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3-② 祭をしよう

 "ガルダ"は貿易で盛んになった歴史があり、海沿いは都会。山手側は田舎と、極端な構図になっていた。その山を開拓し、タイヨウバイオカンパニーの本社は置かれた。


 その規模は街一つ分とも言われ、大規模な研究施設、広大な運動場。少し離れた場所に、関連した大学、専門学校も建てられた。


 そうすると、次第に周囲に新興住宅街が立ち並ぶようになり、大きな商業施設が建てられ、近代的な美しい街並みと、海沿いの都心部へのアクセスの良さから、非常に人気な街となった。


 つまり、ここ、ガルダにある、タイヨウバイオカンパニーの中の生物研究棟が核師達の本部になる。

 


 <生物研究棟B棟 模擬練習室>


「ほんと、アンタがぶっ倒れた所みたかったぁ!私も行けば良かった!」

 

「あぁもぉ、何回その話しすんだよ……。」

 

「でも、アンタが倒れた原因はマリの能力の不安定さだったんでしょ?言い訳できるからいいじゃない。」

 

「ベリー……まじで何しに来たんだよ。」

 

「ふふ。あのイーネが自主練しに来てるんだよ?それも面白すぎるじゃない。見学しとかないと損でしょ?」

 

「…………新作フラッペ買ってやろーと思ってたけど、やーめた。」

 

「えぇ!それはダメ!」

 

 サッカーコート1面分くらいの広さの室内。極端に高い天井。高い位置には室内を見学できるようなガラス窓があるが、今は誰も居ないため真っ暗だ。


 茶色いコルクの床には様々な色で、いろんな規格の線が描かれているが、至近距離では何も分からない。


 部屋の壁に持たれながら地べたで胡座をかくイーネと、その横で三角座りでいるベリーの姿があった。

 

 2人とも団服を着ており、ベリーの団服は黒いワンピースタイプのナース服のようなデザインだ。スカートの下には膝下まであるレギンスのような物を履いている。

 

 広い練習場にイーネとベリーの2人だけだったが、おもむろに練習場のシャトルドアが開き、入ってきたのはマリだった。

 

「あ……。いた……。」

 

 マリが開けた扉はイーネ達がいる反対側だったため、姿を確認したマリは2人の方へ歩いて向かう。

 

 (やっぱベリーもいる。いつも一緒にいるのかな?……。ベリーとは、あんまり話したり出来てないんだよね……。)

 

 2人の前まで来て、マリは立ったまま話しかける。

 

「おはよう。」

 

「お前も何にしに来たんだよ。」イーネ

 

「……"も"?……。いや…………イーネがここに居るって聞いて…………。謝りに来たの……。」

 

「……はぁ?」

 

「この前の任務、先頭に立って戦ってくれてたのはイーネなのに、私……敵に情けをかけるような事ばかり言ってたなと思って……。」

 

「………………。」

 

「私1人で、あの大男を倒せる訳でも、ジャンクを討伐できる訳でも無い……。自分でやって、自分で完結できるならともかく、イーネは、私達の為にも戦ってくれてたのに。邪魔ばかりしてた……。だから……。謝りに来たの。ごめん。あと……。ありがとう。」

 

「…………………………いつまでもザコのままだと死ぬぞ。」

 

「あははっ。強くなるよ。…………これからも宜しく。」

 

 すると、マリが閉めたはずのシャトルドアが再び開く。

 

「うわ!本当に居ましたよ?!え?!行くんですか?!ちょ。僕、僕まだ心の準備が!……あぁあ!!!」

 

 誰かに蹴飛ばされて入ってきたのはナユタだった。


 いつものジャージ姿ではなく、団服をきているようで、細身の体にそった、黒の長袖と長ズボン。長くボサボサだった髪は、襟足の所を刈り上げた短髪になり、少しおでこを出したスッキリとしたスタイルに整えられている。サングラスもしておらず、ナユタの素顔を見たのは初めてで、そこそこに整った顔立ちをしている。


 そのあとに入ってきたのは、スキンヘッドに革ジャンの男だった。

 

「あらぁ。こんにちわぁ。今日はええお天気ですねぇ。あ。おたくのナユタさん?久しぶりに見たらすっかり見違えはってぇ。」

 

