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2-② 恋煩い

 普通の車よりも明らかに大きい、装甲車のような車に乗った。見た目は黒くていかつかったが、軍や警察用とかではなく、これでも民間車に入るらしい。内装は、それこそ特殊部隊が乗っているような仕様で、運転席とは分厚めの壁で区切られていて、小窓からやりとりをする。運転席より後ろは、中央に向かって向かい合うように横長のシートが備え付けられ、人が詰めれば10人ほどは座れそうだ。


 そんな広い空間に、マリ、イーネ、ナユタの3人が乗る。運転手には核師のサポート役となる人が乗って、目的地まで案内してくれている。


 運転席のすぐ後ろの位置に当たる所にマリが。その隣にイーネ。反対側のシート、車の後ろの方に、距離をとるようにナユタが座っている。


 こんな車の中では、ナユタの力である"心の声が聞こえる"能力の射程圏内ではあるのだが、それでも出来る限り距離をとって欲しいとの、ナユタの意向でこの配置になった。


 ナユタは変わらずド派手なジャージのセットアップにド派手なサングラス、ヘッドホンは着けたり外したり忙しない。


 マリとイーネは支給された団服をきている。団服は特殊な黒い繊維で仕立てられており、軽くて通気性がよく、非常に丈夫だそうだ。


 マリは首の詰まったノースリーブにキュロット(ショート丈のスカートに見えるズボン)がメインの格好だ。飲んだ血が、例えば大きく体の様式を変えるものだった場合、服がビリビリに破けてしまうとのことで布面積を少なくされている。だが、30歳を間近にしてノースリーブにショート丈で出歩く勇気はなく、後から羽織になる長袖と、膝下までのブーツを用意して貰った。腰に巻けるポーチもグレードアップし、収納スペースが4つに増え、服と同じ繊維を用いて特殊な構造をしているらしく、長時間血液パックを保存しておけるとのことだった。


 イーネはタボっとしたパーカーに、パーカーに合わせて少し細身のズボンを履いている。なんの機能性も無さそうで、ただただ彼の趣味のように見えるため、『こんなだせーの着れるか!』とか言って。団服に関してもひと暴れしたのだろうかと勝手に想像する。

 

「イーネ!きみのような野蛮人が"幻種"……しかも"麒麟"の血清の適合者だなんて!!信じられない!!僕は知ってるんだからな!血清適合後、組織種のマネージャーとタイマンして両腕切り落としたらしいね?!ああ!野蛮!」

 

 (………………。)

 

「その後ちゃんとベリーに治させたよ!意味わかんねー理屈押し付けてきたのはあ、い、つ、ら!任務に出るにはユニットを組む必要がある。そこまではいいとして、ユニット組むのに各種のマネージャークラスの助言がいるだぁ?!聞いてみたら、『そもそも幻種としての指導形態は確立していないから、君らの処遇については待ってほしい』……ふざけんなザコが!こっちから名指しでチーム組む奴ら指名してやったら『そんなことはできない』って、使えねぇ役所仕事じゃねーんだよ!文句言ったら張り合って来やがったから目に物見せただけ!そこまでちゃんと引き継ぎしとけ?!」

 

「どっちにしろ野蛮じゃないか!あー!ほんとやだね!それで無理矢理、先輩達を押さえつけて君の指名でユニットを組ませたんだ!マリさんがほんっとに可哀想だ!!それにね!君!分かって無いだろ!マリさん、イーネ、ベリー、ニコでユニットを組んで、今日実際、ニコは別任務、ベリーは"治癒"の力で、実践中に使えるレベルではないから待機。君とマリさんの2人だけ。2人だけだよ?!初任務だよ?!わかる?!いじめられてるんだよ!君!あー!巻き込まれているマリさんが気の毒だ!それに僕もね!」

 

「そもそも俺1人で充分なんだよ!ザコ理論押し付けんじゃねー!あと、マリだけ"さん"付けは紳士ぶってんのか?!やめとけ!キモいぞ!」

 

「な………………………………!き、キモいのか?!き、キモいですか?!マリさん!」

 

「キモくないですよ。」

 

 

 ここで、ナユタは心で思った事、頭で考えた事を読み取る力があるのに、何故こんなにも声を荒げて言い合いをしているかの説明をしておく。ナユタとイーネが今回の任務で初めて顔を合わせて、最初にした会話を思い出すと理由はよく分かるのだ。

 

