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10-③ 愛情とは最も醜い何か

 <チェッキス>

 

 2階・3階建ての家が隙間なく連なる。


 どの家も薄汚れていて、綺麗とは言えないが、最低限のライフラインは整えてある印象だ。


 道は中途半端に整備され、デコボコの道をへしゃげた自動車や二人乗りした原付や自転車が行き交う。


 決して裕福とは言えない、富裕と貧困が入り混じるこの街を全員で歩く。


 アルバラはマリにおとなしく抱かれていた。


 ここはまだ、街の中でも整備されている区画らしいが、窃盗などの被害が絶えないので気をつけて下さいと、事務員から注意があった。


 ユウトが道ゆく人に声をかけて"代償の巫女"について話しを聞くが、誰も知らないと答えたり、邪険に扱う者ばかりで、これといった情報は掴めずに時間が過ぎる。


 マシロの地図は、街の名前にマークがあるだけで、詳しい位置までは分からない。地道に探すしかなかった。


 イーネがタトラスに言う。

 

「おい。お前は何処に居るのか知らないのかよ。」

 

「知らなーい。」

 

「何しにチェッキスに来てんだよ……。」イーネ

 

「ヤロウには教えなぁーい。」タトラス

 

 そんな話をしていた時だった。

 

「ちょっとぉ!あんた達!さっきから色んな人に声かけて!何してんのぉ?!」

 

 古びた一軒家の一階の窓から、恰幅の良い肝っ玉かぁちゃんが、上半身を乗り出してこちらに話しかけて来ていた。


 それにユウトが答える。

 

「ああ。すみません。ここらで、代償の巫女って話し、聞いたことは無いですか?」

 

「何だい?!それ!聞いたことないよ!なに!あんた達、誰か探してんの!」

 

「はい。代償を支払えば、何でも願いを叶えてくれるって人なんですけど。」

 

「代償?!なんよ!それ!」

 

「あー。何か物を差し出して、そのかわりにお願いを叶えて貰うって感じ……なんですかね?」

 

 すると、ユウトの言葉におばちゃんは何かピンと来た様子だった。

 

「あら!あんた達、もしかして、"寿命屋さん"のこといってんのかい?!」

 

「…………"寿命屋さん"?」ユウト

 

「それなら、そこの通り、ばぁーっとそっちいって、あっこの大きい看板を左にばぁーっと行って、また突き当たり右が坂になってのぼりだから、そこばぁーっと行ったら、豪華な家あるから!そこだよ!」

 

「…………ありがとうございます。」ユウト

 

 そう言うと、おばちゃんは家の中に戻って行った。


 全員で顔を見合わせた後にユウトが言う。

 

「ま。行ってみよっか。"寿命屋さん"。」

 

「絶対そこの気がしますね。」マリ

 

 そのおばちゃんの言う通りに道を進んでいった。


 ――――――――――

 坂道を登っていると、他の家とは一線を画す豪華な三階建ての家が見えた。


 白とオレンジを基調とし、木製の扉の入り口には"well cam 寿命屋"というプレートがかけられている。


 チャイムらしき物は無く、ドアノックのみが備え付けられており、ユウトがそれを使ってゴンゴンゴンと3回鳴らした。


 暫く待ってみたが、誰かが応答する気配はなく、ユウトが扉のノブを押し下げてみると、ガチャリと音がして開いた。

 

「すみませーん。お邪魔します。」

 

 そう言うと、ユウトは遠慮することなく家の中へ入っていく。

 

「……え?……。入っていいんですか……?」マリ

 

「ユウトって、そーゆー所あるから……。」ナユタ

 

 ユウトに続いて他のメンバーも家の中へ入る。


 入ってすぐにお店のようなカウンターが備え付けられており、カウンターの中にある扉は、わずかだが開いている。右手は壁。左手はリビングのような広さで、手前側に正方形のテーブルと、椅子が対面になるように二脚置いてある。その奥を仕切るように床から天井まである飾り棚があり、その奥にも扉があるようだった。


