10-④ 愛情とは最も醜い何か
イーネが話す。
「まず、タカトの魂を戻す事をミコに提示する。」
「そうだね。」マリ
「それじゃあ、僕が代表者だね。」ユウト
ユウトが名乗りをあげ、それには他のメンバーも納得する。長年ずっと一緒にいたユウトが、タカトの為に代表者となるのは自然な流れだった。
皆んな、言葉には出さないが頷ずいて、イーネが話しを続ける。
「その後に、"慄華を消す方法"を聞く願いを提示する。」
「マシロのアジトを聞くんじゃなくて?」マリ
「マシロのアジトでコレが消える保証は無い。あくまでもそれは、スキンヘッドの予想にすぎねぇよ。今、目前に問題視してるのは、この時限式の呪い。じゃあ、これを消してくれって願いも可能だとは思うが、代償が高くつくと予想するのと、それじゃあ、マシロに対する情報が何も得られねぇ。慄華を消す方法を聞いて、結果的にマシロのアジトが分かれば万々歳だな。」
「じゃあ、それの代表者は私が……。」マリ
「僕がなる。」ナユタ
マリの声にかぶさるようにしてナユタが言った。ナユタが続ける。
「僕の方が先輩なんだ。それに、ユウトが代表者として出てるのに、僕が出ない訳にはいかないよ。」
「ナユタさん……。」マリ
「まぁ、代償の内容を聞いてから考えることが出来るんだ。代償がデカけりゃ一旦考えたらいい。」イーネ
そんな話しをしていると、奥の扉が再び開いて閉じた。
コロコロと音がして、飾り棚の横から姿が見えたのは、車椅子を押すマイケルと、車椅子に座る1人の少女だった。
とても色素の薄い水色の長い髪。同じ色の瞳の色。お人形のような白いドレスを着ている。
無表情で、何も無い空間を見つめ、視線は合わない。
その様子を見たタトラスが呟く。
「ミコちゃん……。」
イーネがタトラスに聞く。
「本人で間違い無いのか?」
「うん……。そーだね。でも……。随分と様子が違うけど……。」
2人のそんな話しには気づかないマイケルが話しだす。
「彼女が願いを叶える女神。ミコといいます。彼女は視覚、聴覚、嗅覚、味覚がありません。触覚は残っていますので、私が点字で、やり取りのサポートをしますね。」
マイケルはそういって、対面にあった椅子を一脚分横にずらして、元々あった椅子の場所に車椅子を入れる。
自分はずらした椅子に腰掛け、車椅子の後ろのポケットから、タイプライターのような物を取り出すと自分の膝の上に置いた。
マイケルが再び話す。
「どうぞ、代表者がお決まりでした、お一人座って下さい。すみませんが、他の皆さんは後ろに立って頂く形になります。」
マイケルに案内されるように、ユウトがミコと対面にあたる椅子に腰掛け、他のメンバーはユウトの後ろに立つ。
「じゃあ、さっそく……。」マイケル
「あ!ちょっといいっすかぁー?」タトラス
マイケルの言葉を遮ってタトラスが話す。
「あ。すんませぇん。ちょっと、"タトラスが来たよ"って教えてあげて貰えません?」
それにマイケルが不思議そうな顔をする。
「えぇっと……。」
「あ。ぼくぅ。ミコちゃんのふるーーーーい友人なんっすよぉ。多分、タトラスって言えば伝わるんでぇ。」
その言葉にマイケルは今度は驚いた顔をして言う。
「え、ええ!ミコちゃんのお知り合いなんですか?!」
「まぁ。もぉ随分昔なんですけどねぇ。」
「ミコちゃんから、そーゆー話しは聞いた事はあったんですが……。はぁぁぁ!そうでしたかぁ……!!あ!ちょ、ちょっとまって下さいね。」
するとマイケルはタイプライターを操作して文字を打ち込み、それが終わると紙の一部を切り取る。
今度はミコの両手を机の上に置き、その手の平の下に切り取った紙を置く。
それをミコが、その紙に書かれた点字を確認するように指を動かすと、無表情だった顔がほんの少しだけ目を見開くように動き、次に口元が動いた。
「た、と、ら、す?タトラス?本当に?」
それは柔らかくて可愛らしい声だった。
「ほんとだよー。ミコちゃんは……ちょっと変わったね。何があったの?」
