6:椿の彫刻を持つフルート 3
Bardinelliの動画は大好評で、それまでなかなか伸びなかった再生数は3日で3000再生を超えた。
こんなの初めてだよ!
と結は伸び続ける再生数に驚愕していた。
そしてコメントもたくさんもらえた。
大変だー、と思いつつもこれはうれしい悲鳴なので、結はもらった数十件のコメント一つ一つに対し、丁寧に返事とお礼を書いた。
結は時掘タカラとしてのTwitterアカウントも運用していた。
そちらは動画の宣伝ツイートが拡散されて、リツイートは数十回にも及んでいた。
しかしこのようなことは波があるもので、一週間もすればYoutubeもTwitterも落ち着いてきた。
それでも時掘タカラとしては過去最大の大成功だ!
結はBardinelliのケースを開けて、可憐な椿の彫刻を眺めながらYoutube再生数やTwitterリツイート数を眺めて口元を緩めていた。
ある日、時掘タカラのTwitterアカウントにダイレクトメールが届いた。
普段、めったなことではダイレクトメールなんて届かない。
届いたとしても怪しい投資やいわゆるパパ活女子のアカウントからで、そんなものは見る前に送り主のアカウントごとブロックしていた。
しかし、そのダイレクトメールは、明らかにそのようなブロックするべきものではなかった。
送り主のアカウントは……アイコン画像がフルートだった。
むう。
フルート愛好家の可能性はあるけど、まだ油断はできない。
ただ、ブロックはあまりにも無体だろう。
結は通知を開きメッセージを読む。
時掘タカラ様
拝啓
はじめまして。突然のご連絡をお許しください。
先日、YouTubeにて偶然、貴女の動画に出逢いました。
椿の彫刻が施されたBardinelliのフルート——
その音、その姿、その存在に、しばし心を奪われておりました。
恐れながらお尋ねいたしますが、タカラ様はこのBardinelliのフルートを、どちらでお求めになられたのでしょうか。
もしも私の記憶と推測が正しければ——
あのフルートには、対となるもう一本のフルートが存在しているのではないかと存じます。
つきましては大変恐縮ながら、一度、お目にかかり、実際にそのフルートを拝見させていただくことは可能でしょうか。
どうしても確かめたいことがございます。
もちろん、私の氏名や連絡先などは、ご承諾いただける場合に改めてお伝えいたします。
身勝手なお願いとは重々承知しておりますが、ご検討いただけましたら幸いです。
最後になりますが、美しい動画と心に残る演奏を本当にありがとうございました。
これからのご活躍も、陰ながら応援しております。
敬具
2025年5月吉日
Hika @xxxx_xxxxx
TwitterのDMとは思えない、まるで正式な手紙のような礼儀正しい文章だった。
ここまで丁寧だと、悪い人ではなさそうだ。
結はメッセージの送り主であるHikaのツイートを見に行く。
2025年5月20日
テスト
2025年5月21日
あれって。
2025年5月22日
ご迷惑かな。
どうやらこのHikaという人物は、タカラの動画が公開された直後ごろにこのアカウントを開設したらしい。
演技の可能性もゼロではないとはいえ、おそらくTwitterそのものが初めての可能性が高い。
ということは、このHikaさんは、タカラに連絡するためにわざわざTwitterを開設したのだろうか。
もし、本当にそこまでの熱意と目的があるのならば。
それに、この椿の彫刻のフルートと対となる、桜の彫刻のフルートがあるなんて。
この話、受けて損はないだろう。
結はHikaに承諾の返事を出した。
氏名や住所も少し気にはなったが、この段階でわざわざ聞く必要もないだろうと判断し、そのまま話を進めた。