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13-② 仲間は

 マリとトラヴィスはどこかの会議室の中に転移されていた。


 綺麗に整頓され、電気もついてない会議室は、さっきまでの光景が嘘のように静かだった。

 

「どこだぁ?ここ。」トラヴィス

 

「……。昼間、ベリーやニコが使っていた会議室のようです。確か、生物研究棟B棟の7階……だと思います。」

 

 マリとトラヴィスは立ちあがって、会議室の中を見渡す。トラヴィスが言う。

 

「よし!イーネに加勢しに行こう!」

 

「私、トラヴィスさんの事が分かってきた気がします。」

 

「え?!そお?!嬉しい!」

 

「なので、1回黙ってて下さい。」

 

「え……。あ。はい。すみません。」

 

 トラヴィスが黙ると、また静けさに包まれる。


 どこか遠くの場所で[ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙]といった音が聞こえた気がした。


 マリは腰のポケットから血液パックを一つ抜き取って飲み干す。

 

(千里眼。)

 

 壁が透けて見えて、周囲の状況を確認できる。


 マリが言う。

 

「…………な……に……。これ……。」

 

「ん?マリ?どうした?」

 

 マリは壁の向こうの景色を素直に受け止めることが出来ずにいた。それは、不快感とも恐怖とも言える感情だった。


 マリが言う。

 

「…………人……。です……。」

 

「誰かいるの?」

 

「…………。死人……。の方が正しいかもしれません……。」

 

「……。」

 

 各フロアに、数人から多い場所では数十人。ふらふらと人が廊下を彷徨っているのが確認できた。


 しかし、どれも何とか人としての形を留めているが、どこもかしこもグチャグチャで、まるで、必要な部分を抜き取った後の端材のようだった。

 

「……!まずい!1体入って来ます!」

 

「か、隠れよう!」

 

 と言って周囲を見渡すが、テーブルと椅子くらいしかない会議室の中に隠れる所など存在しない。

 

「マリ!ここ!ここ!」

 

 トラヴィスがそういって示したのは教卓だった。


 勿論、よくある形の教卓で、裏から見れば隠れている事なんてすぐバレる。

 

「それ、隠れてるって言え……。」

 

「マリ!はやく!」

 

 しかし、それくらいしか方法はなく、トラヴィスに促されるまま教卓に近寄ると、トラヴィスが先に教卓の下に潜りこんでマリに手招きするが、190センチの大男が入った時点で教卓下には隙間が無い。

 

「マリ!もぉ!なにぼーっとしてるの!」

 

「………………。」

 

 頭隠して尻隠さずとはこの事だなと思いながら、マリは取り敢えずしゃがんで教卓下に頭を入れるとガラガラと会議室の扉が空いた音がした。

 

 ぺチャッぺチャッぺチャッ

 

 人の形をした何かが、彷徨い歩く様に会議室に入ってくる。

 

 千里眼で様子を確認できるが、外見が見えない。


 マリは少しだけ顔を覗かせて会議室に入って来たソレを確認する。

 

(…………気持ち悪い……。それに……。)

 

 ゾンビという表現が1番近い。


 会議室に入って来たソレは、顔のパーツ全てと両腕が無かった。


 浅黒くなった肌は、何故かカラフルな縞模様が上下に行ったり来たりとしていて、まるで体の中に何かを飼ってるかのように蠢いていた。

 

(…………団服着てる……。)

 

 歩く屍はまるで何かを求めるかのようにフラフラと歩く。


 規則性は無いが、確実にこちら向かって歩いて来ていた。

 

(目を耳も鼻も無いのに……。何でこっちに?……。もっとよく見たら……。)

 

 マリが千里眼を使って凝視する。

 

(なんか……。学校の生物の授業とか……。もっと頑張るんだった……。)

 

 そんな事を思っている間にもソレは近づいてくる。


 マリはトラヴィスに言う。

 

「トラヴィスさん。行きましょう。」

 

「ん?え?……隠れるのやめるの?」

 

「はい。……多分ですけど、大丈夫です。」

 

 マリとトラヴィスはゆっくりと教卓から出て、歩く屍に体を向けながらもゆっくりと距離をとるように下がる。

 