 『ききききき!君!!うるっさい!!うるっさいね!ごっちゃごちゃ!並列思考?!なにこれ!同時にどれだけの情報処理と思考を繰り広げてるの?!気持ち悪い!こんなにも思考と情報の渦は初めて見た!初めて会ったよ!プランクトンの異常増殖で海の色が変わるあの現象?!ちょっともう離れてくれ!!!何か伝えたい事があるなら話してくれ!お願いだから!何が言いたいのか分かんないよ!!』

 

 『………………………………あ?(怒)』

 

 

 というわけで、ファーストコンタクトからお互いの印象最悪で、事務員から任務内容を聞いて出発するまでも大変だったが、それが現在も終わって無い状況だ。


 正直、マリからすると、イーネの事も、ナユタの事もよく知らない。喧嘩の仲裁に入るような間柄でも、そういった人格を持ち合ちあわせている訳でもない。やる事もなく、今回の任務の内容でも頭の中で復習する。

 

 今回はライト・デーヤン氏という、畜産業として放牧を行なっている人物からの依頼で動いている。こうした任務はとても珍しい。


 核師の任務は、その殆どが事件や事故が発端となって、それがジャンクによるものなのかの調査を行い、ジャンクの可能性が高まるほどに、現場に人員を増やしていくのが一般的だからだ。それに、デーヤン氏の牧場ではちょうど1週間前にネズミ型のジャンクが討伐されたばかりだ。そのデーヤン氏から、『また同じような形のジャンクを見かけたかもしれないから、調査に来て欲しい。』と連絡があったそうだ。


 1週間前の任務では、胴体に大きな風穴が空いた状態の牛の死骸が複数確認され、討伐したジャンクが牛を捕食していたのが分かっている。現時点でそういった被害は無く、あくまでもデーヤン氏本人が"見かけた"とのことだ。1週間前に討伐にあたった核師は、別の任務で出払っていた為、代わりに現場確認として私達が派遣されている。

 

 (………………同種のジャンク…………。)

 

 数ヶ月前の任務で、同時に同種のジャンクが2体出現した時の事を連想していた時だった。


 車を走らせてから30分程が経過しただろうか。絶えず激しく言い合いをしていた二人がいつの間にか、どこに話しを落ち着けたのか。急に静かになったことに若干驚きつつ、ほっとしつつ、イーネに話しかけてみる。


「………………終わったの?」

 

「終わってねーよ。」

 

「…………あぁ……そう…………。」

 

「後どれぐらいでつくんだよ。」

 

「聞いてみようか?……」

 

 そこで返事は無かったが、多分聞いた方が良さそうだなと思い、運転席との壁にある小窓の方を向いて、少し大きめの声をだす。

 

「すみません。あとどれぐらいで着きますか?」

 

「そーですね。あと4-5時間といった所でしょうか。まだまだかかりますので、良ければ、ついてからの事を少しご説明いたしましょうか?」

 

 きっと話すタイミングを見計らっていたんだろうなと、勝手に運転手さんの苦労を読み取りながら「お願いします。」と返す。

 

「目的地はデーヤンさんの自宅前になります。つきましたら、私はあくまで事務員ですので、そこからは核師様にお任せします。初めはデーヤンさんからの聞き取りで大丈夫かと思います。私は別の場所に車をまわし、車に待機しますので、ご入用の時はいつでも呼んで下さい。デーヤンさんのご意向でご自宅に宿泊していいそうなので、とりあえずは3日間を目安に情報収集をお願いします。ジャンクに関する情報がありましたら、随時、私にお知らせ下さい。状況に合わせて増員を手配致します。改めての注意ですが、突発的にジャンクとコンタクトしそうになった時は、可能であれば離脱して下さい。こちらが万全でない状態での戦闘は危険です。もし、離脱が不可能な場合は、出発時にお渡した"ジャックポット"にてお知らせ下さい。」

 

 本部を出る時に事務員からマリ、イーネ、ナユタに手渡された機械の事を思い出す。手のひらサイズの水色をした円盤形で、防犯ブザーのような紐がついていた。


 任務に行く前に毎度手渡され、任務が終わる時に回収するのだという。マリのジャックポットは4つある腰のポーチのどこかにしまったはずだ。

 