 ユウトが少し大きな声をだす。

 

「あのー。すみませーん。誰か居ませんか?」

 

「ああ!今いきますねー!」

 

 カウンターの扉の奥から男性の声がした。


 暫く待つと、その扉から1人の男性が出てくる。

 

 どう頑張っても不細工としか言えない顔。重たい瞼に、大きな唇、上を向いた鼻、薄い髪の毛。身長も男性にしては小さめで小太り。


 そんな男性はカウンターにやって来て、にこやかに話す。

 

「いらっしゃいませー。初めてのお客様ですねー。当店の事は口コミか何かで?」

 

 それにはユウトが答える。

 

「まぁ……。はい。そうですね。僕達は核師でして。ミコさんに依頼があって来たんですが……。あなたがミコさんですか?」

 

 ユウトの言葉に、男は少し驚いた顔をして答えた。

 

「核師さん!核師という職業は聞いた事ありますが、いやぁ。会うのは初めてです。あぁ。僕はミコではありません。ミコのお世話係とここの経営者で、マイケルと言います。えー。願いを叶えるご依頼で良かったですかね?」

 

「まぁ、そうですね。」

 

 マイケルと名乗った男とユウトが話している間、他のメンバーは後ろに立って、そのやりとりを眺めるしかない。


 ナユタは男が扉から出て来てから、片手で口元を覆って、気分が悪そうにしていた。


 アルバラは何故かニヤニヤと笑っている。


 そんなナユタにマリが声をかけた。

 

「ナユタさん……?大丈夫ですか?」

 

「……。」

 

 ナユタの様子を見ていたイーネが言う。

 

「嘘つきか?悪者か?」

 

 それにナユタが答える。

 

「嘘つきでも悪者でも無いよ……。彼の事は、この任務に関して言えば信じていい……。ただ……。僕はちょっと……。いや、他人が口を挟む事じゃ無い……。ここはバランスよく回ってる……。」

 

「"あてられる"なら表に出とけ。」イーネ

 

 その話しにタトラスが茶々を入れる。

 

「なになにぃー?何の話しぃー?」

 

 そこで話したのはアルバラだった。

 

『ククク。私利私欲にまみれた醜い魂だ。ミコはあやつのオモチャと化しておる。衣食住を提供する変わりに、奴の財欲、名誉欲、そして色欲さえも満たす存在。ククククク。』

 

 アルバラの言葉で、この話しを聞いていないユウトを除く全員が、何となくだが、悪いイメージを想像して理解をした。


 タトラスが呟く。

 

「ミコちゃん。何があったんだろうね……。」

 

「ナユタさん。大丈夫ですか?……。」マリ

 

「うん。大丈夫だよ。別に……。あぁ。いや……。何でも無い……。」ナユタ

 

 そこで、マイケルとユウトの話しに戻ると、マイケルはにこやかに、それでいて軽やかに、丁寧にラミネートされた用紙を掲げて説明を行なっていた。

 

「ちなみに、今回、ご予算の方って…………。あ。お決まりじゃないですね。全然全然!問題ないですよー。基本的には料金と別途で寿命の方を頂く形となっておりまして……。そーですよね!そーなんですよね。寿命って何?って皆さん仰られるんですけど、まぁ、大体の平均寿命、80歳を目安に、あー。っと、ちなみに、ユウトさんはおいくつ…………。あ。28歳。なるほどなるほど。


 でしたら52年分が、まぁ、マックスでお支払い頂ける寿命となります。マックス払っちゃうとね。その場でご臨終ってことになっちゃって、何の為に願いを叶えてるのか分からなくなっちゃいますんでね。


 まぁ、何年分だったら払っていいかなぁー?っていうのをね。ご相談させて頂きながらお話し進めさせて頂ければと思います。で、プランなんですけども、ライトコース、ベーシックコース、プレミアムコースの3種類になっておりまして。料金がね。このようになっていますね。」

 

