11-⑤ 都合のいい話し
<チェッキス ホテル内>
一同は、イーネとナユタが借りていたホテルの一室にいた。
さびれた古いホテルだが、2人用の部屋ともあって、そこそこに広いが、さすがにイーネ、ナユタ、マリ、ユウト、ニコ、トラヴィス、ミコが入ると圧迫感がある。アルバラはベッドの端で眠っていた。
ミコの車椅子は持って来ていない。ミコは歩けない訳ではない為、適度に先導したり抱っこしたりしながらここまで来て、今はベッドに腰掛けていた。その隣にはマリが座る。
トラヴィスはナユタの服を借り、着用が済んだ所だった。
トラヴィスが言う。
「きっつぅー!ギリギリ!丈と裾たんねぇ!」
「仕方ないだろ?!もぉそれあげるから!絶対伸びてるし!とりあえずそれで我慢して!」
「おお!ありがとなぁ!ナユタぁ!……よいしょぉ!」
プチンッ
ニコとユウトがもう一つのベッドに腰掛けていて、トラヴィスがその隣に座ったと同時にボタンが弾ける音がする。
「あ。やっべ。ズボンのボタンとれた。」トラヴィス
「後で買いに行きますよ。僕。」ユウト
「俺もいく!」トラヴィス
「まだ変態っぽい格好してるんで、また今度にして下さい。」ユウト
「えぇー。わかったぁ。」トラヴィス
ナユタとイーネはホテルに備え付けられていた椅子に腰掛けている。
最初に話し出したのはマリだった。
「……あのぉ。初めまして……。トラヴィス?さん。」
「え?!初めましてになるの?!ずっと一緒にいたじゃん!初めての任務も一緒だったのに!!」トラヴィス
「いやぁ……。見慣れなさすぎて……。」マリ
そこにユウトが割って入る。
「改めてですけど……。戻ったんですね。」
そこにナユタも付け足す。
「おかえり。トラヴィス。」
「たっだいまぁ!え。結局俺ってトラヴィス?タカト?んまぁ、何でもいーんだけどな!」
次に話したのはイーネだった。
「そもそも、タカトって名前が鷹になってから付けた名前だってことも知らなかったよ。」
それにユウトが返す。
「鷹でタカトって。元々その名前だとしたら天明すぎない?すごい安直。」
「安直って……。名前つけたのユウトなのに……。」
ナユタのその言葉はユウトの耳には入ってないようだった。ユウトの言葉にニコが返す。
『喋れない仲間が1人減っタ。悲しい。』
それにトラヴィスが元気よく返す。
「大丈夫だ!俺10年くらい鷹だったけど、案外いける!それに、いつか突然喋れるようになるかもしれねーぜ!!言葉は言葉じゃない!言葉は……?ん?言葉は……。まぁ!あれだ!だいじょーぶ!!」
「タカトさん。なんの慰めにもなってないですよ。」ユウト
「そっか!ん?なぐさめって、どゆこと?」トラヴィス
そのやり取りにイーネが口をだす。
「あー。分かった。トラヴィス、てめーのことは大体分かった。だから喋んな。あと、ユウトも"トラヴィス"で統一しろ。ややこしい。」
「おう!わかった!喋んない!」トラヴィス
「駄目ですよ!トラヴィス先輩!先輩の方が先輩なんだからゴツんと言わないと!」ユウト
「え?!あ。そっか!よし!……ん?ゴツんってどんな感じ??」トラヴィス
「そりゃ、ゴツんとです。」ユウト
「んんんー?!ご、ごつん。こ、こうか?」トラヴィス
トラヴィスが腕を振り回したと同時にビリリと音がして、トラヴィスが来ている長袖の脇の所が大きく破ける。
「あ。やっべー!やぶけた!!」トラヴィス
「…………。」イーネ
引いた表情のイーネにナユタが声をかける。
「……ユウト、ちょっとテンション上がってる。……あと、あの2人揃うと、大体悪ふざけしてるから、ほっとくのが一番だよ……。」
「……そーみたいだな。」イーネ
トラヴィスとユウトがふざけながら話している中に、ニコも加わって、さらに話しがふざけた方向に脱線しそうになっている所にナユタが声をかける。
「はい、はい、はい。君達。遊んでないで、これからのこと話さなくちゃでしょ?」
そこに茶々を入れたのはマリだった。
