11-④ 都合のいい話し
『----♪♪-----♪--♪!』
歌声が近づく。
その歌声を聞いた全員に、体の中からゾワゾワと気味の悪さが立つ。
不快感が襲い、重量が突然何倍にもなったかのように体が重たく沈み、立っていられず、思わず片膝をついてしまうような。そんな歌声。
タトラスが困惑した声をあげる。
「は?!この能力?!」
ビュンッ
イーネ達の背後から、3つの黒い円盤が頭上を通って姿を現す。
そこには、ニコライドセンターの上で歌うニコの姿。
辺り一体が、いっきにライブ会場と化す。
「やっと…………来たな……!」イーネ
-ニコの能力は聞いた者全員に作用する。ジャンクとの戦いであれば、バフ効果のある歌声で味方を強化して戦えばいいが、人間が相手となると、敵にも同様にバフ効果が適応される為、効果的とは言えない。その為、イーネ達はあえて、デバフ効果のある歌を選択した。-
イーネは思考する。
(俺らはこれでも、ニコのデバフに慣れる訓練してんだよ……。それに最初からデバフがかかると分かってる俺らと、突然デバフをかけられたお前ら……!……当分は動けねぇだろ!!……!)
歌声を聞けば聴くほど、体は硬直し、吐き気を催し、体の中の不快感に支配される。
タトラスが何とか声を出す。
「まるっきりラランの能力?!どーなってる……!うっ……ぐっぅ……!久々にくらった…………きっっつ…………!」
その間に、マリが準備していた。
イーネ達から一歩引いた所で空に向かって白くて大きな大砲を抱える。
マリが呟くように言う。
「……大天使の裁き。」
ドォォォオオオオオンッ
目が眩むような閃光とともに空に向かって発射された一筋の光は、空中のジャンクを捉えることは出来なかったものの、攻撃を避ける為に、ジャンクは大きく体勢を崩し、それによって空の突風も止んだようだった。
――。
その隙をついてイーネが、ニコとニコライドも含む全員を空へと転移させる。
(このまま逃げ……。)
イーネの転移の能力が上手く発動しない。
マリを見ると、右腕には白いジレを纏わせて、左手でアルバラを抱えている。
アルバラはニヤニヤと笑う。
「邪魔すんな!アルバラ!!」
『ククク……。なんのことだ?』
「私特性!特別なぁぁ!!マフラー!!!」
地上からライナックスが叫んでいて、赤茶色のマフラーがイーネ達がいる空中まで伸びてきたかと思うと、ニコを絡めとって下まで引き下げる。
ニコが居なくなったことで操縦が疎かになったのか、一緒に3つの黒い円盤、ニコライドも落ちていく。
「ニコ!」
マリが叫ぶ。
その間に、体勢を立て直したジャンクが、イーネ達を狙っていた。
大きなジャンクの翼は怪しく光り、今まさに、イーネ達にジャンクの力が炸裂しそうな、その時だった。
ミコの声が聞こえる。
「しぃちぃほう、きっぽう、てーんのちょーうのもゆるとき。はーちーぶーはーおーめーん。にーぶーはーくーち…………………………。」
ブァッ
ミコが話す途中でジャンクの攻撃がイーネ達を襲う。
ジャンクが翼をはためかせると、辺り一体に黒い粒がひしめき、その粒を吸い込めば呼吸器官を針で突き刺すような痛みが襲った。
「「ゴホッゴホッ!」」
少し吸い込んだだけでナユタとマリが大きく咳き込み、血が混ざった痰が出る。
(やばい……!皆んなを逃さねぇと……!)
