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4-① 濃いチーム

その子達に…

君らが手をかけることを一切許さない。

僕の名前や、僕との関係を教える事を一切許さない。

彼らの関係を君達が壊す事を一切許さない。

できれば出会わないで。探さないで。袖ふれあうのも避けて欲しい。君達と彼らとの縁を僕は一切喜ばない。


もし、出会ってしまった時にはどうしたらいいんですか?


死んでくれたら嬉しいよ。

 イーネがタコ型のジャンクと拮抗し、ユウトがサソリ型のジャンクをくい止め、タカトが他のジャンクの討伐にまわり2体を撃破。


 マリが非攻撃系能力の団員を避難させた後に現場に戻り、1体を撃破。


 残りのジャンクの数は5体にまで減ったが、そこから戦況が良くならなかった。

 

 攻撃の当たらないタコ型のジャンク、攻撃の効かないサソリ型のジャンク、姿の見えないカメレオン型のジャンク、完全に同時に討伐しなければ蘇生を繰り返す2体のタヌキ型のジャンク。

 

 ジリジリと団員達は防戦一方となっていた。

 

 (やばいな……。弾が尽きてきた……。)ユウト

 (倒せねぇなら、他のジャンクの討伐にまわりてぇが、目の前のジャンクをほっとく事もできねぇ……。)イーネ

 (戦況が長引いてきた……。いつイーネの能力が使えなくなるか分からない……。)マリ

 (ぴぴぴぴぴ。ぴぃ!)タカト

 

 現場にいる全員に焦りと疲労が溜まり、ゆっくりと着実に悪い方向へと転じていた。

 

 その時だった。

 

大天使の下す矢(ジャッジメント)。」

 

 ガガガガガガガッ

 

 イーネがタコ型のジャンクと対峙していた時。


 突然に、遥か上空から無数の弾丸が降り注ぎ、タコ型のジャンクに命中した。その一撃でタコ型のジャンクは完全に機能停止したようだった。

 

「…………は?……。」

 

 上空から聞こえた声は、太陽の光に隠れて姿が見えなかったが、ゆっくりと降りて来ると共に、その全容が明らかになる。

 

 見たこともない真っ白な銃火器が、その人物を取り囲むように円状に並び、真っ白な大きな翼も見える。それはまるで、天使が舞い降りてきたかのような……。


 スーツ姿の中年太りのおじさんだった。

 

「当ったねぇ!!いやー!君が気を引いてくれてたからだよ!いい所とっちゃって悪いねぇ!でも、正直、これは君のお手柄だぁ!いよっ!にっぽんいち!!アハハハハ!!」

 

「……だ、誰だテメェ……。」

 

 イーネは呆気に取られながら言う。

 

「だ、よ、ね!わかる!いきなりOB登場とかしらけるっつーの!ってアハハハハ!いやいやいや、マジで出しゃばんないから。おじさん、そーゆーのわきまえてんのよぉ。若者を・思う心・煙たがれ。5.7.5。お。いいなぁ。」

 

 すると、中庭の方から大声でコチラに向かって叫ぶ声が聞こえる。サソリ型のジャンクに応戦しながら何とか声を発しているユウトだった。

 

「あ、アエツさん!!………………こっち!こっち助けて下さい!!」

 

 アエツと呼ばれた中年男性が屋上から中庭の方を覗き込み、ユウトの姿を確認する。

 

「うっわ!ユウトじゃん!えー!まじ久しぶりじゃーん!元気してた?!え?ってことはタカトいんだろ?!おいぃー!同窓会かよー?!テンションあがるぅー!」

 

「ちょ!アエツさん!まじで!……まじで!そーゆーのいいって…!マジ!死ぬ!!…………あと、こいつ!……攻撃効かなくって!……内部から……!内部から破壊して下さい!……!」

 

「ええ?!ちょっとちょっともぉ!技指定かよぉ。俺どんだけブランクあると思ってんだよー!たく!しょーがねーなー?!」

 

