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8-② お狐様のいうとおり

「『今から約20年前の出来事です。この村は、急激に作物が育たなくなり、耕作を主な収入源としていた我が村は最大の財政難に見舞われました。


 ですがもう、高齢化も進んだ小さな村です。このまま先細って衰退していくのも良しとする者が多かった。


 ですが、私の父だけが、そうした村の意思に争おうとしていました。


 父は、なんとか村が持ち直さないかと思案し、ある日、東の森の深くまで入って行ったそうです。


 そこは、迷いの森とも呼ばれ、村の誰も寄りつかない場所でした。


 父はそこで、小さな1匹の狐に出会ったそうです。ここらへんでは見ない、黄金色の毛をした珍しい狐でした。


 狐は腹を空かせていたそうで、父は持っていた食料をその狐にやったのです。


 すると、突然に狐は姿をかえ、大きな大きなお狐様になられました。


 お狐様は言いました。「優しい男よ。礼を言う。そなたの優しき心に感謝を示そう。」と。


 そう言って、お狐様は姿を消されました。


 その日から、村の土壌は回復し、作物がスクスク育つようになりました。


 父はお狐様にお礼を言おうと、もう一度、東の迷いの森の中に入りました。


 するとまた、黄金色の毛をした小さな狐に会ったのです。


 父は、お狐様に違い無いと思い、頭を下げて感謝の言葉をかけました。


 すると、その小さな狐が言ったのです。


「私は古い神だ。人々からの信仰が無くなってしまい、このままでは無に返ってしまう。優しき男よ。私に礼をしてくれるなら、どうか。どうか。私をこの村の守り神として扱ってほしい。そうすれば、この村に永劫の反映をもたらそう。」と。


 父はお狐様をこの村の守り神にしようと、村の皆んなにお狐様の話しをしました。


 初めは誰も聞く耳を持ちませんでしたが、信仰者が増える度に、この村は徐々に豊かになっていったのです。


 そうして、お狐様を皆んなが信じるようになり、この村にお狐様信仰が根付きました。』


 その父は、早くに亡くなってしまいましたが、父から聞いた話しを今は私が後世に伝えようと考えています。」

 

 素朴ながらも豊かさを感じる木造2階建ての一軒家の一階。


 丸い大きなテーブルの周りに丸椅子を並べて一同は腰掛けていた。


 タカトは断りをいれてテーブルの上にチョコンと座っている。


 お狐様信仰について説明してくれたのは30代の若い男性。


 名前をリッツといい、ごく平凡な見た目のその男性も、一緒にテーブルを囲むように座っていた。


 そのリッツにユウトが質問する。

 

「ここ最近、本物のお狐様が現れたとの情報で僕達は来たんですが。」

 

 それにリッツは困った顔をしながら答える。

 

「いやー。それが。何のことやら。その情報がもし本当なら、僕としては是非、お狐様に会ってみたいものですが……。少なくとも、僕自身は把握していませんね。」

 

「……そうですか。」

 

 すると、リッツの後ろにある二階に続く階段から、こちらの様子を伺うように小さな女の子が顔を覗かせる。


 リッツは周りの視線が後ろに向いたことに気づいて振り返ると、「ああ。ダリア。こっちにおいで。」と声を掛けたが、女の子は無視して2階に上がって行ってしまった。


 リッツが言う。

 

「すみません。娘です。引っ込み思案なものでして。娘は今年、お稲荷様に選ばれたので、どうか、愛想良くしてもらいたいものなのですけれど。」

 

「お稲荷様とは?」ユウト

 

「お狐様に感謝を込めた、年に一回のお祭りのような物です。毎年、村で1人、お稲荷様という者が選ばれるんですが。まぁ、お祭りの花形みたいな物ですね。着飾ったり、神輿に乗って担いだり。娘もとっても楽しみにしているんですが、ちょっと恥ずかしいみたいで。」

 

「へぇ。そうなんですか。お祭りはいつに?」ユウト

 

「1週間後ですね。雨の日は延期しちゃうんですけど。」

 

「そうですか。」ユウト

 

「すみません。お役に立てそうな話しはなくて。」

 

「いえ。こちらこそ。ありがとうございます。少し村を見て回っても?」ユウト

 

「どうぞ。ご自由になさって下さい。」

 

 そう言って一同は家を出た。


 暫く村の中を散策する。


 村自体の広さは大きく、畑を挟んで点々と木造の家が並ぶ。ちらほらと村の者に会って話しかけたが、本物のお狐様に会ったという話しは無く、太陽が落ちてきて夕暮れになってきていた。


 一度道端に立ち止まり、マリが話す。

 

「こーゆう場合ってどうなるんですか?」

 

 それに答えたのはポッツォだった。

 

「とりあえず今晩は車中泊ね。乗ってきた車は、5人くらいなら余裕で寝れるから。」

 

「これといって怪しいものがないし、明日もとりあえず調査してみて、一旦本部に相談して指示を仰ごうか。」ユウト

 

「そうですか。………………あれ?……。」マリ

 

