4-② 濃いチーム
<タイヨウカンパニー内 救護室>
核師という特殊な人材を抱えているタイヨウカンパニーには、必要最低限の医療機材と、負傷した者を数日間泊めておくことのできる設備がある。
簡易的な浴衣を着たイーネが、ベッドの上で目を覚ます。左手には点滴。見慣れない白い天井が見えた。
「起きた?」
横から声がしたためそちらを向くと、パイプ椅子に腰掛け、イーネを見下ろすベリーの姿があった。
「だい24時間。眠ってたわよ。気分は?」
「……………………最悪。」
「なら良かった。アンタ、屋上でぶっ倒れてたの。敵の毒、くらったでしょ。そんな状態で動き過ぎたね。」
「………………マリも同じ状況だった……。」
「あの人、毒に体制あるっぽいよ。適合した血清の効果なんでしょうね。昨日まで知らなかったみたいだけど。あんたと違ってピンピンしてる。」
「まじかよ……。くそったれが……。」
するとベリーはおもむろに立ち上がり背中を向ける。
「アンタが起きたら連絡するように言われてんの。」
「連絡?」
「タイヨウと"質問に答える"って約束、したんでしょ?」
――――――――
<キッズルーム1>
さらにその翌日の13時頃。タイヨウカンパニー本社に入ってすぐ脇にある、キッズルームの中。
「やぁぁりましょうよぉ!理事長!!もう3年前っすよ?!あの忘年会、めっちゃ盛り上がったじゃないですかぁ!」
「アエツ!俺ほんまに忙しいねんて!ほんまに忙しい!ネタ合わせしてる時間あらへんねんって!」
「忙しいを言い訳にしてちゃ、やりたいこと、なんもできませんよぉ?!あ。おれ、今めっちゃいいこと言った系じゃないっすか?アハハハハ!俺のボケの相方は理事長なんですってー!」
「お前、漫才はネタ合わせが命やぁ!って、そりゃ分かるけどな?!俺かてやりたいよ!そんなもん!でも、ほんまに時間あらへんねんて!」
「ぴぃー!ぴぴぴ、ぴぃー!」
「タカトさんが、俺が相方やるって言ってます。」
『僕デモよかったら相方しますヨ!』
「タカト……ニコ……。お前達の気持ちは嬉しい。けどな?!漫才はテンポが大事だよな?!タカトは間にユウト挟まないと何言ってるか分かんないし、ニコも同じな?!その、タブレットに書き込んでいる時間!そのワンテンポ遅れるってゆーのは、むずかしすぎるんだよぉ!」
「いや。むしろええんちゃう?むしろワンテンポ遅れるって漫才、ええんちゃうか?!」
「理事長……そーゆーことっすか?……そーゆーことっすか?!え。やっべ気づいちゃったってやつっすか?!アハハハハ!」
「あ。じゃあナユタに入って貰ったらいいんじゃないですか?僕だと、タカトさんが喋って、僕が訳してになりますし、ニコもタブレットに書き込む時間がありますけど、ナユタなら、二人が考えた瞬間に喋れますよ。いっ◯く堂みたいな感じで、早いレスポンスで漫才できます。」
「ややややだよ僕!!ユウト!面倒くさい事になってきたからって僕に押し付けるなよな?!そもそも、僕が忘年会なんて行く訳ないだろぉぉ?!」
「それも……ありやなぁ?アエツ。」
「いや……。正直いって…………ありですね。」
「みんな、なんで僕の声聞こえてないの?!どーなってるの?!」
キッズルームは地域の交流会などで開放され、普段は利用されていない場所だ。
靴を脱いで上がる仕様で、全面にひかれたクッションフロア。だだっ広い室内の端に寄せるようにして、子供向けの用具やおもちゃがならぶ。
壁も可愛らしく飾り付けしてあり、そこに、だいの大人である、タイヨウ、アエツ、ユウト、ナユタ、マリ、ニコと、鷹のタカトが1匹。
子供用の大きなブロックを積み上げるなどして、各々が好きな場所に座ったり、腰掛けたり、立ったりして話していた。
-なぜキッズルームなのかというと、タイヨウ曰く、生物研究棟B棟が半壊にあい、とにかく会議室やら何やらが足りなくなっているという。「理事長が、キッズルームですか?……」と聞いたのはマリで、それに対してタイヨウは「社員ファーストの良い理事長やで。」とドヤ顔していたという。
また、ニコとナユタはこの日初めて顔を合わせた。案の定、初対面の時にナユタは「ままままマリさん!さささ先に僕の事、説明して下さい!!」と遠くの物陰に隠れて言う為、マリが変わって、ナユタの能力のこと、チームに入った事などを説明した。それを聞いたニコはおもむろにナユタに近づくと、こんな会話がなされたという。
「…………。」
「え。あ、も、勿論……わかるけど……。」
「…………。」
「こ、心で思ってくれたら分かるよ……。別に、近くにいるなら勝手に聞こえる……集中するとか……特にない……。」