「ナユタさんって。以外と常識人なんですね。」
「え?!マリさん?!以外とってなに?!僕が一番の常識人だと思うけど?!」
そのやり取りにイーネが口を挟む。
「何が常識人だよ。寿命屋の事を調べあげてるなんて大嘘ぶっこいた奴が。」
「また君!僕のこと、嫌な能力ナンバーワンとか思ったろ?!」
「あと、そもそも、ミコの儀式を中断させたペナルティがどんな物か分かって無かったのにぶっこみやがって。お前も充分イカれてるよ。」イーネ
「うっ……。そ、それは……。ご、ごめん……。」ナユタ
「あぁ。確かに。じゃあ、ナユタさんも人のこと言えないんですね。」マリ
「ま、マリさん…………!」ナユタ
そんなことを言いながらメンバー全体が落ち着きを取り戻して本題に入る。
最初に口を開いたのはユウトだった。
「なんで、タトラス達はミコを狙ったんだろうね?」
それにニコが言葉を返す。
『狙う?攫おうとしたんじゃなかったっけ?』
「ああ。そうそう。"貰って帰る"とか言ってたし、多分そーだね。」
それにイーネが返す。
「ミコを攫おうとした理由は現時点じゃ分かんねぇだろ。まだミコに固執して狙いにくるかどうかも分からねぇ。考えても仕方ねぇよ。」
「ま。そっか。」ユウト
次に話し出したのはニコだった。
『あと、アイツら、戦闘中に、"戦闘員じゃない"。ミタイなこと言ってたよ。戦闘系の能力者ジャナイ?みたいなコト。』
ニコの言葉に、他のメンバーは引いた顔をする。
言葉を返したのはユウトだった。
「あのレベルで……か……。じゃあ、戦闘員となれば……一体、何処まで強いのか……。」
「調子の良かったニコが一撃も入れられてねぇ。それに俺らは、あいつらが油断している隙を付けた。同じ土俵で戦うとなると……。」イーネ
次にニコが言葉を続けた。
『今のままのメンバーで、向こう側が戦闘体制整えて、また、ミコを攫いに襲われタラ。結構ヤバいかもね。』
ニコの言葉にイーネは少し考える素振りを見せて、再び口を開いた。
「とりあえず。マリ。ミコとトラヴィスを連れてタイヨウカンパニーまで帰れ。」
「え?」マリ
さらにイーネが言葉を続ける。
「俺、ナユタ、ユウト、はテンジョウ家に行く。ニコは護衛役としてマリと一緒に行動だな。」
メンバーはイーネの言葉を黙って聞く。
イーネが続ける。
「その変わり、マリ、ニコ、ミコ、トラヴィスはゆっくり帰れ。俺らがテンジョウ家を経由してタイヨウカンパニーにつけるまでな。だから、俺らは速攻でテンジョウ家目指して立つぞ。」
意図の分からないイーネの提案にユウトが言う。
「それはどーゆープラン?」
イーネが答える。
「まず、俺らが素直に帰って、デグス・ラスターが慄華を消すトリガーだと説明して、どーなると思う?」
それにはナユタが答える。
「んー。まぁ、とりあえず、猶予と思われる1ヶ月までは話し合い……かな……。まぁ、ずっと話してる訳にもいかないし、別の任務をこなして、マシロに対する何か情報が掴めないか行動しながら?」
「身内を殺すんだ。そーゆー生ぬるい判断になるわな。」
そこにユウトが口を出す。
「そーゆー生ぬるい判断にならない為に、何か秘策でも?」
イーネが答える。
「マリには鷹の死骸を持って帰らす。そこらへんの野生のな。そんで、タカトは死んだことにする。」
「え?!俺死ぬの?!」トラヴィス
「ちょっと黙ってろ。」イーネ
イーネに一蹴されてトラヴィスは口の前で、指で罰をつくって黙りこむ。
イーネが続ける。
「核師の死体は、ジャンクへの対策研究の為に死亡解剖にまわされるらしいな?」
ユウトが「そうだね。」と相槌を打つ。
「タカト死体。って定のただの鷹の死骸は、死亡解剖になるだろう。で、ジャンク亜種には核師の死体が使われているんじゃねぇかって俺の予想だ。予想が正しければ、タカトの死骸を追えば、ジャンク亜種への手掛かりが掴めるかもしれねぇ。」
「ちょっとまって……。それって……。」
