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13-① 仲間は

「マリってさ、死ぬの怖くないの?」


 トラヴィスがマリに話しかけていた。

 

「……怖いですよ。」

 

「っでも!ふっつーに戦ってんじゃん!この前まで、おーえる、だったんだろぉ?」

 

「まぁ、はい。そうですけど。関係あります?それ?」

 

 霊安室を監視しながら、トラヴィスと2人、暇な時間を過ごす。


 トラヴィスが言う。

 

「ふつーの人って、ぶっちゃけ戦えねぇと思うの!感覚種としてサポート役とかならまだしも、組織種として前線とかは難しい!」

 

「そーなんですか?」

 

「だって、怖いじゃん!」

 

「…………いや。私も怖いですよ。」

 

「そーかなぁ?そんな風に見えないね!」

 

 デフォルトで声の大きいトラヴィスのせいで、許可なく解剖室に入っていることがバレるんじゃないかと、ヒヤヒヤしながら話していた。


 トラヴィスが続ける。

 

「あ!わかった!じゃあ、マリは、自分の価値が低い人だ!」

 

「……何ですか?それ。」

 

「俺知ってるんだよ!自分の事を低く見積もっちゃう人っているんだよ!」

 

「……なんか。トラヴィスさんには似合わない、哲学的な話しですね。」

 

「てつがく?なにそれ。」

 

「…………。」

 

 どこか掴みどころのないトラヴィスに合わせて会話するのも疲れてきていた所だった。


 トラヴィスが言う。

 

「他人が付けた評価で、その人の価値は揺るがない!けれど、自分が自分で付けた評価っていうのは、難しいらしい!」

 

「…………はぁ。」

 

「それは、すっごく変えづらくて、その人をすっごく傷つけるにいたるもの!なんだって!」

 

「……誰が言ってたんですか?」

 

「ねぇーちゃん!」

 

「…………。」(おねぇさんいたんだ……。)

 

 そう思いなが、トラヴィスに言葉を返す。

 

「…………とても素敵なおねぇさんですね。」

 

「だろ?!俺はちょっと。いや。よく、何言ってるか分かんないけど!」

 

 そこで会話が一区切りついて、少しの間、沈黙が流れる。


 けれどそれは、決して気まずい時間ではなく、穏やかに感じるものだった。


 それが良かったのかもしれない。


 場所は解剖室と、穏やかという言葉からはかけ離れているが、そこはトラヴィスの人柄なのだろう。


 マリは、話すつもりじゃなかった事を、ポツリポツリと話し始めた。

 

「…………。トラヴィスさん。……私ね。…………ずっとずっと…………ずっと……。死にたいんです。」

 

「そーなの?!」

 

 トラヴィスは驚いた顔をしているが、それはマリの言葉を否定するものでも無ければ、軽蔑するものでもなかった。


 マリが話しを続ける。

 

「別に死にませんよ。死なないですし、病んでる訳じゃないです。何の不自由もありません。」

 

「うーん?」

 

「………………優しい両親がいます。普通に学校いって、普通に就職しました。仕事も平均並みに出来ました。恋もしたことあります。友人もいます。お金も困らないくらいにはあります。家事もほどほどにできます。」

 

「う、うん。」

 

「なんの不自由もありません。凄く健やかです。元気です。困ってません。」

 

「うんうん。」

 

「なのに……。何でなんでしょうね。…………いつから、この感情を持ってたかも分かりません。でも、就職するより前からあった気がします。………………死にたい、というより………………消えたい、って言葉の方が、しっくりくるかもしれません。」

 

「うんうん。」

 

「………………。でも、悲しませたくない家族も、友達もいます。それに、痛いのは嫌です。そもそも、死ぬ理由なんて無いんです。なので、死なないんですけどね。」

 

 相槌を打ちながら真剣に聞いていたトラヴィスは、マリの話しに区切りが付いたタイミングで言った。

 

「じゃあ、その、死にたいって感情も含めてのマリなんだな!」

 

「……はい?」

 

「きっと、神様がマリを作る時に入れたんだよ!胡椒少々!みたいに!」

 

「………………。」

 

「それって、マリの強みだな!」

 

「…………………………。」

 

「だって、そんなマリがいなかったら、マリは組織種として前線で戦ってないと思う!すっげぇよ!!マリの個性が核師にぶっささってる!!」

 

「…………………………………………。」

 