 いつの間にかイーネの姿が無かった。


 周囲を見渡すと、少し離れた用水路の蓋の上に胡座をかいてすわっている。誰かと話しているような様子だった。


 不思議に思いながら皆んなが近づくと、イーネの体に隠れて見えていなかったが、しゃがんで座るダリアの姿があり、どうやら一緒に遊んでいるらしかった。


 ダリアの横には手持ちのついたバケットが置いてあり、中にはいっぱいのシロツメグサが摘んである。それで、花冠や指輪を作っているらしく、よく見ると、イーネの指や頭なんかはシロツメグサで作ったアクセサリーでいっぱいになっていた。

 

「あらぁ。可愛らしい遊びね。こんばんは。」

 

 ポッツォがダリアに話しかけると、さっきまでお喋りをしながらルンルンで飾りを作っていたダリアが、急にしおらしくなったようだった。


 マリが言う。

 

「ほんと、イーネが子供に好かれるの……。意外よね……。何したらそうなるの?」

 

「何もしてねぇよ。」イーネ

 

 すると、小さな声でダリアが言う。

 

「お花の……冠の作りかた……。教えてもらってたの……。」

 

「…………お花の冠つくれるんだ……。」マリ

 

「作れちゃわりぃのかよ。」イーネ

 

 またポッツォがダリアに話しかける。

 

「あらぁ。見せてくれる?わぁ!上手に作れてるわねぇ。ダリアちゃんがつくったの?」

 

 それにダリアがコクリと頷く。少しだけ距離が縮まったようだった。

 

「じゃあ。おねぇさんも、お花の冠の作りかた……教えてもらおうかしらぁ?♡」

 

 ポッツォはダリアに言っているようで、イーネに視線をやっている。イーネはダリアの前だからと我慢はしているのか、引きつった何とも言えない表情をしていた。

 

「おねぇさん、お腰からお魚生えてる。」

 

 ダリアがポッツォの腰を指差して言う。

 

「そぉなの。よかったら握手してみる?怖く無いわよ?」

 

 それにはダリアはフルフルを首を振って答え、また花冠作りに戻ったらしかった。


 時々、小さなダリアの手ではやりにくい部分をイーネが上手にサポートしている。

 

 暫くはそれを黙って見ていたが、それでは手持ち無沙汰の為、雑談がてらにポッツォがダリアに話しかけはじめた。

 

「ダリアちゃん、お稲荷様に選ばれたんだってね。凄いじゃない!ダリアちゃん、お祭り楽しみ?」

 

 それにダリアは頷いてから答える。

 

「お祭りはね、いつもよく分かんない。」

 

「ああ。そう。まぁ……出店とか出る訳じゃないだろうしね……。子供にとっては退屈……なのかな?……。」ポッツォ

 

「でも、今年はお稲荷様だから。遊園地にいけるの。」ダリア

 

「そう!お祭り頑張ったご褒美にパパが連れてってくれるのかな?」ポッツォ

 

「お狐様が連れてってくれるんだよ。」ダリア

 

「あぁ。そっかそっか!そーなんだね。」ポッツォ

 

(『お狐様が連れてってくれるから頑張ろうね』……っとかって、大人が言うんだろうな……。)マリ

 

「どこの遊園地にいくの?って、分からないかぁ。」ポッツォ

 

「うん。しらなーい。だって皆んな帰って来ないもん。」ダリア


「ん?帰って……来ない?……。」ポッツォ

 

 ダリアのそのたった一言でダリアを除いた全員に緊張が走った。


 ポッツォが調子を変えずに言う。

 

「…………帰ってこない?って、んんー?そーなの?」

 

「うん。去年のモク君も、その前のユジン君も、みんな帰ってこない。だから分かんない。」ダリア

 

「そーなんだぁ。どこに行っちゃったんだろね?」ポッツォ

 

「お狐様の所だよ。遊園地みたいでとっても楽しいんだって。だから帰ってこないんだよ。」ダリア

 

「……じゃあ、パパとママにも会えなくなるの?」ポッツォ

 

「ううん。モク君のパパとママも、ユジン君のパパとママも、モク君とユジン君に会いに行くんだって、いつもどっか行くから、皆んなで遊んでるんだと思う。」ダリア

 

「その、モク君のパパとママと、ユジン君のパパとママは帰ってくるの?」ポッツォ

 

「うん。帰ってくるよー。」ダリア

 

「………………。」

 

 きな臭い話しだった。


 誰もが、もう少しダリアから情報が探れないかと顔を見合わせる。


 ポッツォが聞く。

 

「モク君のパパとママと、ユジン君のパパとママが、モク君とユジン君に会いに行くーって言う時、いつもどっちの方に行くか……とかって、分かる?」

 

「あっちー。」

 

 そういって、ダリアは一点を指差す。

 

「………………東の森……。」マリ

 

 ポッツォがダリアに聞く。

 

「森の中へ行くの?」

 

「そーだよ。お狐様のお祭りもあっちだよ。」ダリア

 

「…………。」

 

 今度はイーネが優しくダリアに声をかけた。

 

「もうお日様しずんじまうぞ。帰らなくていいのか?」

 

「帰るー。これ、おにぃちゃんにあげるね。」

 

 そう言ってダリアはアクセサリーにしたシロツメグサをイーネに渡し、バケット持って帰っていった。

 

 イーネはその中から上手に出来ている指輪を選んではめて、それ以外は地面に残したまま立ち上がった。

 

「…………行くぞ。」イーネ

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