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第六日 心臓

ーーーあらすじーーー

昨日から配給が減らされてしまったオスカー、その後、闇市を発見し今週分の食料を獲得することに成功した。

ーーー人物紹介ーーー

・オスカー・ガルフィリノ(27)

20代で第77人民正常化部隊の隊長となった。軍に入ったのは、家庭の貧困化によるものであった。

 ...オスカーら第77人民正常化部隊は、逆に今度は北側の漁村へと向かっていた。今回の任務には他の2部隊の人民正常化部隊も参加している。今回の指令はこうだ。


 「北の漁村において、反逆者らが身分を隠して生活しており、他の反逆者も現地住民によって匿っているという情報を獲得した。人民保安省の二重スパイにより、この情報は確かであることが確認された。よって、この小さく哀れなこの村を地図から消去することを最高幹部会議は決定した。そのため、現地住民は全員銃殺し、住居という住居をすべて焼き払え。二重スパイはすでに首都に避難しているため、安心して処刑してくれ。トラックにはガソリンや火炎瓶、ライター、手りゅう弾などを用意しておけ。」


 ...とのことだ。これが数年に一度ならよかったが、これが数週間に一回はある。それが起こるたびに、自分の家族の村が焼き払われ、家族が皆殺しになることをオスカーは恐れていた。今回は幸い違っていたが..


 「あ~クソ、どれくらい反逆者がいるんだ..」


 ニューラルが嘆く。


 「お前に今の共和国の状態を教えてやろうか?」


 オスカーが暇つぶしに、小型の地図をカバンから出す。


 「あぁ、教えてくれ。やることがない。」


 「この地図を見ろ。これがこの共和国の地図だ。」


 「..地図にしてはカラフルだな。」


 「はっ、"指導者"の指導の結果がこれさ。俺は優秀だと思うよ。」


 「はぁ..」


 「まず、この北の青いところ。ここが「王立国民評議会」だ。元々アルファリア王国の軍人とかがいるな。俺らはそいつが支配している北西に近いところに行く。んで、この赤いところが「アルファリア共産主義者同盟」、名前の通り共産主義者によって支配されている。南部の農村とか、そこらへんを支配しているな。あと、この水色のとこが「南東民主連合」名前の通り南東部を支配している民主派だな。最後。このピンクが「労働者=革命的農民連盟」だ。無政府主義者、サンディカリスト、民主社会主義者。いろんな社会主義者の坩堝がその連盟だ。「王立国民評議会」と「南東民主連合」が、「アルファリア共産主義者同盟」と「労働者=革命的農民連盟」がそれぞれ同盟を組んでいる感じだ。まぁ、できればお互い戦っていてほしかったのだけどな..ざっとこんな感じだ。わかったか?」


 オスカーが地図を片付ける。


 「まさに北西、北東、南東、南西、四方位からこの共和国を包囲しているような感じなのか..」


 「あぁ、友愛とはなんだったのだろうな。」


 「あ~..まぁ、相手が強かったってことだ。しょうがない。」


 「はっ、まだそんなことを言うのか」


 オスカーが馬鹿にするように言うと


 「じゃぁお前が"指導者"になって全部つぶしてみろよ?」


 とニューラルが反論する。


 「はぁ、もういいわ、もうすぐつくし..」


 オスカーがあきれてため息をつき十数秒後、トラック4台は漁村へとついた。物を運送する人間もいれば、家族で散歩をしている人間もいた。海からくる匂いと波の音が、村に漁村という色を塗りたくった。数時間後、我々が大量の水で何もかもを消すが..すぐにオスカーら隊長は住民に、事前に存在することを人民保安省が確認した教会に、指定した時間に集合するよう要請した。


 その間、他の部隊の隊長は教会の地面にガソリンを撒くことをその部隊の隊員に命令した。教会ごと燃やし尽くすことで一瞬で終わらせる、とのことだ。おぞましい..それも、独断でもなく人民保安省による命令だったのがまた恐ろしい..