マリが言いかけてやめる。その続きの言葉をユウトが言った。
「…………タイヨウカンパニーに、核師の死体を横流ししている敵側のスパイがいる……。と……。」
またイーネが話しだす。
「だから、マリには任務に出ずにタイヨウカンパニーに居て貰わなきゃいけねぇ。トラヴィスが人間だったのは10年前だ。人間の姿を知ってる奴も、上層部の人間の限られた奴だろ。記憶喪失の一般人とでも適当なこと言って、ミコなり、トラヴィスを守る役割。護衛ないし、補助する役割にまわれ。そもそもマリはコピー能力だ。ユニットの主要というより、補助の役割が大きい。元々のユニットメンバーが居ない状況で、マリが強く主張すれば意義を唱える奴は少なねぇとは思うよ。」
そこにユウトが口を挟む。
「でも、それって鷹の死骸を追えるって状況には結びつかないけど。」
イーネが話す。
「だからだ。ソナーの役割となる能力がいる。タイヨウカンパニー以外の人間でな。それを、テンジョウ家に借りに行くんだよ。」
「…………うーわ。そこはちょっと無茶苦茶するね。」ユウト
それにナユタが付け足す。
「結局、ポッツォさんが掛け合っているはずの、テンジョウ家の言葉を教える人間も用意されてないのに……。」
「だからだよ。直接行って掻っ払ってくんだよ。」イーネ
「野蛮人だ……。」ナユタ
そこにユウトが付け加える。
「ま。確かにマリさんなら、能力の内容にもよるだろうけど、テンジョウ家の人間がタイヨウカンパニーに居たら不自然だけど、最悪コピーして使用できる。その点でもいいかもしれないね。」
そこにナユタが口を出す。
「え……。その思考……。掻っ払うって……。本当に攫うつもりじゃないよね?!イーネ。」
「テンジョウ家の出方次第だな。」イーネ
「やめてよ!人を犯罪に巻き込むの!!」ナユタ
今度はマリが口を開いた。
「じゃあ、とりあえずは、タイヨウカンパニーに潜んでいるんじゃないかと思われる、マシロ側の人間を炙り出す為に行動するってことよね……?でもそれって、ラスターさんの件は、結局は解決してないんじゃ……。」
「…………。」
少しの間、沈黙が流れた。
ゆっくりとした口調でイーネが言う。
「なぁ……。マリ……。一番最初に俺の店に来た時、誰に言われて来た?」
「え?…………。ユウトさん……に……。」
「ユウトは?」イーネ
「……………………ラスターさんにだよ……。」ユウト
イーネの聞き方は、いつもの感じとは違って、嫌な予感を感じさせるものだった。
イーネが続ける。
「俺とベリーの血清適合に、マリの能力が使えるかもしれないって言ったのは?血清適合の時に同席してたのは?」
マリがゆっくりと答える。
「…………ラスター…………さん……。」
イーネが続ける。
「マシロの襲撃の時、あいつは現場に顔を出した。逃げ遅れたとか言ってな。その後、出現したジャンクの数は?」
答えたのはユウトだった。
「15体だ。……核師1人に1匹のジャンクが出現した……。」
「…………おかしいんだよ。それが。…………タイヨウカンパニーにはナユタが居た。あの場には居なかったが、核師の人数に合わせるなら、ジャンクの数は16体だ。」
「………………。」
またイーネが続ける。
「ナユタ。お前。ラスターと面識あるかって話し、俺としたんだよな。」
それにナユタが答える。
「…………僕、ラスターさんと喋ったこと。ほんとに無いんだよね。凄い大勢の式典みたいなので見かけたことはあるんだけど……一対一とかは一度もない。」
イーネが言う。
「核師の専門家がナユタと喋ったことが無い……。なんて、おかしな話しだと思わねぇか?…………それとも、ナユタには近づけなかった。」
「………………。」
誰もが沈黙する。
確認するように言ったのはユウトだった。
「………………イーネ。君は……。」
イーネが答える。
「…………あくまで俺の予想だが……。」
「…………。」
「デグス・ラスターは黒だ。」




