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3-⑤ 祭をしよう

 イーネはタカトが戦っていたタコ型のジャンクを空から見下ろしていた。


 建物を覆うほどに巨大な姿。頭にある無数の眼は、すでにイーネの存在を捉えていた。

 

「……燕。」

 

 ――ピシッ

 

 イーネが能力を発動する。しかし、イーネの攻撃はタコ型のジャンクに効いている様子がない。よく見ると、攻撃はジャンクには当たらず、狙った方向とは違う建物部分に一筋の亀裂が入っていた。

 

 (今度は攻撃効かねぇ系じゃなくて、当たらねぇ系かよ…………。)

 

 シュンッシュンッシュンッ

 

 8本の脚から無尽蔵の攻撃がうみだされ、イーネを襲う。それをイーネは能力を使いながら回避する。


(防戦一方……。あの鷹もそうだったか……。建物は傷ついてるが、ジャンクにダメージ入った形跡はないな……。くそが……。)


 

 -この時点で、撃破されたジャンクの数は7体。残ったジャンクは8体。マリによる非攻撃系能力の核師の避難が完了し、現場に残っている核師は8人。討伐困難なジャンクが残り、戦況は拮抗するどころか、時間が経過するほどに、核師達の方が消耗していた。-



 ――――――――――――――――――

 <少し離れた所にある タイオウバイオカンパニー関連の大学・総務部>

 

「アエツさん。今日から新人の子入って来たので、とりあえず今日1日、アエツさんの側で仕事を見て貰うことになりました。」

 

 OL女性が若い男性を連れて、スーツ姿でオフィスチェアに深く腰掛ける中年男性の横に立っている。

 

「今日からここの事務に配属になりました、ケイト・ジョージアスです。宜しくお願いしまーす!」

 

 明るい茶髪に細身の体。体型にあっていない新しいスーツを着た若い男性が中年男性に元気よく挨拶する。

 

「おお!新人さん?!いいよ!いいよ!ってか俺でいいの?アッハハハ!おうおう、ここ、ここ、座りな!」

 

 黒髪を七三に整え、太ってるまでとはいわないが、少しだけふくよかでガタイのいい中年男性はそう言うと、少し離れた所に置いてあったキャスター付の丸椅子を自分の真隣にまで引き寄せる。

 

「アエツさん。まず自己紹介をして下さい。あと、この子、核師志望らしいですよ。じゃあ宜しくお願いします。」

 

 OL女性はそれだけ言うと、その場から離れて自分の仕事に戻ったようだ。

 

「ああー。すまんすまん!俺はアエツ・ダイヤモンド。まぁ基本はアエツさんって呼ばれるけど、ダイヤモンド先輩でもいいぜぇー。それかダイさんかな!アハハ!ほれ!とりあえず座れよ!」

 

 デフォルトで声の大きいアエツに催促されるような形で新人のケイトは「失礼しまーす。」と言いながら腰かける。

 

「君、いくつなの?」

 

「僕っすか?僕26っす!」

 

「わっかいねー!俺?もー40なっちまうんだよー!って聞いてねーか!アハハ!なに?それじゃどっかで勤めてた感じ?」

 

「そうっすね!現場関係で働いてたんっすけど、1回、ジャンクに現場グッチャグチャにされてて。そん時に核師って職業知って、かっけーって思って来ました!」

 

「へぇ!そーなんだ!そーなんだ!そんじゃあ何?あれだろ。入社してからジャンクについて座学なんかみっちりやって、血清適正まちですーって感じ?」

 

「ああ、そうっす!」

 

「懐かしいー!ぶっちゃけメッチャびびらしてくるでしょ?」

 

「あ。いや、まじそーなんすよ!メッチャびびらしてきます!ジャンクこえーってなりました。なんで、正直、核師なるの考えてるんすけど、まぁ適合できる血清あるかも分かんねーし、とりあえずって感じっすかね。」

 

「わかる!わかる!いや、俺、実はこーみえても元核師なのよ。いや、今も核師?だったっけ?アハハハハ!」

 

「へぇそーなんっすか。やっぱジャンクって凶暴っすか?」

 

「いやまじ大変よ。ぶっちゃけ、まじぶっちゃけよ?事務の方が楽。アハハハハ!」

 

「えー。そーなんすか。でも核師かっこいいっすよね。アエツさんも超能力みたいなん使えるって事っすよね?」

 

