表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/62

9-① 弱き者

 <理事長室>

 

 理事長室のデスクの前にポッツォが立っていた。デスクにはタイヨウが座っている。

 

「理事長直々に仰ることなんですか?任務内容によって、他のユニットのメンバーがチームに加わってサポートすることはよくあることですし。わざわざお呼び頂いてとは……どういう……?」

 

 ポッツォの問いにタイヨウが答える。

 

「まぁ、今回の相手が九尾やからっちゅうのは勿論あるんやけどな。多分、チームの主軸になるのはユウトじゃなくてイーネになる。そういう力を持った奴やからな。…………けどな、俺らが思っている以上に、多分。あいつはまだ幼い。今、まさに今、成長しとる最中や。その点では、やっぱり場数踏んでるお前にサポートに回って貰いたいのと。………………あとは、俺の罪滅ぼしの意識やろなぁ。」

 

「罪滅ぼし……とは?」

 

 タイヨウはゆっくりと息を吐いてから話す。

 

「麒麟の時がそうやったけどな……。結局、帰ってこれたのはアエツだけやった……。麒麟の時は、科学班やらも総出で、大所帯で行かせてもーて。甘かったなぁ…………。実際に戦闘するやつらの命しか、心配しかしてへんかった……。でもなぁ。こんなん言うたら不謹慎やけどなぁ。アエツだけでも……たった1人でも帰って来てくれた事実が、俺は嬉しかった……。今回、麒麟の時と違って、九尾が実際におるかどうかは分からん。思い過ごしなら、それでええわ。けどな。やっぱり万が一を考えてまうねん。万が一のこと考えて…………俺は貴重な能力者をわざと同行させへんかった…………。そういう奴やねん…………。俺は…………。」

 

「上に立つ者として、妥当な判断かと……。それに、イーネ君をその任務に行かせているのは、矛盾しますでしょう?イーネ君も貴重な能力者です。」

 

「イーネの能力があったら、ワンチャン逃げられそうやろ?それに、全員を死にに行かせたいわけちゃうねん。ちゃんと、強い奴を選りすぐって、九尾に勝って貰うつもりもある。やし、お前に声をかけとるんやんか。」

 

 そう言いながらも、タイヨウの表情は晴れない。似合わない真剣な眼差しでタイヨウは続けた。

 

「………………でも、もし…………。もし、九尾と戦闘になるような事があるなら………………。頼む。ポッツォ……。お前だけでもいい、誰だけでもいい……。たった1人でもええ…………。生きて連れて帰ってきてくれ…………。頼む…………。」

 

 一呼吸おいてポッツォは答えた。

 

「…………仰せつかりましたわ。」


 ――――――――

 『アハ!アハハハハ!!アハハハハハハハハハハ!!死んだなぁ!死んだ!また死んだぁ!ユウト、お前のせいで!!!』

 

「タ……タカト…………さん……。」

 

「ユウトしっかりしろ!!」イーネ

 

『さぁ頂戴な!お前の魂!』

 

  グワリ

 

 九尾の牙がユウトに迫る。

 

「ユウト!!!」

 

 イーネが滑り込んでユウトを抱え、九尾の攻撃を躱わす。

 

耶狐炎裂(じゃっこえんさい)。』

 

 噛みついてきた九尾だったが、その勢いそのまま、九尾の牙の間から口の中が青白い光を放っているのが分かる。

 

(能力発動しねぇ……!避けきれねぇ!!…………)

 

遊女・愛の重み(ゆうじょあいのおもみ)!」

 

  ドンッ

 

 九尾の脳天に落ちてくるようにポッツォの槍での攻撃が当たる。

 

「やっぱりあなた、何発かは確実に当たってますわよね?!」

 

『小賢しい阿婆擦れが。』

 

 ポッツォの攻撃があたった一瞬をついて、イーネとユウトが体制を立て直す。

 

「ユウト考えんな!!お前が死ぬぞ!」イーネ

 

「!!……分かってる……!」

 

『思っていたより手がかかる。ここらが潮時か。』

 

 マリとユウトの銃口が九尾に向く。

 

天使の射る矢(シューリア)!」

 バンッバンッバン

 

 それを九尾は軽く尻尾で払いのけた。

 

