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10-② 愛情とは最も醜い何か

 運転手の言葉で車の窓の外を見る。


 明らかに人相の悪い山賊のような男達が、銃やナイフやらを片手に車の周りを囲っていた。


 タトラスが言う。

 

「うわー。なに?核師って狙われやすいの?」

 

 それにはマリが答える。

 

「いえ……。こんな状況、聞いたこともありません……。」

 

 イーネは運転手に向かって指示を飛ばす。

 

「後ろの扉開けろ。お前は鍵して絶対運転席から降りてくんなよ。体屈ませとけ。」

 

「は、はい!」

 

 その後、車の後ろの扉のロックが外れた音がする。


 イーネが先頭に立って、車の扉を開け放った。

 

「おぉ!出てきやがったぜぇ!」

 

 汚い濁声がする。


 扉を開けて、前にいたのは5人の男。


 40代から50代で、整えられていない身なりに薄汚れた服を着ている。


 同じようなタイプの男達が寄せ集まったような様子で、汚い男達が次々に声を上げる。

 

「おい!子供だぞ!」

「女もいらぁ!」

「こりゃ楽勝だな!」

 

 男達の様子にゲンナリしながら、イーネは男達に問いかける。

 

「あー。見窄らしい……。何なんだよテメェら。」

 

 それに1人の男が答える。

 

「ケケケ。お前ら核師で間違いねぇよなぁ?」

 

「だから何なんだ。」イーネ

 

「お前ら攫うと金が入るんだとよ!死体でもいいらしい!ケケケケ。女、子供ヤって大金なんて、俺らはついてる!」

 

 男の発言を聞いてイーネは思考する。

 

(核師の死体に懸賞金…?……。例の"マシロ以外の誰か"の仕業か……。でも、どうみても素人のぼんくら……。異能を持つ核師に対してあまりにもお粗末……。目的は何だ?…………。こんなんじゃ、良くて時間稼ぎくらいにしか…………………………。時間稼ぎが目的か?……。何の……?……。)

 

 イーネは男達に問いかける。

 

「……………………どこからの情報だ?」

 

「しらねぇよ!とにかく、そーゆー情報が出回ってんだよ!大人しく俺らに……………………。」

 

 一番前で啖呵を切る男が話していた最中だった。

 

 男の顔色が急激に悪くなる。


 すると、突然胸を押さえてうずくまった。

 

「あ゙……あ゙ぁ゙!い、いてぇっ!!い………………いってぇ…………!」

 

 その様子を見た周りの男達が何だ何だと、不安な表情を浮かべて、うずくまっている男から距離をとる。


 話し出したのはタトラスだった。

 

「核師はジャンク討伐の為の異能を使うって知ってるでしょ?なのに襲いに来たの?ばかだねぇ。」

 

 タトラスの左手には真新しい薄いファイルが出現していた。


 すると、別の男が声をあげる。

 

「い、異能なんて、あるわけ……あるわけねぇだろ?!め、迷信だろ?!そりゃ!」

 

 それにタトラスが答える。

 

「ジャンクにも核師にも会うことなく、凝り固まったオッサンの脳ミソじゃあ、そーなんのかねぇ。自分の理解できない物は否定する。いやだねぇ。」

 

 そう話している間にも、うずくまる男は胸の痛みにのたうちまわっている。


 それを周りの男達は不安な表情で見てはいるが、引くに引けなくなったのか、焦りの表情を浮かべながら武器を構えはじめた。


 1人は拳銃を持ち、残りの男達は大きな三日月状の片手剣を手にしている。

 

「ぜ、全員で行くぞ!かかれ!!」

 

 男達が飛びかかってくる。


 その時、またタトラスが呟く。

 

「はぁー。あと、不摂生はよくないよ。」

 

 すると、飛びかかってきた男の内、2人が、急に足の力が入らなくなったように、両足がもつれて地面に倒れこむ。


 1人の男は息ができなくなったかのように、胸を押さえてゼェゼェと息を切らしながら座り込んでしまった。


 拳銃を構える男は恐怖で震え、拳銃を構えたまま固まっている。

 

 タトラスが言う。

 

「マリさんに、僕の能力を教えるって約束したもんね。これが僕の能力"カルテ"。僕は、僕のプロファイリングをもとに、患者カルテを作成できるんだ。そして、そこに"疾病"も書き込める。色々条件はあるけど、不摂生な40〜50代男性は、書き込める病気が多くて参るねぇ。健康は大事だよ?」

 

「う、う、う、うわぁぁぁぁああああ!」

 

 バンッ

 

 恐怖に怯えた男が拳銃の引き金を引いた。


 そして、それは、タトラスの左肩に命中したようだった。

 

 タトラスはゆっくりとした動作で左肩の傷に目をやる。


 肩から血が流れ、パーカーに血の赤が滲んでいる。

 

「ちょ……ちょっとぉぉ!買ったばっかなのに!もぉ。」

 

 すると、タトラスの右手に古くて分厚いファイルが出現する。


 ファイルがパラパラとめくれて、止まったかと思うと、パーカーの血の滲みも止る。


 タトラスは何事も無かったかのように左肩をグルグルと回して動作を確認するような素振りを見せた。


 どうやら、拳銃での傷は既に治っているようだった。

 

「はぁ……。また服買わなきゃ……。」

 

「ば………………化け物ぉぉおおお!!!!!」

 

 拳銃を持っていた男は一目散に逃げていく。


 すると、それを合図とするように、他にも車の周囲を囲っていた男達は車に乗り込むと一目散に逃げていった。


 目の前には動けなくなった4人の男だけが残る。

 

