13-③ 仲間は
「天下流・浪志の太刀・懺悔。」
直線上にネズミが吹き飛ばされ、イーネに襲いかかったカラス達が両断され、バラバラと落ちていった。
「えぇー。冷めるなぁ。」ラスター
カチンと刀を鞘に納める音がする。
ネズミが吹き飛んで空いた地面に、その男とイーネが降り立った。
「血が足りなくなったら呼びだすって話しだったよね。」
天上家の家紋の入った袴を着たレンは、不服そうにジャックポットを地面に放り投げた。
イーネが言う。
「来るのおせぇよゴミカスマッシュ。ぜってぇこの時間パジャマで寝てたろ。ご丁寧に袴着てんじゃねぇよ。パジャマで来いよ。」
「お前!夜中にゅもっ来てやってるし、ましてぇな……ぴ、ピンチュだったんじゃ……!にゃいのか!!」
「感情的になると噛むぞ。クールキャラぶってろよ。」
「きっさっま………………!!」
ラスターが言う。
「テンジョウ レン。なるほど。彼の力で監視してたんだね。テンジョウ家は相変わらずジョーカーだね。まぁ、仕方ないんだろうけど。」
ラスターの発言に、イーネは笑みを浮かべて言葉を返す。
「お前、喋りすぎだろ。いいのか?マシロ様に怒られるぞ。」
するとラスターは突然真顔になって言う。
「マシロ様を気安く語らないでくれるかな。あの方がそんな事で怒る訳ないだろう。」
「いや?内心ブチギレてんのを我慢してるだけだったりな?………………だってそのマシロも……。」
イーネが不敵な笑みを浮かべる。
「……ジャンク品。模造品の愚作……。だろ?」
ラスターのこめかみに青筋がたつ。
みるみるうちに怒りの表情に変わる。
「愚作はお前らだ……!イーネ・フィズニア……!」
ラスターの叫び声と共に、ネズミとカラスが一斉にイーネとレンに襲いかかった。
「天下流・浪志の抜刀・獄門。」
腰の日本刀に手をやり、構えをとるレン。
「試験運用にはもってこいか。」
イーネの右手には3本の鋭いメス。
バサッバサッバサッ
1匹、他のカラスよりも極端にサイズの大きいカラスが飛んできたかと思うと、そのカラスはラスターの両肩を鷲掴み、鋭い爪をたてて食い込ませた。ラスターの両肩からは血が滲む。
[ヂヂヂヂヂヂヂ]
[ガァガァガァ]
レンは、襲い来るネズミやカラスを日本刀で切り裂いていく。レンの瞳はガラス玉のように光り、千里眼の能力下では、襲い来るネズミやカラスの動きが手に取る様に分かっていた。
イーネは、3本のメスを自在に転移させ、ネズミやカラスの脳天を突き刺しながら、自分自身も自在に転移しながら戦う。
みるみるうちに、ネズミとカラスの死体の山ができていった。
一際大きなカラスは、翼をはためかせ、ラスターを脚で掴んだまま飛び上がる。
(逃すかよ。)
イーネがメスを転移させる。
そのメスは、カラスの急所とラスターの脳天にあたって即死させるはずだった。
カランッカランッ
刃先の曲がったメスが2本、地面に落ちた。更には。
キィィィィンッ
耳鳴りと共にレンとイーネの動きがピタリと止まる。
(動けない……!)レン
(……ジャンク亜種……じゃない。あのデカいカラスだけはジャンクかよ。)イーネ
ラスターはカラスに連れ去られるように上空に飛び立っていた。
「ばぁいばぁい。君達にはちゃんとしたステージを用意いたいからさ。マシロ様にも楽しんで頂けるように。」
動きの止まった2人に、ネズミの群れとカラスの群れが襲いかかるのを、ラスターは最後に目の端で捉えてその場を飛び去った。
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<タイヨウバイオカンパニー内>
「も!……も!もぅ!無理です!」
「ダメだよ!マリ!頑張って!!」
「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!!いや……!も!ほんと……!」
「俺、隣で元気出る歌でも歌おっか?!」
「だ、だまって下さい!!ツッコむ体力が……!」
[ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙]
マリとトラヴィスは猛ダッシュで社内の廊下を走っていた。その後を大量のゾンビが走って追いかけている。
マリの予想は半分正解し、半分外れだった。ゾンビ化した団員の死体は、熱を感知もするが、目があれば目が見え、耳があれば耳が聞こえるように、感覚器が残っていれば、人と同じ様に作動する。また、明確に獲物を捉えた死体達は、走ってマリとトラヴィスを追いかけ始めた。
死体には体力というものは無いらしい。走り続ければ続けるほどゾンビの数は増えていき、今の惨状に至っていた。
トラヴィスが言う。
「よし!分かった!俺が囮になる!」
「え?!はぁ、はぁ、はぁ。お、おとり?ですか?」
あてもなく走り続け、上階に上がることはできずに、下の階、下の階に降りて、いつの間にか今は5階。このまま進むと、生物研究棟B棟の中庭に出る。そこはマシロ襲撃事件で半壊となり、基本的には立ち入り禁止になっているが、一部修繕が進み、少なくとも5階部分の中庭を囲む廊下は安全に通れるようだった。
トラヴィスが追いかけてくる死体に向かって大声をだす。
「おーい!!おまえらー!こっちだ!こっちこっち!!」
トラヴィスはそう言うと、マリより少しペースを落とし、走り迫る屍を充分に惹きつけると、突如として右に曲がった。マリはそのまま直進する。
トラヴィスに釣られるように大半の屍がトラヴィスを追って右に曲がったが、まだ数体はマリについて走ってくる。
(でも、トラヴィスさん……。それ、中庭一周したら、また合流することになりません?!……!)
突っ込む気力もなく、マリは走る。
「ほんと……。もぉ……。ダメ……。」
マリのペースが大幅に落ちた、その時だった。
窓の外。
中庭に舞い降りてくる、白い天使が見えた。
「天使の剣。」
目を細める程の閃光が放たれ、マリを追っていた屍に命中し、屍は跡形もなく消えた。しかし、それと同時に閃光が当たった窓と壁も木っ端微塵となり、衝撃と共にマリは前方に突き飛ばされる。
なんとか受け身をとって、上がりきった息を整えていると、聞き慣れた声がした。
「あらあらあらあら?!まぁたマリさんの危機救っちゃった感じっすか?!あちゃぁ!ごめん。マリさん。俺には、愛する妻と子供が……って自惚れきちぃー!」
ジレを翼の形にはためかせながら、大破した壁の穴からアエツが入って来てマリに笑顔を向けた。
「アエツ…………さん…………。………………かわいいパジャマですね……。」
アエツは、薄いピンク色をしたテカテカ素材に、沢山のハートと、所々にI love wifeと書かれた柄のパジャマを着ていた。
「あ!そうっしょ?!これ、結婚記念日に会社の人に貰ったんだよー!でもみて。翼生やしたから背中がもぉ、びりっびりっ!あはははははっ!」
「……こんな安心感のある笑い声ないです。」
「えぇ?!てか、どーしたの?!何があった系?!おれ、とりあえず会社いってくれって言われて、まじなーんも…………。」
アエツが話している途中だった。
向いから、大量の屍を引き連れたトラヴィスが走ってくる。
トラヴィスが笑顔で手を振る。
「おぉ!!アエツー!!来てくれたんだ!!おぉーい!!!」
「……………………トラ…………ヴィス?…………。」
いつでも表情豊かなアエツが、真顔になって呟いた。まるで亡霊でもみているかのようなその顔は、死んだと聞いたタカトが、人の姿をして走って来たことによって、大きな混乱を招いていた。
「………………え?」マリ
ジレが両手の形をしてマリを担ぎ上げると、アエツはトラヴィスから逃げるようにダッシュする。
「……え?」マリ
「はぁ?!トラヴィス!お前!黄泉の国から何笑顔で手ー振ってる?!あほぉ!!お前の事は好きやぞ?!好きだけど、俺はまだ死ねなぃぃいいいい!!愛する妻と子供がいるんだよぉぉおお!!」
「アエツー!あ!お前!そーいや、誕生日どうだったんだよー!楽しかったかぁ?!」
