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3-④ 祭をしよう

⚠︎以降、戦闘中は読者様が思う「勢いのある曲」をニコが歌い続けていると思って読んで下さると幸いです

 ニコの歌声が、聞いてる者全てのボルテージを上げる。内側から力が湧き上がり、能力のリミッターを外した能力を扱える者が出てくる。痛みがやわらぎ、恐怖心が薄れ、勇気がみなぎってくる。この場にいる全団員に強力なバフがかかった状態だった。

 


 -ニコの歌によって、イーネの能力の形質が変化する。そしてそれは、イーネだけでは無かった。通常状態ではマリはイーネの能力をトレースする事が出来なかった。正確には、イーネの血液を摂取すると、脳が焼き切れるように痛むと言う。しかし、ニコも入れた合同練習の際に、ニコの歌声の下であれば、イーネの能力が扱えることが判明していた。-


 

 鹿型のジャンクがマリに突進する。

 

「マリ!来い!!!」

 

 イーネは叫び、能力を発動させた。

 

 ――。

 

 マリの位置がイーネの真正面に移動する。その勢いそのままに、マリはイーネの首筋に喰らいついた。

 

 ガリッ

 

「……つぅっ!!」

 

 噛む力が強かったのか、イーネが痛みで顔をしかめる。

 

 ジュルッ

 

 (…………………………"オイシイネ"……………………)

 (………………………この感覚……前も……。誰?……)

 

「…………………………喰いすぎだろ!!」

 

「いたぁ!」

 

「俺がな?!」

 

 首筋から引き剥がされるように、イーネに額を突き返される。

 

「うーわ。お前口元やべぇぞ……ホラーかよ。」

 

「ご馳走様でした。」

 

「冗談か?それ。」

 

 そうこうしている間に、周囲に赤紫色の煙が立ち込め、ナマコが吐いた毒の範囲も拡大していた。鹿型のジャンクはこちらに突っ込む準備をしている。

 

「コイツら、形が変化するタイプだ。マリお前、"空間設置"の力しか使えねぇだろ。それだけじゃ、コイツら相手にすんの厄介だ。こいつら3匹、俺が相手する。マリは他の所に行け。」

 

「3匹まとめて?!大丈夫なの?!」

 

「敵は、俺とニコの能力が合わさったらどうなるかまで知らないんだろーな。ノロマばっかりぶつけやがって……。こっちはすぐに終わるよ。」

 

「……分かった。」

 

 ―――。

 

 イーネの能力をトレースしたマリは姿を消した。

 

 鹿型のジャンクがイーネに突っ込む。

 

 ――。

 

「…………籠目(かごめ)……。」

 

 イーネが呟く。建物の壁に格子状の亀裂が走り、3匹のジャンクはバラバラになって崩れ去った。


 ――――――――――――――

 マリは中庭の空中にいた。イーネの力を連続して使えば、空中に暫く留まることが出来た。

 

 (私が今すぐにやれること……。明らかに戦闘に向いてない団員を避難させる……。でも、それって、こっちの戦力を削ぐ事にもなりそうたけど………………。いや……。やってみないと分からない。イーネみたいに、遠くの場所を記憶して移すなんか出来ないから、見えてる範囲で何回も移動する事になるけど……。)

 

 すると、一階部分で、3匹のジャンクを相手にしている3名の団員が目に留まる。


 1人が攻撃系の能力者で、先頭に立って3匹のジャンクの攻撃を捌き、残りの2名が後ろから援護射撃をしている。だが、銃撃はジャンクに効いているとは思えなかった。

 

 (……行ってみよう。)

 

 ―――。

 

 マリは援護射撃する団員の直ぐ後ろに瞬間移動する。

 

「あの!……」

 

「うわ!びっくりした!」

 

「せ、戦闘中だぞ?!なんだ?!」

 

 1人は女性の団員、もう1人は30代くらいの男性の団員だった。

 

「わ、私の力で避難できます!こ、ここはどうですか?!」

 

 すると、女性の団員が答えた。

 

「…………!!助かるわ!正直言って、私達、足手纏いにしかなってないの!私達に攻撃が向かないようにして貰ってばかりで……!」

 

「では、お二人を安全な場所まで移動させます!!…………援護が無くなってしまいますが……。」

 

 すると、前線に立って攻撃を捌いている男性団員が叫ぶ。

 

「こっちは気にしなくていい!そいつらを頼む!!」

 

「わ、分かりました!」


 そう言って、すぐに力を使うのかと思いきや、マリは自信が無さそうにオロオロと話す。

 

「あ、あの……。こ、こんな時になんですが。念の為、身長と体重と、す、スリーサイズとか教えて貰えませんか?……」

 

「…………は?。」


 ――――――――――

 イーネは既に、犬型のジャンク、ネズミ型のジャンク、鳥型のジャンクの3体を追加で撃破していた。


 ニコの歌声の下、他の団員達を救いながら、目にも止まらぬスピードで駆け抜けていく様は、後に、目撃した団員から『歌の中で舞っている様だった。』と言われるほどだった。

 

 イーネは次に、1階部分で巨大なサソリの様なジャンクを視界に捉える。サソリ型ジャンクの相手は、攻撃系能力ではない団員が1人で立ち向かっているようで、建物の影から銃で応戦している様子が見える。

 

「……………(つばめ)。」

 

 ――ピシッ

 

「………………!」

 