イーネがそう考えていた時だった。
ミコが言う。
それは鬼のような形相だった。
「誰……?誰?誰?誰?誰誰誰誰誰誰誰ダレダレダレダレダレダレダレダレだれだれだれだれだれだれだれ?!!!」
メンバーは息を止めながらミコの様子を見ることしか出来ない。
ミコは怒り狂ったような声を出して叫ぶ。
「駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ダメダメダメダメダメダメダメだめだめだめだめだめだめ!!!」
視力の無いはずのミコがジャンクを睨みつける。
「邪魔………………するなぁぁあああああああ!!!!!」
ミコがジャンクに向かって両手を伸ばす。
「断罪の断頭台!!!」
すると、ジャンクを囲むように黒いリングが現れ、よく見ると、リングには不気味な模様と、ジャンクの体を突き刺すような柱が伸びて、ジャンクの体を拘束しているようだった。そして
ジャキンッ
リングの内側を刃物が通ったかと思うと、ジャンクの体は真っ二つになって落ちていった。
それと同時にイーネ達を取り囲んでいた黒い粒も消える。
ドスンッ
完全にジャンクが地面に落ちた後、ミコの様子を伺うと、穏やかな表情に戻っていた。
ミコが言う。
「ごめんなさい。儀式の途中で邪魔が入って。」
すると、ナユタがミコの手のひらに文字を書いているようだった。
その内容は'中止でいいです。ごめんなさい'。
それを読み取ったミコが答える。
「分かりました。」
それと同時刻、ニコはライナックスのマフラーに引きずられるようにして地面に居た。
タトラスが言う。
「ちょ!おかん!その能力者ダメ!!何でそいつ?!」
「ええ?!なんでぇ?!こいつあかんのぉ?!」
マフラーに拘束されているニコは、ゆっくりと立ち上がると、再び歌いだす。
『--♪♪--♪--♪♪♪』
徐々にニコのボルテージは上がっていく。
タトラスとライナックスには強力なデバフに加え、幻覚までもが襲う。
「おかーん!!だぁかぁらぁ!ダメだって言った………………!!」
「し、しらんやんかぁ…………!!」
マフラーの拘束が緩む。
ニコの近くにはニコライドが墜落していて、ニコライドの縁には、剣や銃がディスプレイされるかのように綺麗に並んでいた。
ニコは右手、左手と一つずつ武器を選んで手に取る。
右手にはマシンガンのような銃、左手には剣。
『---♪♪--♪♪------♪♪♪!』
-ニコの能力は自分自身にも作用する。さらに、デバフ効果の曲を歌っていても、ニコ自身にはバフ効果となって反映される。つまり、敵にはデバフを、自分にはバフをかけた状態で戦える。サポートに回る事の多いニコだが、能力下でのニコは、個人戦闘で群を抜いて強かった。-
『--♪♪--♪--♪♪♪!!!!』
ニコが歌いながら、踊るように、タトラスとライナックスに向かって攻撃を仕掛ける。
その素早すぎる動きは、タトラスが診察できるようなものでは無かった。
「こっいっつ…………!まじもんのラランかよ!……!俺らゴリゴリの戦闘員じゃねぇんだよ!!」
ズドドドドドッ
ガチンッ
タトラスはそう言いながらもマシンガンの弾を避けていて、ライナックスは剣の攻撃をマフラーでいなす。
『---♪♪--♪♪------♪♪♪!』
ライナックスが叫ぶ。
「これはヤバいんじゃない?!いったん引くわよ!」
ニコに押されてはいるものの、攻撃を一度も喰らわないまま、今度はタトラスが言う。
「まじかよ!やっば!舐めすぎた!馬鹿にされるぅ!」
「しっかたないでしょ?!ほら!いくよ!!」
ニコがタトラスとライナックスを圧倒しているように見えるが、ニコの猛攻を2人はヒラヒラとかわしながら、じりじりと元居た寿命屋の場所まで戻って来ていた。
『---♪♪--♪♪------♪♪♪!』
「素敵な歌声ですねぇ!ラランに言いつけてやっからなぁ!」
「ほら!弱っちい敵役の捨て台詞吐いてないで!こっちこっち!!」
