5-③ 見え透いた罠
「怪鳥の咆哮!!」
ガァァァァッ
けたたましい鳴き声と風圧が地上にいるユウト達にも届く。
不意打ちをくらったアエツはよろめいているが、よろめきながらも、翼の一部を銃火器の形に変形させた。
「天使の……!……。」
「翼の剣!!」
アエツが敵の攻撃をまともに受けて、地面に叩きつけられる。そこへさらに、竹林の奥から別の敵が飛び出し、アエツを狙った。
「狼の牙!」
「女神の慈悲」
アエツの翼と機関銃の形となっていた白い物体は、大きく薄く広がり、アエツと、後ろにいたユウト、イーネ、タカトもまとめて覆うようにドーム状になる。
ガチンッ
敵の攻撃はアエツの防御に阻まれたようだった。
「翼の剣!!」
ガガガガガッ
アエツの防御の上から敵の攻撃が畳み掛けてくる。
「アエツさん、大丈夫ですか?!」
ユウトの言葉に、アエツはまるで苦虫を噛み潰したような苦しい表情で答えた。
「………………娘と変わらねえ……!…………ほんの…………ほんの子供だ!…………!」
ガガガッ……
敵の攻撃が一度やむ。アエツは広げていた防御をゆっくりと翼の形にもどした。
目の前には袴姿の2人の男の子。
1人は四つん這いの姿勢をとり、黒髪の右半分は赤色をしている。もう1人は仁王立ちだが、背中から灰色の羽が生えていて、黒髪の右半分はピンク色をしていた。
「………………僕達が……殺しにいくいように……かな……。」
ユウトがそう言う。珍しく、アエツの声色は、いつもの陽気なそれではなかった。
「許せねぇ…………子供を……戦場に…………。」
「狼の残像!」
赤髪の四つん這いの少年は、アエツ達の周りをグルグルと周りだし、いつの間にか複数人が取り囲んでいるような錯覚をおこす。
ピンク髪の羽根の生えた少年は高く舞い上がると翼を何度もはためかせた。
「僕達核師って、ジャンクを倒す予定で鍛えてるから、どの技も殺傷能力高いんだよね……。」ユウト
「ぴぴぃ……。」
「子供にケガなんてさせられねぇっ……!」アエツ
「イーネ。さっきの拘束具、あと何個あるの?」ユウト
「3。」イーネ
赤髪の少年は飛びかかり、空を飛ぶ少年の翼からは刃のような突風が繰り出される。
「狼の牙!」
「翼の突風!」
――。
イーネの能力でアエツ、タカト、ユウト、イーネの位置が移動し、子供達の攻撃は当たらない。
「こいつら、さっき俺らがジャンクと戦ってたの見てたんじゃねーのかよ。当たらなきゃ意味ねぇだろ。」イーネ
「ある意味、イーネの能力ってチート感あるから、この子らの能力とは相性悪そうだよね。避けられると分かっててもやるしかない。」ユウト
――。
イーネはまた位置を移動させる。
「こいつらの能力?」イーネ
「この子達、2人とも組織種の典型ってやつだな!適合したジャンクの身体的特徴が出たり、鋭い翼や鋭い爪、牙とかは、体の部位に重なるようにして、能力が補助をかける。よく見ると、爪とか牙とかキラッと光ってみえねぇ?何つったけなぁ?これ。」アエツ
――。
イーネはまた位置を移動させる。
「"二重現象"。例えば、自身の爪の上から、ジャンクが持つ鋭い爪のような半透明の物体が能力発動と共に再現されるのが特徴です。あのピンクの髪の男の子のように、実際、体に翼が生えたりするのは"獣化現象。二重現象と違って、能力発動の有無に関わらず出現している。形質的なものです。」ユウト
「おお!それだ!タカトの時に頭に叩き込んだんだけどなぁ!すっかり忘れちまってるわぁ!ワハハ!」アエツ
――。
何度もイーネは場所を移し替える。
「こんな子供に、組織種の適合…………。」ユウト
「ユウトからしたら、複雑だよなぁ。いや。俺もすんごい複雑!ってか嫌!じゅうかげんしょうってゆうのは、能力を使い込んでる証拠で、あの子達が凄い努力してるの分かるし、もっと複雑!!」アエツ
