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2-④ 恋煩い

︎「だろーと思った。こっちに心が読める変態がいるなんて思わねーだろうしな。運が悪かったとしか言えねーな。」

 

「君って反射で悪口言ってるよね!その反射神経を褒めたいよ!」

 

「あざーす。」

 

「褒めてないよ!」

 

 ナユタとイーネの話しについていけず、マリが会話に割り込む。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って。どういうこと?デーヤンさん、嘘ついてるの?」

 

 すると、ナユタが答える。

 

「うん……。でも、デーヤンの擁護をしておくと、彼はある奴に脅されている。『妻と子供に危害を加える』と。それでしかたなく、僕ら……。いや、とりあえず、核師をおびきだしたんだ。だから、『同じ様なジャンクを見かけた』なんて、真っ赤な嘘だよ。"同種"のジャンクは数ヶ月前に出現したことで僕たちもデリケートになってたから、まんまとおびき出されたね。デーヤンはそんなことも知らなかった。たまたま、彼の嘘が都合よく僕らに通用したに過ぎない。まぁ、僕はイーネが気づいていることの方が驚きだけど。」

 

「どーみてもソワついてただろ。あれに気づかねぇ奴の方が神経疑うわ。あと、お前の発言もわざとらしすぎ。」

 

 イーネの言う"お前"はナユタの事を指しているようだった。

 

 (何……。訳分かんないんだけど……。私全然気づいてなかったし…………。ってか……。なんか……。相性いいね。あんたたち……。)

 

「マリさん!それは心外です!!」

 

 心を読んだナユタは思わず言葉を返してしまったようで、喋った後に「はぁっ……!」といって両手で口を覆っている。そして今度は、イーネが話しについていけずに「……はぁ?」と怪訝な顔をしている。


 何となく2人の会話から外されているような感覚がしていたため、今はイーネの方が、『意味分からない。』という表情をしているのが、少し可笑しく思えた。話が脱線してしまったため、本筋に戻そうと今度はマリから話す。

 

「その、デーヤンさんは、誰に脅されているんですか?……」

 

「それは……。」

 

 ナユタの言葉が途中で止まり、視線は部屋の入り口の方に移った。ナユタがゆっくりと立ち上がり、視線は入り口に向けたまま、表情が曇る。激しさを増している雨音が、ガラス窓に強く当たる音だけが響く。

 

「………こっちに来ている。……これは……。信仰心…。幼児教育を受けてない?……洗脳にも近い……。盲目さ……。」

 

「ナユタ……さん……?」

 

 マリがナユタに声をかけたが、聞こえていない様子だ。すると、雨音だけが聞こえる静かな空間に、コツ、コツ、コツと、誰かが外の階段を登る音が聞こえてくる。デーヤンの可能性もあるが、ナユタの様子から、他の2人も静かに身構えた。

 

 ガチャリと扉のノブを回す音がしたが、マリが内側から鍵をかけていて扉は開かなかった。ほんの少しの間があいた後だった。

 

 バキバキガガガガガガッ‼︎

 

 3mはある大男がタックルでドアを突き破って入ってきた。ドアだけでなく、ドア周囲の壁や床板も男の体当たりによって凄まじい音を立てて割れている。

 

 パラパラパラ

 

 男の体から細かな破片が落ちる。筋肉隆々の体。3mくらいある身長は、男が極端な猫背であることでなんとか天井までで収まっている。身につけているのは膝までのボロボロのズボンだけ。体の中心は浅黒い肌をしているが、脇腹や肩、手足の皮膚は真っ黒。顔はフランケンシュタインといったら分かりやすいか。受け口が特徴的で、顔の筋肉までも隆々としてしていて、表情が分かりずらい。その男が口を開く。

 

「オマえら。カクシ。?ツヨイヤツ。ドイツだ。」

 

 男の問いに対して、イーネがすかさずナユタを指さした。

 

「え?……ええ?!」

 

「オマエ。か。」

 

 ナユタがまだ理解できずに驚いていた最中だった。

 

 ガガガガガガガッ

 

 男がタックルで突っ込んでくる。直線的な攻撃。3人はそれぞれ左右にかわすが、ソファやテーブルは無惨な姿になり、さらに、男が踏み込んだ床板はことごとくひび割れ、数秒前に穏やかに3人で話せていた部屋は、一瞬にして戦場に変わる。

