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2-③ 恋煩い

 屋根の梁が中から見え、大きなシーリングファンが数台動いている。木製の大きなテーブルには、片方が横長のベンチ、反対側には木製の椅子が4脚並んでいる。テーブル横はカウンターを挟んで広々としたキッチン、反対側には昔ながらの暖炉、その奥がメインのリビングだろうか。美しい柄のラグに、5人程が腰掛けられそうな大きな茶色いソファがある。


 デーヤンにすすめられ、マリとナユタはテーブルの椅子に腰掛け、イーネはテーブルのベンチに腰掛けた。


 デーヤンはキッチンで何やら作業をしており、その間にマリがそれぞれの名前を代弁して挨拶を済ませた。

 

「遠いところありがとうございます。いやー。私も本当にびっくりで。ジャンクなんかに2回も会うと思ってませんでしたから。本当に。えーっと……。その。いやー。こんなこと聞くのはあれなんですが、皆さん、お強いんですかね?ああ!いや!前回の核師さん達が結構苦労されてそうでしたので。」

 

 デーヤンは少しバツが悪そうに言う。

 

 (そんな手強かったのかな?……一応記録は読んだと思ってたんだけど……。あんまり読み込まずに来ちゃったな……。同じタイプのジャンクを見てるんだし、心配になるよね……。)

 

「えっと……。そーですね……。」

 

 マリがその問いに何と返そうか迷っていると、ナユタが突然話に割り込んでくる。

 

「安心して下さい。なんたって今回は"幻種"であるイーネさんがいますから!"幻種"というのはね、そりゃもー強いのなんのって!大船に乗ったつもりでね!大丈夫ですよ!」

 

 (……………………。これもある種の嫌がらせかな……。)

 

 すると、それを聞いたデーヤンの顔色がパッと明るくなる。

 

「そ、そーですか。いやぁ。安心ですね。その、"幻種"とやらは正直分かりませんが、そう言って頂けるとね。安心ですね。」

 

 そう言いながら、デーヤンはマグカップに温かい飲み物を入れて持ってくる。

 

「良ければこれ。ハニーミルクです。自家製の蜂蜜を使ってまして。家族は大好きでしてね。お口に合うといいですが。」

 

 それに対してマリだけが「ありがとうございます。」と返して少し口にする。ミルクと蜂蜜の甘く優しい味が口に広がる。

 

 すると、キッチンの奥から扉が開いた音がして、ふくよかで優しい雰囲気をした女性が現れる。茶色のショートカットにエプロン姿で、デーヤンとどことなく似ている。

 

「あら!いらっしゃってたんですね!ごめんなさい。」

 

 彼女と一緒に8歳くらいの女の子も飛び出してくる。髪を二つ括りにしていて、動物柄の服に動物柄のズボンを履いていて可愛らしい。

 

「うわー!核師さんだ!今日から泊まるの?!一緒にご飯食べる?!」

 

 それに対してデーヤンが少し困った顔をしながら「妻と子供です。すみません。騒がしくて。」と説明した。

 

 デーヤンの妻は、そのままキッチンに入って何やら作業をしている。女の子はこっちに駆け寄ってきて、よりにもよってイーネの隣でピョンピョンと飛び跳ね始めた。

 

「うわー!お兄ちゃん、髪の毛白ーい!おメメも白ーい!変なのー!」

 

「あ!こら!ネネ!失礼だろ!」

 

 デーヤンが子供の名前と一緒に叱ったが

 

 (…………うわ…………。やばそう…………。)

 

 時既に遅しで、イーネが『なんだこのクソガキ!』なんて言って怒り出すのではないかと想像してた時だった。

 

「真っ白じゃねーよ。よく見てみ。」

 

 イーネはそういって女の子に自分の頭を差し出す。

 

「あ!黄色い毛もある!」

 

「黄色じゃなくて金色ー。」

 

「ええー!金色かなー?何で金色もあるのー?」

 

「蜂蜜なめまくったらこうなった。」

 

「うっそだー!」

 

「蜂蜜食べたら黄色い髪の毛はえてくるの知らねーの?蜂蜜すき?」

 

「うそだよ!だってネネも蜂蜜好きだしいっぱい食べるけど黄色い髪なんてはえたことないもーん!ネネ、パパの蜂蜜大好きだもーん。あ!それハニーミルク?!いいな!いいな!ネネも欲しいー!」

 

 一瞬で子供と打ち解け会話が弾んでる。デーヤンの方がタジタジとしており「ネネ、おいこら……。」と小さく言いながら会話に入る隙をうかがっているようだった。イーネは気にもとめずにハニーミルクが入ったマグカップを子供の方に差し出す。

 

「いいよ。まだ俺、口つけてないから飲みな。」

 

「え?!いいの?!やったー!」

 

