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第一日 虐殺

「...よって、貴官を第77人民正常化部隊の隊長に任命する。我らのアラファリアに貢献するように。」


上官がそういうと、オスカーは前へ一歩進む。


「はい。このような大役を任せていただき、身の引き締まる思いです。精一杯努めさせていただきます...」


オスカーがその少し震えている手で任命状を掴み、一歩下がる。


「うむ。頑張り給え。アラファリア友愛共和国に万歳!」


上司がこめかみにピースをすると、同じくオスカーもこめかみにピースをする。この国での万歳や敬礼を表しているのだ。


「アラファリア友愛共和国に万歳!」


アラファリア友愛共和国。「祖国、友愛、自由、家族、勤労」という5つのスローガンを持つこの奇妙な国家は10年前、我らが”指導者”の手によって王政を打倒し、「人民友愛主義」に基づく共和制国家となった。

現状は王政時代よりは状況は良くなったが、いまだに農村における貧困状態は変わらないし、都会では経済成長の代わりに路上での生活を余儀なくされる労働者を抱えてしまった。一党独裁による官僚の腐敗状況はさらに深刻となり、”指導者”への報告書以外に、バラ色のところは存在しない。


そんな神によって呪われた国家でオスカー・ガルフィリノは人民防衛軍に志願...いや、実際は貧困が深刻化し、持ち前の身体能力で高給な人民防衛軍に行かざるを得なかっただけだが...ある意味スローガンの4つ目と5つ目は達成していると言えるだろう。


隊長に任命されてから3日後、オスカーが率いる第77人民正常化部隊は、南にある農村へとトラックに乗り向かっていた。反体制派組織がその農村にてアジトをつくり、近くにある武器工場にサボタージュを行おうとしていると通報が入った。すでにその情報は人民保安省によって確認されており、ほぼ確実とのことだ。


オスカーは、まだ名前すら部隊の半分しか覚えていないような現状に嘆きたかった。まぁ、文句なんて言えば明日は我が身だ。にしても、任命して翌日から業務開始は聞いたことない...


アジトのすぐ近くに近づいた。この無名の穴こそがアジトへの入り口とのことだ。穴にははしごがついており、それで降りるのだろう。


「...おい、フラッシュバンを持っているやつはいるか?」


オスカーが尋ねると、隊員の一人がフラッシュバンを窮屈そうなポケットから取り出した。


「はい、持っています」


「よし、それを俺にくれ。フラッシュバンを焚いて目をつぶした後突入だ。わかったか?いくぞ...」


隊員がフラッシュバンを投げ渡された後、オスカーがそのピンを抜き、穴の中に入れる。数秒後、中からかすかな音とともに閃光が放たれる。それと同時に隊長であるオスカーが最初に入り、そのあとほかの隊員がきれいに入っていく。


目に手をあて、混乱をしている反逆者に、容赦ない蹴りを加える。後から来た隊員に手錠をかけるよう命令したあと、長い廊下へと入ろうとする。


このアジトの構図は単純で、穴に入ったあとすぐに集会所や作戦会議に使われる広いスペースに出た後、左に曲がると長い廊下と寝室があるような形だ。


おそらく集会所として直前まで使っていたようだが、そこは制圧した。これから長い廊下を制圧しようとしているが、何か物音と会話の声がする。おそらく、バリケードでも作っているのだろうか?


一旦反逆者全員が手錠をかけられたことを確認したのち、隊員の一人に廊下がどうなっているか確認するよう促す。やり方は単純だ。手鏡を使ってどうなっているか確かめる。しかし、意外なことにバリケードなどはなかった。しかし、誰もいないこともまた不気味であった。...まさか、地下道を使って逃げたでもいうのか?


反逆者に暴力を含めた尋問した結果、どうやら彼ら以外にはサボタージュのミッションを行うため、もういないらしい。一歩遅れてしまったか。すぐに工場周辺に厳戒態勢を要請したのち、反逆者が嘘をついていないか確認するため、部隊の数人に各部屋虱つぶしに制圧するよう命令した。


集会所に何か証拠がないか(なかったとしても後で捏造するだけだが)確認していると、隊員から報告が来た。どうも、本当に他に誰もいなかったようだ。こういう時、ああいうクズは嘘をつくのだが、もっと意外であった。まぁもしくは、さっき言ったように逃げたのかもしれないが...


反逆者たちに黒い袋をかぶせ、トラックに詰め込む。そして地獄への一方通行への道へ、トラックが走り出した。


「アラファリアの全人民の利益のため、”指導者”のため、全身全霊をもって奉仕する」というスローガンが貼り付けられたトラックが、森に到着した。「反逆者は名も知られぬ森や海で処刑され、その存在を抹消されるべきだ。」というのが”指導者”からの命令だ。


反逆者らを木に立たせ、縄によってその動きを封じる。そして、怒りの目を持った隊員たちをそれに立ち向かわせるかのように一列に立たせる。


「弾込め!」


オスカーの号令と同時に、隊員らが一斉に、弾丸を3発込める。外したとしても、また次撃てるようにするためだ。まぁ、わざと外した場合は軍法会議行きだが...


「反逆者に向かって...」


オスカーの号令で隊員らが一斉に照準を合わせ...


「放て!」


一斉に、この静かな森に発砲音が鳴り響いた。そして反逆者らは懺悔するかのように、反逆の意思がなくなったかのように、力がなくなったかのように、地面にうなだれた。そこからは、魂が抜けだすかのようにうめき声が聞こえてきた。


「放て!」


そして、二発目。


「放て!」


三発目と、瀕死の体にとどめを刺す。その直後、衛生兵によって全員の即死が確認された。


「おい、カメラを持ってこい...」


「はい!」


オスカーがそういって隊員にカメラを持ってこさせると、その惨めな死体を撮影した。明日か明後日の新聞に使われるからだ。



遺体は動きを封じた縄によって首を吊るされ、看板がかけられた。


「私は、この友愛に満ちあふれた共和国と、全人民を死に追いやろうとしました。今ここで懺悔し、私自身の死を祝福します。」


このぶざまな姿も、また写真に撮られた。そして、明日の新聞では「共和国に対する反逆者に対する審判」「反革命の最終的末路」という見出しと共に、この写真が載せられるのだ。


人民の代弁者、神の恩寵を受けた我らの指導者に万歳!アラファリア友愛共和国万歳!

"指導者”はあなたが心配で仕方がないのだ!

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