 そう言いながらも嬉しそうな表情のアエツは、屋上からサソリ型のジャンクに向かって飛び降りる。


 複数の銃火器と翼の形を成してた白い何かは、一つにまとまり、アエツの右腕に纏わりつくと、白い大きな大砲の様な形になる。その銃口がサソリ型ジャンクの背中に接着した瞬間だった。

 

堕天の咆哮(デビルクラッシャー)

 

 キィイイインッ

 バンッ

 

 銃口から目が眩むくらいの発光と甲高い音がする。その後、体内から炸裂するようにしてジャンクは木っ端微塵に弾け飛んだ。

 

「いやぁ!こーゆーのは体が覚えてるもんだわぁ!ってか。俺、むしろ現役のときより調子いいかも?なんつって!スーツ汚れたのも経費で落としてくれっかなぁ?」

 

「はぁ……はぁ……。アエツさん!……まだ、まだジャンク残ってますから……。」ユウト

 

「えぇ?!まぁだいんのかよー!タカトの奴なにしてんだよぉ。」

 

 すると、アエツが居る中庭に向かって、建物内からタヌキ型のジャンクが飛び出す。

 

 ズドドドドドッ

 

 アエツの右腕で大砲の形を成してた白い物は、すぐに複数の銃火器の形に変形し、アエツの周囲で半円状になって浮かんでいる。


 その銃口から、弾丸やビームのようなものが射撃され、飛び出してきたタヌキ型ジャンクの体を撃ち抜いた。


 ジャンクの体は一旦は地面に横たわったが。すぐに蘇生して、アエツに向かって飛びかかる。

 

「うお?!」

 

「ぴぃぃー!」

 

 何処からともなくタカトが現れ、そのジャンクを空中で引っ掴んで遠くへ飛ばすことでアエツを救う。


 そのままタカトはアエツの近くの地面に降り立った。

 

「うぉぉ!タカトじゃん!いや、まじで久しぶりじゃん!テンションあがるわぁ!」

 

「ぴぃー!ぴぃー!ぴぃー!」

 

「タカトさん!今は喋ってないで!あのジャンクと戦ってたんでしょ?!どーやって倒すか検討ついたんですか?!」

 

「ぴぴぴ!ぴぴ!ぴぃー!」

 

「怒らないで下さい!後でちゃんと通訳しますから!ほんと、アンタ達といるとツッコミ疲れるんだよ!」

 

「そりゃないぜぇユウ坊。なぁ?タカトぉ?」

 

「ぴぃ。」

 

 すると、もう1体のタヌキ型のジャンクが建物内から飛び出し、既に中庭にいるタヌキ型ジャンク2体で、アエツとタカトに飛びかかった。

 

 ズドドドドドッ

 バシユッ

 

 1体はアエツが機関銃で撃ち抜き、もう1体はタカトが翼で切り裂いた。


 恐らくたまたまだったが、同時に撃破したことによって、タヌキ型のジャンクは蘇生することなく活動を停止した。

 

「タカトも大変だよなぁ。ユウ坊ってさ。後輩とかには優しいくせに。俺らとかには辛辣だもんなぁ。」

 

「ぴぃ。ぴぴ。ぴぃ。」

 

 ガッシャーンッ

 

 4階の窓が勢いよく割れた。


 音のした方に全員の視線が向く。


 窓を突き破り、中庭に向かって突き落とされるようにマリが落下していくのが見えた。

 

 (急にコピーした能力が消えた……!落ちる……!)