『ガデラジーズィリストォガリアダキゼァリア……』

 

「?!……テンジョウ家の言葉……!」ユウト

 

 九尾は天を仰いで何か呪文のようなものを唱え出す。

 

「そんな隙を与えると思って?!」ポッツォ

 

 九尾に向かってポッツォとマリが攻撃を仕掛ける。


 が、どれも簡単に尻尾でいなされてしまっていた。


 その間にイーネとユウトは横たわるタカトにかけよる。


 イーネがタカトの様子を確認したが、瞳孔は散大し、体はまだ温かかったが、完全に呼吸も脈も止まっていた。

 

「……タ……カト……さん……。」

 

 ユウトが膝から崩れ落ちてタカトの体をそっと抱えた。

 

「ユウト……。今はまだ……。」イーネ

 

 ザクリ

 

 突然イーネの肩に亀裂が入り、血が滴り落ちる。


 見ると、九尾を中心として風がグルグルと回りはじめ、徐々に勢いを増していた。


 その風に、体の至る所が切り裂かれていく。

 

(不可避の全体攻撃?!やばい……。マリどこだ?!アエツのジレ!!)イーネ

 

(もぅ限界ですわ!…………! )ポッツォ

 

疾刃翠狐乱舞(しじんすいこらんぶ)。』

妓女・冷酷の打拳ぎじょれいこくのだけん!!」

 

 バンッ

 

 ポッツォの5本のイカの足、全てが長く伸びたかと思えば、石の扉にぶつかると、物凄い勢いで外開きに開いた。

 

『ほぉ。その扉を開くか。』

 

(無理に他3本の足を伸縮させると、いっきに核エネルギーを消費しますの!……私はもう、どちらにせよ戦えない!……)

 

 風はさらに激しさを増し、立っていられないくらいの暴風となり、風が体の表面を切り刻むように過ぎていく。

 

 マリは防御の形にジレを周囲に展開させており、その、ジレとマリの間に飛び込むように、イーネが能力で転移してくる。

 

「マリ!ユウトの所まで意地でも……!」

 

「待ってイーネ!もうジレも限界!削りとられる!!」

 

『アハハハハ!アハハハハ!肉片を啄むのも悪くない!!!』

 

「こっちですわ!!」

 

 ポッツォがイーネとマリの元へ、イカの足を伸ばして駆け込んでくる。


 伸縮可能な2本の足は、入って来た石の扉に向かって伸ばされていた。


 しかし、その足も風に裂かれてボロボロになりつつある。

 

「逃げるのよ……!それしかないわ……!!」

 

 それには2人も納得だった。イーネがユウトを見る。

 

「ユウト!!!!」(くっそ!能力の条件を満たせねぇ!!あいつ、来れるか?!……ユウト?)

 

(あの子……!!………………もうダメ……!)ポッツォ

 

「…………いくわよ。」ポッツォ

 

「待て!ポッツォ!!!」イーネ

 

「ポッツォさん!!!」マリ

 

『置いていくか!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハアハハハハハハハ!!それも一興!人間のいい所だぁ!!アハハハハハハハ!!』

 

 ポッツォは両手にイーネとマリ、1人ずつ抱える。

 

「ポッツォ!!………………こんの、馬鹿力……!」

 

「…………ごめんね。」

 

 ポッツォが触手を縮めると3人まとめて一気に入って来た石の扉の場所まで飛んでいく。


 そのままポッツォは来た道を戻るように、触手を伸ばして壁に貼り付けて、縮めて進むを繰り返した。


 物凄い勢いで3人はその場から離脱していく。

 

「ユウト!!!!!」イーネ

 

『アハハハハ!!アハハハハ!!アハハハハ!!!』

 

 イーネが叫ぶが、九尾、ユウト、タカトのいる洞窟は凄い勢いで遠ざかっていく。

 

 最後に見たユウトの様子は、


 タカトを抱きかかえながら。何かを諦めてしまったような。


 そんな様子だった。


 ――――――――

 洞窟の外の鉄の扉の前まで戻って来ていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。」

 

 ポッツォは肩で息を切らして、やっと、両手に抱えた2人を解放する。


 マリはズルズルとそのまま地面にへたり込み、イーネは


 ガシッ

 