「改めて説明いたしますと、円盤状の機械、製品名を"ジャックポット"といいます。ジャンク対策専門の研究機関が開発したものでして、ジャックポットは2つで1組となっています。付属の紐を引っ張れば、数十キロ離れていても、通信圏外であっても、その間に遮蔽物があったとしても、もう一つのジャックポットと共鳴し、位置情報が共有される仕組みになっています。みなさんのジャックポットの対になるジャックポットは私が持っています。核師様同士で合図になるものでは無いのでご注意下さい。また、紐を引っ張る時はロックを外して引っぱる仕様になってますのでご注意下さい。」

 

 出発の時に同様の説明をしていたが、その時はイーネとナユタが絶えずケンカしている状態だった為、ちゃんと説明を聞いていたのか心配だったんだろうなと勝手に想像する。だが、事務員の説明に対して、少し小声で、しかし、しっかりと事務員に聞こえるような声量で、イーネが「聞いたよそれ。」と言った為、事務員は申し訳なさそうに「すみません……。」と返している。

 

 (イーネってほんと……子供っぽい……。ほんとに19歳?ニコと同い年か……。ほんと、口は一丁前だけど、童顔?……ってゆーのかな。まぁやってることも子供っぽいけど。)

 

 そんな風に考えていると何やら視線を感じる。ナユタの方を見ると、目が合った早々、ブンブンと顔を縦に振っている。静かに同意を得ていたようだった。

 

 (ナユタさんの力って、ちょっと工夫すれば凄く便利そうですね。)

 

 心の中でそう返すと、ナユタの動きがピタリと止まり、暫くすると顔を赤らめて俯いてしまった。こっちの心の声が届いたのよく分からず、ほんの少しだけ心配に思っていると

 

「マリ。ナユタの力使って悪口言ってんじゃねーよ。」

 

 (…………何で分かんの……。)

 

 イーネが言った。ズボンのポケットに手を入れながら、今にも座席から落ちそうなくらいの姿勢で腰掛け、こっちを見てもいないのだが。それに対して、「悪口じゃ無いわよ。」と返すと、それ以上の追求はなかった。その後、これといった会話もないまま、車は目的地へと向かった。


 車から降り、両手をあげて目一杯伸びをする。長距離走行するには居心地の悪い車だった。案の定、車から降りる時にイーネが「もっと別の車用意しろよ。」と文句を言っていた。


 あたりはもう暗くなってきていて、少し肌寒い風が吹く。広大な草原に、胸の高さ程の白いフェンスが続いていて終わりが見えない。目の前には白い門。門から道が続いていて、500mほど先に一軒家が見える。運転手をしていてくれた事務員は、確認するように門の扉を押しながら話す。

 

「デーヤン氏には連絡入れていたので、門を開けてくれるとのことでしたが……。あ。開いてますね。在宅されてるそうなので、あそこに見えるデーヤンさんの自宅に行って下さい。僕は他の場所に車をまわします。あ。後、今夜は雨だそうで、もうすぐ降るかもしれません。雷注意報もでてて、明日の朝までは続くそうですので、お気をつけて。」

 

 そう言って、門を人が通れる程にあけた状態にして事務員は車へと戻っていった。

 

「うーわ…………雨かよ…………。」

 

 イーネがぼやいている。

 

「雨嫌いなの?」

 

 マリがイーネにそう聞くと、「べーつにー。」と何となく不貞腐れているような調子で言葉が返ってきた。それを特には気にとめず、3人はデーヤンの自宅へと向かった。


 木造の立派な一軒家。イーネもナユタも先頭に立つ気配がない為、マリが家のチャイムを鳴らす。暫くすると、ガチャリとドアが開く。

 

「あぁ。よく来てくれました。何度もお呼びたてしてすみません。ささ。なかへどうぞ。」

 

 恰幅のいいおじさんだった。白髪混じりの顎髭をたくわえ、頭の毛はなんとも寂しい感じだが、ジーンズ生地のサロペットが良く似合って優しそうな雰囲気だ。

 

「あ……。えっと……。あなたがライト・デーヤンさんで?……。あの……私たち……自己紹介もまだですが……良かったですか?……。」

 

「はい。その通りで、私がライト・デーヤンです。その黒ずくめの服をみたら核師さんだと分かりますよ。前来ていただいた方とは別の方とも聞いてましたので。って……。えー。そのジャージの方もご一緒かな?。」

 

 ナユタの格好を見てデーヤンは困惑していそうだった為、すかさずマリがフォローをいれる。

 

「あ。そうです。服装が違いますが、彼も核師で今回は私達3人が担当します。」

 

「そうでしたか。玄関で立ち話もなんです。どうぞ中へ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 そういって3人はリビングに案内される。

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