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12-③ 策略

「おわったの?!」

 

「…………。はい。とりあえず、連絡します……。」

 

 マリはそう言いながら携帯電話を手にして、イーネに電話をかける。


 ワンコールでイーネが出た。

 

'どーした?'

 

「いやそれが……。何事も無く終わったの……。解剖には4人の研究員が立ち会っていたけど、皆んな帰って行った……。」

 

 '鷹の死骸は?'

 

「解剖室のすぐ隣が、霊安室みたいになってるみたい。8畳くらいの広さで、何か、ストレッチャーみたいなので運ばれて、そのまま。」

 

 'じゃあまだ、鷹の死骸は、その霊安室にあるんだな?'

 

「うん。」

 

 'じゃ。そのまま張り込みだな。'

 

「…………え?」

 

 '能力使いっぱなしもしんどいだろ。その霊安室を監視できる場所を探して移動しろ。後でゴミカスマッシュの血液持ってってやるから。'

 

「え?それっていつまで?」

 

 '基本的に解剖された翌日の午前に、葬儀屋が遺体を取りに来るらしい。だから、最低それまでだな。'

 

「………………泊まり込み?」

 

 'おう。'マリさん!トラヴィスと2人でそんな所に夜通し張り込みなんて!僕は反対……ブツッ''

 

 ナユタの言葉の途中で電話が切れる。

 

「なになに?!イーネ、なんて言ってた?!」

 

 ワクワクした表情でマリを見るトラヴィスに、マリはげっそりとした表情で事の経緯を説明した。


 ――――――

 <深夜0時 解剖室>

 

 霊安室を監視するには、真隣りの解剖室しか無かった。


 霊安室に繋がる扉を、僅かに開けて覗き込む。


 周囲は暗闇に包まれ、非常口の明かりだけが辺りを照らしている。


 解剖室は何故か肌寒く、やけに排水溝が目立ち、手術室で使うような機材が無機質に置かれ、中央には遺体を寝かせる場所として、蛇口のついたステンレス製の銀の台が置かれている。

 

 隣りの霊安室は白を基調としており、中央には、ストレッチャー。上から白い布が被せてある為、中が見えないが、おそらくそこには鷹の死骸が置かれている。頭元には仏様が飾られた台。それ以外は何もないシンプルな部屋だった。


 トラヴィスが話す。

 

「どーする?!マリ!交代で仮眠とる?!」

 

 ある意味、ホラー演出なこの場に、全く似合わない明るい声と明るい笑顔だった。


 マリが言葉を返す。

 

「そ…………う……ですね。」

 

「マリ寝れそう?!」

 

「いや……。寝れません……。」

 

「じゃあ、俺先に寝るね!」

 

 トラヴィスはそう言うと、中央の解剖用の台に靴を脱いで上がって横になった。

 

「え?……。そこで寝れるんですか?」

 

「寝れるよ!おやすみー!」

 

 トラヴィスは仰向けの姿勢で手を胸のあたりで組んで、目を瞑る。


 それから10秒後くらいに、スースーと穏やかな寝息が聞こえてきた。

 

「………………寝てる……。すご。」

 

 マリはその様子に関心しつつ、扉の隙間から霊安室をとにかくじっと見つめ続けた。

 

 1時間後の午前1時頃。

 

(…………嘘?!誰か来た?!……。)

 

 こちらに近づいてくる足音が聞こえ、暫くすると、ガチャガチャと霊安室の鍵をあける音が聞こえると、懐中電灯で中を照らす様子が見え、マリは息を潜めてその様子を伺う。


 霊安室に入って来た1人の男は、ストレッチャーの前で立ち止まり、白い布を取って鷹の遺体を確認しだした。


 鷹の遺体を暫く見ていたその男は、鷹の遺体を抱える。

 

(持って行くつもりだ!!)

 

 マリは静かにポーチに手を伸ばして血液パックを一つ抜き取ると、静かに中の血液を飲み干す。

 

(………………千里眼!)

 

 男は鷹の遺体を抱えて霊安室の外に出て、そのまま会社の外に向かっているのが千里眼で確認できる。

 

(……イーネに連絡。)

 

 電話をかけると、ワンコールでイーネが出る。

 

「来た!鷹の死骸を持って行った!今、会社の外に出ようとしてて……。」

 

 'こっちで怪しいセダンを見かけたよ。車で追う。マリ、来れるか?'

 

「いや。先に行ってて!トラヴィスさん寝てるのよ……。起こして追いかけてたら遅れちゃうから。」

 

 '分かった。こっちも連絡するから、連絡よこせ。'

 

「分かった。………………あと、イーネ。」

 

 '何だ?'