 

 マリがそう思った時、フワリと誰かに抱き上げられる。


 視界の端で白い何かをとらえた。

 

「あ、ありがと……イー……。」

 

「お嬢さん。俺には愛する妻と子供がいるんだ……。って自惚れきちぃー!」

 

 天使の翼が生えた中年のおっさんだった。

 

「アエツさんだ!!総員退避ー!!」

 

 マリと一緒に戦っていた他の団員が叫び、マリが飛び出して来たあたりのひとけが無くなる。

 

「見えないけど、そこにいるんだろ?」

 

 アエツの周囲に浮かぶ白い複数の銃火器が、マリが飛び出してきた窓の方に向くと、キリキリを音をたてながら光をためている。

 

天使の剣(エンジェルキッス)。」

 

 銃火器からビームが発射され、目を細めるほどの光を放つ。その光線はジャンクを捉えたようで、建物の中の壁に張り付いていたカメレオン型のジャンクが姿を現すと、ドサリと音を立てて横たわった。

 

 こうして、全てのジャンクを討伐したようだった。中庭から戦闘音が消え去ったが、未だにニコの歌声だけが放送を通して鳴り響く。

 

 アエツは中庭に降り立ち、お姫様だっこしていたマリをそっと下ろした。マリは「ありがとうございます。」と声をかけている。アエツが言った。

 

「あぁ。この歌声で俺、調子良かったのかぁ。いい声だなぁ!」

 

 それに対してユウトが答える。

 

「はい……。この能力のおかげで、皆んな、この状況下でまともに戦えたんだと思います……。ただ……。もう、これはちょっと……。」

 

 ニコの歌声はやまない。それは、もう戦わなくていいにも関わらず、内側から闘争心を掻き立てられるような、無理やり体を突き動かされるような、満身創痍の体に鞭を打たれるような。


 美しい歌声に聴きいる反面、ゾワゾワする不快感が全員を支配していった。


 ――――――

 <放送室>


「ニコ君!もういい!もういいんだ!!!」

 

 監視カメラから中庭の様子を確認していたラスターがニコに向かって叫ぶ。


 しかし、ラスターの声はまるでニコに届いていない。ニコは、狂ったように歌い続けている。

 

「ニコ君!!やめるんだ!!」

 

 ラスターがニコの後ろから飛びかかり、同時に放送ボタンをOFFにする。

 

「あ゙ぁ゙!あ゙ー!!!」

 

 ニコが暴れる。それをラスターが何とか後ろからはがいじめにして止めようとし、2人一緒に床に倒れ込む。

 

「ニコ君!もう終わったんだ!もういいんだ!!」

 

「あ゙ぁ゙ーー!!!」

 

 (…………………………ウタワセテ……。)

「……う、うたわ゙せ……ウタワセ…………!!」

 

「ニコ君!!!」


 

-ニコは血清適合後、重篤な副作用に悩まされていた。それは"誘暴症(ゆうぼうしょう)"と言われ、適合した血清の、その元々のジャンクが持つ本能に突き動かされてしまうといった症状だった。ニコは常に"歌いたい衝動"に駆られ、自ら言葉を発することを禁じる程に、その症状は重かった。-


 

 ガブッ

 

「あぁ…………!!」ラスター

 

 ニコが自分で自分の親指の付け根あたりを強く噛む。噛みついた所からはじんわりと血がしたたっていた。

 

「に……ニコ君……。」

 

 しばらく噛みついていたニコは、ゆっくりと口元から手を離す。力んでいた全身の力も少し緩んだ様だった。

 

 ニコはラスターに『大丈夫だ。』ということを知らせる為に、片手を軽く上げる。

 

「ニコ君……手を貸すよ。手当しに行こう。」

 

 ラスターがニコに肩をかし、二人一緒に立ち上がって放送室を後にした。


 ――――――――――

 ここまででようやく、マシロによる襲撃は収束をむかえた。

 

「ん?ユウト。何だ?その首筋の黒いもん。……薔薇か?」

 

「え?」

 

 アエツがユウトに言う。ユウトの自覚はないようだった。


 後に分かったことだが、ユウトも黒い粒子の貴婦人に襲われたという。


 そして、ユウトの首筋には薔薇のような黒い紋様が、マリの首筋には彼岸花ようよな模様が、イーネの首筋には牡丹のような模様が、それぞれ浮き出ていることが分かった。

 

 また、中庭を上空から見た時に、公用語である"アス文字"で、"旧友とも会おう、皆んなで遊ぼう"と地面に描かれていた事が分かった。

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