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5-① 見え透いた罠

 縁側から白砂と松で美しく整えられた庭園が見える。

 

 パチンッパチンッパチンッ

 

 書院造の家屋の中。袴姿の男性が、手に持った花の枝葉を花鋏(はなばさみ)を使って整えている。

 

 そこへ、着物姿の女性が来る。

 

「失礼します。タイヨウ理事長様から文が届いています。」

 

「……。」

 

 それに袴姿の男は答えない。着物の女性が話す。

 

「読み上げます。『拝啓 いかがお過ごしでしょうか。私は、たなた様のことをふと思いだす度、胸の奥がキュンキュンとして嗚咽が致します。この思いを、どうすればあなた様に届けることができるのか。三日三晩考えましたがクソ野郎というのが言いかと思います。PS.今日中にウチのもんがそっち行くから宜しく。マシロの件で。約束忘れてんちゃうぞ。』」

 

 そして、女性は持っていた手紙を畳んで懐に入れた。

 

「いかがしましょう。」

 

 袴の男は手を止める事なく答える。

 

「…………殺せ。」



 ――――――――

 <タイヨウカンパニー内 コンビニエンスストア>

 

 マリは会社の中にあるコンビニエンスストアで適当な物を探していた。

 

(私…。強くならないとなぁ…。強くなるって、どうやって?…)

 

 甘い物のコーナーの前で、かれこれ数分は立ち止まっていたかもしれなかった。今は決められないと思い、飲み物のコーナーへ移動する。

 

(OL時代みたいな仕事もないし……任務が無ければ自己研鑽……。一応、核師向けの研修とか、任務以外での仕事もあるけど……強制じゃないし……。)「ちょっと。」

 

(組織種のマネージャーさんに聞いてみようかな?……なにを?……強くなるにはどうしたらいいですか?……って、なんかな……。)「ねぇ。ちょっと。」

 

(他力本願的な?……そういえば、マシロの襲撃で、イーネの血を飲んだ時……いつもと違ったんだよな……。)「ちょっと……。マリ。」

 

(しかもあの時、血を沢山飲んだわけでもないのに、凄く効果時間が長かった……。うーん。ラスターさんにでも聞いてみようか……。)「マリ!」

 

 パコンッ

 

「いてっ。」

 

 後ろから誰かに頭を叩かれた。振り向くと、そこには不機嫌そうな顔のベリーが、右手に、まだ買ってない商品であろうペットボトルをキャップ側を握りしめて立っていた。

 

「さっきから呼んでんだけど。」

 

「ご、ごめん!考えごとしてて……。」

 

「あっそ。」

 

「……。」

 

 マリとベリーの接点はそこまでない。チームメイトだが、ろくに会話をしたことがなかった。


 何故ベリーに声を掛けられたのか分からない。そもそもチームメイトなんだから声をかけるのに理由なんていらないのかもしれない。そう思うと何も言えず、気まずい沈默が流れる。その空気に耐えきれずマリが言った。

 

「えっと……ベリーも買い物?」

 

「そうだけど、アンタは違うの?」

 

「いや……私もそう……。」

 

「何も持ってないじゃない。」

 

「えっと決めれなくて……。」

 

「何買いにきたの?」

 

「え?……えっと……飲み物と甘い物でも……。」

 

「コーヒー好き?」

 

「え。うん……。好き……。」

 

 すると、ベリーは飲み物のコーナーにある、ストロー付属タイプのカップに入ったコーヒーを指さす。

 

「これ。このシリーズ、パッケージ変わって中身も変わったの。おいしかったよ。」

 

「え。あ。じゃあ、これにしようかな……。」

 

「あと。」

 

 ベリーは次に自分で手に持っていた二つの商品をマリに見せる。

 

「これも新作。生チョコ4個入り。味が2種類あるの。一緒に食べない?」

 

「え……。あ。うん……。食べる……。」



 ――――――――

 <タイヨウバイオカンパニー本部 カフェテリアのテラス席>

 

 外が丁度いい気候だったため、テラス席にしようと、コンビニで買った商品をテーブルに並べて、ベリーと2人で席に座る。


 ベリーにオススメしてもらった商品はどれも美味しく、2人で美味しいね。なんて言いながら食べ、和やかな空気が流れた。


 甘い物を食べている時のベリーは、いつもの険しい表情が、少しだけ和らいでいたような気がした。


 ベリーがマリに話しかける。

 

「何あんなに真剣に考え事してたの?」

 

「え?…………あぁ……いやぁ……。」

 

 強くなりたい。なんて自分に似合わない言葉は使いたくなくて、どう話そうかと一度思案してから言葉を返す。

 

「うーん……。なんか、マシロの襲撃の時、イーネの血を貰ったんだけど、凄く効果時間が長くて……。なんか、いつもと違う感じしたの……。ほら、私の力って、どうしても他人を傷つけるから、しょっちゅう練習できるものじゃなくて……。だから、ラスターさんにでも相談しに行こうかなって……。」

 

「ふーん。」

 

 会話が終わってしまった。気まずい。


 しかし、何を話したらいいかも分からず、欲していた訳じゃない飲み物を口にすることしか出来ずにいると、またベリーの方から話しかけてくる。

 

「私、アンタを探してたの。」

 

「え?あ。私?な、何か用だった?……」

 

「アンタにお礼。言おうと思って。」

 

「お、お礼?」

 

 ベリーに何か感謝されるようなことがあっただろうか。


 何の検討もつかなかった。


 またベリーが話す。

 

「…………………………イーネに。…………謝ってくれてありがとう。」

 

「………………………………ん?え?」

 