 ユウトは年齢を言っただけで、それ以外はマイケルのペースで話しが進んでいく。


 マイケルが示すラミネートには、【ライトコース 5万ラール+寿命5年】【ベーシックコース 20万ラール+寿命15年】【プレミアムコース 50万ラール+寿命30年】と書かれている。マイケルが話しを続ける。

 

「一番人気はやっぱりベーシックコースですね。こちらの使用例で言いますと、人生の大事な局面で使われる方や、復讐などに使われる方が多いですね。例を出しますと、人生を短く楽しく謳歌したい!って女性が使われまして、実際ですね、お金持ちの方と結婚されて、自分自身もインフルエンサーとして、豪華絢爛な私生活をネットに乗せて有名な方ってのがいらっしゃいますね。


 で、こちらのライトコースっていうのは、まだね、寿命屋さんのこと信じれないんですけどーって方にオススメしてまして。こちらだと、目的の確率が上がるって効果が大半となります。こちらも例を出しますと、宝くじですね。元々、その宝くじが一等出現確立を上げているキャンペーン中に、こちらを利用されまして。それで100万ラール分の宝くじを購入された方が、みごと!一億!当てた事例なんかがありますね。


 で、最後のプレミアムコースは、なかなか利用される方がいないんですけど、まぁ、何をお願いされるかにもよるんですが、もぉね!ほぼ!99%くらいの願いが叶いますね。」

 

 そこまでマイケルが話した所で、タトラスが話しに割って入った。

 

「寿命を代償にするとか知らねーんだけどぉ?払うものは寿命じゃないとダメなの?」

 

 それにマイケルが答える。

 

「あ!もしかして核師さん!アブノーマルコースご希望ですか!ああ。これは失礼しました。いやぁ、こちらは基本、一般のお客さんにはご案内しないんですよぉ。でも、そうですね。核師さんですもんね。任務?で来られてるんですもんね。アブノーマルコースだと、早速お見積もりからになりますね。」

 

 1人で納得して話しを進めるマイケルにユウトが聞く。

 

「アブノーマルコースって何ですか?」

 

「あ。ああ!アブノーマルコースは、寿命以外の代償をお支払いするコースですね。ただ、あまりオススメはしてないなくて……。勿論、お支払い頂いたら、もぉ100%で願いを叶える事が出来るんですが……。何せ、そっちの代償の方が高くつく事が多いんです。お見積もりは無料でさせて頂きますが、殆どの方が、その代償をお支払いするのを諦めてプレミアムコースとかに変更されますね。皆さん、寿命30年の方が安いって仰いますよ。お見積もりは無料で、実際に代償をお支払い頂く時は手数料として10万ラール頂きますね。」

 

「10万ラール?プレミアムコースより安いんですね。」ユウト

 

「ははは。料金が高いことも寿命を低く抑えている要因になってまして。アブノーマルコースは、支払う代償だけで願いを叶えるに至る物ですので、まぁ、ほんの、手数料として頂いている感じですかね。」

 

 すると、男はカウンターからから出て、左横の広いスペースにメンバーを案内した。

 

「どうぞこちらへ。注意事項がありまして、一対一での契約になります。つまり、代償を支払う方はお一人です。代償の内容にもよりますが、基本は、その方が負債を追います。今回は複数人で来られているケースですので、代表となる方は慎重にお選び下さい。


 それと、一度始まった儀式は、絶対に途中で中断しては行けません。儀式を途中で中断すると、それに対するペナルティが発生しますのでご注意下さい。


 そして最後にもう一つ、願い事をして、代償が見合わないからと、取り消した願いを、他の方を代表者に立てることで、別の代償にすり替えようする方がたまにおられます。ですがこの場合、私も何で判断しているのか分からないんですが、他の方を代表者に選んでも、全く同じ代償を言い渡されるんです。過去にも失敗されている方が何人かいますので、オススメは致しません。では、私は巫女の準備に入りますので、暫くお待ち下さい。」


 男はそう言うと、飾り棚の脇を通って、奥の扉に入っていった。

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