タトラスがそう言い返すと、マイケルが同じ動作でタイプライターを操作し、ミコに紙を渡す動作を繰り返す。
そのやりとりをしている間、マリが小声で言う。
「聞こえない人って話せないと思ってた……。喋れるんですね……。」
それに答えたのはアルバラだった。
『ククク。あのブ男の趣味か。なぁ?ナユタとやらよ。』
「………………。話せるように訓練してるんだよ……。」
『調教の間違いではないか?ククククク。』
「…………。」
それ以上、その話しを膨らますのはやめて、意識をタトラスとミコの話しに戻すと、どうやらミコが自分の身の上話しをしているらしかった。
「今の私は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚が無いの。本当は触覚も無くなるはずだったんだけど、それだと死んでしまいそうだったから、かわりに感情を差し出して。今の私には感情も無いの。」
「……自分に自分の力を使ったんだね……。どうしてそんなこと……。」
タトラスの言葉をマイケルが点字にして、ミコが答える。
「あなた達と、同じ寿命を望んだの。タト達と同じ速度で歳を取りたいと考えた。でも、私の力は、自分自身に使うと、より代償が高くなる。それでもそうしたかった。だけど、感情を失って、何でそんなことをしたのかも分からなくなっちゃった。」
「………………そっか……。でも、俺は久々にミコちゃんに会えて嬉しいよ。」
マイケルが訳す動作を繰り返し、ミコが答える。
「なら良かった。今日はどうしたの?タトがお客さん?」
それにはユウトが答えた。
「客になるのはタトの友人で、僕はユウトと言います。初めまして。」
「友人?!ちょっと茶髪くん、説明ダルがってんの丸わかりじゃない?あと、気安くタトって呼ばないでくれるぅ?!」
タトラスのツッコミは訳されることなくミコのもとへ届く。ミコが言う。
「初めまして。ユウトさん。では、早速ですが願いを教えて下さい。」
ミコの言葉に一拍置いてユウトが答えた。
「このスリングの中には1匹の鷹が眠っています。名前をタカトさんと言います。彼の魂を、アルバラという……。あ。アルバラの事は知ってるんですもんね。アルバラがタカトさんの魂を抜き取ってしまったんです。アルバラの持つ魂をタカトさんに戻したいんです。」
それを、そのまま打ち込んでいたマイケルが怪訝な顔をして言う。
「ええっ……。あのぉ。い、今の話し、そのまま伝える……で……。い、いいんですよね?」
鷹だの魂だの、マイケルにとっては非現実的なユウトの説明に困惑しているようだった。
ユウトが「そのままで大丈夫です。」と言うと、マイケルは不安な顔をしたまま、点字の用紙をミコに渡す。
ミコが言う。
「アルバラ……。懐かしい名前。分かりました。」
するとミコはドレスと同化して分からなかったが、肩からポシェットのようなものを掛けていたようで、その袋から、何かを取り出す。
それは三角形の石のようで、ミコはそれを握り込んだまま、石の角を机に擦るよう動かし始めた。
正方形の机には削って出来たであろう絵が刻まれていた。丸の中に山が描かれ、山には川、川の流れは海に行くような抽象的な絵に、空に太陽、海側に月が描かれている。
その絵をなぞるように、机をゴリゴリと削りながらミコは話し出す。それは歌のような、詩のような言葉だった。
「しぃちぃほう、きっぽう、てーんのちょーうのもゆるとき。はーちーぶーはーおーめーん。にーぶーはーくーちなし。こぼれたかけらはだれのもの。かわりにさしだせりんごのめ。」
その言葉と共に徐々に机の絵は溝に沿って淡く光り、終盤では目を細めてしまうくらいに光ると、言葉の終わりと共に光りを失った。
ミコは持っていた石をコトリと机の上に落とすように置くと言う。
「………………その願いは叶えられません。」
「……………………………………え?」ユウト
沈黙の時間が流れる。
ミコを除いた全員が驚いた顔をしていた。
