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1-③ 白くて凶暴な

 中は木の温もりがあり、明る過ぎない落ち着いた雰囲気をしてる。縦長の長方形の形をした店内は、真ん中が少し広めの通路になっており、両サイドに木製の陳列棚が置かれている。棚には色とりどりのアクセサリーなどが並び、棚の周囲を回れるようになっている。棚の向こうの壁際にも商品が並んでいて、物が多く、雑多にも見えるが、整え過ぎていない感じが、オシャレで落ち着く雰囲気になっている。


 人の気配はなく、真ん中の通路の奥にカウンターとレジが見える。取り敢えずレジ前まで進むと、商品棚で見えていなかったが、カウンターは横に長くなっており、レジ右横の空いたスペースでラッピングなどをしてくれる場所になっているようだ。そのレジ横のスペースに、一台のロッキングチェアが背中を向いて置かれている。


 よく見ると僅かに揺れており、背もたれの上の部分から少しだけ白髪はくはつが見えている。

 

「あの……。すみません……。」

 

 マリが声をかけると、ゆっくりと椅子がこちらを向く。

 白髪に金髪が混じった髪。ホワイトグレーの瞳。右手に読みかけの本を持ち、黒のシャツに黒のズボン。椅子の上で胡座をかいている。

 

 (老人……かと思った……。若いな……。ニコと同じ?いや。もう少し年下?)

 

 そんな事を考えていたが、一向に店主は口を開く気配がなく、こちらの発言を待っているようだ。再びマリの方から声をかける。

 

「あの……。私達、ブボッシュクラブを探してて……。ここでブボッシュクラブが好きそうな香水みたいなの……売ってくれるって聞いて来たんですけど……。」

 

「ブボッシュクラブ?今時期じゃないよ。」

 

 それだけ言うと店主はくるりと背中を向けてしまう。

 

「あの……。知ってます。森の中にブボッシュクラブが好む木の実や花が無いんですよね?なので、それに似せた物を売って欲しいんですが……。」

 

 今度は椅子を45度だけ回転させ、店主の左側面だけが見える形となる。

 

「何で?」

 

 店主が言う。買いたい物の用途まで伝える必要は無いのではと内心思うが、ここでしか買えない可能性があるのならば店主の機嫌を損ねたく無いとも思う。どこまでどう話そうかと少し考えてから答える。

 

「……地元の人なら知ってるんじな無いですか。この町で失踪者が出てますよね。この前で3人目だとか。」

 

 マリのその発言に店主は明らかに眉を顰める。だが、何か発言する様子はなく、マリが続いて話しをする。

 

「私達はその失踪事件の調査に来た者です。その中で、時期ではないブボッシュクラブを森の中で見たという人がいました。それを詳しく調査したいんです。地元の人から、ここでなら売ってくれると聞いて来たんですが……。」

 

「あんたら何者?」

 

「…………"核師"という職業をご存知でしたら、私達はそういった者です。」

 

 "核師"という存在はあまり知られていないだけで、隠された存在ではない。だが、あくまで"核師見習い"の立場である自分達の状況を考え、少し回りくどい返答になってしまったなと思う。


 しかし、店主はマリの説明に納得したのか、もう45度椅子を回転させ、再びこちらを向き、持っていた本はカウンターに置いた。

 

「だっっっせぇ服装。小学生の遠足ですか?」

 

 店主の言葉に固まる。マリもニコも。二人共がジャージ姿である理由は、今日の事が通達されたのが昨日の夕暮れ時で、急遽見繕った為であるのだが、今のタイミングで指摘されるとは思ってもみなかった。それに、今会ったばかりの雑貨店の店主に言われる筋合いもないだろう。

 

「あの…………。失礼ですよ……。それと、答えたんで……。売ってもらえるんですか?……」

 

「おばさん彼氏いないだろ。ってかダメ男ばっかいってそー。顔そんなブスじゃないのにねー。あ。分かるよ。隣は彼氏じゃないでしよ。いかにもクソガキだもんなー。その眼鏡。マジで似合ってないよ。やめときなー。」

 

 マリは理解する。『あ。こいつは人の神経逆撫でして楽しむタイプのやつだ……。まともに取り合ったら負けだ。』と。隣のニコの方に目をやってみると、驚いた顔から徐々にムカつきの表情に変わってきている。だが、今このタイミングでタブレットの音声機能で何か返答すれば、余計に面白がってネタにされそうだ。ニコもそう思う所はあるのか、何とか怒りを堪えている様子だ。


 2人が店主の言葉に苛立ちを抱えながら、言葉を返せないでいると、店主は立ち上がり、椅子の後ろにあった扉を少しだけ開けて顔だけ入れている。目線は上の方にあり、どうやら2階に続く階段があるようだ。

 

「おーい。ベリー。客ーーー。ブボッシュクラブが好きな香りの水だとよ。頭おかしいぜーコイツらー。」

 

 ニヤニヤと笑いながら大きめの声で、どうやらベリーという人に話しかけたようだ。それに対する返事は無いまま、店主は扉を閉めて再び椅子に座り、カウンターに置いた本の続きを読み始めた。

 

「売ってくれるんですね……。」

 

「おー。店ん中で適当に待ってて。」

 

