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6-⑤ 本気と書いてウルトラ

 モミジの言葉を遮るように若い女性の声がした。

 

 周囲を見渡すが、声の主は見つからない。

 

「おぉ?!いたぁ!!」

 

 アエツがそう言って、指差す方向は一本の竹の随分と高い位置。


 そこに、袴姿でお下げ髪の女性が必死に竹にしがみついていた。

 

「あ。アヤセのお姉ちゃん、あんな所にいたぁ。」

「わぁ。ほんとだぁ。ずっと隠れてたのかなぁ。」

 

「こら!シキ!サクヤ!!そんな簡単に名前言わないでぇぇ!!あと、隠れてたんじゃないわ!!敵のスキを伺って、ここぞという時にぃぃっ!きゃぁぁあああああ!!」

 

 バキバキ ドスンッ

 

「いいったぁぁぁあああい!!!」

 

 アヤセと呼ばれた女性は、しがみついていたバランスを崩したのか、竹を滑るように下がってくると、お尻から勢いよく地面に落ちた。


 また、何をどうやったらそうなるのか。


 袴姿は乱れ、ふくよかな胸の谷間があらわになり、ムチっとしたふくらはぎの部分まで裾がめくれあがって、肩や鎖骨なんかも見える。実に破廉恥な落ち姿だった。

 

「おぉっとぉ…………。」アエツ

 

「…………。なんで、そんな格好に。」ユウト

 

 思わずアエツとユウトは片手で目を覆い、顔も逸らす。


 タカトとイーネは何も気にせず、むしろ冷ややかな目でアヤセを見ていた。

 

「いたたた…………。き、きゃあ!!見ないで!!えっち!!!」

 

「見てないです!お嬢さん!!私には、妻と子がおりますぅぅ!!立派なサラリーマンですぅ!!セクハラには敏感なんですぅぅぅ!!!」アエツ

 

「ちょ…………、た、タカトさんも…………見た目は鷹ですけど…………。見ない方がいいんじゃ…………。」ユウト

 

「タカトは女きょうだい居るもんな!!俺は男きょうだいだから、こーゆーのダメなんだよぉ!」アエツ

 

「ぴぴぴぴ。ぴぴぴ。」

 

「え。『鷹になってから、人間のメスに興奮しない』??………………ってぇ!えぇぇ!!!そうなんですか?!知らなかった……。」ユウト

 

「じゃあなんだ!恋愛対象は鷹なのか?!」アエツ

 

「え。タカトさん…………メスの鷹に欲情してたんですか………………えぇ。ほんと知らなかったんですけど。」ユウト

 

「ぴぴぃ。ぴ、ぴ、ぴ。」

 

「アハハハハ!今の俺でも分かったぞ!!『それはぁ。ひ、み、つ。』だろぉ!!」アエツ

 

「ぴぴぴぃー!!」

 

「うおっしゃ!!あたったぁ!!」アエツ

 

「私をおいて、何の話ししてるんですかぁ!!」アヤセ

 

「黙れよ。淫乱女。さっさと服着ろ。会話になんねぇ。」イーネ

 

「ぃぃぃぃ言われなくてもぉ!!」アヤセ

 

 イーネに指摘されて、アヤセはいそいそと身なりを整え始める。

 

「そうか!ベリーいるもんな!!イーネも女きょうだいだな!!」アエツ

 

「男としては、こーゆーの見とかないと損だろ。何してんだよ。馬鹿なの?」イーネ

 

「え。まって。こっち見て言ってるってことは僕に言ってます?すんごい余計なお世話なんですけども。」ユウト

 

 そんな事を話しているうちにアヤセは身なりを整え終わったらしく、アエツ達に向き直って、真っ直ぐに指をさしてくる。

 

「わわわわわわ私が来たからには、アナタ達をユキハル様の所へは行かせませんー!!!」アヤセ

 

「………………。」

 

 登場の仕方から考えても説得力の無い言葉だった。


 ユウトがモミジを見て言う。

 

「…………モミジさん……。お仲間ですよね?……。」

 

「まぁ……。そうね……。彼女はちょっと……。アレだから……。」モミジ

 

「モミジさん!!敵にユキハル様の居場所を教えるなんて言語道断!!私が許しません!!」アヤセ

 

「…………あなた、今の今まで出てこなかったじゃない。」モミジ

 

「そ、そそそそれは!!ちょ、ちょっと迷子というか……。いや!迷子じゃないですぅ!ててて敵の隙をですねぇ!!」アヤセ

 

「…………まぁ、あーゆー子なのよ。」モミジ

 

「何となく分かりました。」ユウト

 

「モミジさんんー?!!」アヤセ

 

 アヤセはフルフルと小刻みに震えながら涙目だ。


 手は軽く握って胸に寄せるため、ふくよかな胸が強調される。


 アヤセは1人、覚悟を決めたような顔で話す。

 

「わわわわ、私が相手になりますよぉぉおお!!」

 

「お、お嬢さん!む、無理するなよ?!」アエツ

 

「む、無理してませんんんーー!」アヤセ

 

(…………4人相手にあり合う気か……。って言っても、実質戦えるのは俺1人……。それをこいつが知ってるのかも定かじゃねぇ……。そもそも、シキとサクヤは敵側だ。こいつの能力も分からねぇ状況で、実質3対1。バインドワイヤーも無くなった……。アエツ、タカト、ユウトを非難させながら、この女を無力化…………。ここでの新手は思ってる以上にヤバいな……。)イーネ

 

