7-② あれでも幻種の
<リムジン内>
一同は"ローズ"から"ロータス"と呼ばれる場所へ向かっていた。ロータスは大きな山々が連なり、世界的にみても登山やハイキングなどで有名だ。そのロータスに長さ、深さ共に巨大な谷があり、"ロータスの谷"と呼ばれる。
そこへ向かう一同、リムジンの中。
「ぐがぁぁぁあ……zzz……ぐぉぉぉぉ…………zzz……。」
アエツとタカトは眠っていた。
「聞きたいんだけど、ジャックポットなんて、いつどーしてたの?」
ユウトがイーネに聞く。
「あ?お前が合図送った時に紐抜いてたんだよ。」
「ああ。竹林に入った時か。あの時、僕のこと、"使えねぇ奴"、なんて言ってたのに、ちゃっかり目安にしてたんだ。」ユウト
「黙れよ。相手の罠にハマってからの合図には変わりねぇんだよ。自惚れんな。」イーネ
「あと、そもそも今回はジャンクの討伐目的じゃなかったからジャックポットなんて貰ってなかったろ?どーしたの?」ユウト
それにはナユタが答える。
「科学班の部屋から盗んだんだよ。その人。その盗んだ片方をフェリーの時に僕に渡してきたんだ!共犯にされた!!」
「ああ。そーいえば、世界地図も自分の手元に転移させてたもんね。盗みたい放題だ。」ユウト
「んな訳ねぇだろ。色々条件あるっての。」イーネ
「まぁ、その機転のおかげで助けが来てくれたって訳なんだ。」ユウト
「来るのに一晩かかってるけどな。」イーネ
「死にかけの所に滑り込んだんだから、感謝しなさいよ。」ベリー
すると、イーネが周りを見渡して言う。
横に長い向かい合わせの座席に皆んなが座っているため、全員の顔を見ることができた。
「ってか、何で全員で行ってんだよ。アエツ、タカト、ユウト、ベリー、ナユタ。お前ら全員、今からのジャンク討伐にろくに参加出来ねぇだろうが……。」イーネ
「エネルギー切れ、弾切れ、非戦闘員のオンパレードだね。」ユウト
「待ってよ。私はまだ使えるでしょ?」ベリー
「お前もだいぶエネルギー切れだろうが。」イーネ
すると、「ふんがぁっ!」とアエツが無呼吸後に目を覚ましたかのようなイビキを上げて、半目をあけてイーネの方を指差す。
「んんんー?違うぞぉ?イーネ。仲間なんて、そぉーゆーもんだぁ……zzz……ぐぉぉおぉ……。」
そう言って、アエツは再びイビキをかいて寝始めた。
『言いたいコトいって寝れるナンて。凄いネ。』ニコ
「…………。」イーネ
ニコはどうやら、出来る限りはナユタをかえさずタブレットで話す事にしたらしい。通訳が間に入るのも、それはそれで対面で喋っていない感覚がしてちょっと違うとか何とか言っていた。
すると、ユウトが大きなあくびをする。
「ふぁぁ……。僕も寝よ。ちょっと距離あるっていってたし。イーネも寝ないの?僕達フェリーでもろくに寝てないから、ほんと、24時間くらい起きてるけど。」
「…………寝る……。」
暫くすると、ユウトとイーネも眠ってしまった。
イーネの寝顔を見ながらナユタが言う。
「わんぱくな子供の寝顔を見る親ってこんな感じなのかな……。なんだか、束の間の休息感……。」
『なんだっケ。寝た子を起こすナ。だっけ。』
「ニコ。なんか、さっきのイーネとユキハルのことわざ合戦に影響されてない……?」
すると、ベリーが口を開いた。
「……ねぇ。なんで皆んな、私たちのこと聞いてこないの?……」
『え?何。私たちのコトって。』
「…………ユキハルも気になること言ってたでしょ……。マリにも聞いたんだけど、私達に対して、誰も何も聞いてこないの。何でなの?」
『何で聞く必要ガあるの?』
「何でって…………。」
すると、ニコは少し長文を打って返した。
『僕のコトも誰も聞いて来ないヨ。マシロの襲撃の時ニ。僕が暴走している声ガ、放送を通して流れたハズだけど。誰も聞いて来なイ。僕はそれがありがたいシ、僕が話したくて話しタラ、きっと皆んな聞いて来れるんダト思う。』