 トラヴィスの言葉は、マリにとっては心地よく感じるものだった。だから、誰にも話したことのない事を、トラヴィスには話したのかもしれない。


「あと俺も、自分の命ってどーでもいいから、ちょっとだけなら分かるかも!」

 

「…………そーなんですか?」

 

 マリは意外に思ってトラヴィスに問いかける。


 トラヴィスが言う。

 

「でも、それは、ねーちゃん曰く、どーでもいいんじゃ無いんだって!」

 

「……じゃあ何ですか?」

 

「自分以外の環境に、触れて、感じた、消しカスらしい!あ!消しカスって分かる?」

 

「…………分かりますけど……。」

 

「なんだろうねぇ!感情のケシカスってね!ほら!ねぇちゃんの言ってる事って分かんないでしょ?!」

 

「……………………。」

 

 この会話はこれで終わって、この後は、また別のどうでもいいことを話していた。


 けれど、マリにとってトラヴィスの言葉は、心の奥底に沈むように、なぜか、腑に落ちる言葉だった。


 ――――――――――

 [チチチチチチチチ]

 

 ネズミ型のジャンクが床一面を覆い尽くして真っ黒になっていた。


 それを空中から見下ろす。

 

「……イ、イーネ!……来てくれたの?!あ、あなただけ?」

 

「あぁ。それが最速だからな……。」

(ベリーの助言で正解だった……!あと数秒遅れてたら……こいつら……!)

 

 ラスターがゆっくりと見上げてくる。


 ラスターの体の上をネズミが這う。

 

「イーネ君!やっぱり来たね!あぁあああ!困っちゃうなぁ!君は一撃必殺で殺人が可能じゃないか!僕しんじゃうよぉ!」

 

(……だったら既に死んでんだよ。体組織(たいそしき)を分断できねぇ。ちゃっかり何か仕込んでやがる。)

 

 よく見ると、ラスターの皮膚の下で、ムカデの様なものが蠢いているのが見えた。

 

「やっぱり逃げるが勝ちだよね。勝てる訳ないんだから!」

 

 そう言うと、ラスターの足元のネズミ達が盛り上がって、ラスターを持ち上げはじめた。そしてそのまま地面をスライドするかのように移動する。

 

(ジャンクがラスターの命令を聞いている?……何でそんな統率がとれる……?………………でも……仕方ねぇな。マリとトラヴィス連れてラスターを確保するなんて出来ねぇ……。見逃すしか……。)

 

「絶っっ対逃すなよぉぉおおおおお!」

 

 トラヴィスがイーネ服を鷲掴んで叫ぶ。

 

「……は?」イーネ

 

「そぉぉおっれぇぇええええ!!」トラヴィス

 

 そして、イーネを振りかぶってラスターに向かって投げつけた。

 

「はぁぁあ?!」イーネ

 

 イーネがラスター目掛けて飛んでいく。というよりも、落ちていく。それとほぼ同時に、マリとトラヴィス自身も、浮力を失ったように地面に落下していく。

 

(あいつ!空中姿勢でどーやってんだよ!!ってか、そもそも!どうやって俺の能力に干渉しやがった!!)


 

-イーネの能力は空間への干渉。転移の能力全てに、イーネの干渉する空間が発生し、転移された直後は、この干渉が無くなるまで、対象の人物は身動きが取れない。その為、メンバーは、自分の位置が大きく変わる事に加えて、このタイムラグに慣れる必要があった。そして特に、人物が空中に留るように能力を使用している時は、常にその人物の周囲にイーネの能力が干渉している。その空間は、イーネ以外の人間が自由に出来るものではない。つまり、その空間をもろともせずに、トラヴィスはイーネをぶん投げ、さらには空間の状態がトラヴィスによって大きく変わった事で、全員がイーネの能力下から外れて落下していくこととなった。-


 

 落下しながらトラヴィスが叫ぶ。

 

「俺らのことは、だいじょーぶ!やれぇ!イーネ!!」

 

「……ばっ……かっ……かよ!」イーネ

(……落下で死ななくてもネズミに喰われて死ぬぞ!……取り敢えずアイツらを……!俺は……!)

 

 ドォンッ

 ――。

 

 イーネがネズミの蔓延る地面に落ちた瞬間にシッピーボムが炸裂し、大きな爆発が起こった所までは、マリの目に映っていた。

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