「……うわ……。こんな見た目だったんだ……。すっご……。ってか、団服着てんね……。」トラヴィス

 

「……見えてるとか、そーゆー訳じゃ無いみたいですね。」マリ

 

「だって、目も耳も無いもんね。」トラヴィス

 

「分かりませんけど……。多分……。温度……。な気がします。」マリ

 

「温度?」トラヴィス

 

「取り敢えず、このまま避けて部屋を出ましょう。走って追ってくるとか。なさそうなんで。」マリ

 

「そうだな。」トラヴィス

 

 マリとトラヴィスは歩く屍を警戒しながら、すれ違うように部屋を出た。

 

 電気もついていない、誰もいない会社の廊下。


 窓から入る月明かりだけが光源になっている。


 トラヴィスが小声で言う。

 

「よし!イーネの所へ行こう!」

 

「行きませんよ。」

 

「え?!なんで?!」

 

「私達に出来ることはそれじゃ無いからです。」

 

「それじゃない?ん?どれ?」

 

「トラヴィスさん。生物研究科-γ班の研究所に行きましょう。」

 

「お!マリ!それって!」

 

「……無駄かもしれませんが、ラスターさんの事、探ってみましょう。」


 ――――――――

 <イーネ ラスター>

 

 会社のエントラスを囲んでいた強化ガラスが数枚、みるも無惨な木っ端微塵になり、ネズミ型のジャンクは外に溢して、外の石舗装の上に蔓延っていた。


 それを、爆発を受けたことによって、無数の擦り傷と砂埃にまみれたイーネが空中から見下ろす。

 

(バインドワイヤーが噛みちぎらるなんてな。ジーベルに文句ものだな。)

 

 ラスターは余裕の笑みでイーネを見上げていた。


 ラスターが言う。

 

「すっごいね!自分諸共爆破!更には僕を拘束しようと!その判断力!素晴らしいね!」

 

「…………。」

 

「君が来てたった数秒、数十秒!あの状況下で!君は考えた!このジャンク達の出所は?マリさん達が安全な場所は?」

 

「…………。」

 

「君はナユタ・グリージスに信頼を置いてるよね。ナユタ・グリージスは、ジャンクの脳波をノイズとして受け取る。それはつまり、ジャンクの索敵も可能であることを意味する。」

 

「…………。」

 

「ナユタ・グリージスが出入りする社内にジャンクを潜ませることは難しいと考えた。じゃあこのジャンクはいったいどこから?君は外から来たものだと判断した。」

 

「…………。」

 

「でも残念。ナユタ・グリージスの能力には欠点がある。一つは、小さい生物の脳波を感知できない。二つ、昆虫のような稚拙な脳波しか持たない生物を感知できない。三つ、死骸は例外。そもそも脳波なんてないからね。どの理由も彼自身が把握していないのは、ジャンクにそういった個体が存在しないからだ。君達の言う、ジャンク亜種を除いて。」

 

「…………。」

 

「ふふふふ。もう分かったんだ。そーだよ。社内にはね。端材を置いてきた。ミュータントモーグリって、博識な君なら知ってるかなぁ?自然下では、ナメクジなんかに寄生する寄生生物だ。少し改良を加えてね。端材を有効活用できるようにしたんだ。僕、結構もったいない精神が強くてさぁ。」

 

 ラスターは饒舌に話しをすすめる。少しハイになっている様だった。


 イーネの上空で数羽のカラスがくるくると回りだした。


 イーネが言う。

 

「お前の目的は何だ。」

 

「目的?科学者に目的なんて。あってないようなものだよ。何が役に立つか分からない。けれど、何かが役に立つかもしれない。お役に立てるように頑張った結果かなぁ。」

 

「マシロにとって。だな。」

 

 ラスターが笑顔を見せて言う。

 

「君はどこまで考えているんだろうね。ただ、木に縁りて魚を求む。だよ。信じちゃいけない。」

 

「あぁそーかよ。ま。いっこ試す気にはなったわ。」

 

 2人の間だけで会話が進む。


 ラスターは不敵な笑みを浮かべて続けた。

 