「…………。」
「ベリー。僕達は核師なんて危険な仕事をしてるんだ。みんな、大切な仲間を失ったり、力の変わりに何かを失ったり、そういう背景にいる人が、ここには多いと思う。」ナユタ
「…………。」
「けれど、僕達は今ここに仲間として一緒にいるんだ。上手くは言えないけど、過去や背景なんて、きっと重要じゃないし、皆んな気にして無いんだよ。それぞれが見て、聞いて、感じた事を信じたことを大切にしている。今を見てるんだと思うよ。」ナユタ
「……。」ベリー
『関係アル?昔の事とか、今もってる弱み?みたいなのって。困ってイるならカバーする必要はアルケド、傷口に塩を塗る必要なんてナイでしょ?』
「ちょっと上手く言えたね。ニコ。」ナユタ
『今タブレットで調べたんだ。傷口に塩を塗る。』
「2回言う必要はないけど。」ナユタ
「…………………………あっそ。」ベリー
リムジンは目的地に向かった。
――――――――
<ロータスの谷>
茶色い岩肌が見える断崖絶壁を全員で覗き込んでいた。
[キリキリキリ]
[ジリジリジリ]
[グギャギャギャギャ]
谷の下に無数のジャンクが団子になっていた。
ムカデやダンゴムシのような昆虫類ばかりで、どれも通常の虫とは違い、トラックほどの大きさをしている。
『虫がウジャウジャ。』ニコ
「100から200の間っと、いったところですかね。」ユウト
「きききき気持ち悪いよぉおお!!」ナユタ
何ていいながら状況確認が終了した。
イーネが後ろに立つレンに聞く。
「何でこんな事になってんだ。」
レンはずっとイーネ達の付き添い役になっていることに納得がいかないらしく、面倒くさそうな態度で答える。
「問題はあの硬い甲殻だ。そこに団子になってるジャンクどれもが持っていて、ちょっとやそっとの攻撃じゃあ通らない。1体や2体なら何とでもなるけど、数が数だ。そこにまとめて閉じ込めることには成功したけど、処分の仕方に困ってね。」
「こんぐらい処分出来ない低俗ばかりが寄せ集まって、無い知恵しぼってこの坩堝か。よく頑張りましたね。」
「…………こんの……。ユキハル様のお情けで生きている弱者が……。」
「ゴミ側近のキノコヘアが。鏡見てから言えよ。弱者ですって。顔に書いてあんぞ。」
いつものイーネの節が炸裂し、レンはキリキリと歯を噛み締めながら怒りにふるえ、腰の日本刀に手を伸ばそうとしている。そこにユウトが声をかけた。
「レン君。イーネのこれは相手しない方がいいよ。」ユウト
「そうそう。まともに相手してたらムカつくだけだから。」ナユタ
『コイツの挨拶みたいなモンだから。無視が1番ダヨ。』ニコ
「おお!そーだな!イーネ流の挨拶かぁ!」アエツ
「ぶふっ……。ふふふふっ……。」ベリー
「おい。お前ら……。どっちの味方してたんだ……。」イーネ
すると、ベリーとタカトを除く全員が声を揃えて「『レン君。』」と言い切った。
「…………………………お前ら…………覚えとけよ……。」
すると、ここの監視にあたっていたというテンジョウ家の者が、リムジンと一緒に来た大きなバンからニコ専用武器である黒い円盤3つと、スピーカーを2つ持ってくる。スピーカーは小さい円盤の上にセットされた。
するとユウトが言う。
「じゃあ、僕達ここで待ってるから。」ユウト
「頑張れよぉ!!イーネ!ニコ!!」アエツ
「ぴぴぃ!ぴぴぴぃ。」
「お。いいですねタカトさん。リムジンに飲み物とお菓子準備してくれてたんで、皆んなでちょっとピクニックしてましょうよ。」ユウト
『僕ジュース。』ニコ
「僕コーヒー。」ナユタ
「甘い物たべたーい。」ベリー
「………………………おい待て。ニコ。お前は行くんだよ。」イーネ
『えぇー。』ニコ