 

 マリが一呼吸置く。


 マリにも伝える勇気が必要だった。


 マリが意を決してイーネに真実を伝える。

 

「………………鷹の死骸を持って行ったのは……。……………………タイヨウさんだった……。」


 ――――――――――――

 <車内>

 

 ナユタが車を運転し、ナユタ、イーネ、ニコ、ベリー、ユウト、アルバラを乗せたバンは、前を走る黒のセダンを追いかけていた。


 しかし、セダンは、街の方からどんどん山手に向かっていて、このまま追跡を続けて怪しまれないだろうかと考えていた所だった。


 ベリーが言う。

 

「ふわぁぁああ。眠い。…………結局、昨日一日、会社で待機してたのに、こんな夜中に出るハメになるなんてね。」

 

 次にユウトが言う。

 

「……っで、しかも相手がタイヨウさん……ね……。」

 

 イーネが運転中のナユタに言う。

 

「タイヨウの思考読めねぇのかよ。」

 

「え?!運転しながらこの距離から無理だよ!せめて運転してないならまだしも!」

 

「無免許で良ければ変わるけどぉー?」イーネ

 

「ダメだよ!」ナユタ

 

 次にニコがナユタに話しかけた。

 

『運転免許持ってるのナユタさんだけデスもんね。なんで、ナユタさんは免許持ってるんデスカ?』

 

「え?!あ。あぁ。僕、基本単独任務だったし、時々、任務地が近い時とかは、自分で運転して行ったりもしてたから……。」ナユタ

 

「どんだけ人嫌いなんだよ。テメーは。」イーネ

 

「う、うるさいなぁ!僕の勝手だろ?!」ナユタ

 

「嫌いなんかじゃないよ。自分の能力下に他人が入ると申し訳なさでいっぱいになるんでしょ?特に会社の人とかは。」ユウト

 

「どっちでもいーよ。陰キャ根性に変わりねぇ。」イーネ

 

「何?!運転してあげてるんだけど?!何でディスられてるの?!」ナユタ

 

 するとイーネ携帯にマリからの連絡が入り、イーネが読み上げる。

 

「'トラヴィスさんが起きません。'だとよ。」

 

 それにユウトが答える。

 

「あぁ。なんか、トラヴィス先輩、鷹の時の癖が抜けないみたいで、夜弱いんだよね。『タカトさん。ご飯ですよー。』って言ってみて。って連絡して。」

 

「それ、早く言えよ。夜間の張り込みメンバーにはメチャクチャ不向きじゃねぇか。」イーネ

 

「そのかわり、日の出と共に起きるから、朝は強いよ?ほら。夜中は頑張って起きても、朝方に眠くなったりしない?」ユウト

 

「そーゆー問題じゃねぇよ雑破野郎が。夜に起こしても起きねぇ時点で向いてねぇんだよ。」イーネ

 

 そんな事を話しながらも、車はどんどん山の中に進んでいく。


 暫くして、タイヨウの乗る黒のセダンは突然左折したかと思うと、その先には開け放たれた大きな門があり、そこを通って、広く整備された急斜面を登って行った。


 そこは、山の立地をそのまま利用した、何かの施設のようで、広く整備された道がクネクネと続いている。


 あまり建物らしいものは見えず、道路の両サイドは人が手入れしている様子のある草木が続いていた。


 ある程度の距離をあけながらタイヨウの車を追うと、黒のセダンが適当な場所に駐車されているのが見え、少し距離をとって、イーネ達も車を止める。


 アルバラを除く全員が車から降りて、タイヨウの車の様子を伺うが、既にタイヨウは歩いて別の場所に移動した後のようだった。


 イーネがナユタに言う。

 

「周りは?」

 

「ちょっと待って。今"みてる"から。」

 

 ナユタが両目を瞑って周囲を索敵する。


 人の思考らしきものは一切流れてこない。


 ナユタが言う。

 

「誰か潜んでるって可能性は無さそう。」

 

 今度はユウトがナユタに声をかける。

 

「っで、タイヨウさんはどっちに居るの?」

 

「この道を真っ直ぐ先だよ。誰かと話してるみたい。」

 

 次はイーネが言う。

 

「ま。もぉ本人に会うんだ。直接聞きたいこと、聞かせてもらおうか。」

 

 ナユタがタイヨウの下へ案内するように進むのを、他のメンバーはついていった。

 

 少し進むと、懐中電灯の灯りが二つ見えた。


 そこには、タオルに包んだ、おそらく、鷹の死骸を抱えたタイヨウと、襟のついたシャツとスラックスを履いた、腰の曲がった小さなおじいさんが、2人で何かを話しているようだった。


 その隣には、小さな小屋のような建物がある。


 イーネが言う。

 

「……いくぞ。」


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