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9-② 弱き者

 はずだった。

 

 その一連の動きを止め、しおらしくする九尾がいた。


 ユウトの目にはタカトしか映ってない。ユウトは何も気づいていなかった。

 

『いらんことしいのアルバラじゃあ。間抜け面が拝めてせいせいしたわい。』

 

「こら。ニーニャ。久々に会ったんだろう?いきなりケンカするの?」

 

『ケンカじゃなかろうに……。』

 

 知らない声が二つ。


 それでもユウトは動けずにいた。


 どこかから来た誰かは、ユウトの近くで立ち止まったらしかった。

 

「大切な人?」

 

「…………………………はい。」

 

 誰かの問いにユウトは小さな声で答える。


 知らない誰かはタカトの様子を覗き込んだらしかった。


 けれど、何も言わずに、知らない誰かは、また別の方を向く。


 すると、九尾が口を開いた。


 それは、さっきまで聞いていた九尾の声とは思えないほど、弱々しくか細いだった。

 

『な……ぜ…………。』

 

「ん?ああ。アルバラのこと、怒りに。」

 

 九尾は、知らない誰かのその言葉に、耳を伏せて、まるで反省した子犬のような姿になっていた。


 ユウトはそんなことも知らず、ただ茫然とタカトを見て固まったまま。

 

 知らない誰かは言う。

 

「ただ、君らには前もって言って無かったから。どーしたもんかと思って。ダメって言ったことをやったならまだしも、そんな事知らずにやっちゃったんだから、そこは僕が悪いよねぇ。」

 

『そんなこと無い。息の根止めてやったらいいんじゃよ。』

 

「こら。ニーニャ?」

 

『うぅ……。』

 

 すると、また知らない誰かはユウトの方を見ているらしかった。


 知らない誰かが言う。

 

「その子の魂は、まだアルバラが持っている。」

 

「…………え?」

 

「でも。そーだなぁ。アルバラから勝手に取るのも、アルバラが可哀想だし。…………ちょっと失礼。」

 

 知らない誰かはタカトの体に手をかざした。


 少しの時間の後、タカトの体が温かくなったような気がする。

 

「…………?!タカトさん?!」

 

「ああ。ごめんね。肉体が朽ちないようにしただけなんだ。魂があっても、肉体が無くなってしまうと、容器を変えなくちゃいけなくなる。それじゃ、君が望む物にはならないだろうからね。」

 

 そう言ってまた、知らない誰かは別の方向を向く。


 ユウトはタカトから視線を外さない。

 

「ハイアリス。ちょっと契約書を書くの、手伝ってくれる?」

 

 知らない誰かがそういうと、その誰かの横に精霊のような半透明の胎児ような物体が浮かんだ。その精霊はパラパラと本をめくっている。

 

「適当に。契約者は彼で。そうだな。一緒に居てもらおうか。縛り過ぎたら可哀想だ。ある程度でいいよ。」

 

 誰かの声に合わせて、精霊は本から何枚かの用紙を並べている。


 その用紙には読めない文字が書かれていた。


 ユウトはそれら一連の様子を知らない。ただ、タカトを見ている。

 

「うん。これで。……ねぇ。」

 

 知らない誰かは、ユウトに声を掛け、淡く光る紙の束を差し出した。

 

「ここ、名前書いてくれる?」

 

 知らない誰かは紙の1番下の空白を指差す。

 

「……………………。何ですか……。これは……。」

 

「アルバラ。…………いや。君達の言う、九尾との従属契約だ。その子の魂をアルバラが持っていて、その子の肉体を君が持っている。今すぐにはどうする事も出来ないだろうけど、もしかしたら。彼が帰ってくるかも?まぁ、勿論、絶対ではないけれど。」

 

「…………タカトさんが?…………。」

 

 ユウトが断る理由は無くなった。


 自然とユウトは、それが当たり前かのように、紙の空白に指先で触れて、そのまま自分の名前を指先で書いた。


 すると、その空白には青く光るユウトの名前が刻まれた。

 

「契約成立。」

 

 紙の束は弾けて消えてしまった。


 知らない誰かは九尾の方を向いたらしかった。

 

「これでアルバラへのお仕置きは終わりね。でも、今度やったら……。いや。今度は無いな。」

 

『…………はい……。』

 

「それじゃあ、大切な人のいる君。アルバラをお願いね。」


 ――――――――

 イーネ達は装甲車のようないつもの車に乗って山道を走っていた。


 このまま車で本部の"ガルダ"を目指す。


 まだ8時間から9時間程度かかるらしかった。


「だから!いい!つったんだろーが!!!」


「そんな訳にいかないでしょ?!」


 イーネとマリが車内で揉めていた。


 マリは頭を押さえて床にうずくまっている。


 マリはベリーの血液を摂取し、イーネの脇腹の傷を最初に、3人それぞれの大きな傷を治療をし終わった後だった。


(頭が割れそう!!!気持ち悪い……。早く…!早く…能力きれて!!お願い!!!)

「……おぇ……!」

 

 ベリーの血液を摂取した直後から、マリは吐き気を催し、頭痛にのたうち回るような状態で何とか治療を済ませ、後はマリの能力がきれるまで、ひたすらに耐えている時間だった。イーネが言う。


「ニコの能力がなきゃ、俺とベリーの能力はコピー出来ないんだよ!それを無理やり…。」


「仲間の傷を治して何が悪いの?!血は全量飲んだ訳じゃない!すぐにきれる!ちょっと黙ってて!!」


「………こんの……!馬鹿が………。」


 余程に痛いのだろう。マリらしからぬ言動だった。そこから少し時間が経つと、マリの様子が段々と落ち着いてくる。


(はぁ………。やっと……能力の効果がきれてきた………。)


 少し落ち着きを取り戻したマリが言う。


「………ごめん。もう大丈夫だから。」


「礼は言わねーぞ。お前が無理することじゃないんだよ……。」


 イーネの口調は以外にも優しさがあり、そのままギスギスとした雰囲気にはならずに、それぞれが沈黙する。


 朝日がのぼり、車の窓からは今の雰囲気にまるで似つかわしくない爽やかな日差しが入ってきていた。


 マリは吐き気がマシにならないかと窓の外をみる。美しいと思える朝の景色だった。

 

 キィィィィ ガチャンッ

 

 急ブレーキの後に車が斜めになって止まる。


 誰もまともにシートベルトをしていなかったため、大きく体制を崩した。

 

「な、なんですの?!」ポッツォ

 

「か、核師様……。あれは……。」

 

 そう言ったのは、車を運転してくれている事務の者。

 

 ――。

 

 イーネが能力を発動させ、車の外の屋根の部分に自分を含め、ポッツォとマリを転移させた。

 

「………………嘘でしょ……。」マリ

 

「…………。」

 

 そこには、洞窟でみた状態のまま。


 三階建の建物ほどに巨大な九尾が道路の幅いっぱいに、目の前に立ちはだかっていた。


 全員が戦闘体制に入る。

 

「イーネ……。先に運転手の方を避難させて下さいな……。」ポッツォ

 

「帰ってくるまでに死ぬなよ?」イーネ

 

「……それは…………どうかな…………。」マリ

 

 イーネが能力を発動しようとした、その時だった。

 

「イーネ!マリ!ポッツォさん!」

 

 それはユウトの声だった。

 

「「え?」」

「は?」

 

 3人は目を疑う。

 

 その巨大な九尾の背に、タカトを抱いたユウトの姿があった。

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