9-⑤ 弱き者
「…………なので、どうでしょう?マリさんが僕とデートするってことで、和解するのはぁぁあ!!!」
「…………………………。」
「………………え?私ですか?」
すると、ナユタが息も絶え絶えな中、会話に入ってくる。
「はっはっはっ!ま、マリざん!ぜ、絶対だ、だめ!」
「え!お前よく喋れるな!しんどいだろ!」男
しかし、マリはそんなナユタを無視して男に聞いた。
「デートしたら、ナユタさんを治してくれますか?」
男がすぐに答える。
「治します!」
「じゃあ、あなたとデートします!」
「おおっしゃぁぁあああああああ!!!」
「………………。」
緊張感のない一連の流れにイーネとユウトはついていけず黙ったままだった。
また男が話す。
「あ。ちょっと。そっち行っても?睨まないで。ちゃんと患者を診ないと治せないの。そーゆー能力なの。」
「変なことしたら、デートしません……。」マリ
「勿論。俺、かわいい女の子に嘘、つかないから♡」
「…………。」
男はゆっくりと歩いて近づて来て、暫くナユタの様子を見たかと思うと、ナユタの呼吸が徐々に落ち着いてくる。
男が言う。
「はい。治療完了!どお?調子……。」
「ままままマリさん!ほ、ほんとにこの男と、ででででデート、するんですか?!」ナユタ
「…………元気そだね。」男
「ナユタさん……。よかった……。」マリ
「じゃ!どうしましょうか!あ!良かったら、わんちゃんが一緒に入れる温泉がありますよ?!大人は足湯なんですけどね!その足湯コーナーの横にペット専用のコーナーがあって!」男
「……………………。お前……何者なんだよ……。」イーネ
テンションを上げながら話す男に、イーネが呟くように言った。
すると、男は一度話しを中断してイーネの方を見て言う。
「俺はタトラス。気軽にタトって呼んでね。」
――――――――
アルバラはペット用の温泉コーナーに気持ちよさそうに浸かっている。
その隣の足湯コーナーにマリとタトラスが並んで座って話していた。
最後の最後までナユタが2人のデートに文句を言い、あまつさえついて行こうとしたが、それではデートにならないため、ユウトに引きずられながら、ナユタ、ユウト、イーネの3人は宿へ帰って行った。
(でもほんと、たわいのない話ししかしてない。ほんと、初デートみたいな。いや、これがタトラスの希望だから、これでいいんだろうけど……。)
マリは温泉につけていた足をそろりとあげて、またお湯につけた。
そろそろ上がってもいい頃合いだった。
マリはアルバラの様子を見る。
まだ気持ちよさそうに浸かっていて、出る気配はない。
「かわいいワンちゃんですよね。犬種は?」
「あー。えっと……。ユウトの……。あの、さっきの茶髪の男性の子でして。」
「あ。そうなんですね。なんか、ワンちゃんっていうよりちょっと狐っぽくて可愛いですよね。」
(この人、凄い鈍感なのかな……。)
「…………そうですね。」
そんな話しをしながらマリは考えていた。
(ん?……この人……。理事長とかと同じ世代の人……なんだよね?……。アルバラってマシロが作ったジャンクじゃ……?じゃあ、この人……。)
「なーんか、知り合いの子に似てるんですよねー。その子は狐なんですけど、アルバラっていって。そうそう、こんな感じに尻尾の数が多くて…………。」
名前を呼ばれたアルバラがタトラスの方を見た。
2人の視線ががっちり合う。
「……………………。」
『……………………。』
「……………………あ、アルバラ……?」
『今更か……。タトラス。』
「…………………………。うぇぇぇええええええ?!アルバラ?がちでアルバラ?!え?何してんの?!何ワンちゃんみたいになってんの?!え?抱っこされてたじゃん?!え?どーゆー心境の変化?!」
「やっぱり、お知り合いですよね?」マリ
「いやいやいやいや。あの茶髪の持ち物って言ってなかったマリさん?!ど、どどど、どーゆー?!」
「いや……。私もよく分からなくて……。なんか、主従契約を結んだとかって……。」
「しゅ、主従?!は、え?どっちがしゅ?!」
「あー……。たぶん、ユウトさん……ですかね。」
「はぁ?!あのよわっちいやつの?!あ。ごめんなさい。マリさん。そんな事ないですね。あの優しそうな人の。ええ?!なんで?!」