 そこでやっとデーヤンが「こら!ネネ!」と少し口調を強めて子供にいうと、イーネが右肘をテーブルにつきながら手をヒラヒラさせて言う。

 

「いーっすよ。すんません。俺あんまり甘いの得意じゃなくって。」

 

「そ、そうかい。ほんと、すまないね……。」

 

 デーヤンが申し訳なさそうにしてると、子供は早々にマグカップに口をつけながらイーネの方を見て言う。

 

「えー!甘いの美味しいのにー!あ!これ、蜂蜜入ってるんだよ?」

 

「あーあー。おいしそー。のみたかったなー。」

 

「えぇー!飲んじゃったー!」

 

「ハハ。嘘嘘。飲みな。」

 

 日頃のイーネからは想像も出来ない姿にマリもナユタもいつの間にか口を開けてその光景を見ていた。マリが話す。

 

「あ……あんた……。子供……大丈夫なの……。」

 

「あ?どういう意味だよ。」

 

 マリへの返事はいつも通りの辛辣さを感じるものだった。デーヤンは「いやー。すみません。ありがとうございます。」と再び謝罪と礼を言っている。すると、今度はキッチンの方からデーヤンの妻の声が聞こえる。

 

「あんた。とりあえず、早くお部屋に案内したら?」

 

「ああ!そうだね!核師さん、今日泊まって頂くお部屋にご案内しますね。離れになるんで、私の仕事用の車に乗って頂いて暫く走るんですが……。」

 

 すると、またキッチンの方から妻の声がする。キッチンからデーヤンの方を見て少し驚いている表情だ。

 

「あら。ここの上に泊まって頂くんじゃなかったの?この前はそうしたじゃない。」

 

「ああ。来客用の部屋の空調の調子が悪かったみたいなんだ。急なことで修理が間に合ってないから、あっちに泊まっていただくよ。」

 

 すると妻は「あらそうだったの。でも女性の方もおられるし…………。」とマリの方の様子を伺っているようだった。そこでマリが「お気になさらず。」と声をかけると、「あら……。そうですか。それでしたら……。向こうは一室だけなんです。ごめんなさいね。」と妻は返し、またキッチンでの家事を再開させたようだった。

 

「じゃあ、ご案内しますね。」

 

 デーヤンに促され、家の表に止めてあった軽トラックに乗る。助手席にマリが乗り、荷台にイーネとナユタが乗る。車は10分くらい走っただろうか。なんと、この走っている土地全て、車から見える土地全て、デーヤンのものだという。助手席でデーヤンの話しを聞き、その広さに驚いたりしながら進んでいると、木造の一軒家が見えてきて、車はその1階部分に駐車された。


 木造の離れは1階部分が完全に倉庫兼、駐車場兼、物置の様な状態で、正面のシャッターは常日頃から開けっぱなしのようだ。それ以外は2階に続く階段だけがある。人、1人分しかない幅の狭い階段で、それをデーヤン、マリ、イーネ、ナユタの順で上がっていく。


 階段をあがってすぐ扉で、デーヤンが鍵を使って開け、前に続いて中に入っていく。2階部分全部で一室になっており、簡素ながらも必要なライフラインが整えられていた。


 小さめのシンクに暖炉、カーペットの上にテーブル、テーブルを挟む様にソファが2台、ベッドは1台で、その横に雑魚寝用の布団が積み上げられている。

 

「ここにあるものは何なりと使って下さい。今晩は天気が悪くて少し冷えるようですので、薪の準備をしてまた戻って来ます。何かあればその時にでも。」

 

 それに対してマリが「ありがとうございます。」と返すとデーヤンは早々に部屋から出ていった。外は暗くなってきており、ポツポツと降り始めた雨が部屋のガラス窓に当たっている。


 向こう側のソファにイーネがドカンと腰掛ける。それを見たマリは手前側のソファに腰掛けると、ナユタはオロオロとした後に、イーネが陣取っている横に半ば無理やり腰掛けた。イーネは何故か迷惑そうな表情をしてナユタに言う。

 

「何っでこっち来るんだよ。」

 

「どーみても3人がけくらいのサイズだろ?!詰めなよ?!」

 

「そーゆーの、変にキショく悪がられるぞー。」

 

「なっ………………?!」

 

 ナユタをからかうようにイーネは話している。仲が悪いのか。これは仲がいいと言ってもいいのか。小競り合いが終わり、全員が無事にソファに腰掛けることができた所でイーネの雰囲気が今までと少し変わる。

 

「………………言えよ。分かってんだろ。」

 

 マリは何を言っているか分からなかった。イーネの言葉に反応しているのはナユタのようだった。イーネの言葉でナユタの雰囲気も変わったように思える。少しの沈黙の後、ナユタが話す。

 

「ジャンクはいないよ。」

 

その言葉にマリが「え?」と聞き返すとナユタが続けた。

 

「嘘だよ。デーヤンの言葉は嘘だ。」

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