「…………。」
――。
イーネは子供達の周囲をぐるぐるとまわるように転移を繰り返した。子供達はあきらかに戸惑い、なんとか襲いかかろうとするが、またすぐに転移されてを繰り返していた。
「"獣化現象"……ね……。薄々思っちゃいたが。やっぱり、その鷹。……。」イーネ
「ぴぴ?ぴぴぴぴ。」
("元人間"…………。組織種の…………成れの果……。)イーネ
「怪鳥の咆哮!!」
「狼の咆哮!!」
痺れをきらせた子供達は中央で咆哮をあげる。音圧、風圧共に威力はあるが、それではユウト達を倒すには至らない。
――。
今度は、アエツだけが羽の生えた少年の背後に転送された。
「即興!思いつき!女神のぉぉぉぉおおお抱っっ擁!!」
アエツの白い翼が後ろから少年に抱きつくように伸びると、そのまま紐の様な形になって羽の生えた少年を拘束する。
「サクヤ!!」
赤髪の少年が拘束された少年に向かって叫んだ。
――。
「子供だな……。」イーネ
赤髪の少年の背後にバインドワイヤーが転移される。おそらく、きちんと注意していれば鉄球を弾き返すなり逃げるなり可能だったと思うが、赤髪の少年は仲間が拘束された事に気を取られていた。
シュルッ
バイドワイヤーが赤髪の少年を拘束した。
――――――――
羽の生えた少年の拘束もバイドワイヤーで済ませ、2人を並べて座らせる。
2人とも胡座をかきながら、ふてくされた表情をしていた。
赤髪の少年が声をあげる。
「外せよこれ!!」
それに乗っかってピンク髪の少年が続く。
「そーだよ!おとなげねー!」
「おぉ!2人とも元気いっぱい!ケガはないようだな!いやぁ!良かった!!」アエツ
「よくねーよ!クソオヤジ!」「でーぶ!はーげ!」
アエツは何も気にしていないようで、満足そうな笑顔をしている。
「おじさんはアエツ•ダイヤモンドっていうだ!君たちの名前は?」
アエツの人畜無害の笑顔に何か思う所があったのか、子供達はお互いの顔を見合わせたかと思うと、先に赤髪の少年が答えた。
「…………俺はシキ。」
次にピンク髪の少年が答える。
「……俺はサクヤ。」
「シキにサクヤか!いんやぁ!君たち強いんだなぁ!マジ、おじさんまじびびっちゃったよぉ?!ええ?!あと、その髪型いいねぇ!ちょぉいかすじゃん!ええ?!なに?それ、染めてんの?!」アエツ
いつものアエツ節が子供達の緊張をほぐしていたようだった。まだ警戒しつつも、アエツの言葉に小さく「……うん。」などと答えている。
そこにユウトが口を挟む。
「君たち、出口知ってる?教えてくれたら乱暴しないけど?」
「うるせー!ザーコ!」「ありきたりな髪型!きっしょー!」
「…………。」ユウト
「ユウトぉ。そりゃねぇぜ?相手子供だぞ?大人気ねぇなぁ。」アエツ
「そーだそーだ!」「あっちいけ!」
子供達の暴言にイラつきながら、子供達の警戒を変に強めてしまっただけの自分の発言に反省はしているようで、ユウトはため息まじりに言う。
「…………じゃあもぉ、アエツさん何とかして下さい。」
「んん?そーだなぁ……。あ!君たち、今週のお野菜レンジャーみたか?!新しくシルバー出たよな?!」
すると、アエツの言葉に突然子供達の目に光がもどったような感じがした。
先にピンク髪のサクヤが答える。
「え?おじさんみてるの?」
「おお!おれ、娘いるんだよ!6才!その後のキュアキュアも見てるんだけどな?やっぱ男はお野菜レンジャーだよな?!」
すると、今度は赤髪のシキが答える。
「俺も見たぜ。俺はやっぱりレッドがいいけどな。」
「おお!やっぱレッドいいよな!」
そう返したアエツは背筋を伸ばして仁王立ちになり、おそらく、その、お野菜レンジャーレッドのポーズをとった。
「イタズラは許しても、悪は決して許さない!トリックオアトリート!ちゃんちゃんちゃん!ちゃらん!変っ身っ!」アエツ