「僕が答えたんだ。君も教えてくれるかな?君の力って、便利なように見えて、すっごく不便に出来てるよね。どうして?何か理由があるんじゃない?」

 

「考えすぎだな。」

 

「そうかなぁ。僕の持ってる情報の中での仮説は、それは仮の力だ。違う?」

 

「…………。」

 

「そこで無言はよく無いね。」

 

 ラスターは流暢に話しを続ける。

 

「あぁ。そーいえば、おねぇさん達は元気?妹ちゃんも。」

 

 張り詰めた空気が流れる。


 徐々にカラスの数は多くなり、下にはネズミ、空にはカラス。


 黒くて無数のそれらによって、周囲は真っ黒な球体に閉じ込められているようだった。


 ラスターが言う。

 

「へぇ……。君って、そんな顔して怒るんだ。」

 

 ラスターが片手を空に向かって上げる。

 

「いけ。」

 

 空に舞う無数のカラスが一斉にイーネに襲いかかった。


 ――――――――――

 <タイヨウ達 動物霊園>

 

「………………どういうつもりだ。アルバラ。」

 

 ユウトが呟くように言った。


 車に乗り込もうとしたタイヨウ、ナユタ、ユウト、ベリー、ニコの歩みは、もうすぐ車というところで止まっていた。


 その前には、巨大化したアルバラが立ち塞がるようにして存在していた。


 アルバラはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべて言う。

 

『悪いけれど、お前達をいかせられないねぇ。』

 

 ユウトが言う。

 

「今度は、どーゆー風の吹き回し?」

 

『行く先は危険なんだろう?戦うかもしれない?悪いけれどユウトを危険な目には合わせられないねぇ。そーゆー契約なんだよ。』

 

「何を今更……。だったら、お前はタトラスとの勝負の時に僕を助け無ければならなかった。そんな素振りは無かっただろう。口からデマカセしかでないのか。」

 

『怒らないでおくれよ。私にも色々と事情があるんだよ。』

 

 アルバラとユウトの会話に割って入ったのはタイヨウだった。

 

「ほ、ほんまにアルバラやんけ!!おま!ユウトの従属って……ほ、報告は聞いたけどな……!ほ、ほんまか?!ほんまか?!え?ほんま?……。」

 

 それにアルバラは心底うざったそうに言葉を返す。

 

『テステオーレ。まだハゲたままなのか。』

 

「うるっっっっっさいわぁぁあああ!スキンヘッドじゃああああ!!」

 

 アルバラはタイヨウの大声に対して、器用に前足で耳元を塞ぐ様な動作をしてから答える。

 

『多くの犠牲を出してレティを討伐して。結局望みは果たせずか。やれやれ。』

 

(多くの犠牲……?レティ?……。)ユウト

 

「うるっさい!だまらっしゃい!お前に何がわかんねん!てか、そこどけぇ!」

 

『まぁ、貴様の私利私欲も私は好きだ。出過ぎた事はせんと約束してやろう。ただし、お前も私の好きにさせる事だ。』

 

「ぐぬぬぬぬぬ!くそ狐ぇぇええ……。」

 

 その会話の最中に、ベリーがユウトに耳打ちする。

 

「全員で掛かれば倒せるものなの?」

 

「無理だね。戦闘員といえるのはニコだけだ。イーネ、僕、タカトさん、マリ、そこに組織種一位の戦闘員が加わっても何の刃もたたなかったんだ。ここで足止めは確定だね。」

 

 またアルバラは不気味な笑みを浮かべて言った。

 

『テステオーレ。貴様もマシロも。神を夢見た残骸よ。次は禁忌に踏み込み、神の下につかんとす。なんと哀れ。人とは哀れなものよ。神はとっくに気づいておるぞ。』

 

「アルバラ。黙れ。」

 

 それはタイヨウらしからぬ落ち着いた声量だった。

 

「………………ナユタ?」

 

 何故か苦い顔をしているナユタの名前をユウトが呼んだ。


 アルバラが続ける。

 

『まぁいい。きっと素敵な祭りになるじゃろう。今日はここで大人しくしておれ。戦の気配が消えれば解放してやる。』

 

 それはつまり、メンバー全員、ここでの足止めを余儀なくされたということだった。

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