 新人との話しは盛り上がり、仕事の話しが無いまま進む。その間、アエツのデスクの上の電話が鳴っては止まりを繰り返しているが、どうやら、他の人が代わりに電話に出ており、アエツの仕事の手は完全に止まっているようだ。

 

「これでも核師だからねー。いやぶっちゃけ?使えるけど?アハハハ!あ。じゃあさじゃあさ、座学で、過去に討伐された"麒麟"の話し。聞かされちゃったりしちゃったりしちゃった?」

 

「あー聞きました!めっちゃ強かったってやつっすよね。」

 

「いや。ぶっちゃけ。まじぶっちゃけ。あれ…………俺がやりました。アハハハハ!!」

 

 話しに妙な間を使ったり、奇妙な表情を入れながら、アエツが冗談めかしに、左手を申し訳程度に上げながら言う。

 

「ええ!まじっすか!すげー。いやあれ、瞬間移動みたいなんとか。ほんとかよって感じだったっすよ。」

 

「いやー。ぶっちゃけね。大変だったね。まじで。もーね。ヒュンヒュンヒュン!だよ!ヒュンヒュンヒュン!」

 

 両手を素早く交差させるようなジェスチャーまでも交え、アエツの話しは徐々に盛り上がっているようだが、新人は反対に最初の挨拶の時が一番の笑顔で、話しが進むごとに適当な表情と相槌になってきている。

 

「アエツさんー。それは冗談っしょー。マジで麒麟って話しやばかったっすよ?」

 

「まじまじ!まじだーって!そんで!その麒麟を倒してから。これは……今なら、彼女にプロポーズしたらオッケーしてくれるんじゃねーかな!って思ってプロポーズしたのが、今の奥さんよー!」

 

 デスクの上を見ると、アエツと綺麗な妻、女の子と男の子が1人ずつ写った写真が飾られている。

 

「あ。もしかしてそれっすか?奥さん。綺麗っすねー。お子さんもいるんですね。」

 

「そーそーそー!見てこれ!かわいいっしょ?アハハハハ!」

 

 飾ってあった写真を手に取り、新人の方に指差してみせている。

 

「お子さんいくつっすか?」

 

「上の女の子が6歳、小学校1年生。で下の男の子が4歳。奥さんは俺より5つ下!アハハハ!」

 

「ちょっとー!アエツさーん!」

 

 アエツが機嫌良く話している所に、先ほど案内してくれたOL女性が、デスクの向こう側から立って話しかけている。

 

「私語多いって、また怒られますよー。あと、新人くん。その人に家族の話しさせたらマジで終わんないのよ。仕事中は禁句よ。禁句。アエツさん、とりあえず、その鳴ってる電話とって貰っていいですか?仕事も教えてあげて下さいねー。」

 

「あー!ごめんごめん!ごめんねー!あ。あの人、りっちゃんね。凄い仕事できんのよー。ちょっと初め怖いかもだけど、人見知りなだけだから。アハハ!」

 

 そんなやり取りをしている間も鳴り続けている電話をゆっくりとした動作でアエツがとる。

 

「はい。タイヨウ先進大学、総務部のアエツ・ダイヤモンドがご対応しまーす。」

 

『お前!緊急連絡用の電話とらんかい!アエツ!!』

 

「お!タイヨウ理事長じゃないっすかぁ!お久しぶりですー!いやー。元気してました?なになになに。もーどしたんっすかぁ。わざわざコッチに連絡なんてぇ。正直、俺じゃなかったらビビりちらかしてますよ?アハハハハッ!最近、上司が部下に連絡するだけでもパワハラだー!とか言って!」

 

『おいおいおい!アエツ!』

 

「いやぁ!もぉ、ほんと困りますよねー!って俺、今新人の子の面倒見てるんだった。こりゃ失敬って。アハハハハ!」

 

『アエツ!まず、俺の話し聞こか!』

 

「理事長直々に直電とか、こりゃまじパワハラもんなんですよ!いやぁ!冗談抜きで!僕で良かったすねぇ!!アハハハハ!」

 

『…………臨時収入。』

 

 そこでアエツの目つきが変わる。

 

「臨時収入?……」

 

『ボーナス。』

 

「ぼー…………なす?!」

 

『特別有給。家族旅行。』

 

「ゆ、有給?!!家族…………旅行?!!!」

 

『よし。俺の話し聞こか。な。アエツ。』

 

「がってん承知の助け、聞きまして三郎。宜しくおねがいチョンマゲー!アハハハハ!!」

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