最初に口を開いたのはイーネだった。
「どーゆーことだよ。どんな願いも叶えるんじゃなかったのかよ……。」
それに対して、心の底から焦った様子のマイケルが返す。
「あ!いや!ええ?!いや!その!こ、こんなこと、初めてで!!か、叶えられない?!ど、どーゆーこと?!」
それにタトラスも付け加える。
「いや……。俺もそんなの初めて聞いた……。そんな何回もミコの能力を見た訳じゃ無いけど……。もっと無理難題な願いを叶えている所を見た事あるし……。正直、叶えられない願いだとは思えないけど……。」
ユウトは、軽いパニックに陥っているマイケルに向かって言う。
「あの。どうして叶えられないか教えて貰えませんか?と、伝えってもらっていいですか?」
「ももも、もちろん!わかりました!」
そういってマイケルが点字をミコに渡し、ミコが答える。
「ごめんなさい。私もちゃんとは分からないです。ただ、何か大きな力で制限が掛けられているような感じがします。心当たりはありませんか?」
「心当たりって言われても……。」ユウト
そこで言葉を返したのはイーネだった。
「……契約……か……。」
「契約?」ユウト
「アルバラをユウトの従属にした奴が作った契約。そこに何かある……。ってくらいしか、今は想像つかねぇな。」
イーネの言葉に、考えるフリをしているタトラスが茶々を入れる。
「な、る、ほ、どぉ。イーネ君。きみって頭いいねぇ。」
「黙れ。若作りナンパじじぃ。」
そこに、オドオドとした様子のマイケルが言う。
「あ、あの……。こ、こんなことは、ほんと、初めてで……。ど……。どうさせて頂きましょう……?」
少しメンバーが考える時間があった後に、話し出したのはユウトだった。
「叶えられないって言われたんだ。取り敢えずは仕方ないね。慄華の消し方について聞いてみよう。」
「ま。そーだな。」イーネ
「じゃあ僕がかわって……。」ナユタ
「あ。いいよ、ナユタ。このまま僕が代表者で。」
ナユタの言葉を静止して、ユウトが続けて言う。
「僕は代償を支払う気満々だったんだけど、却下されちゃったし。僕達先輩だし?その中でも弱虫ナユタ1人に背負わせる何て出来ないよ。タカトさんに怒られちゃう。」
「よ、弱虫ナユタって言わないでって言ってるだろ?!そ、それに、そんな簡単に決めて…………!」
「簡単に決めてないよ。真剣さ。ナユタは、僕が意外と頑固なの、知ってるだろ?」
ユウトとナユタの会話にイーネが割り込んで言う。
「別に意外でもねぇよ。頑固そうだよ。言ったら聞かねぇタイプにちゃんと見えんぞ。」
「え?そうかな?あんまり言われないんだけどなぁ。」
その様子を見ていたマイケルが言う。
「あのー……。では、決まりましたか?」
「はい。このまま僕が、別の願いを彼女に伝えてもいいですか?」
「分かりました。」
マイケルとやりとりしてユウトが言う。
「僕を含む僕の仲間3人には、マシロによって慄華が刻まれています。その慄華を消すための方法を教えてくれませんか。」
マイケルが訳した用紙をミコに渡し、ミコが言う。
「マシロ……。今日は懐かしい名前が沢山でてきますね。分かりました。」
するとミコはテーブルの上の石をもう一度持ち、同じようにテーブルの溝をなぞりながら言葉にする。
「しぃちほう、きっぽう、てーんのちょーうのもゆるとき。はーちーぶーはおーめーん。にーぶはくーちなし。こぼれたかけらはだれのもの。かわりにさしだせりんごのめ。」
言葉の終わりと共に眩しい光りが無くなる。
石をコトリと置いたミコの表情は、さっきまでの柔らかい印象とは変わっていた。
目を開き、不自然にニヤけた口元でユウトを指差して言う。
「お前の持つそれと。」
"それ"の言葉の時には、ユウトのスリングを指差し、今度はアルバラを指差す。
「そいつのそれ。」
"それ"で再びスリングが指差される。
ミコは今度は手のひらを天井に向けて差し出した。
「よこせ。」
「…………た……かと……さん?」




