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12-⑤ 策略

<タイヨウバイオカンパニー 生物研究棟B棟 エントランス>

 

 会社の出口に向かって、マリとトラヴィスが並んで歩く。


 トラヴィスが言う。

 

「ごめんなぁマリぃ。なーんか鷹の時の癖が抜けなくてよぉ……。」

 

「もぉいいですよ。起きてくれて良かったです。帰れないかと思いました。」

 

 マリがコピーした千里眼の能力は消えていて、イーネ達がタイヨウを追いかけた先でどうなったかは分からない。

 

(取り敢えず、一回イーネに連絡してみるか……。)

 

 マリがそう思って携帯を取り出した時だった。

 

「トラヴィス・ゼイリー・アッシュカスター。資料でしか見たことありませんでした。お会いできて光栄です。」

 

 声を掛けられて2人の歩みが止まる。


 目の前に立ちはだかるように、その人は立っていた。

 

「……………………………………ラスター……さん……。」

 

 いつも通りのくたびれ白衣を着て、眼鏡の奥は優しく笑っているラスターだった。


 マリがラスターに声を掛ける。

 

「…………どうして……。こんな時間に……。こんな所に居るんですか?」

 

 それにラスターが答える。

 

「いや!タカトさんの遺体が盗まれたんだって?!僕に連絡が回ってきて……!こーしちゃいられないと思って、急いで来たんだよぉ!!」

 

「………自分で言ってて可笑しいと思いませんか?……。トラヴィスさんの名前を呼んでおいて、タカトさんの遺体が消えた……だなんて。」

 

「マリさんは、来た時よりも少しだけ変わったよね。もっと、言葉を発するのに時間がかかって、人の目線が、自分に向くのを嫌っているうよな。そんな印象だったよ。最近はそーでもないのかなぁ?」

 

「……。」

 

 マリは考える。

 

(……レンさんの血液が一つ。イーネの血液が一つ。それしかない……。トラヴィスさんは異能を失ってしまっている……。ラスターさんも、ただの研究員で、戦えるなんて聞いた事ないけど……。イーネ達が来てくれるまでの時間を稼ぐに越したことはないわよね。)

 

 また、ラスターが口を開く。

 

「トラヴィス・ゼイリー・アッシュカスター。その姿は、ミコによって手に入れたのかなぁ?そして、鷹の死骸を持ち帰ってきた……。考えたのはイーネ君だよね?でもさぁ、それって、ジャンクの種類の違いに、気づいてるって……ことなのかなぁ?本部には、何の報告も上がってないけれど?」

 

「ラスター!いつもと雰囲気違う!あと、俺は何も喋んない!何故なら!大事なこと言っちゃいそうだから!!」トラヴィス

 

(…………ジャンク亜種についての報告を上げてない?知らなかった……。確かにそれは、イーネの予測に留まっているものだけど……。イーネは、会社の内部に裏切り者がいる可能性にも気づいていた?……。)マリ

 

 ラスターが言葉を続ける。

 

「だって。核師の死体が、何かの重要なキーになっていると考え無いと、そんなことしないでしょ?そして、核師の死体を持ち去る者を追いかけた。それって、社内にいる裏切り者を炙り出そうとした……。違う?教えて欲しいなぁ。マリさん。君達が何処までの情報を握っているのか……。ミコの能力も使ったんだろう?手に入れたのは、タカトの本来の姿だけなのかなぁ?ちゃんと報告してくれないとぉ。僕達、仲間じゃないか。」

 

「…………ラスターさん……。さっき、ジャンクの違いに気づいてるのかなぁ。……みたいなこと、言いませんでした?つまり、アナタも知ってるって事ですよね?……ジャンクの違いに……。」

 

「あぁ。しまった。興奮して、つい口を滑らしてしまったね。」

 

 ラスターの様子に不信感をつのらせながら、マリが言う。


「…………。あなたこそ、ジャンクの違いに気づいているなら、もっと大々的に核師全体に周知させなかったんですか?それこそ、あなたの役目だと思いませんか?」

 

 ラスターが笑みを見せる。


 優しい笑みだ。


 ラスターが言う。

 

「ジャンクは2種類。一つは、マシロ様が作った神の一品だ。そして、数だけ多い、同種の模造品……。」

 

「…………………………マシロ…………様?」

 

 マリの指摘に、ラスターは、少しだけ焦ったような、しかし、それも演技のような表情をする。

 

「あぁ!僕ってば!……。つい……。いつものクセがぁ…。」

 

 次はマリから口を開いた。

 

「……………………ラスターさん。……私達は、慄花の消し方を知りました……。それは、ラスターさん、貴方を殺す事です。」

 

 その言葉に、ラスターは黙ったまま真顔になった。

 

(…………この反応……。ラスターさんも、知らなかった……?どうだろう……。分からない……。)

 

 すると、ラスターは徐々に肩を震わせて笑い出す。

 

「ふふふ……。ははは。あははははっ!ええ?!そうなのぉ?!びっくりだよ!あああー。僕もあの方の役に立つ時が来たんだねぇ。嬉しいよ!…………つまり、つまり、つまり、つまり!!僕の役割が理解できたよ!僕の役割は、その美しい慄花を消させないこと!!君達を確実に、その呪いで!その神の手で!殺さなくちゃ!!花は咲いてから枯れなくちゃいけない!!」

 

 ラスターのその様子は、マリとトラヴィスが知るラスターでは無かった。


 ラスターはハイになって言う。

 