 目線は本に向けたままぶっきらぼうに店主は言う。こちらが話しかけるのではなく店主の方から言って欲しいものだが、目当ての物が手に入るなら店主の態度についてはもういいかと、マリは諦め、隣で怒りに震えているニコの肩を2回叩き、「ちょっと待ってよう……。」と声をかける。ニコはなんとか怒りを鎮めようとしてるのか、ふぅっと息を吐き、2人バラバラに店内の商品見て回ることになった。


 色々な商品があるなか、マリはアクセサリー類が並んでいる棚に目をやる。石なのかガラスなのか分からないが、赤・青・緑・白・黄色などの綺麗な宝石のような物がついた、指輪やネックレス、ブレスレットなどが並んでいる。『可愛い。けど、値札がない……。いくらなんだろう……。あと、白と青とか。組み合わせてるのは無いのかな?……無さそう……。』そんな風に暫く店内を見ていると店主が「"核師"さんー。できましたよー。」とカウンターから呼ぶのが聞こえ、もう一度、椅子のあるカウンターの前に戻る。


「はい。これね。」

 

 2人が揃った所で、店主はカウンターの上に手のひら程のサイズの雫状の小瓶を置く。

 

「10倍で希釈して使って。この小瓶に50cc入ってるから。」

 

「ありがとうございます……。おいくらですか……。」

 

「3万ラール。」

 

「さ、3万?……。」

 

 隣のニコはもう腹が立っている様だ。ユウトに貰ったのは1万ラールで足らない。それに、この小瓶が3万ラールは高すぎる気がする。

 

「あの……。3万ラールですか……。」

 

「ん?高い?」

 

 店主はニヤニヤとしている。まるで、高いと言われるのを待っていたようにも思える。

 

「ちょっと……。上司に確認して来て……。」

 

「あーいいよいいよ。特別だよー?」

 

 マリの言葉を遮り、店主はカウンターの下から物をとり、小瓶の左右に並ぶ様に二つの指輪を置いた。

 

「これ、付けて。はまる指にでいいから。これ付けてくれたら1万ラールで売るよ。お店のファンになってくれるってことで。ね。」

 

 店主の言葉に怪訝な顔をする。何とも怪しい気がするが、銀の指輪には葉をモチーフにした細かなデザインがほどこされ、控えめながらもキラリと光る緑色をした石がついる。見た目はそれほど悪く無い。むしろ素敵なデザインだとも思う。

 

「指輪がついて、半額以下で売るんですか?……。」

 

「いらねーの?いるなら今すぐ付けてもらっていいかな?」

 

 店主はイタズラ好きな子供のようニヤニヤと笑っている。状況的に断る理由もなく、マリが指輪を手に取り左手の中指にはめる。それを見たニコは嫌そうな表情をしながらも、指輪を手に取り、はまる所を確かめながら最後は左の人差し指にはめた。

 

「じゃあこれ……。」

 

 マリが1万ラールをカウンターの上に置き、小瓶をとる。

 

「good luck。」

 

 店主は最後までニヤニヤと笑っていた。マリは少しの気味悪さを抱えながら、ニコは苛立ちを抱えながら店を出る。店前には、立ったまま待っていたであろうユウトがこちらを向いた。

 

「おかえり。少し時間かかったね。目当ての物は買えた?」

 

「はい……。買えました。これ……。50cc入っていて、10倍に希釈して使って下さいとのことでした……。ちょうど1万ラールで売ってもらいました。」

 

 マリがユウトに小瓶を手渡す。

 

「500ccかぁ。足りるかな?まだ在庫みたいなのはありそうだった?」

 

「あ。いや……。分かりませんが……。その……。」

 

『めっちゃ態度悪いやつデしタよ!マジでもう行かない方がイイっす!』

 

 音声読み上げの独特なイントネーションだが、ニコのオーバーな態度や表情でニコが怒っていることは充分ユウトに伝わっているだろう。ニコをみてユウトは少しキョトンとしてから「はははっ」と笑った。

 

「そうなんだ。いや、聞き込みしてる時にね、何人かに今日買い物に行くのかって聞かれたんだよ。今日行きますって言うと、みんなちょっと笑っててさ。ある人には『ハズレだねー。』って言われたんだよ。もしかしたら、あまり良くない店員のことだったのかな?」

 

「じゃあ、あの子が店主って訳では無かったんですね……。」

 

 あの子はアルバイトだったんだろうかと考える。あんなバイトは雇わない方がいいのではと思うが、噂によると、人のいい店主だとのことだから、クセのある若い子を雇っているのかなとも思う。(他では働けなさそうだしね……。)マリがそんなことを思っていると、太陽に反射して指輪が光り、ユウトの目につく。

 

「ん?その指輪はどうしたの?」

 

「これは……。サービス?……で貰いました。」

 

「へぇ。サービスで……。いい店員さんじゃないか。」

 

「え?……いやぁ……。」

 

『指輪!きれいにハマって抜けネーんだけど!』

 

 ニコのほうを見ると、はめた指輪を取ろうと格闘している。

 

「ニコくんも貰ったのか。良かったじゃないか。」

 

「取りたかったら、無理せずに、帰ってからオリーブオイルとか使えばいいよ……。」

 

『まじダルい!』


「じゃあ、取り敢えず、これを持って現場へ向かおうか。」

 

 ユウトの言葉で3人と1匹は店を後にした。

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