「あ。いや。いいですよ。あんまり気を遣って頂かなくて……。いや。なんか、知らない人の契約書にサインしたら勝手に……とか言ってました。」
「なにそれ!訪問販売じゃないんだから!」
(同じこと言っててちょっと面白い……。)
すると、一旦落ち着いたタトラスは、じろじろとアルバラのことを見る。
「ええー。ばりウケるんですけどぉ。ペットじゃーん。写真撮ってマシロに見せていい?アルバラー。」
『抹殺されたいか。タトラス。』
「でも、なんでぇ?どーしたの?お前を茶髪君の下につけさすとか……どんな……。僕が知る限りでも数人しか思い当たらないけど。マシロじゃないだろうし…。ユキハルがそんな事するとは思えないし…。まさか……。ね。」
『…………。』
何かを考え込むタトラスにマリが言う。
「あの。タトラスさんは、アルバラが他のジャンクとは違う理由、知ってますか?」
「え?もち。知ってるけど?」
「教えて貰えませんか?」
「いいよー。」
「……………………。え?いいんですか?」
あっさり答えるタトラスに、マリの方が驚く。
タトラスは何でもないかのように、足をお湯から抜いて言った。
「いいんっすけど、ちょ……。見てください。これ。俺、すっかり忘れてたんですけど。右の袖……。さっきので破れたまんまなの。これじゃ、ちょっとだけワイルドす◯ちゃんみたいになっちゃってっから。ばり恥ずい。なんで、上着だけ、一緒買いに行きません?買い物がてらに話すんで。」
――――――
<服屋>
「なんで、アルバラはジャンクの作り始めの最初の方のやつなんっすけど、そん時はマシロ1人で作ってないんっすよ。手伝って貰ってた人がいて………。これ、どうっすか?」
「うーん。さっきのパーカーっぽいのが似合ってたと……。私は思います。」
「あ。じゃあそっちにします!ちょっとLかMかで迷うんすよねー。もっかい着てもいいっすか?」
「どうぞ。」
大手チェーンの服屋さんで何着か試着するタトラスを眺めながら会話をする。
ペットを連れて買い物には行けないため、一度宿に戻ってアルバラをユウト達に預けにいくと、「えええ?!デートしたじゃないですか!!まだ行くんですか?!」とナユタに猛抗議を受けたが、それは華麗にスルーして、出てくる時に、貴重品を入れたトートバッグと、一応と言って、イーネから受け取ったジャックポットを一緒にカバンに入れて出てきた。
「やっぱLっすかね?」タトラス
「そうですね。」
「じゃ、これにします。」
そういって商品を持ってレジに行く最中にも会話をする。
「その、マシロが手伝って貰ってたっていうのは……その……。神様……。ですか?」
「神様?なんっすか?それ。」
「……え。……あの……。1人の……神様みたいな人の所に、皆んなで集まってたんじゃないですか?……マシロも、タイヨウさんも、あなたも。」
「ああ。神様……ね。まぁ、確かにそーゆー言い方する奴もいるけど。あんま俺は好きじゃないっすね。まぁ、マリさんが分かりやすいならそれでいいっすよ。」
(…………なんか、軽いな……。それに……。)
タトラスが会計を済ませた為、2人で店を出る。
「……神様の話しって、したらマズイんじゃないですか?」
「え?なんで?」
「…………いや。知りません……。」
「なんか言ってました?誰か。」
「最初に聞いたのはログスさんにです。でも、その神様の話しをされた直後に……。ログスさんは亡くなりました。」
「……え?……………………ログス…………。死んだの?……。」
「あ……。はい……。」
すると、それまで元気に話していたタトラスの表情が急激に曇っていく。
そして、俯いて手のひらで顔を押さえると、暫くして、少しだけ肩が震えているような、そんな様子が見られる。
タトラスが話す。
「そっか……。あいつ………………。死んだんだ……。そっか……。じじいだったもんな……。しゃーねぇわな。」
「タトラスさん……。」
「ログス、じじいだったでしょ?でも、あいつ、昔は筋肉ゴリゴリでさ……。まじで……。何回腕相撲やらされたか…………。」
タトラスは静かに泣いているようだった。
「ああ……。もっかいぐらい会いにいくべきだったな……。まぁ、口は達者だから、会ってもどーせろくなこと喋らなかっただろうけど……。」
タトラスの涙の量は増えていく。