「僕は断わりましたぁあぁあ!!」

 

 スキンヘッドの男は練習場の中に入ってくると、ナユタの襟元を引っ掴んでズルズルと引きずりながら歩いて来る。

 

「いやいやいや!僕はあっちでいいですぅぅううう!」ナユタ

 

「ナユタ?……イーネが言ってた奴ってあいつ?」

 

 ベリーがイーネに耳打ちするように聞いている。

 

「あぁ。だいぶ見た目かわったけどな。」

 

 マリ、イーネ、ベリーの前まできたスキンヘッドはナユタを投げ捨てながら言う。

 

「初めまして。"麒麟"に適合した幻種ってゆーのは君らやな。あぁ!勿論、君の事も知ってるで!血の女神(ブラッドゴッテス)!」

 

 マリは少しイーネの方に寄り、小声で聞く。

 

「……誰?……」

 

「何で知らねぇんだよ……。ここのトップ。タイヨウ理事長だろ。俺も初めて会ったけどな。」

 

 それを聞いたマリは驚いて、今さらながらに「こんにちは!初めまして!」と、似合わない大きな声でタイヨウに挨拶している。


 イーネとベリーは、初めから挨拶する気がないようだ。そんなことを気にも留めないタイヨウが話す。

 

「いやー。ほんまに会いたかった!ぎょーさん話したい事はあるんやけど。とりあえず!なぁ、悪いけど、こいつ仲間に入れたってくれへん?」

 

「当の僕が了承してません!!!」

 

「イーネ。君が指名してこのチーム作ったらしいな。ほなリーダーは君っちゅーことや。きっったないままは悪いと思って、この通り。こざっぱりもさせてきたんで。頼むわぁ。」

 

「聞いてますか?!僕の話し!!!!聞いてませんよね!心が物語っている!!!」

 

 すると、ナユタとイーネの言葉が被る。ナユタが大声で叫んでるため、イーネの声の方がかき消される形だったが、それでもハッキリとその場にいた全員が耳にすることが出来た。

 

「『誰がこの変態を仲間なんかに!』ってなるに決まってるんですよ!」

「いいけど。何でわざわざ理事長直々に言いに来てるんスか。」

 

「え?!いいの?!」と同じ調子で叫びながら、ナユタが驚いてイーネの方を見る。

 

「いやぁね。こいつ拾ってきたん。実は俺やねん。んまぁぁあああ手のかかるやつで。こいつホンマ陰湿やろ?ずーっと心配しとってんけど。助かるわぁ。これで墓に持ってかなあかん荷物が減ったわ。」

 

 ナユタはポカンとした表情でイーネを見たまま固まっている。


 それに気づいたイーネが心底嫌そうな顔でナユタに向かって「何だよ。」と言い放つと、ナユタはイーネから視線を外し、何やらモジモジとしだした。

 

「き、……君達は分かってない……。僕のこの力は、完全にオフにする事は出来ない……。近くに居たら、つ、常に心の中を覗かれるんだ……。チームなんかになったら、会う頻度が増える……。それはつまり、知られたくないこと全て知られるようなものだ……これから先も……。ぼ、僕なんて…………一緒に居ない方が………………。」

 

「私、ごちゃごちゃ言うやつ無理なんだけど。」

 

 そう言ったのはベリーだった。

 

「き、君!心と口が繋がってるの?!考えたことレイコンマで喋るね?!ってか初対面だけど、ぼ、僕の能力知ってるんだろ?!嫌だろ?!」

 

 ナユタのその言葉にベリーが答える。

 

「それは人によるでしょ。能力うんぬんじゃなくて、その能力を使ってる人間に。あんたのこと知らないけど、イーネがいいって言ってるし、いいんじゃない?」

 

「…………っ。」

 

 ナユタは言葉に詰まる。すると今度はマリが言葉を添えた。

 

「宜しくお願いします。むしろ、入って数ヶ月の人間ばかりなんで、ベテランが居ると助かります。」

 

「…………っ。」

 

「あとはニコだけど、俺らもあいつとは殆ど一緒に行動できてねぇ。幽霊部員みたいになってっから。まぁいいんじゃねーの?」

 