「でもでもでも!それじゃあ君達から逃げないと!でもでもでもでも!ただの僕が、異能を持つ核師から逃げる?!核師と戦闘して勝つ?!無理無理無理無理!無理だよ!だって僕はただの僕だから!!!」

 

「ラスターさん。アナタは何者なんですか。何を知ってるんですか。」

 

「………………。あぁ。もぉいいか。狙われるのにも変わりないし、これを使うのにも変わりないんだから。」

 

 ラスターは落ち着きを取り戻したのか、真顔になって言う。

 

「マシロ様は悩まれていた。人に異能を授けられずに悩んでおられた。マシロ様の神の作品から、人に異能を授けたのは僕の師だ。それを、テステオーレは利用し、あまつさえ神にすげ代わろうとした。なんて愚かなことだ。そして僕は、テステオーレが作った、この駄作を有効利用することに成功した。それはもっと愚作になったけれど、いつか、この愚作から、ほんとのジャンク品が産まれるのかなぁ?」

 

「………………何……。言ってるんですか……。」

 

 [チチチチチチチチ]

 

 周囲から不気味な音がする。


 暗闇の中から、何かの塊が近づいているようだった。

 

 [チチチチチチチチ]

 

 床を埋め尽くし、黒い絨毯のように見える何か。

 

 [チチチチチチチチ]

 

 ラスターが言う。

 

「最初は核師1つで5体くらいが限度だったんだけどね。今は小さく細分化して、沢山作れるようになったんだ。」

 

 うごめく何かは、通常よりも少しだけ大きいネズミだった。


 額から小さな角が生えていて、目は吊り上がり、赤く光っている。

 

「…………ジャンク……亜種……。」

 

 マリが呟くように言った言葉に、ラスターが反応する。

 

「亜種?そんな名前を付けたの?それじゃあ、ジャンクと同等って意味になってしまうじゃないか。畏れ多いなぁぁぁあああ。ちなみに、ネズミのこの子達はね。何でも食べるんだ。際限なくね。きっと、衣服の欠片も残らないよ?。」

 

「……………………こんな大量に……。どこに……。」

 

「何年もかけて仕込んだんだぁ。この会社に、たぁぁあくさん。本当は、マリさんにも慄華で死んで欲しかったけど、仕方ないよね。きっとマシロ様は分かって下さる。2人を殺して、遠い所に逃げちゃおう。その呪いが、花開くまで。」


 一呼吸置いてから、マリがラスターに言葉をかける。

 

「………………。ラスターさん。……最後に……。これだけ教えて貰えませんか?」

 

 ラスターはいつもの優しい表情でマリを見る。


 ネズミの塊が蠢き、ラスターの体に登ったり、降りたりするのもいる。


 [チチチチチチチチ]というネズミが発する音がうるさい。

 

「ん?なぁに?」

 

「イーネとベリーは何者ですか?」

 

「へぇ。どうして?」

 

「マシロが狙ってるのは、2人ですよね?それを、マシロも、タイヨウさん達も、周りがそれに勘付かないように、たち振舞ってるんじゃ無いですか?」

 

「どうして僕に?」

 

「あなたには、"言っちゃいけない呪い"が無いと思うから。」

 

「………………へぇ。マリさん。以外と色々考えてるんだね。でも残念。僕も良く知らないっていうのが答えだ。」

 

「………………。」

 

「けれど、これは教えてあげるよ。」


 ラスターは笑顔を見せて言葉を続ける。

 

「最初の任務に、君とニコ君を入れたのも、ユウトと一緒に、イーネ君の店に行かせたのも。………………そして、調査の済んでない森に向かわせて、ジャンクを差し向けたのも……。」

 

 マリが驚いた顔をする。


 ラスターは不気味に笑っていた。


「僕がマシロ様の為に動いたことなんだぁ。」

 

「…………………………。」

 

「でもね。誤算だったの君だよ……。マリ・リルベラ。」

 

「………………私?」

 

 愉快な表情をしていたラスターの顔つきが、徐々に真顔に変わる。


 ラスターは言う。

 

「ナユタ・グリージス。彼の能力は、僕が最も警戒しなければならないものだ。でも。問題ない。僕の計画に支障は出ない。…………はずだった……。なのに………………。」

 

「………………。」

 

「テステオーレは、ナユタ・グリージスの能力を見込んで、彼に特別な権限を与えていた。それは、2人だけで交わされ、他に誰1人として知る者はいなかった。君が会社の採用に落ちている筈の書類を見なければ、分からなかったよ。」

 

 ラスターは怒っているようだった。


 青筋を立てて話しを続ける。

 

「君が、ナユタ・グリージスの口利きで入社していたなんてねぇ…………!君達はナユタ・グリージスと行動を共にするようになった!!それがどれほど邪魔で扱いにくかったか!!!僕はもっと!もっともっともっと!君達の内部に入り込んで、もっともっともっと!弄り倒しているはずだったのに!!!」

 

「………………ナユタさんがいる場所に、アナタの影が無かったのは、やっぱり、そーゆー事だったんですね。」

 

 またラスターが笑顔に戻る。


 天井を見上げ、両手を広げて言う。

 

「でも。もう大丈夫。やるべきことが分かったんだ。……あぁ。マシロ様の願いが叶いますようにぃぃいいいいいい。」

 

 ラスターの瞳は、獣の目のように瞳孔が細長く、赤く光っていた。

 

「さようなら。マリさん。そして、タカト。」

 

 ネズミ型のジャンクは、一斉にマリとトラヴィスに襲いかかった。

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