「…………。」
「え?ま、まぁ、君がそう言った時は、皆んなに伝えるとかも出来るよ……勿論……。」
そうした会話の後、ニコはナユタに抱きついていたという。血清適合後から突然、声というコミニュケーション方法を奪われ、タブレットを介してでしか会話が出来ない状態は、知らず知らずのうちに、ニコに潜在的な虚無感を与えていたようだった。なんのストレスもなく、他人と会話できる事実が、ニコにとっては涙を浮かべるほどに嬉しかったという。
加えてだが、同様の理由でナユタはタカトにも好かれている、ただ、ナユタはタカトが苦手らしく、「タカトって陽キャだろ?僕、光属性、苦手だからさ……。あと、ユウトが面倒くさがって、翻訳役を押し付けてくるから……。」と言っていた。それを聞いたマリは(タカトさんって陽キャなんだ……。)と、ちょっと面白かったという。-
話しはそれたが、そんなキッズルームに、最後にイーネとベリーが到着した。皆んなそれぞれ、Tシャツにスラックスくらいのラフな格好をしていた。
「お!来たかぁ!まぁ、あ。そこらへんのブロックでも積んで適当に座ってくれるか?」
タイヨウが二人に声をかける。
「適当すぎんだろ……。」イーネ
渋々、イーネとベリーは1つのブロックの上に腰掛けた。
「役者はそろたなぁ。ほな。話しといきましょか。」
まずはマリの首筋の彼岸花、ユウトの首筋の薔薇、イーネの首筋の牡丹。それぞれの黒い紋様を確認し、話しはそこからスタートした。
「"感覚種"のユウト、"組織種"のマリ、"幻種"のイーネ。一人ずつ選出したっちゅーことやろなぁ。あの性悪がやりそうな事やで。」
「あのこれ、何なんでしょうか?……」
タイヨウに向かってマリが聞く。
「アイツ、祭や山車や言うとった。これは俺の憶測にすぎひんが、紋様のある3人を、山車や思ってある地点まで運べっちゅーことやないか?まぁ、おそらくは、その目的地になるのは敵の本拠地。期間は1ヶ月!」
「えっと……1ヶ月以内に、そこにいけなかった場合は……どうなるんでしょう?……」 マリ
「知らん。死ぬんちゃう?知らんけど。」
「まぁ、予想することしかできないですよね。」
そう答えたのはユウトだった。次にイーネが話し出す。
「そもそもだ。マシロって奴は何者だ。タイヨウ理事長なら知ってるんだよな?質問に答えるって約束。覚えてるよな?」
「勿論。覚えとるで。マシロっていうのは、イーネらには話したけど、"ジャンク"を生み出した張本人や。マシロが消えれば、今存在しているジャンクを討伐して、このジャンクをめぐる戦いは終わる。」
「マシロは何でジャンクを作り出した?」
「うーん。悪いけど、それには答えられへんかな。」
「答えられない?……」
「ちゃんと言うてたで?"俺が答えられることには"必ず答えるって。」
タイヨウとイーネの間に、ほんの少しの緊張がはしったように思えた。
「………………。お前とマシロの関係はなんだ。」
「答えられへん。」
「マシロが仕掛けた、このふざけた祭とやらは何の為に行われている。」
「答えられへん。」
「俺達がマシロに狙われる理由はなんだ。」
「答えられへん。」
「………………。」
イーネはそこで一度黙る。アエツが心配そうに「タイヨウさん……。」と呟く。ユウトが言う。
「普段からふざけた人だとは思ってましたが、ちょっと度が過ぎてませんか?」
「今なら言うてええと思ってちょっと悪口挟むのやめてー!」
タイヨウが冗談っぽく返したが、それに笑う人間は一人もいなかった。少しの沈黙の後、話し出したのはマリだった。
「あ、あの……。あと、ちょっと気になるんですけど、"ジャンク"をつくったって……。ジャンクって野生動物の突然変異ですよね?……そう習ったんですけど。」
その言葉にユウトも重ねる。
「僕も気になりました。それに、あなたとマシロとの会話で、あなたがジャンクという名を付けたと。ですが、最低でもジャンクは50年前にその存在を確認されています。あなとマシロの見た目と、その事実はマッチしない。」
その質問にタイヨウはユウトを見て答えた。
「何年も見た目の変わらへん化け物なら、ユウト。お前は他にも知ってるやろ。テンジョウ家の初代にして、現在の長、"テンジョウ ユキハル"。」
「…………っ!!」
その名前を聞いてユウトの顔が強張る。タイヨウは続けた。
「つまりはおんねん。ジャンクの血清適合?そんなもん無しで、最初から特殊な力を持っとる人間……。そぉやなぁ。名前がないから"始祖幻種"とでも呼ぼうかぁ。俺やマシロ、テンジョウ ユキハルはその、始祖幻種や。」