そんなやり取りを不安そうな目でレンは見ていた。
何故か渋々のニコは大きな円盤に乗り込み準備をする。
ニコが何かの操作をすると、3つの円盤はフワリと宙に浮いた。
「うぉぉお!!いいなぁ!ニコ!ちょーかっけぇじゃん!!」アエツ
「ぴぴぃ!!」
『化学班が作ってくれた、ニコライドセンターとサイドA・Bって言うんダゼ。』
「おぉぉお!ニコライドぉぉ!!」アエツ
「ぴぴぃ!!」
その様子は仲間達が冷ややかな目で見ていた。
イーネが崖のギリギリに立って、谷底で団子になるジャンクを見下ろす。
ニコはその後ろにニコライドに立って構えていた。
仲間達とレンが少し離れた後ろから、その様子を見守る。
レンが小さく呟いた。
「本当に1人でやるつもりか?……。」
「1人じゃないぞぉ?!ニコのサポートもある!」アエツ
「それ、結局、討伐を担うのはイーネ1人だろう……。」レン
「大丈夫じゃない?あのジャンク達、攻撃は当たるんだろ?」ユウト
「いや、そうだが……。生半可な攻撃だと弾き返されるぞ。」レン
「じゃあ大丈夫でしょ。あれでも幻種なんだから。」ユウト
するとナユタが言う。
「最初の任務でぶっ倒れてるけどね。」
次にニコが言う。
『マシロの襲撃でもぶっ倒れてるけどネ。』
次にユウトが言う。
「感覚種の女の子にぶっ飛ばされてたけどね。」
最後にベリーが言う。
「全然いいとこないじゃん。」
イーネが振り返る。
「…………聞こえてんだよ……お前ら……。」
イーネはため息を吐きながら前に向き直り、もう一度谷底を見る。
「さっさと終わらしてアイツらぶん殴る。」
そう言って谷底の方に一歩踏み出した。
『♪♪♪!!!――――♪♪!!』
イーネが谷底に落ちていくと同時に、ニコもニコライドでイーネを追いながら歌い出す。
高性能のスピーカーから綺麗な歌声と音楽が流れ、あたりは一気にライブ会場と化した。
ニコのサポート下ではイーネの能力が変化し、空間を分断する刃が次々にジャンクの体を裂いていく。
[グギャギャギャギャ]
[ギャギャギャギャギャ]
歌声の中に、ジャンクの断末魔のような鳴き声だけがこだました。
その様子をレンは呆気に取られた表情でみつめ、その圧倒的な力に目が離せずにいた。
そんなレンに、ユウトが声をかける。
「レン君も、コーヒーでも飲む?」
「………………。あ……。いや……。はい……。」
―ニコの能力は、ニコのテンションや曲調などに大きく左右される。
さらに、"声"の聞こえている間でしかニコの能力の恩恵は受けられない。具体的に言えば、曲の間奏部分はニコが歌ってない時間となるため、ニコが他者をサポートしているなら、その時間はサポートが切れることになる。
もっというと、歌っている最中の息継ぎなどでもサポート効果が大幅に落ちている。
曲の中でも、サビ部分でサポート効果が最大になり、AメロやBメロでは、サビ部分から考えるとサポート効果が落ちていたりする。
サビで能力効果が最大になるのか、他の部分の方が調子がいいのかも、ニコの気分次第でもある。
サポート能力は非常に貴重な力であり、ニコは度々、他の核師ユニットに駆り出され、イーネ達とは別任務につくことが多かった。
ニコは他の核師に迷惑にならないよう、できるだけサポート効果が一定になるように、テンションや歌い方が同じになるように努めて歌ってきた。
だが、この時のニコは、サポート効果なんて考えず、ただただ自由に。自分が歌いたいように。楽しく。心のままに歌っていた。―
(無茶苦茶歌いやがって……。サポートの揺れ幅が大きすぎて合わせんのが難すぎんだよ……。まぁでも……。)
[グギャギャギャギャギャギャギャギャギャ]
イーネの一撃で数体のジャンクの体がまとめて分断される。
(ニコのテンションMAXの時の威力がハンパないな……。)
[ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ]
ジャンクは次々に機能を停止していった。
――――
その様子を仲間達が崖の上から、それぞれ好きな飲み物を飲んだり、お菓子を食べながら眺めていた。
アエツが言う。
「イーネのジャンク討伐数が一気に増えるなぁ!」
その言葉に質問したのはベリーだった。
「何よ。討伐数って。そんなの数えてんの?」
するとユウトが答える。
「まぁ、核師の中ではそれをバロメーターにする人もいるしね。」
「何の?」ベリー
「強さの?こんだけ倒してるんだ。凄いだろ。的な?」ユウト
「それだけじゃないだろぉ!なんたって、給料に関わる!!」
アエツの言葉に返したのはナユタだった。
「ほんと、そのシステム、非戦闘員は損だよね……。まぁ、一応任務に関わっただけで給料にプラスされるけど……。」
今度はユウトが話した。
「それもあって、アエツさん、核師辞めたんですもんね。」
「ん?どういうこと?」ベリー
アエツが答える。
「核師は任務に関わるかジャンクの討伐をしてないと、ほんっと給料少ねぇんだよぉ!まぁ、独身1人なら大丈夫だけどさぁ。ほら。俺、結婚しちまったし?子供2人いるし?ジャンクなんてレアだから、滅多に任務とかねぇし?!だから事務になったんだよ。事務やってても、呼び出しにこたえてジャンク討伐したら、別で給料に上乗せしてくれるって言われたしなぁ!」
「ジャンクがレアな存在っていうのが信じられないくらいウジャウジャいますけどね。」ユウト
「一体討伐したら結構くれるしなぁ。イーネの来月の給料、やべぇんじゃね?」アエツ
「え?じゃあイーネ、そこそこの金持ち?何か奢ってもらおーっと。」ベリー
「あ。僕、ローズの抹茶つかったスイーツ食べたい。」ナユタ
「え。何それ。私も食べたい。」ベリー
「それだね。買ってもらおう。」ユウト
「賛成ー。」ベリー
「ぴぴぴ。ぴぴぃ!」
「タカトさん、生肉って……普段のあなたの食事じゃないですか。まぁ。いっか。奢って貰いましょうよ。」ユウト
「うちの子達への土産も買ってくれっかなぁ。」アエツ
なんて話しているうちにジャンクの数はどんどんと減っていく。
――――――
ついに、ニコが一曲歌い終わる頃には全てのジャンクが機能を停止し、谷にはジャンクの死体が積み上がっていた。
その上に、ジャンクの血にまみれたイーネの姿。
(流石に汚れずには無理だったな……。最悪……。どっろどろ……。)
討伐が完了されたのを確認してニコはニコライドを操作して仲間達の所へ帰っていく。
――。
イーネも、自身の能力で崖の上へ帰還した。
「おかえり。イーネ。」
そう言ったのはナユタだけで、それぞれが口を揃えて言う。
「スイーツ買いに行こ。」ベリー
「生肉も。」ユウト
「土産もぉ!」アエツ
「ぴぴぃ!」
「……………………何の話しだよ。」イーネ
その一連の様子を見ていたレンは思う。
(……な、何なんだよ……。たった数分で、あれだけのジャンクの討伐?!……それに、昨日の夜からぶっ通しで能力使ってるはずだろ?!なのに……核を消耗しきるとかないのか?!……………………あれが…………幻種…………。)
レンには悔しさのような物が滲み出ていた。
「おい。ゴミカスマッシュ。帰らせろよ。」イーネ
「先にタオルでも借りなさいよ。まじキッタナイ。」ベリー
「……………………。」イーネ
「きゃぁぁあ!!触んないでぇぇ!!!」ベリー
イーネがジャンクの血にまみれた状態で、ベリーの後ろから抱きついていた。
「アハハハハ!そーゆーところ見ると、やっぱ兄弟なんだなぁ!!」アエツ
レンは、自分とは裏腹に何の緊張感もないイーネ達に嫌気がさしながら「どうぞ……。」と声をかけ、一同はテンジョウ家へと引き返していった。