しまいには鼻水も出ているようでズビズビと言わせながら鼻をすすっている音がする。
(マシロ側の人間……。タイヨウ側の人間……。対立してるんじゃないの?…………。でも、こんなになって泣いている……。どういう事なの?……。)
(あと……………………。店の前でこんなに泣かれたら…………私がこの人を振って泣かせてるみたいに見える………………。)
マリはグズグズになって泣くタトラスにトートバッグからハンカチを取り出して手渡しながら声をかける。
「あの……。タトラスさん……。近くのカフェに行きませんか?」
「い、いぎます……。あと…………。た………………た……タトってよんでぐだざい……。」
「ああ……。分かったから……。行きましょう……。」
――――――
<カフェ>
少し日が傾いてきていた。
観光地ということもあり、近場のオシャレなカフェに入って2人掛けのテーブルに腰掛ける。
2人でホットコーヒーを飲んで、タトラスはたいぶと落ち着いたようだった。
「ああ……。ズビッ。すんません。ハンカチ、洗って返すんで。」
「差し上げますよ。」
「ああ。じゃあ、また今度、マリさんに似合うハンカチがあったらプレゼントします。」
「お気遣いなく。」
タトラスがコーヒーを口にして、一息ついてから話す。
「あ。で、なんの話しでしたっけ?」
「あの…………。聞いてもいいですか?」
「なんなりとー。僕で分かることだったらだけど。」
「これ、見て貰ってもいいですか?」
マリは襟ぐりを掴んで引き下げる。
「いやん。意外と大胆なんですね♡」
「違います。」
そんな事をいいながら、しっかりマリの首筋を見ているタトラスは、ヒガンバナのような紋様が刻まれているのを目にする。
「あ。それ。」
「知ってますか?これは、マシロがタイヨウカンパニーを襲撃した時に、3人の核師につけたものです。」
「マシロが。凄いなあいつ。」
「……?どういう意味ですか?」
「ああ。いや、そんな大した意味ないよ。で?それで、何を聞きたいの?」
「マシロは神様に会うために、タイヨウさんと全面戦争をする気だと……。私達は解釈しています。これは……。何でしょう……。なにしろ、タイヨウさんやユキハルさんは、何も話してくれません。ログスさんは、神様の話しをすることは、神様に禁じられていてるって仰って……。喋ったら死ぬ……。みたいな感じだと……。思ってたんです……。あなたと話すまでは……。」
「んん?マリさんは何が言いたいんだろう?」
「…………。マシロに誘導されるように、私達は今、チェッキスに向かっています……。あの……。マシロの目的は何ですか……?神様って何ですか……?マシロは何で、ジャンクを作ったんですか?……何で……。」
「あ。ちょ、ちょっとまって!マリさん!」
マリの言葉を静止したタトラスは心配そうな顔をしていた。
「あぁ……。ごめん……。何言ってるか、あんま分かんない。」
「…………え?でも、タトラスさん……。タトは、マシロ側の人間……なんですよね?」
「マシロ側?なにそれ。」
「…………え?」
「ああ。まぁ、仲良くはしてるけど。」
タトラスが嘘を言っているようには見えなかった。
マリは混乱しながらも話しを続ける。
「マシロとタイヨウさんは対立していて、マシロ側の人間として、マシロ、ララン、タト、ライナックス、ボルドーっていう人がいるんじゃないですか?」
「マシロとタイヨウが対立してるのは本当。昔っからだけどね。ただ、マシロ側の人間ってゆーのはどうだろう?確かに、仲良くしてるメンバーだし、特にラランはマシロに賭けてる所はあるけど……。うーん。少なくとも、俺自身は、マシロ"側"って言われる程じゃないけど。」
「じゃあ、なんで、ユキハルさんはあんなこと……。」
「ユキハルが言ったの?今のこと。」
「……はい。」
「ふーん。」
タトラスはまたコーヒーを一口飲んで話す。
「まぁ……。マリさんの話しからだと、マシロとタイヨウは、終止符をつけようとしてるんだろうね。長年の喧嘩の末の。それに、君達核師は巻き込まれてる訳だ。」
「……それも、タトは知らなかった?」
「あー。まぁ、何かしてんなーとは思ってたけど?」
「……。」
「マシロから仕掛けたんでしょ?その、全面戦争の最初の……襲撃ってやつ?」
「……はい。」
「じゃあ、マシロの目的が神様に会うためってのもそうだね。」
