
郵便調査局は主に郵便物の中に違法薬物や爆弾などがあるか確認するのが仕事..と名目には言われているが、実際には手紙の郵便に反体制的なことがかかれていないかを監視することも任務だ。そして、もう一つ重要な任務がある。それは密告だ。市民からに密告をもとに人民保安省が調査し、反体制派の芽を摘むのが、この国がなんとか動いている要因だ。
その郵便検査局につくと、そこには外まで続く行列があった。彼らがもし家族や職場の同僚にその姿を見られたらどう言い訳するのだろうか..まぁ、君じゃないというだけで済むか。部隊が入ると、局員と思われる人間が挨拶をして我々を入れてくれた。
..やはり、この兵舎よりも無機質な空間には慣れない。「処理済み」だったり「処理中」や「保留」などのスタンプをつけている市民からの密告書がデスクに山積みになっているところや、まるで工場の機械のように定期的に鳴るスタンプの音、すべてがなんとも良い気分になれない。何よりもよくなかったのが説明中、一番近くにいた局員が堅そうなパンを食べながら
「..今日で20人だ、割と早いな..」
とつぶやいていたことであった。
今回はオスカーは尋問ではなく受付であった。あまりオスカーにとってはやったことがなかったが、局員に説明してもらったためなんとかなった。
そうして、オスカーの憂鬱な仕事が始まった。
「次!」
「どうも。」
「今回は何があったのですか?」
「あぁ、私の妻がこんなことを言っててね..」
そういってその市民がレコーダーを流すと、そこからは日常の会話があった。
「..はぁ、今日は本当に疲れたわ..」
と女性の声がする。おそらく彼の妻なのだろう。
「何があったんだ?」
と今度は男性の声が。多分彼なんだろう。
「なんか..もうこの国から出ない?」
「出るって..どう出るんだ?厳しい審査がないと無理だろう?」
「いや、わからないけど..なんか手段があると思うわ。」
ここでボイスレコーダ―が終わった。
「ほら、こんな感じで私の妻がこの素晴らしい国から出国しようとしているのですよ。なので、これを密告しに来ました。」
..はっきり言って、こいつは妻に嫌気がさしてそれから逃げたいだけの人間だ。まぁ、かといって拒否するわけにもいかないため、オスカーは密告書とボイスレコーダーが入った封筒を受け取り、それをイスの隣にある箱に置いた。満タンになりそうになったら局員がその箱をとり、中身を精査するような形だ。
「では受け取りましたのでお帰りください。」
「はい、わかりました。」
そういって彼はそそくさと帰っていった。しかし、彼のようにちゃんとしていそうな証拠を持ってくるほうが少数派だ。大多数は、うわさや証拠もなしに来る。例えば..
「次!」
「こんにちは。ちょっと密告したいことがありまして..」
どうやら幼い女の子が来たようだ。
「なにがあったの?」
「あ、あの..自分の母がこの国の悪口を言っていて..」
「あ~..あのね、一定の年齢にならないとこれないから、今日は帰ってね..」
「わ、わかった..」
そう言って椅子から降りて入り口に向かった..時、後ろの肌が露出しているところからあざを見つけた。多分、虐待されているからここにきたのだろうか..
そう言ってうわさや裏道を通った時に聞いたことを適当にあしらったり、本当の密告をしっかりと確認しているうちに昼が来た。郵便調査局は基本的に昼休憩として昼に30分休業している。
昼飯は兵舎から持ってきたが..じゃがいものペーストとごはんが詰まっている。じゃがいもをおかずにご飯を食うのだ。あまりにも質素すぎる..
隊員と話をしたりご飯を食べたりすると、もう昼休憩が終わってしまった。午前は受付だったのに対して、午後は書類を検査する仕事となる。
しかし、全員知らない人間だなとオスカーが適当に検査をしていると、ある一人の人間の名前が目に浮き上がってきた。シャルル・オルガナイサ。オスカーの高校の同級生で、高校生のころ3か月くらい付き合っていた。それがまさか書類上で密告された人間として再会するとは、お互い考えていなかったはずだ。しかも密告理由にいろんな事実がありすぎて、擁護することができなかった。
今、オスカーには3つのスタンプがある。「検査済み」か「検査保留」か「拒否」であった。拒否と保留なんてほとんど使われない。オスカーは真剣に悩んでいた。
そんなとき、局の上の人間がデスクを見に来てしま押すかー
「おい、同志オスカー。何をやっているのかね?」
「い、いえ。書類の不備を検査していまして..」
「そんなことはどうでもいいだろう。いいからさっさと検査済みのスタンプを押せ。その黄色いのと赤いのは捨てておけ。」
「しかし不備というのは大変問題にのちの
「スタンプを押せといっている!はやくそれを押したまえ。そうでなければ、その被密告者の名前にオスカーと書かれることになるぞ。はっはっはっ!」
「は、ははぁ...」
オスカーは数秒間、震えた手で、ついにスタンプを押した。何か、オスカーの、何かが、壊れた、ようだ。
数時間、笑顔を作れなかった。口角が下に固定されてしまったかのようであった。
密告は正義だ!