 最後に言ったはイーネだった。


 ナユタの背中をバシバシと叩きながらタイヨウが言う。

 

「世界は広いなぁ!なぁ!ナユタ!!」

 

「…………何言ってるか分かんないですよ………………。ってか、君達、ドが付く程のルーキーだろ?!僕は引率に付くくらいの大先輩なんだ!敬えよ?!」

 

「…………………………。」

 

「君達ひっどいね?!マリさんまで!!!」

 

 ナユタの言葉に対して、誰も何も口にしなかったが見事に会話は成立していて、ちょっと面白いなとマリは思う。

 

 するとタイヨウがパチンッと手を叩いて話し出した。

 

「よーし。本題1は終わりやな。ほしたら、本題2に入ろかー。はっきり、ぶっちゃけ、しっかり話そう!"-------"。」


 ――――――――――

 <タイヨウバイオカンパニー本社前>


 タイヨウバイオカンパニーの周囲はすぐに住宅街という訳ではなく、車が通る大通りと、ランニング、サイクリングコース、場所によっては子供が遊べる遊具などが点在し、朝や夕方は職員や地元の人で溢れるが、真昼間は以外と人通りが少なく、だだっ広いだけになる。

 

 大通りを挟んで、タイヨウカンパニーを見つめながら佇む男が1人。

 

 くすんだグレーの髪は、男の人にしては少し伸びていて、白いキャップを被っている。白いシャツに黒のジーンズ。少し垂れた目が特徴的だ。男は独り言のように呟く。


「きちゃったぁ。上手くいくかなぁ。上手くいくといいんだけど…………。」

 

 そう言って男は歩き出し、タイヨウカンパニーの正門から堂々と敷地内へ入って行く。

 

「ちょ!ちょっと!ちょっと!お兄さん!」

 

 正門に備え付けられた守衛室から警備員が大声をだした。聞こえていないのか、聞いていないのか、男はその声を気にも留めずに歩き続ける。


 男を止めようと、警備員が動き出したとき、警備員の周囲に黒い砂埃の様な物が舞ったかと思うと、ガクリと気を失った様だった。

 

 男は歩く。門からは石畳が続いていたが、ある地点でデザインがかわり、その先は、また別の石舗装が続いていた。


 そのデザインが切り替わる地点を男が踏み越えた瞬間。

 

 -緊急特別警報発令 緊急特別警報発令-

 パシュッ ベチャッ

 

「………………あれれ?」

 

 大きなサイレンと館内放送が鳴る。どこからか飛んできたカラーボールが、男の白いシャツに命中し、左の脇腹あたりにピンクの塗料がつく。

 

「あーあぁ……。まぁ、いっか。」

 

 男は再び歩きだした。

 

 ――――――――――

 "イーネ、ベリー。君ら2人。ほんまに麒麟の血清の適合者なんか?"


 タイヨウのその言葉に、全身から冷や汗が吹き出していたのはマリだった。問いかけられたイーネは顔色一つ変えずに言う。

 

「いったい何を言ってらっしゃるのか。分かんないっすね。」

 

「まぁ、そうなるわなぁ!けど、ここで言いたいのは、その事に関しての俺の立ち位置の話しや。安心してくれてええで。お咎め無しや。ただし、忠告がある。昔話からさせてもらったら、核師というのを作ったのは"俺"や。その目標は、ジャンクの完全なる討伐と、ジャンクの根源を断つ事に向かってる。でぇ、それでぇ。」

 

 "一旦その話は置いといて"みたいなジェスチャーを入れて、タイヨウは続いて話をする。

 

「マシロって言う奴の名前を口にする大男に襲われたらしぃなぁ?」

 

「あぁ。はい。」とイーネが適当な返事をした。

 

「君らはそのマシロって奴に確実に狙われる。いや、もう既に狙われとると言った方がいいな。」

 

「その……マシロって人は何者なんですか?」そう聞いたのはマリだった。

 

「……………………。」

 

 ほんの少しの沈黙が流れる。

 

「そいつは……………………。そいつが、"ジャンクの製作者"。俺が殺したい男や。」

 

 -緊急特別警報発令 緊急特別警報発令

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