ジジジィー
ライナックスがファスナーの向こうの空間からタトラスを呼ぶ。
『--♪♪--♪--♪♪♪!!!!』
「ばーか!ばーか!」
「あんた……だっさいわね……。」
ニコの攻撃をすんでの所でかわして、タトラスがファスナーの向こうの空間にすべりこむと、ライナックスがファスナーを完全に閉じてしまって2人の姿はどこかに消えてしまった。
ズドドドドドッ
ニコがマシンガンでファスナーのあった空間を打ってみるが、そこにはやはり何も無いようで、寿命屋の壁に穴が開くだけだった。
――――――――
<寿命屋>
「ふ、ふ、ふ、ふざけるなよ!!お前達!!!ふざけるなぁぁああ!!」
半壊した寿命屋の室内。
ミコは車椅子に座っていて、ミコを挟む様にイーネ達と対面にマイケルが立っていた。
トラヴィスはユウトのコートを着て大人しく椅子に座っている。
顔を真っ赤にして大声で怒鳴っているのはマイケルで、なだめるようにユウトが言う。
「大変申し訳ないと思っています。家の修繕費はこちらが負担致します。ミコさんの安全は僕達が保証致しますので……。」
ユウトの言葉を遮ってマイケルが大きな声を出す。
「そーゆー問題じゃないんだよ!そーゆー問題じゃあ!!ミコはな!ミコちゃんは!僕の!僕の生きがいなんだ!ミコちゃんは僕の物なんだ!!そのタトラスとか言うやつを連れて来たのは君達じゃないか!!ミコの安全の為にミコを連れていく?!ふざけるな!!ここで護衛しろ!!ミコちゃんは絶対に渡さない!渡さない!渡さない!渡さなーーい!!!」
「…………邪魔くせぇ。死ねよ。」
イーネがマイケルには聞こえない声量で呟く。
何とかこの場を納めようとユウトが話し合いを続けているが、マイケルの態度は変わらず、堂々巡りに入っていた。
ユウトが話しを続ける。
「ニュースにもなってますが、現在、各地で同時多発的なジャンクの出現が起こっています。ここで護衛させて頂きたい気持ちはあるのですが、現時点での核師の人員を考えると難しい状態です。ミコさんの安全が確認できれば、速やかにマイケルさんの元へ送り届けさせて……。」
「それはいつになるんだよ!!分からないんだろ?!そう言って僕からミコを奪うつもりだろ!!ミコちゃんの能力をお前達の利権にはさせないぞ!!何が核師だ!この泥棒野郎!!!」
「マイケルさん……落ち着いて……。」ユウト
「うるさい!うるさい!うるさーーい!!!僕はな!僕は!…………!」
マイケルは気づかない。ユウト、ナユタ、マリが嫌な感覚を覚える。
(こーゆードブネズミが一番嫌いなんだよ。)
それは仲間は感じた事のない、イーネから放たれる殺気だった。
ナユタがイーネの腕を掴む。
それは決して、引き止める様にではなく、落ち着かせる様に優しく。
今度はナユタが口を開く。
「マイケルさん。お言葉ですが、ミコさんの障害者等級の申請はお済みですか?」
「……っ!!」
マイケルが言葉を詰まらせる。
ナユタが言葉を続ける。
「第五国では、障害者保護の為に障害者等級の申請が義務付けられています。ミコさんは僕達素人が見ても、申請の対象者に入ります。」
「…………ぐぅっ!。」
「もし、あなたがミコさんの身元保証人だと言われるなら、あなたに申請の義務がある。もし、それを行っておらずにミコさんの能力でこの店を運営しているとするなら、あなたは障害者保護法違反となり、厳しい罰則が課せられるでしょう。禁固刑は免れないと思いますが。」
「…………っ!!」
マイケルには冷や汗が滲み、苦しい表情をしている。
ナユタが続ける。
「申し訳ありませんが、僕達はここに来るまでに、この寿命屋については調べてあげています。そーいった、グレー、ないし黒い部分にも目を瞑って、騒動が落ち着けばミコさんをお返しすると言ってるんです。」
「………………っ……。」
最後は、ナユタらしからぬ、よそ行きの笑顔で会話が終了した。
「ご理解頂けますね?」