 ポッツォの胸ぐらを掴んだ。

 

「……………………何してんだ…………おい……。」

 

 怒りのこもった声だった。


 息を切らしながらポッツォは答える。

 

「はぁ……はぁ……。ユウトは……。はぁ……。ユウトからは……もう……。闘志を感じられなかったわ……。あの状況では、この3人で逃走するのが最善と考えたまでよ。ここも安全とは言えない。今すぐにここからも離れるべきよ。」

 

「タカトが死んで、ユウトが死んで、それで九尾が収まる保証はどこにある。…………俺らがここから逃げて、俺らが助かる保証も……俺らが助かったとして、この村の人間が犠牲ならない保証がどこにある!九尾はユウトを殺したかった!ユウトだけが足枷で不安因子だったんだ!そのユウトを殺して、九尾がこんな洞窟で収まっている保証がどこにある!!この村の人間だけで済む保証がどこにある!!」

 

「………………その通りよ。タカトとユウトだけで終わるなんて……。私もそうは思えないわ。」

 

「何言ってんだ?馬鹿か??………………。俺らは死んでもユウトを守るべきだった…………。なんて事してんだよ。意地でも九尾に足枷をつけたままの状態にしなくちゃならなかった!!九尾の足枷を解いたのはお前だよ!なんて事してくれた!!!」

 

 ポッツォは黙ってしまった。


 マリも声をかけることが出来ない、張り詰めた空気が流れる。

 

 ゆっくりとポッツォが口を開く。

 

「………………生きるのを諦めた人間を、あの状況で救うことは出来なかった……。私の力不足よ……。ごめんなさい……。」

 

「…………………………。」

 

 今度はイーネが黙ってしまう。


 マリが「イーネ……。」と小さな声で名前を呼んだ。


 ポッツォが話しを続ける。

 

「あの状況で救えると判断したのは、あなた達2人だけなの……。九尾は私達のことを舐めていた……。弄んでいた……。だからこそ逃げれている……。この3人が、こうやって逃げれていることさえも奇跡よ……。ここを離れましょう……。体制を整えて、九尾を討伐すべきよ。一刻も早く。犠牲者を増やさない為に…………。その為にも……。生きるべきよ……。」

 

「死んでいい人間がいるってか?」

 

「違うわ。死んではいけない人間が多すぎるから、守るための選択肢よ。」

 

「…………。」

 

 イーネの言葉も正しく、また、ポッツォの言葉も正しかった。

 

 イーネはゆっくりと、ポッツォの胸ぐらを掴んでいた両手を下ろす。


 その片手に、ポッツォがイカの足の一本を巻きつけた。

 

「……………………何してんだ。」

 

「今のあなたは信用ならないの。心理状態がまともじゃないでしょう。転移の能力で、私たちだけをどこかにやって、自分だけ別行動をとってもおかしくないわ。…………悪けど、この手は離せない。……あら。違ったわね。この足。は、離せないわ♡」

 

 ポッツォは空気を和ませようと、最後は冗談っぽく言ってみせた。


 勿論、そんなのでイーネの表情が晴れる訳ではない。


 むしろ、俯いて、奥歯を噛み締め、悔しいのか、怒っているのか、憤りを感じているのか、降ろした手の拳を握りしめていた。


 ――――――――

 ユウトはタカトを抱きしめて膝をつき、項垂れていた。

 

『あああ。哀れなユウト。なんて醜い。醜い。醜い。醜くて本当にいイイ。人間の愛情とは醜く面白く、なんと美味しそうだろうか。』

 

「………………。」

 

 九尾の攻撃は止んでいて、静かになった洞窟内に、不気味な九尾の言葉だけが響く。


 九尾はニヤニヤと薄気味悪い笑顔でユウトの様子を眺めていた。

 

『残念なのは、生への執着が無くなってしまったことだね。少し味が落ちてしまった。』

 

「………………。」

 

 タカトの体は徐々に冷めていき、硬くなってきていた。


 それを肌で感じるユウトは、より一層、タカトを強く抱きしめた。

 

『さようなら。哀れなユウト。』

 

 そう言って、九尾が大口を開けて、タカトを抱きしめるユウトをそのまま。


 飲み込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