その言葉にあわせてアエツは自分の能力である白い物体をベルトの形にすると、その後は全身に纏う様に変形させ、擬似ライダーになっている。
家でもやっているのだろうか。白い物体をはためかすような小技も入れて完成度が高い。
「パンパンパーン!パンプキーン!!」
「うぉぉぉおおおお!おっちゃんすげぇええええ!」
「ぴぴぴぃーーー!!!」
「……………………。」
子供2人、アエツ、そこにタカトが地面からキラキラした瞳で見つめている。
温度が上がるその空間に反比例して、ユウトとイーネ側は冷めた表情でその光景を黙って見る。
「ふふふ。まだこれだけじゃないぜ?ふぁいなるあたーく!きゅいんきゅいんきゅいん!かぼちゃ!なんきん!とうなす!ぼうぶら!パンプキーン!」
すると、アエツは白い物体の一部をお野菜レンジャーレッドが持つ拳銃の形にさせ、その銃口に光りが集まる。
「お野菜レンジャーのレッドってカボチャなんだね。オレンジじゃないの?」ユウト
「…………知るかよ……。」イーネ
「せーっと!おん!」
ドガーンッ
アエツは本当に銃口から弾丸を発射させ、遠くの方で大きな爆発音がした。
「うぉぉぉぉ!!すげー!!!」
「ぴぴーー!!」
「これぞ、完全再現よ!ワハ!ワハハハハハ!君たちぃ。他にも……見てみたいかい?……。」
「見たーい!!」
「ぴぴー!」
「………………………………。」ユウト・イーネ
その後しばらく、アエツによる1人ヒーローショーが繰り広げられた。(絶対家でもやってるだろ。)という完成度の高さだった。
ヒーローショーを死んだ目で見ているユウトとイーネ。ふいにイーネがユウトに聞く。
「なぁ。今更だけど、アエツの能力って何なんだよ。あれこそチートか?」
「ああ。え?説明してなかったっけ。アエツさんが操っている、あの白い物体は、アエツさんが適合したジャンクが纏っていた体毛みたいな物なんだ。正確には体毛では無いらしいんだけど。一応名前があって、あの白い物体の名前は"ジレ"。まぁ、覚えなくてもいいけど、アエツさんは、そのジレを手先や肌なんかも使って操ってるんだよ。アエツさんの周りで宙に浮いているように見えるけど、実際は違うくて、アエツさんの体と、必ずどこかで繋がっているんだ。」
「だから、感覚種なのか。」
「そう。あのジレはとにかく高性能でね。ジレ自体が非常に強固で、かつ、ジレが集まったら中央に向かってエネルギーを貯める性質があるんだ。それを発射したりして戦ってるんだよ。まぁ、あのジレをあそこまで繊細に操って、尚且つ、中に貯めたエネルギーの出し方も完璧にコントロールしているアエツさんは。努力も凄いけど、ほんと、化け物だよ。」
「あいつ、普段てぶらだけど、あのジレどーしてんだ?」
「あのジレ、アエツさんが操作して固めると凄く小さくなるんだよ。今は団服に専用の収納スペースを作ってもらって複数箇所に分けて入れてるとか言ってたかな。ふふふ……。でも、あの人、事務員の時は……。ふふふ。」
話の途中で突然ユウトが笑いだす。それにイーネは「あ?なんだよ……。」と少し戸惑いながら言うと、笑いを堪えながらユウトが話す。
「じ、事務員の時、ジレどうしてるんですか?って聞いたらさ……「ほらこれ。」って、適当な所から、ふ、ジップロックの袋取り出してきて……ふふふ……。そこに……食べ物みたいに……ふふふ。あははははっ。」
ユウトは堪えられずに思い出し笑いをしている。それを冷めた目で見ながら、イーネは「お前のツボわかんねぇわ……。」と返していた。
そんな話をしていると、いつの間にかヒーローショーは終わったようで、アエツがユウトとイーネに「おーい!」と呼びかけてくる。
「2人が出口!教えてくれるって言ってるんだ!」




