8-③ お狐様のいうとおり
車から持ってきた懐中電灯をそれぞれが持って森の中の獣道を進む。
ユウトはコートの下に武器を装備し、マリはナユタの血液1つとアエツの血液1つを持ち、アエツから預かったジレの一部も持っていく。イーネはシッピーボム5つ、バインドワイヤー4つを腰に装備し、ポッツォは自分の身長と同じサイズの鋼鉄でてきた槍をイカの足を使って持ち歩いていた。この鋼鉄の槍は80キロくらいはあるそうだ。
念の為、全員が戦闘の準備を整えて出発する。
しかし、森の中をあてもなく進むなんて、危険きわまりなく、途方もない時間が費やされるのではないかと。少なくともマリはそう思っていた。が。
「ありがとう!これ、ここに置いておくね。」
カラスに向かって話したユウトは、タカト用の生肉を木の枝に引っ掛けていた。
「その先を真っ直ぐでいいみたいだよ。」
「凄いスムーズに進めてますね……。」マリ
「まぁ、ここに来る人間がどっちに行っているかを聞いているだけだから、もしかしたら目的と全然違う所に行ってても、おかしくないけどね。」ユウト
「まぁ、こんな森の中進むやつ、あの村の人間しかいねぇだろ。」イーネ
「ま、そー考えれるよね。」ユウト
人が歩ける幅はある獣道を進み、迷ったら近くの動物に聞くを繰り返して進んでいた。
森に入って30分程度が経過しただろうか。獣道は、途中から明らかに人が手を加えて整地しているであろう丸太を埋め込んだ道に変わる。
その整地された道を進んでいくと、急に開けたかと思えば、地面にレンガが埋め込まれ、円状に綺麗に整えられた広場のような所に出た。
広場の周りには、人の身長より少し高い棒の先に、空のランプが掛けられている。
さらには広場の中央に、シングルベッドくらいのサイズの長方形の石の台座がある。
台座の側面には、お狐様にむかってこうべを垂れる人間の絵が描かれていた。
「ダリアちゃんは、お狐様のお祭りも東の森でするって言ってたわよね。」
ポッツォの言葉にマリが返す。
「……ここが。そうなんですかね……。」
「何だか、和気藹々なお祭りって感じはしないですね。」ユウト
広場の中を懐中電灯で照らしながら見て回る。
ユウトが言う。
「広場の奥も、何かありそうですね。」
広場の向こうにも整地された道が真っ直ぐに続いていた。
「ここは何も無さそうなんで、奥に進みましょうか……。」マリ
マリがそう言ったときだった。
カサッカサッカサッ
広場の周囲の森の中から微かな音がする。
全員が戦闘体制をとりながら、中央の台座を囲むように背中合わせにして集まる。
カサッカサッカサッ
すると、来た道の方向を向いていたマリが何かに気づき、持っていた懐中電灯で、足元の方からゆっくりと照らした。
「…………リッツさん……。どうして……。」
そこには、鍬を持ったリッツが立っていた。
昼間の時とはどことなく雰囲気が違う。
「核師さん……。東の森は危ないって言ったじゃないですか……。」リッツ
「…………。リッツさんこそ。明かりも持たずに、こんな時間に、どうしてここに……。」マリ
マリがそう言い切ったあと、ゾロゾロとリッツの背後や森の中から村の住人がイーネ達を囲むように出てきた。その数30人前後。
不穏な空気が漂う。
イーネは仲間達に聞こえるように呟いた。
「リッツは俺がワイヤーで拘束する。」
「……いや。…まだ戦うと決まった訳では……。」マリ
「マリ。それはちょっと無理があるんじゃない?」ポッツォ
「………………ですよね。」マリ
「村人はただの一般人だ。傷つけるのも殺すのも無しだよ。」ユウト
「じゃまくせえ……。」イーネ
すると、おもむろにリッツが口を開いた。
「……核師さん……。聞いて下さいよ……。今年のお稲荷様なんですが、娘に決まっているのが取り消しになって……。」
その言葉にマリが返す。
「……そんなの……誰が決めるんですか……。」
「やだなぁ……。お狐様に決まっているじゃないですか……。お狐様が……。」
リッツや村人達の表情が変わる。
まるで何かに取り憑かれたかのように不気味な笑顔であり、怒りのような表情でもあった。
「今年はその……白髪の男だって…………!」
「?!」
その言葉の後、村人が一斉に飛びかかってきた。
皆、それぞれに武器になりそうな農機器具や包丁などを持って、なりふり構わず突っ込んできている。
「とりあえずリッツは拘束した。後はいいだろ。」
いつの間にか、リッツはイーネのバインドワイヤーで拘束され、地面に横たわっている。
「多少なりとも痛いのは、ごめんあそばせ?」ポッツォ
忘れてはならない。
彼らは戦闘のプロとして、練習と実践を積んでいるということを。
ドサッ
勿論、素人のそれでは何とかなる訳がなく、たった数分でリッツを除く全ての村人が気絶させられた。
「……ほんと、みなさん、ごめんなさい……。」
マリだけが申し訳なさそうに両手を合わせて頭を下げる。
他のメンバーは、横たわっている村人達はそのままに、リッツを地面に正座させた。
イーネが聞く。
「おい。お狐様ってのはどこにいる。俺を指名したってどういうことだ。」
リッツは黙ったままうつむいており、ピクリとも動かない。イーネの質問に答える気配はなかった。
イーネがうんざりとした表情で呟く。
「うぜぇ……。」
それに返したのはポッツォだった。
「あら。彼が話す気がないなら、私の体液に触って貰いましょうか?」
「ポッツォさんの体液って、毒なんじゃ……。」マリ
「毒にも複数種類があるの。自白させるって効能では無いけど、それに近しいものはあるから、試してみてもいいかもしれないわね。」ポッツォ
「そ、そーなんですか……。…………でも、一般人ですし……。」マリ
そんな話をしていた時だった。
リッツの肩が小刻みに揺れたかと思うと、徐々に大きな声で笑い出した。
「くくく………………あは。あはははは。」
「……。」
明らかに様子がおかしかった。全員が怪訝な顔でリッツを見ながら、すぐに戦闘に入れる姿勢をとる。
リッツが顔をあげる。
「?!……。リッツさん……。」マリ
それはまるで、何かに取り憑かれたような顔だった。
口角を最大限にまであげた笑顔は口が裂けてしまうのではないかと思うほどで、何より、見開いた目は真っ赤に充血していた。
リッツが喋る。しかし、それはリッツの声ではない何かだった。
「『あああ。哀れな子供達。よく来たねぇ。よく来たねぇ。あああ。ユウト。会いたかったよ。会いたかった。それに光の申し子まで。あああ。なんという偶然。なんという奇跡。ここまでおいで。私に会いに来たんだろう。帰るなんて馬鹿はよしてくれよ。でないと今年の供物を先に頂いてしまうよ。この先で待っているから。あああ。早く、早く顔を見せとくれ。』あは!あは!あははははははハハハハハ!!!」
そのまま真上を向いて固まったリッツは、暫くするとバタリと気を失って倒れた。
ガチャン
広場の奥の道から金属音のようなものがした。
「どういうことですの……。」
ポッツォが呟いた。
すると、おもむろにユウトがジャックポットの紐を抜く。
「………………今のは……。九尾の声です。」