「その……神様ってなんですか?…………神様の事を喋ったら死ぬんですか?……」
「いや。神様って何?って感じだけど。俺からしたら。まぁ、尊敬はしてるけど。喋ったら死ぬって何。怖すぎー。」
「………………その神様について、教えて欲しいです。」
「うーん。教えてあげたいけど、正直あんまり知らないってのもあるんだよね。でも、子供の時に俺らの事を救ってくれた大恩人。確かに、その人は特別な力を持ってて、何でそんな力を持ってんのか。とかは分かんない。本人も分かんないって言ってたし。その人から力を……。うーん。貰った……のかな?本当は貰った、ともちょっと違うらしいけど、難しいことは……ごめん。結局分かんない。でも、その人はある日突然いなくなっちゃって、マシロはずっとその人を探してる。ラランもね。」
「……。なんで、戦争したら、その人に会えるんでしょう。」
「いやー。何でなんだろうね?なんか策があるんじゃない?」
(あんま……情報になってないかも……。)
マリは少し、話しの視点を変えてみる。
「なんで、タトやマシロ、タイヨウさん、ユキハルさん。皆んな歳をとってないんですか?」
「ああ。全員、自分に対して能力が作用する連中ばっかだね。そーゆー奴は歳を取らない……ってゆーか、能力使う時に、一緒にごちゃごちゃ体いじっちゃってるから、若いだけだよ。一応歳はとってる。マジ最近、腰いてぇもんね。」
「マシロは何でジャンクを作ったんですか?」
「ジャンクを作るって目的で作ってる訳じゃないよ。んー……。なんていうか、マシロが、自分の力の練習をしてる時の副産物……?みたいなもんかな。」
「でも、ジャンクのせいで苦しんでいる人がいるんですよ?」
「ああー……。タイヨウが怒りそうなことだよね。でもさ、ジャンクってめっっっちゃレアでしよ?そりゃそーだよね。マシロは、毎日ジャンクつくるぞー!ってテンションで作ってる訳じゃないし。」
「まぁ、滅多に会うものでは無いですね……。」
「でしょ?それなら、普通の野生動物の方が危なくない?毎年、ほら、熊とかに襲われたりするじゃん?ハチに刺されたり。」
「…………はい。」
「ジャンクにたまたま会ってケガするので、そんなに騒ぐもんなのかな?」
「…………でも、私が見たジャンクの中には、雷を打てるジャンクがいました。すごく危険な能力だと思いましたけど……。」
「そのジャンクって、わざわざ人を襲ってたの?」
「………………あ。いや……。」
(そういえば、広い牧場で人気の無い所だった……。たまたま私達が……居合わせた……。)
タトラスが話す。
「雷に打たれて死ぬ人間も、たまにはいるくない?」
「…………。」
(あの時。私……。あのジャンクが落ちていくのを見過ごせなかった……。それって…………ジャンクに悪意が無かったから?……。先に…………。先にジャンクに殺気を向けたのは……?)
今度はマリの方から話す。
「でも……。最近は同種のジャンクが各地で目撃されています……。同種のジャンクは人を襲ってるという報告も入ってます。」
「ああ!ニュースで見た事あるよ。あれ、でも、多分マシロじゃないよ。」
「…………………………は?」
「マシロが同じの何個もつくる意味分かんないもん。だから、あのジャンクは別の誰かだよ。」
マリは衝撃を隠せない。
さらりと、とても重要な事を言われた気がする。
「別の誰かって………………何ですか…………?」
「いや。俺も分かんないけど。俺らの知らない奴なんじゃないない?」
「……………………そんな事って……。」
では、同種のジャンクに関しては、誰が、なんの目的で扱っているのか、さらなる疑問がうまれる。
私達は誰と戦っているのか。
誰が敵なのか。
「マぁリさん?」
「あ……。」
マリは少し考え込んでしまっていたらしい。タトラスに声をかけられてハッとする。
すると、タトラスはマリの顔を覗き込みながら爽やかな笑顔を向けてくる。
「どうやら、マリさんはまだ、僕に聞きたいこと、あるんじゃないですか?」
「…………それは……。はい……。そうです……。」
「じゃーあ。僕から提案なんですけどぉ……。」
タトラスの爽やかで可愛らしい笑顔は、見る人が見たら好きになってしまいそうなものだった。
「僕も一緒に、チェッキスに行ってもいいですか?」
「………………え?」




