1-① 白くて凶暴な
「見た瞬間から弱っちい奴らだと思ってたんだよ。案の定死に目みてらぁ。ざまぁねぇ。」
彼は無邪気な子供の様に笑っている。
「こんな面白い事に引き合わせてくれたんだから、特別待遇で助けてやるよ。命を賭けた口約束といこうぜ。」
彼は不敵な笑みを浮かべる。薄暗い森の中。満身創痍で地べたにへたりこんでいる私に選択権などなかった。
事件は解決し、全ての手続きが済んだ頃。"生体研究科-γ班"課長に呼ばれ課長室のデスクの前に立っている。
前に座っているのはデグス・ラスター課長。とても優しい人だ。一度、金髪に染めた髪は根本の黒い部分がだいぶ伸び、後ろで一つに束ねてある。随分とくたびれた白衣を着て、縁の無い丸メガネの奥は、心配しているような目をしている。
「団服を支給します。この団服は、それぞれの"力"に合わせてカスタマイズされています。この服も例外でなく、あなたに合わせて作られています。次回からはユニットを組んで実践……といっても、もう実践を経験したようなものですね。」
デスクの上に畳まれた状態で置かれていた、真っ黒な団服を差し出しながらラスターが言う。それを受け取り、「ありがとうございます。」と返すと、少しの間を置いてからラスターが話し始めた。
「こんなこと言うのは大変に申し訳ないのですが、マリさん。先の事件の"ジャンク"を討伐したのは、本当にマリさんですか?…。」
「そうです。自分でも信じられませんが。」
間髪入れずに返すと、ラスターは困った顔をしてみせる。
「討伐した"ジャンク"の死骸を見ました。それはもう綺麗な真っ二つでした……。マリさん。私は他の人間よりも少しだけ、あなたの"力"を理解しているつもりです。正直に言います。私はあなたが倒したとは思えません。これは、あなたの手柄をどうこうしたいとか、そういうものではないのです。ただ、周りの過剰な評価はあなたを苦しめてしまうかもしれない。私達は、"お2人"の証言を信じるしかありません。これは信用問題にも繋がります。何か言えない事情があるならば、あなた達がどのような状態に置かれているのかも含め、私は非常に心配しています。」
ラスターの話しに、ただただ沈黙する。しばらく重たい空気が流れた後、ラスターは「はぁ。」と深い溜め息を吐いた。
「分かりました。これ以上は詮索しません。戻って貰って結構ですよ。」
その言葉に「ありがとうございました。」と言い背を向ける。部屋を去ろうとドアノブに手をかけたところで、背後から再びラスターが話しかけてきた。
「マリさん。私、大学の教授も兼務してるんですが、最近、編入で2人の学生が来ました。とても頭の良い2人で、"核師"を目指し、専用のカリキュラムに進んでいます。後々、血清適合に進むと思うのですが、マリさんの"力"の副次的能力を一度試してみたいのですが、力をお貸しして頂けますか?」
少し間を置いた後、「是非。私の力が役にたつのなら、いつでも。」と言い部屋を出た。
――
施設内を歩く。関係者であろう者達が
「あれ、この前の事件で、いきなり"ジャンク"の討伐に成功した、マリ・リルベラじゃない?」「すごいね。若そうなのに。しかも女性だよ。」「しかもしかも、"血清適合"も早くて副作用もなし。天賦の才能らしいよ。」「知ってる!blood goddessだってさ。」「え。なにそれ。怖ー。」
なんて会話が聞こえる。
人の噂は簡単に回り、尾鰭がついて、知らない間に、知らない異名までついている。そう噂される程の事なのだろう。それ程に凄い事なのだろう。それ程……。それ程……。
それ程の事を簡単にやってのけたのは、私じゃない……。まだ鮮明に思い出すことの出来るあの日の映像が、フラッシュバックのように脳内で再生され、吐き気を催し右手でそっと口元を覆った。




