第十五日 灰の国家
あぁ、哀れな我らに救いを..
「我々は今首都の近くにいるぞ!崩壊はもうすぐだ!自由なる人民に万歳!」
4つの反体制派組織はそれぞれ電撃的に侵攻し、経済崩壊の2日後には首都郊外にまで迫っていた。オスカーらはその反体制派組織に合流することにした。しかし、どうやって?
とりあえず、首都の廃墟と化したマンションの一室を拠点とした。前の住民の缶詰やじゃがいもなどがそのままにされており、いかに混沌としていたかがわかる。窓から外を見ると、燃えているままで放置されている車などがあった。それしかなかったのである。
いや、もう一個あった。燃え上がる車の近くにあった、かつてここを支配していた共和国の国旗が燃えていたのである。路肩を歩く人々は誰もそれを取ろうとはしなかった。
ある隊員が外を警戒して監視しているとき、見覚えのない国旗を持っている戦車と歩兵部隊が遠くからやってきた。まさか、反体制派組織が首都へとやってきたのだ。まるで戦勝記念パレードのように規律よく歩いているその姿に、監視していた隊員はすぐに銃を下げた。
「..合流するか?」
「..そのほうがいいかと。」
「..そうか、行こう。」
そう言ってオスカーがマンションから降りていくと、スピーカーのついた車からなにかが聞こえてきた。
「前政権、共和国に関与した人物はすぐに密告するように。この国に反逆者の住処はない!」
..ほとんど変わっていなかった。共和国の時代から。パルチザンが首都を握ったとしても、流れるのは密告の奨励であった。変わっていたのは、声の主と、敵の名前だけであった。
パルチザンの隊列が通り過ぎていくと、奥からは交戦、銃撃と命令の声がした。そっちの方向へと走っていくと、パルチザンと思われる一人がこっちに話しかけていた。制服も、どこの所属かすらわからなかった。
「おい、あのマンションの角のところに敵がいるぞ!あいつを狙え!」
数十m先のところを見ると、その人は昨日、パンを子供と奪い合っていたあの老人であった。衰弱したその手で、銃を乱射するすがたは、まさに滑稽とすら言えた。
隊員の一人がその老人に数発単発で角から無慈悲に撃つと、老人が倒れてうめき声をあげていた。パルチザンらの部隊がそのマンション一帯を確保しに向かっていった。
,,そして、オスカーら12人がその通りに残った。銃声と砲撃音、その砲撃が地面に落ちる音。それが一瞬にして止まった。音が、空気ごと消えていった。あのラジオも、命令も、銃声も――すべてが途絶え、風だけが、燃やし尽くされたこの残骸の街をゆっくりと通り抜けていった。
オスカーらはお互いお互いを見た。これからどうすればいいかを知りたかった。しかし、知るものは誰もいなかった。オスカーらは先ほどのパルチザンの行進の方向へと向かった。
..誰も勝つことができなかった。この戦いのせいで、正義も秩序も死んでしまった。それでも、この戦いは続く――これから数年続くだろう。なんのために?「王のため」に?「社会主義の理想と人民」のために?そんな名前だけの大義に従っていても、ただ、この空虚な街の前には「愚か」の一言で済む話だ。
オスカーらはこれから何をするのだ?自分たちの「正義」に基づいて最後の一人まで戦い続けるのか?それとも、名も知られぬ森で生活をするのか?それとも、今、この無限の虚無、絶望、悲壮感のあるこの街でそのまま人生を終えるのか?
...選択する気力も、意味も、いや、選択肢すらも。とうに失っていた。
この絶望の世界で後進は許されない。オスカーたちはこのあと、正体不明の敵と戦闘をするのか?それとも、そこらで横たわっているホームレスから一切れのパンを盗むのか?
どちらにせよ、オスカーらの命運は尽きた。神のオルガンは、この共和国においてはゴミ箱に捨てられたのである。では、そのオルガンの通りに踊っていた演者たちはどうなってしまうのか?




