11-③ 都合のいい話し
寿命屋は裏手に向かって大きく破損し土煙が上がる。
イーネの能力でタトラスを除く全員が空中へ避難していて、空から寿命屋を見下ろす位置にいた。
イーネが叫ぶ。
「ナユタ!ミコを抱えろ!おっさんは悪いけど遠くへ飛ばすぞ!」
「ちょ?!へ?!はい?!どーなって……!」
マイケルが言い切るのを待たずに、マイケルの姿はイーネの能力によって消えた。
ナユタは空中のミコをお姫様抱っこで抱え、マリはアルバラを抱いたままで、ユウトは裸のトラヴィスを抱いたまま空中に留まっている。
イーネはいつの間にかジャックポットの紐を抜いていて、他のメンバーに声をかける。
「ぜってぇタトラスに近づくな。あいつの"診察の範囲"に入った時点で詰む。あと、誰か後ろの空間から出て来やがったな。今の爆発はそいつの能力か。」
今度はユウトがトラヴィスに声を掛けた。
「ちなみにタカトさん。能力って使えるんですか?」
「ちょっとまって!やってみる!!」
少し間があった後にトラヴィスが答える。
「だめ!使えない!ウンコが出そう!」
「分かりました。黙ってて下さい。あと力抜いて下さい。」
「わかった!!」
すると、寿命屋の裏手の山の中。
土煙の中から歩いて出てくるタトラスの姿が見える。
「あっちぁ。あんな空中で留まることもできるのかぁ。あんなに距離取られたら僕の能力はダメだね。」
タトラスの言葉に返事をしたのは女性の声だった。その声と口調は、まるでどこかの誰かのオカンを連想させる。
「ちょっとぉ!タト!あんたぁ!しっかりなさいよぉ!ええ?!んもぉ。来るのもおっそいわぁ、合図もおっそいわぁ!なんしてんのぉ!距離とられたらダメって、あほちゃう?!最初の爆撃で足止めして、あとはアンタの能力って話しだったでしょうにぃ!もぉ!どないするの!」
タトラスの後を追うようにして、1人の女性が土煙の中から出てくる。
どこか見覚えのある肝っ玉かぁちゃん。
ふくよかと言うよりもがっしりとした体型で、Tシャツとジャージのズボンの上から、茶色いエプロンをしている。
オールバックで一つ括りの黒髪。見た目は50代前後といったところだった。
その女性にタトラスが言う。
「えぇ。心読む相手と瞬間移動だよー?まじ無理ゲー。かぁちゃん。どーしよー。」
「かぁちゃんやめ!あんたのかぁちゃん違う!こーんなでっかい息子いてたまるかいなぁ!え?!ほんま、どーすんのよ!もぉ!早め早めに連絡しときぃ?!マシロに!」
「えええー。大富豪で負けてこの役だもんー。絶対手伝ってくれないしぃ。」
「いっかい声かけとくだけでも違うやろ?!ホウレンソウ!わかる?!わかってないやろぉ!あんたぁ!もぉ!自分いくつや思てんのぉ?!」
2人が何かしらのやり取りをしているのを空中から眺める。
マリが言う。
「え……。あの人って……。」
それに答えたのはナユタだった。
「僕達に寿命家のことを教えたおばさんだ……。タトラスと知り合い?!……そんな思考、微塵も無かったのに……。水面の揺らぎもなかった……。そんな……。強い人間っていうのは……こうも感情コントロールできるものなのか……。」
ナユタは自分でいいながらも驚きを隠せない様子だった。
その間にユウトとトラヴィスは別の会話をしている。
「え?僕、トラヴィス先輩を抱えながら戦闘するの?」
「おれのチンポの命運はユウトにかかってるぅ!!」
「もぉ裸で走ればいいじゃないですか……。」ユウト
「マリもいるし、ナユタの彼女もいるからダメだ!!」トラヴィス
「抱っこしてるだけで彼女じゃないから!ほんと、そこの2人、会話が雑なんだからやめてくれる?!」ナユタ
その間にイーネは思考する。
(アルバラの情報が重い……。おいそれと転移の条件を満たせねぇ……。それか邪魔してやがんのか?……クソ狐……。)
空中でそんなやり取りがされている中、どうやらタトラスは誰かに電話しているようだった。
「あ。マシロぉ?ごめーん。逃げられそう。」
'え。嫌だぁ。なんでそんなことになってるの?'
