8-④ お狐様のいうとおり
広場の奥を進んでいくと、道が突き当たる。
目の前には鉄でできた大きな開戸があり、厳重に南京錠で閉じられていたであろうその扉は、開いていた。
この鉄の扉は、元々ここにあった大きな洞窟の入り口を後から塞いだようだった。
「…………この中……入るの……?」マリ
「仕方ないじゃない。暗にダリアちゃんの命を人質にとったような発言があったし。」ポッツォ
「そもそも、村中の人間を九尾が操作してんなら、村丸ごと人質にとられたようなもんだからな。」イーネ
「……………………。」マリ
イーネが真っ先に洞窟の中へ入って行く。それに続いて他のメンバーも洞窟へ入って行った。
懐中電灯で辺りを照らしながら進む。
大きな洞窟は真っ直ぐに道が続いている。
洞窟内の壁の至る所に、お狐様と、それを信仰する人間の絵が刻まれていた。それは、比較的最近になってこの土地に根付いた宗教にしては、随分と手の込んでいるものだった。
暫く洞窟の中を進む。数分歩いただろうか。
ずっと壁画が続いていたが、途中で一部、洞窟の岩肌を削って棚のように加工してあるのが見えた。
一同はその棚の前で立ち止まる。
そこには、まだ余白を十分に残した状態で
人の頭蓋骨が並べてあった。
その数は20と数個。
「…………あるな。」
イーネが呟く。
頭蓋骨一つ一つの額に名前らしきものが彫ってあった。その中に、"moku"、"yujin"の名前が彫られた頭蓋骨も確認できた。
「……全部、九尾への人柱……。」マリ
全員が絶句していた。
しかし、その中でも精神的なダメージを負っていたのはユウトだった。口元を手の平で抑えて荒く息をする。
ついにはゆっくりと地面にしゃがみ込んでしまった。
タカトが地面に降り立ち、心配そうにユウトの顔を覗き込む。
イーネがユウトに聞く。
「お前は……。九尾が可哀想だったみたいな事を話してたな。………………聞くぞ。それは……。その話しは誰に聞いた?…………九尾は"未来を見る力をテンジョウ家が利用する為に、無理やりに閉じ込められていた"って話しは……。誰に聞いた?」
ユウトの表情は見ていられないものだった。
無自覚だった自分の罪の重さを体感しているような。そんな表情だった。
ユウトはゆっくりと口を開く。
「…………九尾に…………です……。僕は……。九尾については……九尾からしか聞いていない………………。」
「………………。」
(あの村の人間の様子を見ても、当時のユウトが九尾に操られていた……なんて可能性も無くはない……。それとも、子供の純粋な心を九尾に利用されたのか……。(でも、何故九尾はわざわざこんな事をして核師を…………あるいはユウトを誘き出した?……。リッツ……。いや、九尾の言い方じゃ、俺の事は最初から狙っていた感じではない……。完全に村を掌握している九尾が、何故こんな……核師を呼びつけて自分を危険に晒すようなマネを……。よほど自分の力に自信があるのか……。それとも……。))
重苦しい空気が流れていた。見かねたポッツォが「ユウト……。」と小さな声で話しかけようとした時、再びイーネが話し出す。
「…………ユウト。おい。確認させろ……。お前の"------"。」
――――――――――
洞窟の中をさらに奥へと進んでいくと、少し開けた所にでた。
そこには、どうやって設置したのか。来た入り口よりも圧倒的に大きな石の扉があった。
マリが言う。
「この石の扉…………。ポッツォさんの力で開きますかね?…………。」
「分からないけれど。やってみるしかないわね。」
そう言って、石の扉に近づこうとした時、扉はひとりでにゆっくりと開き、人1人が通れそうなくらいになると動きを止めた。
まるで、中に招き入れるかのように。
全員に緊張が走る。
ゆっくりとした足取りで、1人1人、その石の扉を通っていく。
石の扉の向こうは大きく開けていた。
おおよそ野球場くらいの広さはある卵形の広場は、天井に大きな穴があいており、月の光が遮る物なく真っ直ぐに入って来ている。
その中央に、月明かりに照らされた、大型犬ほどの大きさの黄金色の狐が、眠るように丸まっていた。
その尾はおそらく9本。
イーネ達は入り口から少し歩いて立ち止まり、一列に横並びになってその狐を警戒する。
バタンッ
石の扉が大きな音をたてて閉まった。
それを合図にするように、ムクリと狐は起き上がるとイーネ達の方をみる。
『あああ。よく来たねぇ。待っていたよ。大きくなったんだねぇ。ユウト。』
狐が口を人間のように動かして喋る。
「……九尾。」とユウトは小さな声で呟いていた。
九尾に向かってイーネが聞く。
「村の人達に何をした?村人を操ってるのはお前だな?」
『操っている?…………フハ。フハハハハハハ!!』
九尾は不気味な笑い声をあげて続ける。
『操ってなどいない。この村の昔話は聞いたんだろう?私は恩返しに、この土地に私の力を流し込んでやっているだけだ。そのおかげで、この土地は豊かになった。』
「じゃあ、来る途中の頭蓋骨は何だ。」イーネ