 すると、アヤセが一度、大きく深呼吸する。


 それを見たシキとサクヤが急に自身の能力を発動させた。

 

 それを見たアエツ達は一斉に臨戦体制をとる。

 

(まじかぁ!まじでエネルギー切れだぞぉ?!)アエツ

(ぴぴぃ……)

(あとは拳銃が数発残っているのとナイフだけ……。僕に攻撃の手段が無いと悟られないこと……。)ユウト

 

「モミジおばちゃん!!」サクヤ

 

 シキとサクヤは仕掛けてくるのかと思いきや、一目散に逃げていくような動きをとる。


 シキは竹林の中、遠くの方へ駆けて行き、サクヤはモミジを抱きかかえると、遥か上空目指してまっしぐらに飛んでいった。

 

 スゥゥゥウウウウ

 

 アヤセが大きく息を吸い込む。

 

(…………!!味方も巻き込む系の広範囲能力か……!!)

 

 ――。

 

 イーネは考えたと同時に自分、アエツ、タカト、ユウトをアヤセから距離をとるよう竹林の中へ転移させた。


 だが

 

「「「「「本気なんだからぁぁああああ!!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 そこはまだ彼女の攻撃範囲の中だった。


 彼女の大声は、爆風と音圧と体の内に響く衝撃波のようなものを伴い、イーネ達を襲った。

 

 バキバキバキバキ

 

 攻撃範囲内の竹が薙ぎ倒され、彼女の前方数十メートルがただの空き地とかす。


 イーネ達も数十メートルにわたって吹き飛ばされた。

 

「がはっ!…………!」アエツ

 

 最もダメージが大きかったのは、先の戦いで負傷と消耗の激しかったアエツとタカトで、内臓が痛むような攻撃に、アエツは口から血を吐いており、タカトは一撃で気を失っていた。

 

「………………た……タカトさん…………!」

 

 ユウトもダメージが大きかったが、翼をダラリと開けた状態で横たわるタカトの側まで、何とか地面を這って近づいていき、タカトを抱いて懐にかかえる。


 イーネも地面に這いつくばっており、何とか体を動かそうとするが、グラグラと脳がゆれる感覚と耳鳴りに吐き気を催していた。

 

(……やばい…………!鼓膜イカれたか……?!……何だこれ!……体の内側から叩かれたような……!だめだ……脳がぐらつく…………立てねぇし、目眩で周りの状況も把握できねぇ…………能力が発動できねぇ…………!)

 

 すると、パキパキと軽やかな足音が近づいて来る。

 

「あ!いたぁ!!」

 

 吹き飛ばされた場所までアヤセが走って来た音だった。

 

 スゥゥゥウウウウ

 

 アヤセがまた、大きく息を吸い込む。

 

(………………………これは…………!)アエツ

(せめて…………タカトさんだけでも……………!)ユウト

(………………マジでやばすぎんだろ………………!)イーネ

 

「「「「「絶対、逃がさないんだからぁぁぁぁああ!!!!!!!!」」」」」

 

 バキバキバキバキ

 ドォォォンッ

 

 さらに数十メートルに渡って吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされた先は硬い壁だったようで、壁もろとも爆撃に飲み込まれて大破した。


 瓦礫の上にアエツ、ユウト、イーネの体が横たわる。


 全員がまともにアヤセの二撃目を受けた。

 

「…………お゙え゙ぇっ……。」

 

 イーネは脳が揺れる感覚と、それに伴う吐き気、その他の内臓へのダメージ、目眩、耳鳴り、全身の打撲、切傷などをおい、血と胃液が混じった嘔吐をする。

 

(おい………………あいつら………………生きてるか…………。どこにいる……………………くっそ…………。まともに見えねぇ…………。体がうごかねぇ…………。だめだ…………動かねぇと…………次くらったら…………まじで……死ぬ…………。)

 

 無理やり体を動かそうとすれば、逃れられない吐き気がイーネを襲う。

 

「………お゙え゙え゙っ……。くっそが…………。」

 

 すると、また後ろからパタパタと軽やかな足音が迫ってくる。

 

(………………くっそ!!!)

 

「きぁぁああああ!わわわわ、私ったら、ななな何てことぉぉおおおおおおお?!」

 

 予想とは違い、後ろから追いついてきたアヤセは、イーネ達をスルーして瓦礫の上をなんとか歩いて、その先に向かっている。

 

「わわわ、私ったらぁぁあああ……お、お屋敷の方向にぶっとばすなんてぇぇえええ。」

 

(屋敷………………?)

 

 時間が経つと共にイーネの目の焦点が少しずつ合ってくる。


 周りが見えてくると、瓦礫の向こうには縁側のある和風建築があり、瓦礫自体は、どうやら家の壁が崩落して庭のような部分に山になっているようだった。

 

(…………………ここは………………テンジョウ家か……?)

 

「ゆ、ユキハル様あぁぁ。も、申し訳ありませんんんんんん。」

 

 アヤセが縁側の前で土下座している様子がみえる。


 その後ろには、いつやってきたのか。膝をつくモミジ、シキ、サクヤの様子も見えた。

 

(……………………あいつ…………か…………。)

 

 建物奥の影から1人の若い男性が縁側の方へ歩いてくるのが分かる。


 袴姿に、20代、いや10代にも見える小さい体。幼い出立だが、風格はある人物だった。


 紺色に近い髪色に同じような瞳の色。誰も寄せ付けない表情。


 男は口を開いた。

 

「……………随分と手のかかる鼠だな。」

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