6. 失われた古代文明
スズリに連れられて、俺はその不思議な街並みの中を歩いた。
建物の外壁は乳白色に統一されていて、窓の色だけが自由に塗られている。外壁にはまったく継ぎ目がなく、極めて滑らかな手触りだ。
道路も白いアスファルトのようなもので舗装されていた。割れ欠けの薄氷か軽石の上を歩いているように軽い感じのする地面で、踏み抜いてしまうのではないかと不安になるくらいだった。
雪に埋もれたように真っ白な景色がどこまでも続いている。そんな異様な光景の中でひと際目立っていたのは、空に浮かんだ球体だった。
「スズリ、あの浮いているやつは何だ?」
同じものが街の上空数メートルのところに無数に浮かんでいて、それらは互いにケーブルで接続されている。黒いケーブルに覆われて細かく切り刻まれた空はモザイク画のようにも見えた。
「あれは通信の中継点ですよ。あの中を電気信号に変換された手紙が走っているんですって。どういう仕組みなんですかね?」
「そうか、あれは通信ケーブルなのか」
言ってから、俺は次第に状況が整理されつつあることを感じた。
最初に『この世界』で目が覚めてから、驚くことが多かった。自宅は廃墟になっているし、外は核戦争の後かってくらいに荒廃していた。
だが、驚きっぱなしではなかった。
目覚めた場所は、荒れ果ててはいても確かに俺の家だった。その証拠にベッドやスマホがあったし、何より押入れには非常袋がそのまま残されていた。
そこに現れた少女は人間の姿をしているし、日本語を話した。それに、彼女の腕についている腕章には『大図書館』と漢字で書かれていた。
ここからわかるのは、『この世界』が異世界ではないということだ。だとすれば、ここは未来でしかないだろう。過去に戻ることはできないからだ。
その証拠がこの街並みだろう。現代の技術水準では理解できそうもないものにあふれている。それに、歴史の授業で統轄委員会とかいう言葉を聞いた覚えはない。
もう一つ気になるのが、その技術水準のちぐはぐさだ。プロペラもなしにモノを浮遊させることができるのに、ネットワークの理解があまりに物質的だし、止血さえやり方がわからないらしい。これは明らかにバランスが悪い。普通の発展をすればこうはならない。
失われた古代文明の再興。
それが意味するのは、俺のいた『古代文明』の崩壊と、そこから部分的に技術を拾い上げて利用しているスズリたちの生き方だ。
スズリからすれば、俺よりも先の時代を生きた人々もまとめて、俺もその古代人の一人なのだろう。
「着きましたよ」
スズリの声で顔を上げると、そこには巨大な扉が立っていた。
「ここがこの街の中心にして私の研究拠点、大図書館です」