「ちゃんと覚えててくれてありがとぅぅう!!!あの世でも気にしてくれてんだなぁぁぁぁあ!だけど悪い!!俺は三途の川が見えても、クロールで戻りきるぅぅうう!!」
「川ぁ?!川いったのぉー?!えぇ!話し聞かせろよぉ!まってー!」
「いやぁぁああああ!くんなぁぁあああ!なにぃ?!後ろに同士達も引き連れて?!何黄泉の国で歓迎パーティ開こうとしての?!パーティなるかぁ!!こっちはアンハッピーじゃあああ!!」
「あぁ!そう!こいつらぶっ倒してくれぇ!」
「何?!仲悪いの?!仲良くしろぉ!あの世でいつも喧嘩してましたー!って、こっちは安らかにー!言って拝んでんやぞぉ?!」
「アエツさん……。」マリ
「マリも?!マリも死にかけてるの?!大丈夫!俺がおぶって泳ぎきるから!三途の川ってきっと穏やか!そーに違いない!三途の川が激流やったら不便すぎるから!!そこ、ちゃんとあの世の行政しっかりしろぉ!ってなるから!」
「アエツー!まてってー!!どこ行くんだよぉー!このままじゃないとダメー?!走って行くのぉー?!」
「走って行きません!ゴートゥーヘブンすぎる!!あるけぇ!!」
「え?歩くの?!」
「歩いたらダメです!トラヴィスさん!」マリ
「マリ?!なに?!死に急いでる?!あ?!こっちが帰り道ですかぁ?!」アエツ
「え?帰るの?このまま?」トラヴィス
「ちがーう!お前はそっちにいろ!あの世の人間連れていけるかぁ!!」アエツ
休む間もなく繰り広げられる見当違いな会話に、マリが現状を説明できる隙もなく。痺れを切らせたマリが叫ぶ。
「アエツさん!!とりあえず!もぉ!トラヴィスさんごとぶっ飛ばして!!トラヴィスさん!意地でも避けて下さいね?!」
「うわー。マリって雑なんだね。」トラヴィス
「え。仏さんぶっ飛ばすって……。マリさん。最近疲れてる?」アエツ
「いいから!…………黙って!…………私に!……従え!!!!」マリ
「「はいぃ!」」
アエツがマリを小脇に抱え直して後ろを振り向いたと同時に、ジレが複数の銃火器のような形に変化する。
「天使の剣。」
ドォォオオンッ
目を細める程の光のビームが発射され、トラヴィスを追っていた死体に命中する。トラヴィスは受け身を取りながらアエツの攻撃を回避していた。
パラパラパラ
壁が剥がれるような音だけが響き、あたりは突然静かになる。
アエツは両手を合わせて「なんまいだぶ。なんまいだぶ。なんまいだぶぅ。」と何度も呟いていた。
トラヴィスが言う。
「アエツ!助かったぁ!」
「なにぃ!お前!よけた?!よけたな?!仏さんなってもその異常な運動神経発揮してんの?!おれ!子供に言うわ!お化けもアクロバット可!!」アエツ
「アエツさん!トラヴィスさんです!」マリ
珍しいマリの大声にまた静けさが戻る。
アエツが驚きながら言葉にする。
「お、おう……。と、トラヴィスの亡霊……。」
「違います。トラヴィスさんです。紛れもない。元の姿に戻ったんです。死んでません。」
「………………………………は?」
状況を飲み込めていないアエツに、トラヴィスがいつもと変わらない調子で言う。
「おう!戻った!!だから、この姿だったら久しぶりだな!アエツ!!!」
「………………ほんと……に?言ってる……?」
「本当です。」マリ
「マジマジぃ!すげぇよな!めっちゃ久々にこんな地面走ったぁ!やっぱランニングはいいなぁ!」トラヴィス
「今のランニングって言うんですか……?」マリ
「え?違う?」トラヴィス
「命かかりすぎでしょ。いや。いいです。私、そーゆー(ツッコミ)役じゃないんで。」マリ
「んん?なんか分かんないけど、取り敢えずさ!アエツも合流したし、これで……。」トラヴィス
トラヴィスが話している最中だった。鼻を啜る音が聞こえる。
アエツを見ると、大粒の涙を流していた。
「………………ばがや゙ろ゙う…………。」
「うん。…………ごめん。ただいま!!!!」
アエツの号泣が落ち着くまで、暫くその場に留まることになった。