 「おい、ニューラル?」


 「なんだ、オスカー?」


 「お前が火をつけろ。これがライターだ。手りゅう弾はポケットの中にあるよな?」


 「あぁ、あるぞ。屋上からだな?」


 「その通りだ。」


 「わかったぞ。隊長のいう通りに。」


 「ははっ、勘違いされるからやめておくれ。」


 指定した時間となった。一部の部隊は隠れている住民がいないか、そして残った住居を略奪し放火するため、教会から出発した。教会にある数十しかないイスでほとんど足りるほど、人口は少なかった。シンナーのようなにおいが、どうも特徴的な液体が地面を覆っていることに疑問を抱いているものもいたが、


 「教会の掃除においてそのようなにおいの洗剤をしようしただけだ。」


 と彼らにとって最期の言い訳を聞かせた。意外にも、彼らはあまり最初から絶望はしていなかった。というより、そんなことをすること自体考えていなかったのだろう。あとは..ガソリンという概念自体したなかったのかもしれない。オスカー自身が教会のドアを外側から防ぎ、彼らの最後の救いをなくした。


 そして、悪魔の祭典が始まった。屋上からオスカーが命令した通りにニューラルが高々と満面の笑みでライターと手りゅう弾を手にあげ、それらを教会の中に投げ入れた。談笑の声は一気に悲惨、苦しみ、混乱の声となっていった。そこから屋根を滑って地面に落ち、見事に一回転して我々の部隊のところに避難したのち、まずは窓から手りゅう弾をそれぞれ教会に投げた。


 木造の教会から聞こえる悲鳴、嗚咽、絶望の声は我々の部隊以外の隊員にとって耳から吸う薬物に近かった。一斉に悪者の如く笑い、中には勝手に持ってきたアルコールを一杯飲んだのち教会に投げつけた者も、教会に向けて変顔をする人間もいた。昼にも拘わらずアルコールを1本飲んで銃を乱射しまくる人間もいた。我々に誤射しそうになったので誰かに注意されたのだが..


 教会、いや村全体が橙色に染まり、煙が遠くから見え、教会が崩壊しかけたころ。他の部隊が録音機を使って共和国国歌を歌い始めた。


 「優れた人民の元、アルファリアよ栄えよ!アルファリアよ!栄えよ!」


 下手な歌声に我々の部隊が笑わざるを得なかったころ、崩壊したところから火だるまになって奇声や悲鳴をあげる住民が数人地獄から脱出してきた。


 油断して逃がしかけてたころ、他の隊員全員がその住民に向けて銃を数発、数十発、数百発放ち始めた。中には奇声のような笑い声を上げながら撃つ人間もいた。第77人民正常化部隊の人間はアルコールを飲んでその一方試合を観戦をしているふりをして、撃たなかった。いや、撃ちたくもなかった。ニューラルを除いて。


 そして、教会が全焼し、中に入った住民全員が黒焦げとなったことが確認され、死体蹴りで頭に一発ずつそれぞれの隊員が打ち込んでいたころ、村を放火した別の人民正常化部隊が帰還してきた。どうやら隠れていた人間が7人ほどいたようで、全員殺されたようだ。そして、大量の略奪品を我々に見せびらかしてきた。ほかの部隊は欲しいほしいと、子供のようにはしゃいでいたが、我々はあまりほしくもなかった。


 特にオスカーは、自分が作った惨状..これがもし自分の故郷で起きれば..想像すればするほど自分の胸がギシギシと痛んでいった。子供のような姿に、ニューラルでさえ、良く思っていなかった。第77人民正常化部隊全員、いやニューラルを除いて全員は、今日の出来事を悪夢にしか思えなかった。


 トラックの中でオスカーは煙が昇る村を見て、村人を殺した張本人である自分すら、絶望していることに今更気が付いた。


 後日の新聞の朝刊には、「村が一夜に消滅!パルチザンの残虐性が明らかに!」という見出しが一面を飾った。そして、我々第77人民正常化部隊を含む全部隊は「パルチザンと戦い住民を保護した英雄」として讃えられたのであった。新聞を机の上でぐしゃりと丸め、オスカーはそれをゴミ箱に放り込んだ。記憶も、新聞も、あの村も、どちらも同じ灰色へと沈んだ。

無慈悲の鉄槌をもって、反逆者全員を処刑する!

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