『ああ。人間に話すには申し訳なさがあるが、私の好きな食べ物は、人の魂でね。それを話したら、村の人間が自ら人柱を立てるようになったんだよ。別に、食べなくても生きていけるが、せっかくくれるというなら、ありがたく貰っているだけだ。』
「お黙りなさい!私達を襲った村人達は明らかに様子がおかしかったわ!あなたが操っていたとしか思えない!」ポッツォ
『ああ。確かに、一人はメッセンジャーとして使わせてもらったが、それ以外は知らんよ。ハハハ……。アハハハハ!そうか!そうか!操られているように見えたか!それほど、頭のおかしな連中に、お前達の目には映ったわけだ!!』
九尾の不気味な声が響く。
「…………なんなの……。」ポッツォ
『教えてやろう。この村の連中は、私のご機嫌取りの為に、村総出で、毎年祭りをするようになった。毎年一人の犠牲を払ってな。私が頼んだ訳じゃあない。あやつらが勝手に始めた事だ。』
「…………おかしいわ。それじゃあ、子供ばかり犠牲になる意味が分からない!あなたが先導しているんでしょ!あなたは子供を食べるのが好きなんだわ!!なんて事を……!」ポッツォ
『アハハハハ!!!そうだな!最初は大人だったが、最近は子供ばかりになったなぁ!何故だろうねぇ。何故かねぇ。ちなみに私は、薄汚い罪人の魂の方が好みだ。子供の魂は純粋過ぎて好かん。』
「…………じゃあ……何故……。」ポッツォ
『知らんなぁ。たが。想像には容易いなぁ。私の力の恩恵を受け、犠牲になるのは。さぁて。誰か。アハ!アハハハハハハ!だから人間の魂はいい!!いつか、この村の薄汚い大人の魂を余す事なく頂こう!』
ポッツォの疑問に呟くようにして答えたのはイーネだった。
「………子供の方が騙しやすい。そして、子供はまた作ればいい……。そこの狐も言っていたが、子供になったのは、ごく最近……。そこそこ人柱に都合のいい大人を殺して、次に子供に目をつけた……。」
「……そんな……。」マリ
すると、イーネが別の質問を九尾に投げかける。
「何でわざわざ核師を誘き出すような真似をした。」
『私はユウトに会いたかっただけだ。あの時、私を助けてくれたユウトに、ちゃんと会ってお礼がしたかった。』
九尾は薄気味悪いニヤケた面で答えた。それにイーネが返す。
「黙れホラ吹き狐。違うな?…………お前は恐れているんだ。どうしてもユウトを消したかった。ここは、ガルダからも、そう遠く離れていない。お前は狙っていたな?確実にユウトがここに来る状況を。…………"服従"の能力者を消すことを。」
『あああ。光の申し子は"知の才覚があって聡明"なんだ。"透き通る眼で真実を見、知的好奇心と探究心を持つ"。フフフフフ。まるで体現するかのようだねぇ。』
「おい…………。何の話しだ……?」イーネ
『おっと。知らなくていいことだ。ただの狐の戯言さ。』
すると今度は、ユウトがその重たい口を開く。
「九尾…。聞きたい……。お前は僕に言ったな?テンジョウ ユキハルに、この狭い檻に閉じ込められ、能力を強制されているって………。君は辛い毎日を過ごしていた…。テンジョウ ユキハルに、痛い思いをさせられていた……。子供の僕にそう………。」
『アハ!アハハハハ!アハハハハハハハハハハ!!!』
九尾の高らかな笑い声が反響する。
『ああ!言った!幼いお前に言ったとも!何だったかな?未来を見る力だったか??アハ!アハハハハ!!!愉快な言葉だろう?!あの時はありがとう!辛い毎日というのは本当さあ!ユキハルの護符で出られなかった!あああ。馬鹿で哀れなユウト!!優しさのついでに、その魂もおくれよ!』
九尾はそういうと少しずつ体が大きくなり、獰猛な爪や牙が目立ってくる。ユウトは思う。
(僕は………。どうやら、本当に……。哀れなことをしたらしいね……。)
全員、戦闘態勢に入る。あっという間に九尾は三階建の建物ほどの大きさにまでなった。
(全弾使う……!)イーネ
ドカンッ
5つのシッピーボムが九尾の目前に転送され、大きな爆発音が鳴った。それをかわきりに、九尾を囲むようにメンバーは散り散りになる。
「ごめんあそばせ?」ポッツォ
ガツンッ
ポッツォはイカの足を器用につかって空中移動も自在にこなしている。そのままの勢いで九尾の頭もとにくると鋼鉄製の槍で九尾の頭をぶん殴る。
九尾の上半身が大きく揺いだ。そこへ。
「天使の射る矢。」
アエツの血液を摂取したマリが、ライフルのような形に変形させたジレを構えて九尾を撃ち抜く。
九尾は前足をあげて大きく反り上がるような態勢になった。さらに。
「ぴぃぃぃいいいい!」
バンッバンッバンッ
タカトの翼を使った攻撃と、ユウトの銃撃が加わる。最後には。
ズドンッズドンッズドンツ
九尾の頭上に突然、巨大な丸太やら石やらが降ると、九尾は下敷きになり土煙が巻き起こった。
「最後のイーネ?」ユウト
「行き道で見た岩やら丸太やらな。」イーネ
「……私、イーネの力使った事あるから分かるけど、イーネの能力って結構シビアよね?……それで、行き道で見ただけの物体をここまで転送させるとか……。信じられないんだけど……。」マリ
全員、攻撃に手応えがあった。