 最初に、胸の痛みを訴えて倒れた男は、徐々に様子が変わって来ていて、胸に手をやりながら細い息をしていた。

 

 マリがタトラスに言う。

 

「た、タト……。もおいいんじゃ……?治してあげたら…………。」

 

 マリの言葉に、タトラスが心底驚いたような顔をしてマリに聞き返す。

 

「えぇ?!なんでぇ?!」

 

 とても純粋な目をして言うタトラスの様子に、マリが戸惑いながら言葉を返す。

 

「な、なんでって……。最初の男の人、様子がおかしいですよ……。もぉ、戦う意思は無いじゃないですか……。だから……。」

 

「えぇ……。こっちが襲われてるのに?殺す気だったんじゃん。殺す気あるやつは、殺される気も無いと。てか、もぉ、最初の奴は死ぬよ?心筋が壊死して動かないんだ。本気で救命すればまだ……。だけど、そこまでやる義理ある?」

 

「……そんな!」

 

 それを聞いたマリは車から飛び降りて、最初の男に駆け寄る。


 最初の男は口から泡を吹き、みるみるうちに顔色が悪くなっていた。

 

(え?!どうしたら?!し、心臓マッサージ?!で、できる?!)

「タト!し、心臓マッサージすればいいの?!」

 

 マリの言葉に、タトラスは変な物を見るような表情で答えた。

 

「心マして、その後どーするの?病院運ぶまでやるつもり?治療費は?そもそも、そんな奴、生きる価値ある?……。うーん。マリさんは人が死ぬのにまだ慣れて無いんだね。まぁ、そーゆー所も可愛らしいけど。」

 

「なにふざけたこと言って!…………。」

 

 マリが男の様子を再度確認する。


 息が止まり、脈が止まり、こときれた様子があった。

 

「………………!」

 

 マリはその場であたりを見渡し、他の男達の様子も確認する。


 他の3人はまだしっかりと意識があるが、動けないような様子だった。


 マリが言う。

 

「タト!他の人は?!他の人も死んじゃうの?!」

 

「他の3人は今すぐ死ぬ訳じゃないよ。ちゃんと治療すれば、まぁ……。不自由はあっても生きれるかな。」

 

「………………なんでここまでするの……。」

 

 マリの言葉ににタトラスは悪気なく答える。

 

「えぇ。凄い悪者扱い……。逆に何で命狙われて、そこまで助けようと思えるの?以外とマリさんって熱血系なんですね。僕の周りに居ないタイプだなぁ。あとねぇ。マリさん。これは忠告だ……。好きな人にも、危ない時はちゃんと言っといてあげないとね。いや、好きな人だから、先をみて僕が言ってあげるべきだ。」

 

 タトラスの雰囲気が変わる。


 それは背筋が凍るような。


 鋭い殺気と恐怖だった。

 

「弱い奴がごちゃごちゃ言う資格は無い。黙ってろ。」

 

「…………………………。」

 

 マリだけじゃない、全員が冷や汗を滲ませていた。


 タトラスが続ける。

 

「僕達はね。言われてるんだ。君達に分かりやすく言うなら"神様“って人になるの?その人に。皆んな好きに生きたらいいって。僕達は自由を許された。自由を与えて貰った。悪いけど、他人の指図は受けない。マリさん、君であっても。殺したい奴は殺す。救いたい奴は救う。自分の選択肢は自分で決める。僕にとったら、そのオッサンらの価値は無に等しい。道端の石ころを蹴って歩こうが、跨いで歩こうが、僕の意思だ。僕に勝てないなら、僕に指図は許されない。………あぁ。恋人や奥さんなら話しは別かもね♡」

 

「……………………。」

 

 タトラスの言葉は、最初から、ずっと、全て、本心からくるものだった。それはナユタの能力で確証を得ていた。

 

 少し間があってから、イーネが口を開く。

 

「…………。俺も同意見だ。」

 

「お?分かる?」

 

 イーネが続ける。

 

「…………強い奴が力を使って何が悪い。他者の上に立って何が悪い。弱い奴の顔色見て、弱い奴に合わせる必要がどこにある。」

 

「そーだよねー。」タトラス

 

「………………そう思ってたよ。」

 

「……?ん?過去形?」タトラス

 

 イーネはユキハルの言葉を思い出していた。

 

 "仲間に感謝しろ。"

 

「お前のやり方は気分がわりぃ。俺の仲間のやり方は、クソほどイラつくけどお前よりマシ。弱い奴が意見言う資格ねぇんだよな?安心しろ。俺はお前より強い。」

 

「………………。イーネ君だっけ?いいねぇ。そーゆー子は好きだよ。」

 

 イーネは車の奥に戻って、運転手とやりとりしている。


 どうやら、地面で倒れる男達の今後について、相談と指示をしているようだった。

 

 イーネには聞こえない声量でユウトが言う。

 

「"仲間"だってさ。」

 

 それにナユタが返した。

 

「あれが俗に言うツンデレってやつなの?」

 

「さぁ。……まぁ、この話し聞かれたらブン殴られそうだね。」ユウト

 

 運転手と話し終わったイーネが戻ってくる。

 

「マリ。車に乗れ。すぐに他の核師の補助の団員が、そいつらの後始末する。」

 

「……分かった。」

 

 そうしてメンバーは座席に座り直し、少し時間が立ってから車は走り出した。


 

 ―その後、マリは断固としてタトラスの横に座るのを拒否。タトラスが「ま、マリさぁぁぁあん。で、デートは……?」と聞いた所、マリが「考えさせて下さい。」と言い、タトラスが「えぇぇぇええ。僕、無理強いはしませんけどぉぉおおお。ショックぅううう。」といった会話がされていた。―

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