 

「ほんと!イーネってば……!僕、戦闘タイプじゃ……ないでしょうに……!」

 

 いつの間にどこから取り出したのか。ナユタは両手にトンファーを構え、強く踏み込んで大男にトンファーでの一撃を入れる。

 

「?!……硬っった!……」

 

 しかし、大男はそれを左腕の側面で受け止めると腕を振り払う。その動作だけで、ナユタは吹き飛ばされ、部屋の壁に背中を強く打ち付けた。

 

「ぅっ……!」

 

「オマエ。ゲン、、ゲンシュ?、。オマエ。マシロ様。気にナッテタ。オマエのコト。ミニキタ。」

 

「幻種……。マシロ様……。そいつがお前の……。」

 

 ナユタは相手の思考と発言をすり合わせる。背中がズキズキと痛む中、体を戦闘体制に整えようとしていた時だった。

 

「お前が人間の時点で詰みだよ。首チョンパだ。」

 

 大男の背後からイーネの声がして、大男とナユタの視線がイーネに向く。イーネは不敵に笑っていた。

 

「ダメ!!!!!」

 

 マリが叫びながらイーネに抱きついた。という表現は正しく無く、ほぼほぼ体当たりしたような形で飛び込み「ぐぇ!……。」とイーネの間抜けな声と一緒に二人は床に倒れ込んだ。

 

「何っっっすんだよ!!バカか!!」

 

「ダメ!あんた!何しようとしたの?!相手は人間でしょ?!」

 

「どー見ても俺達のこと殺る(やる)気だろうが!死にてーのか?!お前血液もってねーだろ!戦力外!あの変態やろーも戦力外!どーすんだよ!」

 

「でも…………!」

 

 そんな事をイーネとマリが話してる間に大男は近くに転がっていたソファを片手で掴み、振りかぶってイーネとマリに向かって投げつける。

 

 ドガァァンッ

 

 ソファは凄まじいスピードで飛び、二人が居た床に突き刺さって木片や砂埃が周囲に舞う。

 

「あ、あんた、こんな事もできたの?!」

 

 ソファは二人に当たったかに見えたが、そこに二人の姿は無く、別の場所からマリの声がした。声のした方に大男とナユタの視線がいく。全く別の場所で先程と全く同じ姿勢のままのイーネとマリの姿があった。

 

「なにこれ?!瞬間移動?!こんなん出来るなら言いなさいよ!」

 

「あぁ……うるせー……。」

 

 しかし、大男は二人が瞬間移動したことに驚くそぶりもなければ、すでに二人を追撃する行動に移っており、二人との距離を縮め、右腕を大きく振り上げ拳を叩きつけようとした。その時だった。

 

「弱体。拘束は不可避だからな。」

 

 ――。

 

 大男の腕は振り上がったまま振り下ろされない。どころか、ほんのゼロコンマの後、男の肩と胴体が離れる。振り上げたその腕は肩の所で完全に切断されていた。

 

 ガシィィッ

 

 男の腕が力無く床に落ちようとしたその時、大男は左手を使って切断された肩部分を掴むと自分に引き寄せ、切断された断面同士を合わせて、まるで無理やりくっつけようとしている様だった。

 

 ビチャッビチャッビチャッ

 

 切断面から赤い血がしたたり、それは男が断面同士を擦り合わせる事でさらに不快な音を発していた。

 

「こいつ………………。」

 

「マシロ様。オコル。オコラナイ。カナシイッテ。イウ。カナ。」

 

 ギチギチギチギチ

 

「…………ちょっと……。イーネ……。」

 

「……。」

 

 ギチギチギチギチ

 

 男の黒い肌が所々で切断面を繋ぐ様に伸びていた。暫くして男が肩から左手を離しても、右腕は落ちる事なくくっついている。完全にくっついている訳ではないのか、脇から血がしたたり落ちてはいるが、傍目からは切り落としたはずの肩が繋がっているように見える。

 

「はは。なら寧ろ容赦無しでいいな。」

 

「!……待って!イーネ!……」

 

 ドガァァンッ

 

 男は左腕を振り上げ、今度は自分の足元に拳を下ろした。大きな音と共に男の真下の床が抜け、男は狙って一階に落ちた様だった。

 