 それで話しは終わったらしく、ベリーはゆっくり飲み物を飲んでいる。

 

「あ……うん……。こちらそこ、救って頂きました……。ありがとう……。」

 

 マリがそう返すと、ベリーは心底嫌そうな顔をしてる。


 そいうい表情はイーネとそっくりだ。


 何故、そんな顔をされるのかも分からず、心の中では(な、なんかまずいこと言った?ってか……ベリーにお礼言われるような事……?)と思っていると、ベリーは気持ち悪いものを見るような表情をしながら言った。

 

「あんたってさ…………ほんっっっと。変わってるよね。」

 

「ん?………………え?…………ええ?!」

 

 1番想像していない言葉だった。あのキッズルームメンバーのことも考えて、心の底から(それは無いでしょう。)と思える。なんなら、自分が1番平凡だと。


 マリは心から、その言葉が信じられない。と言った表情をしていただろう。


 ベリーが言う。

 

「アンタってさぁ。私らに問い詰めたことないでしょ。一回も。」

 

「え?」

 

「お前らは何者なんだとか。なんの為にここに来たんだとか。何が目的だとか。」

 

「え。あぁ。そうだっけ?ってか、問い詰めた所で教えてくれるの?……」

 

「教えないけど?」

 

「………………。」

 

 ベリーに悪気は無いようで、生チョコを口に運びながら言う。

 

「マリって彼氏いるの?」

 

「え?……えー。今はいないかな……。」

 

「…………イーネの事どう思う?」

 

「ぶふっ!!…………え?ゴホゴホッ」

 

 マリは飲み物を飲んでいる途中だったため盛大に吹き出す。ベリーはそれを黙って見ていた。

 

「え?それ……コホッ……どういう意味?」

 

「…………。」

 

「えーっと……。その話しの流れだとするなら……まぁ……何も思わないかな……。私もう30だし。イーネはその……見た目も中身も幼いってゆーか……。」

 

「ふーん。」

 

「何でそんなこと聞いたの?」

 

「聞きたかったから。でも、今ので分かったからいい。」

 

「そー…そう……。」

 

「さっきの話しだけどさ、何で自分だけ例外だと思ってるの?」

 

「…………えっと…………。どの話しだっけ?……」

 

 独特な喋り方をするベリーの話し方に難儀する。

 

(なんか……。ベリーの中では話しが繋がってるんだろうな…………。こっちはその断片だけ貰ってる気分……。この話は多分、私がベリーに変わってるよね。って言われた時、自分は変じゃ無いと思ってる顔したか……ら……?その話し?……)

 

 ベリーは返事がない事に怪訝そうな顔をしている。最後に質問したのはマリの気がするが。マリがベリーの問いに答える。

 

「うーん。何て言うか。私は自分のこと、凄く平凡だと思うし。たまたま、この核師って特殊な世界に来たけれど、私が居なくても……きっとこの物語は進むと…………思ってる……から?……」

 

「何それ。」

 

「うーん………………説明するとなると難しいんだけど……。だって、そもそもさ。人の能力をコピーする力って、オリジナル居たらいらなくない?って感じもするし。そーゆー力に適合してるのも。なんか、私っぽいなぁっていうか。」

 

「アンタさ。キッズルームに集まった時、結構ズケズケ言ってたよね?私、一言も喋ってないし。」

 

「ず、ズケズケ?!」

 

 それも、マリが気にしてなかった部分であり、ズケズケ言っていた自覚はない。確かに、ベリーが話している場面を思い出せないが、自分も、それほど喋っていただろうかと思う。

 

「うーん。そこは……社会人やってるから……かな……。聞きたいタイミングで聞いとかないと……的な……。社会人経験ある人なら……普通、そんなものなんじゃないかな……。」

 

「そんな普通の人が、自分の能力で血清への適合率が分かるかもしれないって、私達を麒麟の適合者に仕立てあげて、血清適合の直前で、本物の血清と生理食塩水をすり替えたりするの?」

 

「ちょ!あ、あんまり言わないで!それも、たまたまラスターさんに、その可能性があるからって声をかけて貰って、たまたま上手くいっただけだから!……。」

 

「私達が麒麟の血清に適合出来てることになっちゃって、その後どうしてんの?あんた。」

 

「えっと……。麒麟が特殊だから分かったって事にして、他は分からないって答えてたら、終わったわ……。それに、それもアナタ達に脅されてやったんじゃない?!……。」

 

「ふーん。」

 

 ベリーが何を考えているのか分からなかった。ある意味、ベリーにも少し子供っぽさの様なものを感じてきていて、諦めの思いも込めて「…………もぉ……。」と呟いた。   


 ベリーが話す。

 

「まぁ、でも、アンタがキチガイなおかげで私達は救われてるわ。感謝してる。」

 

「き、キチガイ?……。」

 

 その言葉もマリにとっては腑に落ちない言葉だった。


 そんな2人の元へ、1人の女性が足をはこぶ。ベージュのスーツに、抹茶色のポニーテール、赤い縁の眼鏡が特徴的だった。


 その女性は2人の前で立ち止まると声をかける。

 

「ここにおられましたか。マリ様、ベリー様。」

 

「え?は、はい……。」マリ

 

「私はタイヨウの秘書をしています。ユウビ・ファイブ・ハナ。と申します。ハナちゃんで結構です。」

 

「あ。こんにちは……。」

 

 ハナと名乗った秘書は自己紹介をすると深々と頭を下げた。それにつられてマリだけがお辞儀し返す。


 秘書はこう続けた。

 

「お二人にお伝えしたいことがあります。………………アエツ様、タカト様、ユウト様、イーネ様。以上4名が、現在、消息不明となっております。」

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