「空中に逃げられてぇ。距離とられてぇ。俺とライナックスじゃあ無理ゲー。」
「あんた!ちゃんと言っときや?!自分がナンパやらなんやらして、来るのも遅いし連絡も遅いしこーなってんって言うときや?!」
'えー。またナンパー?'
「しかも、核師の女の子。なんなら今バトってる子。うけるぅ。」
'うけなーい。んもぉ。じゃあ1匹貸すから何とかしてね。'
「お。さーんきゅ。」
タトラスはそう言って電話を切った。
すると、空中にいるイーネ達の背後の空間が大きく歪む。
辺りが急に暗くなった為、イーネ達が振り向くと。
そこには至近距離では、空が見えなくなるほどに巨大な鷹型のジャンクが一体。
一番最初に声をあげたのはトラヴィスだった。
「まるで俺じゃん!」
「あー。もぉ、こんな感じのタカトさんには会えないんですね……。」ユウト
「鷹の方が良かったみたいなテンションで言わないでくれる?!」トラヴィス
「漫才してないで!ジャンクだよ?!ジャンク!!絶体絶命のピンチぃ!!」ナユタ
ギィィイイイイイイッ
ジャンクがけたたましい咆哮をあげる。
(ジャンク亜種じゃない……。マシロ作成のオリジナル……。こっちは一体一体が強ぇ……。逃げ道を塞ぐ様に当てがわれたか。やばいな……。)イーネ
すると、ジャンクが何度も翼をはためかせると、次第に台風のような突風がイーネ達を襲う。
トラヴィスが大声を出す。
「やばい!俺のチンポコ見え隠れしちゃう!!」
それに対して、マリがギリギリ聞こえるような声量で言う。
「タカトさんって……ろくなこと喋ってなかったんですね。ユウトさんが大体翻訳してなかった意味が分かりました。」
「絶対今は、チンコって言いたいだけだよ……あの人……。」ナユタ
「トラヴィス先輩のチンコは僕が守ります!!」ユウト
「…………ユウトも。」ナユタ
「お前らうるせぇ!考えてんだよ!!」イーネ
――。
空中には留まっておくことができない突風が吹き、イーネの能力でメンバーは山の中に降り立つ。
イーネは情報のある範囲でしか移動できない。
つまり、必然的にタトラス達から見える範囲の地面に降り立っていた。
タトラスが言う。
「おっしゃあ!落ちて来た!」
バンッバンッバンッ
「うお!」
トラヴィスを抱えながら、ユウトが器用にタトラスに向かって発報する。
それを見たライナックスと呼ばれる女性がタトラスに言う。
「タト!ほら!これ着とき!」
ライナックスが差し出したのは、茶色がベースの手編みのセーターだった。
タトラスが言う。
「いや!いい!そんなダッサイの着れるかよ!手編みにしても、何でそんなオバハンくせぇ色味なの?!もーちょっとあるでしょ?!」
「なんちゅーこというのよ!それにアンタ、自分の年齢考えな?!こんくらい落ち着いた感じがちょうどいいでしょうに!」
「僕は見た目年齢25歳ですぅ!」
「マシロは着てんのよ?!これにもうちょっとベージュたした感じなんだけどね。」
「お揃い?!もっと着ないって!気持ち悪い!ってかマシロは服とかどーでもいいの!僕はオシャレに気を使ってるから!!」
そのやり取りに、こちら側で会話するトラヴィス。
「え。いいな。あの服欲しい。」
「タカトさん。上だけセーター着たらいよいよ変態です。」
「俺ってタカトなの?トラヴィスなの?」
「後で要相談で。」
使用もない会話の最中、イーネは思考する。
(やっぱりあいつら2人、簡単に組織を分断できねぇ。俺の力は対策されてる……。逃げたとしても、逃げた先にあのジャンクを当てがわれるだけだ……。くっそ……。早くこい……。額縁メガネ……。)
すると、タトラスがこちらを向いたかと思えば、左手に真新しいファイルが出現する。
(……っ!!!)
「はぁぁ。さっさと診て終わりにしよう……と……。」
その時だった。