「くっそ……。逃すか!……。」

 

 イーネは男があけた穴に駆け寄る。まだ土煙が舞っていた。イーネが穴に飛び込んで一階に降りる。

 

「イーネ!一人で深追いするな!」

 

 ナユタが叫んだが、既にイーネは一階部分にいる。イーネが周囲を見るが、すぐ近くに男の姿はない。

 

「キョウは。ミテキテってイワレタダケ。ミテミタ。ミタダケ。ミタミタミタ。ジャアネ。マタネ。アソボウネ。」

 

 男は家の正面外。豪雨の中にあった。

 

「くっそ……。」

 

 イーネは男を追おうともせず、力を使う様子もなく、豪雨の中、背中を向けて去っていく男を見るだけだった。

 

 マリとナユタが階段を使って一階に降りてくる。

 

「イーネ!無事?!」

 

 イーネに駆け寄りながらマリが言った。

 

「はぁぁぁ。逃げられたよ。」

 

「無事なのね……。」

 

「…………………………無事。」

 

 少し遅れてナユタもイーネの近くに寄る。

 

「一人で追うなんて。自分のことを強いと思ってる初心者の悪い所が出たね。反省すべきだよ。」

 

「…………………………マリと抱き合ったからって拗ねんなよ。」

 

「そそそそそそそ、そんな話し今してないだろ!!」

 

 雨は強さを増す一方で近くで雷の音もする。マリが先に話し出す。

 

「これ…………。この状況って……。ナユタさん……どうしたらいいんですか?……」

 

「うーん。事務に報告と、デーヤンに家をグチャグチャにしちゃったこと謝らないとだけど……。もー夜だし。全部明日にしちゃって今日は寝ちゃう?」

 

「でも……またあの男がまた襲ってきたら……。?」

 

 マリが不安そうにそう言うと、ナユタが言葉を返す。

 

「戦えるのは僕達だけだ。デーヤン家族には勿論、事務員にも近づかない方がいい。それでいうと、マリさんの力が使えるように血液パックを受け取っておくっていうのはありかな。後、僕の力を全開にすれば、もう少し広範囲の"声"が拾える。索敵は何とかなるよ。」

 

「ってかお前、そんなの何処に隠し持ってたんだよ。」

 

 イーネがナユタが両手に装備するトンファーを指して言う。

 

「ああ。これ?」

 

 するとナユタはカチャカチャと手際よくトンファーを扱うと、ナユタの大きな手であれば手の中に収まるサイズにまで小さくなり、ナユタはそれをジャージのズボンのポケットに入れた。

 

「僕、戦闘って殆ど無いけど、万が一の持ち運び様に特別に作って貰ったものなんだ。ほんと、こーゆーのは持っておくに越したことないね。」

 

「へぇ。」と声に出して感心していたのはマリだった。イーネは両手を組んで上に大きく伸びをして言う。

 

「何か疲れたわ……。もぅ寝ようぜ。」

 

「私……この状況で寝られるかな……。」

 

 マリがそう言った時だった。

 

 キュピィイイキィイイイッ

 

 それは鳥の鳴き声のようだった。

 

「何……。鳥?……。」

 

 マリが呟くとイーネが言葉を返す。

 

「この豪雨でかよ?」

 

 ピィィイイイイキィイイイッ

 

 同じ鳴き声が更に大きな音となって聞こえる。3人は互いの顔を見合わせて、家の正面から外へ出た。この豪雨では外に出た瞬間にずぶ濡れになる。目を細めながら、雷雲が覆う真っ黒な空を見上げる。

 

 ピィィイイイイッ

 

 すると、雷雲の間から1匹の鳥が降りてくる。孔雀の様なた目。随分と距離があるにも関わらず、はっきりと目視で確認できるため、相当な大きさだと推測できる。全体は黄色い色をしているが、なにせ距離があるのと、強い雨によって具体的な容姿まで把握できない。

 

「ジャ…ンク……。」

 

 ナユタが言った。

 

「ジャンク?!あ、あの大男の仕業ですか?……!」

 

 マリの言葉にナユタは首を振る。

 

「いや。あの男は関係ないよ。そんな思考はなかった。ただ単純に。今日の僕らは……。随分とついていないみたいだ。」

 

 そう言いながらナユタはジャックポットの紐を引いていた。

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