 それはこれまで、どのジャンクの体も裂いてきたイーネの技だったが、サソリ型のジャンクはびくともしていない。銃撃の方向に向いていたジャンクは、イーネの能力が当たってはいるのか、空中にいるイーネの方に体が向く。

 

 (この力で無傷のやつとかいんのかよ……。)

 

 ――。

 

 空中にとどまっていたイーネは、銃撃で応戦していた団員の前に移動する。ジャンクは、突然姿を消したイーネを見失っている様だった。

 

「おい!茶髪非力。お前、攻撃系能力の団員じゃねぇよな。逃げるなら手ぇ貸してやるけど?」

 

白髪(はくはつ)に白い眼……。瞬間移動の能力……。君が噂の幻種君か。」

 

 サソリ型ジャンクに応戦していたのはユウトだった。2人はこの時、初めて顔を合わせる。ユウトがイーネの問いに答える。

 

「確かに戦闘向きの力は持ってないけど、まだ相棒のタカトさんが戦ってるからね。もう少し頑張らせて貰うよ。」

 

「あーそ。ご愁傷様ぁ。」

 

 サソリ型ジャンクの体がユウトとイーネの方に向く。

 

「…………芝露(しばつゆ)。」

 

 ――ピシッピシッ

 

 イーネの能力は複数回ジャンクに当たった様子だったが、ジャンクは無傷だ。ユウトも銃撃を加える。

 

 ズドドドドドッ

 

 それさえも無傷のジャンクは、巨大な鋏をイーネとユウトに振り下ろした。

 

 ――。

 ドガァァンッ

 

 イーネの瞬間移動で攻撃をかわす。

 

「うわぁ!凄い能力だね!慣れないとこんがらがる。」

 

「あのジャンク、ずっとノーダメかよ?」

 

「うん。あの硬そーーーな甲羅にも届いてないね。多分、その手前の何か。あのジャンクの能力に阻まれてる。」

 

 (俺の力が当たった時、銃弾が当たった時、ジャンクの体の薄皮一枚手前で空間が歪んだように見えた……。くっそ……。相性わりぃな……)

 

「それ分かっててコイツの相手してんのか?マゾヒスト野郎。」

 

「んー?そうだねぇー……。誰かがやらなきゃ。だろ?」

 

 ジャンクがこちらに向き直し、両の鋏をふりかざして2人に向かって叩きつける。2人はその攻撃をヒラリとかわすが、ユウトの方には鋭く尖った尻尾の追撃が入る。

 

 ――。

 

 2人バラバラに避けていたが、イーネの真横の位置にユウトを瞬間移動させることで尻尾の追撃を回避した。するとユウトは、それとほぼ同時にジャンクに向かって手榴弾の様なものを投げつける。やや距離が近い。

 

「あ。ちょっと避けて貰っていい?」

 

「はぁ?!」

 

 ――。ドンッ

 

 爆発と共に土煙があがる。この爆撃でも、サソリ型のジャンクは無傷のようだった。2人はジャンクを見下ろせる位置に移動して空中で静止している。

 

「うーん。これもダメか。」

 

「……おっまえ…………。俺ありきでやりやがったな。雑っぱ野郎……。」

 

「うーん。外部からの攻撃がほんとに入らないね。ってことは、毒とか……内部から攻撃できる術がないかなぁ……。幻種君、ないの?そーゆー力。」

 

「……黙れよニヤケ面。そっちのペースで喋ってんじゃねぇ。」

 

「僕の名前はユウトだよ。…………イーネ君。」

 

 空中の2人に向かってジャンクの鋭い尻尾が伸びてくる。

 

 ――。

 

 次の瞬間、ユウト、イーネ、サソリ型のジャンクの位置がまた別の空中へと移動する。そこは中庭の中央付近。


 目前に、イーネ達が最初に戦った3階部分があった。ユウトは目の端で、3階部分に空いた穴から、建物内部がドロドロとした液体で覆い尽くされ、赤紫色の霧が立ち込めているのを確認する。

 

「『このジャンクをそこの建物の中へ押し込めてくれ。』」

 

「ピィィイ!」

 

 ドガァァンッ

 

 何処からともなくタカトが現れ、鋭い爪でサソリ型のジャンクを引っ掴むと3階の建物の中に押し入れる。


 先の戦いで3階部分の壁には穴が空いていたが、その穴よりもジャンクの方が大きく、さらには3階の床から天井よりも、ジャンクの方が大きいため、無理やり押し込む事で建物のコンクリートが大破する轟音が響く。

 

 イーネの能力が切れ、ユウトは空中から地面に向かって落ちていくが、とっさに仰向けの大の字の姿勢をとった。

 

「ぴぃぃ!」

 

 ジャンクを押し込めたタカトは、人1人を背中に乗せれるくらいの大きさに少し小さくなり、落ちていくユウトを背中で拾い上げて中庭に降り立った。

 

「ぴぃー!ぴぃー!ぴぃー!」

 

「怒らないで下さい。こっち来てくれてありがとうございます。代わりに彼が行ってくれましたよ。」

 

「ぴぃー、ぴぃー!」

 

「ほんとそうですね。僕達がまだ1体もジャンクを討伐出来てないなんて……。敵の戦略にしてやられてますね。」

 

 パラパラパラ

 

 ユウトとタカトの頭上から瓦礫のかけらが落ちてくる。

 

「………………うーん。毒も効いてない……か……。」

 

 ドォーンッ

 

 押し込めたジャンクが中庭の方に顔を覗かせたかと思えば、そのまま地面の上に降り立ち、ユウトとタカトの前に立ちはだかった。

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